PSO2NGS外伝 新世紀の前奏曲〈プレリュード〉   作:矢代大介

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※ご注意
 本話以降のお話は、本編とは無関係な番外編となります。
 原作ゲーム中のストーリーとの乖離が本編以上に増える恐れがあるため、あらかじめご了承の上、続きをお読みください。


番外編
EX.流れ星の贈り物


 

 

 両の足を絶え間なく動かし、足場の上を疾走しながら、俺――コネクトは眼前を見やる。

 

 向かう正面にそびえるのは、俺を縦に何人も重ねてようやく越えられるほどの、高い壁。人工物故にのっぺりとした壁面には、わずかに足をかけられるところも見当たらず、一見すれば、それは登攀不可能な行き止まりにすら思えた。

 

「――フッ!」

 

 大きな壁の数歩手前で、俺は足に力を込め、ダンと地を蹴り、跳躍する。勢いをつけていたおかげか、目算よりもかなり高い位置まで飛べはしたが、眼前の壁を超えるには、まだ高度半分ほど足りなかった。

 

 このまま壁に激突する――その寸前、突き出した片足を壁に叩き付ける。

 すると、凹凸すらなかった壁面にかけた足から、何かをしかと踏みしめる感触。まるでその場に不可視の足場があるかのように踏ん張りを利かせた俺は、そのまま不可視の足場を強く蹴りつけ、さらなる跳躍を果たし、登攀不可能と思われた高い壁を、軽やかに突破して見せた。

 

受け身がてらの前転を挟み、疾走を再開した俺の脚には、青白く輝くフォトンの光が宿っている。光の粒子を軌跡として中空に刻みながら、俺は再び現れた大きな壁めがけて跳躍。先ほどと同じように壁に触れ、不可視の足場を蹴りつけることで、飛び越えられない高さの壁を突破した。

 

「っと……ふう、やっと安定してきたな」

 

 ブーツの底を鳴らして着地した俺は、一息ついて立ち上がる。

 直後、すぐ近くで小さく響いた拍手の方向に顔を向けると、そこには一つの人影があった。

 

「お疲れ様です。最初に比べると、高速機動にもずいぶん慣れてきたみたいですね」

 

 ぱちぱちと拍手を送ってくれていたのは、長い二股の三つ編みに結わえたエメラルドグリーンの髪が特徴的なキャストの女性、ことメーヴ。俺よりも先行していた女性にようやく追いつけたことを実感して、俺は安堵の苦笑を漏らした。

 

「悪い、待たせた。……見た目は簡単なのに、自分でやると意外に難しいな」

「同意します。ワタシも、慣れないうちは何度か激突して壁のシミになりかけてました。――ともあれ、ここまで来れたなら、この〈トレイニア〉も終盤です。残りあと少し、頑張ってください」

「ああ!」

 

 メーヴからの声援を背に、俺は再びフォトンを足に纏い、地を蹴った。

 

 

 

 

 現在俺が居るのは、惑星ハルファの各所に点在する人工施設「トレイニア」の内部だ。

 メーヴたち曰く、ここはアークスが利用できる一種の「訓練場」として作られており、内部に広がる仮想空間を利用して、様々な状況を再現したり、訓練用の特別な空間を構築することを可能としているのだそうだ。

 

 で、そんなトレイニアに俺が挑戦している理由は至極単純、「訓練」の為である。

 数日前、ルプスとメーヴに助けらたことをきっかけに、彼らからの推薦という形でアークスになった俺は、いくつかの新人向け講習を受け直した後、修了試験としてこのトレイニアの攻略を言い渡されたのだ。

 

 内容については、かつて俺が旧アークスになる時に経験したものとほぼ変わりない。だが、1000年の時を経たせいか、この時代のアークスには、俺の知らない様々な技術が存在していた。それこそが、先ほど俺が練習していたものである。

 

 フォトンを脚に纏わせることで脚力の強化し、さらに光圧式スラスターの要領で推力を発生させることで、如何なる場所でも高速機動を可能とする「フォトンダッシュ」。

 フォトンダッシュと同じ要領を用い、空中で推力を得て滑空することにより、落下速度の低減と跳躍距離の延伸を行う「フォトングライド」。

 そして、壁面を蹴りつけると同時にフォトンを噴射することで、より高所への登攀を可能とする「ウォールキック」。

 

 1000年前には存在しなかった数々の技術は、いずれもこの広大なハルファを舞台に活動するアークスにとっての必須技術だ。故に俺も、一人前のアークスとして不足なく活動できるように、新技術を体得するための練習に明け暮れていたのである。

 結果、何度か壁に激突したり高所から墜落したりを繰り返した末に、どうにかそれらの技を習得することに成功したのだった。

 

 

 

 

 

「はぁ……陽の光が眩しい……」

 

 トレイニアの仮想空間から退出した俺は、施設の入り口でうんと伸びをする。傍らには当然、付き添いを務めてくれたメーヴも居た。

 

「お疲れ様です。最初は失敗100割でしたが、最終タイムは中の上、といった具合でした。これだけ体得できたなら、充分アークスとしてやっていけるでしょう」

「そりゃよかった。……慣れない技術を一から体に覚えさせるのって、想像以上に苦労するもんだな。まさか、ここまで上手くいかないとは思ってなかったよ」

 

 思い出すに堪えない不甲斐ない失敗(NG)シーン集を思い返しながら、ため息交じりに苦笑する。

 フォトンを活用した技術、という都合上、原理としては戦闘技能である「フォトンアーツ」や「テクニック」と本質的には同じ技だが、武器を用いて発動するそれらとは違って、ダッシュやグライドは「己の肉体」を媒体に発動する技である。PAやテクニックとはかなり勝手が違うことが災いして、最初はまったく思い通りに駆使することができなかったのだ。

 

「仕方がないことだと思います。アナタには1000年前の戦闘経験もありますから、すぐに慣れられても逆に気持ち悪いくらいです。それに、世の中には体得しようと思ってもできない人間もいますからね」

「それは、ルプスさんのことか?」

 

 この場に居ない知己の名を出すと、メーヴがこくりと頷く。

 

 本人から聞いた話ではないが、聞くところによると、彼はフォトンを扱えない特異な体質であり、周囲からはあれやこれやと心ない言葉をぶつけられているらしい。それでも戦えているのは、彼が身に着けていた武具の特殊な性能が故なのだそうだが、それはさておき。

 

「そういうわけですから、習得に時間がかかったくらい、なんてことはないかと思われます。そう思っていたほうが、ルプスも草派の陰で喜んでいることでしょう」

「いや、死んでないし。バイト行ってるだけだから」

 

 そんなルプスがなぜここに居ないのかと言うと、本人曰く「バイト」だそうだ。明言こそしなかったが、おそらくは物資の調達や機材のメンテなど、彼にしかできない後方支援をやっているのだろう。

 

「……ま、確かにメーヴさんの言ってるとおりか。悪い結果にはならなかったんだし、前向きにとらえた方がいいよな」

「そういうことです。――ともかく、これで修了試験は完了です。早く戻って、指導教官さんをお仕事から解放してあげましょう」

「だな。んじゃあ――?」

 

 メーヴの言葉に同意し、トレイニアを後にしようとしたその矢先、俺の耳がなにかの「音」を捉える。

 

「……上?」

 

 音の出所は、頭上。訝しみながら顔を上げると、そこには青い空に輝く尾の軌跡を刻む「流星」の姿があった。

 

「あれは――ドールズじゃ、ない?」

 

 上空から飛来する流星、というと、俺のような星渡りや、覚醒初日に俺とルプスたちが出会うきっかけとなったドールズの来襲が思い起こされるが、上空を流れる流星は、そのどちらとも違う。ならアレは一体――という疑問の答えは、隣のメーヴの口からもたらされた。

 

「〈ステラーギフト〉ですね。星渡りと同様に、時々宇宙から飛来してくる人工物。カプセルの中には有用な物資が封入されていることから、ワタシたちアークスからは流れ星の贈り物(ステラーギフト)と呼ばれているものです」

「へえ。……ってことは、あれはできるだけ回収するべきもの、ってことになるのか?」

「そうなりますね。――軌道を見る限り、どうやら近くに落着するようです。シティに戻るついでに、回収しに行きましょう」

「了解だ」

 

 思いがけない寄り道を決めた俺たちは、両の脚にフォトンを充填。

「フォトンダッシュ」が生み出す光の粒子をたなびかせながら、一路草原地帯――ハルファナ平原の一角めがけて移動を開始した。

 

 

 

 

 

「はっ!!」

 

 握りしめた剣の切っ先が、眼前に展開していた敵――「ガルフ・ロア」と呼ばれる、狼のような外観を持つ四足歩行型エネミーの一体を切り伏せる。致命打に悲鳴をあげて倒れ伏し、完全に沈黙したのを確認して、俺は詰めていた息を吐き出した。

 

「ふぅ……まさか、ステラーギフトの落着地点にエネミーが湧いて出るとはな。メーヴさん、そっちは?」

「滞りなく、殲滅完了です。そちらも、もう武器は問題ない様子ですね」

 

 メーヴの言葉に、肩に担いだ愛剣――コートエッジをちらりと見やる。覚醒初日、ドールズたちの襲撃によって吹き飛ばされたことで少なからず破損させられた愛剣は、セントラルシティの技術者たちの手によって、すっかり元通りの性能を取り戻していた。

 

「ああ、整備班さまさまだ。……さて、とりあえず周りのエネミーは掃滅したわけだけど、こいつはどう開けるんだ?」

「任せてください。力こそパワーです」

 

 言うが先か、メーヴがその脚を縦一文字に振り抜いて、人と同じくらいの大きさを持つ球場の物質――ステラーギフトのカプセルを蹴り飛ばす。すると、衝撃か何かを察知したのか、ステラーギフトが音を立ててハッチを開けた。

 

「雑だな?! ……仮にも貴重な資源なのに大丈夫なのか?」

「大丈夫だ、問題ない。です。どうせ、後からこじ開けることに変わりはありませんから。――さて、もう一度確認しますが、取り分に関しては、先ほど決めた配当で問題ありませんね?」

 

 メーヴが口にした取り分とは、このステラーギフトから回収できた物資をどちらがどのくらい獲得するか、というものだ。

 メーヴ曰く、ステラーギフトをはじめとした各種の物資は、基本的に「回収したアークスの資産」という扱いになる。そこからどの程度をアークス全体の共通資源として納入するか、どの程度を自身の役に立てるのかというのは、一部の例外を除いて、全てアークス個々人に一任されているのだそうだ。

 

 今回のステラーギフトから獲得できるであろう物資の配分に関しては、あらかじめ俺とメーヴの間で取り決めを定めている。

「資源や有用な物資は大まかに二人で山分け」にし、仮に何かしらの武器が獲得できた場合、「どちらかが使用できる武器ならば使用できる方に譲渡」。「どちらも使用できない武器ならばシティで換金して売却金を二人で山分け」、という内約で、双方同意したのだ。

 

「ああ、異論はない。じゃあ、中身を拝見と行くか」

「では、ごまだれー」

 

 奇妙な擬音を口ずさみながらハッチを押し開けたメーヴに続いて、俺もカプセルの中身を覗き込む。

 事前の情報の通り、カプセルの中にはたくさんの物体が雑多に詰め込まれている。武具の素材として活用される各種の鉱石や、換金すれば小金になるというレアメタルなど、希少なものでこそないが、有用なものが色々と詰め込まれていた。

 そして、中でも目を引いたのは――

 

「これは……銃か」

 

 カプセルの中から拾い上げた武器を一言で形容するなら、黒い銃だ。

 メタリックブラックのフレームに、エネルギー回路と思しき、鮮やかな黄色に発光するライン。中央付近に組み込まれた回転式の弾倉と思しきパーツが特徴的なそれは、どこからどう見ても「スクエアバレルのリボルバー拳銃」だった。

 

「見たことのない武器、です。もう一丁あるところを見るに、ツインマシンガンでしょうか?」

 

 そう口にするメーヴの手にも、俺が握るものと同じ形状の銃が握られている。同型の武器がわざわざ二つ用意されているところを見るに、メーヴの予測通り双機銃(ツインマシンガン)なのだろう。

 

「なんにせよ、ワタシは支援イズマイライフな人間ですので、この武器に縁はなさそうですね。……コネクトさんは、ツインマシンガンの経験はありますか?」

「まぁ、一応実戦で運用してた経験はあるな。ただ、こっちでは千年前(むかし)専攻してた兵科(クラス)が無いから、上手く使えるかはなんとも言えないかな」

 

 1000年前のオラクル時代においては、俺も双機銃も使っていた経験がある。だが、当時それを使えていたのは、あるアークスが提唱した特殊なクラスに就いていたからだ。

 色々と勝手の違う今のハルファでは通用しない戦闘スタイルである以上、仮にこの武器を握って、まともに運用できるかどうかは、正直分からなかった。

 

「でしたら、これはコネクトさんに差し上げます。ずぶの素人の手に渡って持ち腐れになるよりは、多少なりとも心得のある人間が使うべき……と、ワタシは判断します」

 

 しかし、メーヴは独自にそう結論づけて、手にしていたもう一丁の黒い拳銃を差し出してくる。

 

「良いのか? メーヴさんからすれば、売って資金にした方がいいんじゃ無いのか?」

「のーぷろぶれむ、です。自慢ではありませんが、これでもお賃金は貰っている方ですので」

 

 キメ顔でお金のハンドサインを見せたメーヴの口ぶりからするに、お金に困るようなそぶりがないのは本当のようだ。

 

「まぁ、メーヴさんが良いなら、断る理由もないしな。ありがたく頂戴するよ」

「どうぞどうぞ。煮るなり焼くなり揚げるなり、好きにしてあげてください」

 

 苦笑まじりに、受け取った黒い二丁拳銃をまじまじと見つめる。

 無骨な外見と、確かな重みが伝わってくるそれは、しかと握ってみれば思ったよりも手に馴染む。そのまま軽く構えてみても、不思議と違和感を覚えることはなく、仮にこのまま戦ったとしても、問題なく使いこなすことができるのではないだろうか……という、確信めいた感覚すら抱くことができた。

 そういえば、教練続きで専攻兵科(メインクラス)もまだ決めていない。手元にはちょうど大剣(コートエッジ)双機銃(黒い二丁拳銃)があることだし、副専攻兵科(サブクラス)として双機銃の扱いにたかるガンナーを充てがって、剣と銃を両立した構成(ハンター/ガンナー)にするのも良さそうだ。

 

 なんにせよ、まずはこの武器がまともに使えるものかどうかを調べてもらうのが先決だろう。

 待ちぼうけを食らわせてしまっている教官への完了報告も兼ねて、俺たちは急ぎ足でセントラルシティへと戻るのだった。

 

 

 

 

 教官への修了報告を終え、晴れていちアークスとしての再始動を果たした俺は、その足でセントラルシティの片隅にある、アークスの整備班が営む鑑定屋にやってきていた。理由は言わずもがな、先ほど手に入れた黒い二丁拳銃を調べてもらうためだ。

 

「コネクトさん。鑑定、終わりましたよ」

 

 かけられた声に振り向けば、鑑定士を務めている、メガネと無造作に括られた黒い長髪の男性が、二丁拳銃を乗せたトレイを持ちながら戻ってきていた。

 

「それで、どうでした?」

 

 鑑定士の男性に尋ねると、男性はメガネを直しつつ口を開く。

 

「結論から言いますと、武器の状態は良好そのもの。メンテナンスも特に必要無いので、使おうと思えばすぐに使えると思いますよ」

 

 なるほど、と頷いて、俺は続きを促す。

 

「それと、鑑定にあたって色々とわかった仕様もあったので、その辺りも説明させていただきますね。――まず、この武器の内部パーツに刻印された文字から、この武器には〈シュリフトビルデン〉という銘が与えられていると推測されます」

「シュリフトビルデン……聞き慣れない名前ですね」

「ええ。それと、この武器には二丁拳銃(ツインマシンガン)としての運用に加えて、一丁のみによる単独運用や、長銃(アサルトライフル)のような連続射撃による運用も行えるようです。変形機構も持たないこの小さな本体に、複数種類の運用方法を想定した内部機構を組み込めるこの設計は、今のアークスには再現不可能といっても過言ではありませんね」

 

 やはりというか、ステラーギフトとしてもたらされただけあって、件の銃――シュリフトビルデンと呼ばれたあの黒い銃は、現アークスの技術体系とは一線を画したものを秘めているらしい。偶然の出会いだったが、どうやら思いがけず良い拾い物をしたようだ。

 

「コネクトさん。折り入って相談したいのですが、貴方さえ良ければこの武器、私たちに譲ってはいただけないでしょうか。解析にあたって詳細なデータは頂いたのですが、現物を手元に解析ができれば、各種武装群のさらなる性能向上に繋げられるのですが……」

「いえ。協力したいのは山々ですけど、今回はお断りさせてもらいます」

 

 鑑定士の提案を、真正面から切って捨てる。

 たしかに、アークス全体の戦力向上になるなら、この武器(シュリフトビルデン)を引き渡すのも悪い選択ではない。それをしなかったのは、この武器に対して、何かしらの「縁」とでもいうべきものを感じたのだ。

 経験柄、直感には少しだけ自信がある。その自分の直感が何かを感じ取ったのなら、俺はそれに従ってみたいのだ。

 

「そうですかぁ。残念ですが、仕方ないですね」

「代わりと言っちゃなんですけど、実戦データくらいなら喜んで提供しますよ。それを、こいつの鑑定代ってことにしてもらえれば」

「それはありがたい! こちらからも、是非お願いします」

 

 なんて契約を交わして、俺は鑑定士の店を後にする。

 

 

「……というわけで、これから宜しくな、シュリフトビルデン」

 

 新たに腰へ下げることになった黒い二丁拳銃を軽く叩きながら、俺は一路、セントラルシティのストリートを歩いて行った。




 本編中で言及された「ルプスの体質と特別な装備」に関する設定は、元キャラクターの所有者である狼@船4様が執筆された外伝小説「蒼閃の狼(https://syosetu.org/novel/258234/)」における劇中設定が基になっております。
 詳細な設定に関しては、狼様の外伝を読んでいただけると嬉しいです。
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