屑鉄の錬金術師   作:超電磁加湿器

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第三話 第三章

 銃声と共に鼻孔をくすぐったのは、独特のきな臭さを持った硝煙の臭いだった。

 客車の天井には真新しい穴が穿たれ、宵闇がその先に控えている。その穴の真下で、犯人グループの一人は複数人の乗客に押さえ付け組み伏せられて無力化されていた。

 取り押さえにかかった乗客は無我夢中らしく、四人がかりで一人を拘束している状況だ。だが、傍から見ていた俺はもう他の見張りが僅かにもたつきながらも乗客に銃を向けるのを目の当たりにした。

 ―――まさか、この人達は他の見張りの事を考えてないのか!?

 恐らく飛び掛かる前にはしっかりと意識していたのだろう。しかしいざ行動に移した段階で頭に血が上ったのか、予想以上に見張りの拘束に手間取って余裕が無くなったのか。

 いずれにしろ、動ける乗客の中で二人目、三人目の見張りに対処しようとする動きを見せる者はいなかった。

 このままでは数秒も経たない内に全員が鉛玉を喰らう羽目になる。そして、今その惨劇を阻止する為に動けるのは、俺を除いて誰一人として存在しない。

 ―――壁を…!!

 悩んでいる暇など一秒もない。

 即座に手を合わせて座席の背もたれを叩いた。鉄と木材と、フェルトの様な表面素材。それらを変形させ、通路を塞ぐ形で即席の遮蔽壁を構築する。

 壁が大方完成した頃に、前方にいた見張り三人が一斉に小銃を掃射してきた。

 

「う、うわわわわわわわ!?」

 

 元々の素材の強度だろうか、何の理論的裏付けも無く作った壁は案外と防弾性能を発揮してくれていた。

 見張りを拘束していた乗客が間抜けな声を上げる。戦闘意欲の感じられない顔を見た俺は、その無責任さに多少怒りながら声を張り上げた。

 

「何やってる!!見張りはあと四人いるだろ!!後ろの一人をどうにかしろ!!」

「お、おう!!」

 

 俺の声に呼応した乗客が、取り押さえた見張りの銃を取り上げて客車後部にいた見張りに狙いを付ける。

 だが、その時点で既に見張り側の方が射撃体勢を整えてしまっていた。まさに真正面から、片膝立ちになった見張りがこちらに銃を構えている。

 俺達は通路の真ん中に集まっている。今さっき作った壁を隔てて、客車の反対側は銃弾が絶え間なく飛んでいる為にそちら方向には逃れられない。

 かと言って横の座席に逃れた所で状況が好転する訳でも無い。それに、他の縛られたままの乗客は未だに座席の隅で縮こまっているのだ。流れ弾が当たる危険性が高すぎた。

 ―――逃げ場が無い。

 遂に、見張りの銃が火を噴いた。銃を持って撃ち始めようとまごついていた乗客の肩口が一発で正確に撃ち抜かれる。

 呻き声と共に倒れ込んだ乗客の動きが、俺の目に焼き付いた。次に撃たれるのは俺か、それとも他の乗客か。複数人が一気に銃弾を受けるかも知れない。

 再び壁を作る時間は無い。見張りが第二射を放つ一瞬前に手を合わせた俺は、膝立ちの体勢から四つん這いになる様に床に手をついた。

 閃光と共に錬金術が発動する。床板が波打つように隆起し、見張りは足元が激しく変形した事でバランスを崩して仰向けに倒れた。

 

「―――誰か、銃を!俺の代わりにあいつを撃ってくれ!!」

 

 肩を撃たれた乗客が近くの男に銃を渡して叫ぶ。押し付けられた形の乗客はそれでもなんとか、冷静に銃を構えて起き上がろうとしている見張りに向けて発砲した。

 不規則に盛り上がった床の先、見張りの左胸の辺りに小さめの穴がぽっかりと空き、赤黒い血が流れ出す。

 信じられないといった表情を浮かべながら、見張りは俺達をゆっくりと見回して倒れ込み、動かなくなった。

 

「…死ん、だ…?」

 

 こうもあっさりと人が死ぬのか―――たった今出来上がった死体を見ての感想は、そんなところだった。

 思えば、俺は「人の死」というものをあまりはっきりと見た事が無かった。葬式に出た事も何回かある。土をかけられていく棺の前で俯いて黙祷を捧げた事もある。田舎に住んでいると、半ば強制的にそういう行事には参加させられるものだ。

 だが、「人が死ぬ瞬間」を目の当たりにしたのはこれが初めてではないだろうか。父が死んだ時も後から眠っている様な亡骸を見ただけで、この旅を始めるきっかけとなったあの「女性」に関しても、死に際を見届けた訳ではない。

 もしかしたら俺は見ているのかもしれなかったが、その時の記憶は人体錬成の時にごっそりと奪われてしまっている。

 それに対して、眼前の死体は今まさに作り出されたものだ。俺の隣の男が放った銃弾によって、もっと言えば、俺の助けた人間によって作り出された「死」。

 思考が働かない。寝起きの頭とはまた違う、暗い沼の底に沈んでいく様な意識の中で、俺は左耳が空気を切り裂く特徴的な音を受け取ったのを辛うじて認識した。

 同時に反対側の耳に入ってくる、切羽詰まった大声。

 

「おい!?後ろの壁は君が作ったんだろう!?破られてきてるぞ!!」

 

 ゆっくりと振り向いた俺の頬を、熱い衝撃波の様なものが掠めた。その熱と音によって、先ほどまで感じていたあらゆる感情や感覚が意識の表層に引き上げられた。

 ―――銃弾…?

 俺が作った遮蔽壁は、度重なる銃弾の衝撃と貫通力によって凹み、縁の辺りなどは銃弾が素通りするまでに破損してしまっていた。

 このままではあと僅かな銃弾を受けただけで中心部も防弾能力を失うだろう。危機的状況である事は火を見るより明らかだ。

 ―――再錬成を…!!いや、でも危なすぎる…!

 その後の一瞬で、俺の頭脳は痛くなるほど働いたと言えるだろう。

 弾丸に対する防壁としての役目を果たしていない壁を再度錬成し直すには、壁に触れるまで近づかなければならない。

 だがしかし、銃弾が絶え間なく放たれている所まで移動して錬成するのはあまりにも危険だった。足が全く動かない。本能が行動する事を拒絶していた。

 ―――嫌だ。何で危険なんて冒さなきゃいけないんだ。もう、十分じゃないのか?

 壁は崩れかけている。中心部もぼこぼこに変形し、間もなく通路にも銃弾が飛んで来るだろう。早く脇の座席に隠れなければ、無抵抗のまま弾を食らう事になる。

 再び膝立ちになり、右足の外側に体重を掛ける俺。横に飛び退く準備は出来た。逃れよう、そして無関係を装おう。まだ俺達を殺そうとはしないかも知れない―――そんな打算を組み立てていた俺の目は、しかし、既に座席の隅で怯えながら丸まっていた若い女性客を見るに至った。

 震えている。目を完全に閉じて、怯えきった顔つきで事が済むのをただ待っているだけ、といった様子だ。

 だが、女はその腕の中に黒くて艶っぽい「何か」を抱いていた。それが人の頭だという事に気付くのには時間は掛からなかった。

 生きているのか、弾に当たって死んでいるのかもはっきりとはしない。だが、そんな事はどうでもよかった。

 

「あんたら!!後ろからその銃で敵を撃っててくれ!!」

 

 そう叫ぶと、俺の足は横では無く縦方向へと―――すなわち、破壊寸前の遮蔽壁へと体を運んでいた。

 滑り込む様に通路を駆け抜け、壁の傍まで辿り着く。背後から散発的な銃声が響いた。どうやら乗客は俺の要請に応え、鹵獲した銃で応戦を始めてくれたらしい。

 両手を打ち合わせる。いつも通りの錬成手順だ。それと同じく、俺の思考も再び冷静に動き始めていた。

 ―――何が「無関係を装う」だ。都合良く尻尾巻いて逃げようとしてただけじゃねえか。

 抵抗が始まった時に俺は手を出した。傍観者から当事者になった。ならば、責任を取る必要がある。「助ける」という行為をやり切るという、責任を。

 錬成陣は描き切らなければ意味が無い。それと同じだ。中途半端に投げ出せば、それは失敗なのだ。

 さっきの女は小さな命を抱き続けるだろう。銃弾が飛び交う中で、たとえ自分が撃たれても抱き続けるだろう。

 俺は人体錬成をやり遂げられずに痛い目を見たのではなかったのか。その為に全てを失い、旅に出たのではなかったのか。

 逃げてはいけない。少なくとも、今この場面では。

 穴だらけの壁に手を押し付けた。壁をもう一度再構築はしない。もう、時間稼ぎはしない。

 他者の行動が俺の意識を、そしてその後の行動までもを変えた。

 遮蔽壁が三点に集まり、まるで触手の様に見張りに向かって勢い良く放たれた。フェルトと木、鉄が混ざった硬い錬成物によって綺麗にその腹部を痛打された見張り達が蹲り、昏倒する。

 

「ふーっ…」

 

 見張りを全員制圧し終えた事を確認して息を吐くと、一気に周囲の状況が情報として流れ込んできた。冷静になったと思っていたが、実際のところはまだ相当に切羽詰った精神状態だったらしい。

 肩の力が抜け、倦怠感が襲い掛かる。

 

「おい…、大丈夫か?二の腕から血が出てるぞ」

「え?…ああ、本当だ…」

 

 近くの乗客に言われ、初めて俺は左上腕の服が裂けて血が少し滲んでいる事に気付いた。一連の行動中に弾丸が掠ったらしい。それほど大層な傷ではない。

 座り込んだ俺の周りに人が集まって来る。嬉しそうな顔の者や険しそうな顔の者など、表情は様々だ。

 

「君、もしかして錬金術師かい?壁を作ったりしてたが…」

「…ええ。まあ…」

「やっぱりそうか!」

 

 乗客たちがどよめく。錬金術師という存在は確かに多少珍しいだろうが、何か俺の予想しない思惑を被せられている様で少し怖かった。

 僅かに身構えていると、先ほど後部の見張りを撃った男が俺の前に現れ、微笑みながら俺の手を取って起き上がらせた。

 年齢は三十代後半だろう。体格の良い精悍な顔立ちの男だった。銃を躊躇いなく撃っていても全く違和感が無いな、となぜか納得してしまう。

 

「怪我は浅そうだな。壁を作ってくれて助かった」

「あなたは…銃の扱いに慣れてるようですが」

 

 俺のその質問に対して返ってきたのは、軽い敬礼のポーズだった。その仕草で理解し、口角を曖昧に上げる俺。

 

「軍人さんですか」

「ニクラス・バルテル曹長だ。よろしく」

「どうも…、グラウズ・ウェーバーです。どうして軍人さんが一人でこの列車に?」

 

 軍服は着ていなかったが、立ち居振る舞いや体格が「軍人」であるという信憑性を持っているのは確かだ。それに、たとえ嘘だとしてもそれは現状で問題ではない。

 ほんの少し白髪の混じった短い髪を掻きながら、苦笑いするニクラス曹長。手を頭の横に上げて、おどけた風に答えてくれた。

 

「中央へ異動になってね。やっと事務仕事に就けると思って列車に乗ったら、このドンパチさ…。まあ、軍人として出来る事はするつも―――動くな!!」

 

 彼が上げた突然の怒号に俺は飛び上がらざるを得なかった。一瞬で銃を構えて射撃体勢を取る曹長。その目は、つい先ほど俺が三人を制圧した車両前部のドアのみを見据えていた。

 俺が急いで振り向くと、銃を持った男達が更に二人、ドアの前で固まっていた。銃声を聞いて駆けつけてきた犯人グループの一員だろう。

 

「銃を置いて手を上げろ!!抵抗すれば撃つぞ!!」

 

 曹長が張り上げた声に気圧されて戦意を喪失した犯人の二人は、銃を床に捨てて従順に両手を上げた。それほどに彼の怒鳴り声は場を制する圧力を持っていたのだ。

 すぐさま傍の座席からワイヤーを錬成して乗客に投げ渡す。一分もしない内に、手を上げて投降した二人は俺達が先ほどまでそうされていた様に、手首を縛られて床に転がされた。

 前髪を掴み上げて曹長が問い詰めると、犯人達は列車に乗っている他の仲間達の人数と配置を喋り始めた。

 それによると各客車の中に見張りと連絡用として一人、この最後尾車両を除く十一両の客車内に、十一人の見張りを配置していたらしい。

 例外として俺達が今居る最後尾の客車は乗客を押し込めておく為に見張りが五人、そして連結部分に予備として一人が控えている、という事らしかった。

 

「お前達のリーダーも居ただろう!!あいつは何処だ!?」

「痛たたたたた!!見張り以外の仲間やリーダーは全員先頭車両だ!炭水車の一両後ろだよ!」

「そこには何人いるんだ!」

「正確には知らねえ。だが運転手以外で十人位だ…!」

 

 結局、その後何回か曹長が問い詰めてもそれ以上の情報は「知らない」の一点張りだった。

 最初から完全に黙秘をせず中途半端に人数構成を明かした事から考えるに、恐らくこの見張り達の証言は真実なのだろう。犯人グループは運転手を含めて残り二十人ほど、という勘定になる。

 

「…二十人か…。こちら側は銃の数が七丁だから、一人一丁ずつ持ったとしても大体三倍ほどの敵を相手にする事になるな」

 

 曹長も同様の事を考えていたらしく、顎に手をやって考え込んでいる。三倍程度ならば奇襲や戦略で何とかなる気もしたが、よくよく考えると相手はテロリストだ。一般人と比べて明らかに多くの訓練を積んでいるだろう。

 対してこちら側の戦力と言える戦力は、目の前のニクラス曹長のみと言ってもいい。数的不利に加えて熟練度の差までがあるとするならば、作戦どうこうで引っくり返せるのか、非常に疑わしく思えてきた。

 拘束した犯人グループを逆に人質に取り、投降を求めてみてはどうか、と俺は曹長に提案したが、その案は他ならぬ縛られた状態の犯人達によって即座に否定されてしまう。

 

「俺達を交渉材料に?はっ、無駄だね…。俺達の目的はたった一つだ。その目的の障害となるようなら、リーダーは仲間を助ける選択肢なんて取らない。俺達はその掟を全員納得ずくでやって来てんだよ。なめんな」

「…だ、そうだ。私もそれは考えたが、こう言ってる以上奴らはお構いなしに撃ってくるだろうね」

 

 俺と目が合った曹長は、またも肩をすくめて困った様な顔を見せた。

 ―――人質も駄目、このままじっとしててもいずれ気付かれる、となると…。

 もはや、荒事を繰り広げてどうにかする他に選択肢は無い。分の悪い賭けだが、この状況に至ってしまった以上はどうしようもなかった。

 恐らくだが俺自身も戦力として数えられているのだろう。錬金術をあまり知らない者達にしてみれば、俺の起こした現象は魔法の類にすら見えているはずだ。

 だが、実際の所錬金術はそれほど役に立つとは思えない。どんなに色々な事が起こせると言っても術者である俺は生身の人間だ。銃弾を一発でも当てられれば、当然死んでしまう。

 そしてこれまた当然の事なのだが、錬金術を発動させる一連のプロセスよりも人間の人差し指が引き金を引く動作の方が早い。比較にならない程に。真正面から立ち向かって行けば一瞬で俺の旅路は終わりを迎える事だろう。

 「巻き込まれるのは仕方ない」という気持ちはあったが、それ以上に今のような理由のせいで気乗りがしないのも事実だ。

 戦う意思のありそうな乗客数人と作戦を話し込んでいる曹長を、どうしても俺は冷めた目でしか見る事が出来なかった。

 しかし、乗客の一人である老爺が放った声が、そんな俺の協力意欲を一気に引き上げる事になった。

 

「のう、お前さん達、ハウンズローの駅までには奴らをどうにか出来そうかえ?多分奴らはそこで進路を変えよるぞ」

「……何?じいさん、あんた今なんつった?」

 

 慌てて訊き返す俺に、老爺は何故か少し得意げな顔で付け加えてくれた。

 

「わしゃ何度もこの線を使っとるでな。外の夜景から見てまだいつも通りの道順を行っとるはずじゃ。そうなると、最寄りの切り替えポイントがあるのはハウンズロー駅。何回かそこで進路の切り替えしとるのを見た事があるぞ」

「それって…本当か爺さん!!まだこの列車はセントラルに行けるかも知れないんだな!?」

 

 肩を強く掴んで問い質す俺に対して「ヒョッヒョッヒョッ」と笑い返す老爺。振り向くと、話をしていたはずの曹長や乗客達もが俺達二人の会話を聞いていた。

 傍らの犯人達に向かってもう一度、尋問を曹長が行う。

 

「おい!今あの老人が言った事は本当か、え!?お前達はハウンズロー駅で進路を変えるのか!?」

「………」

 

 今さっきまでは素直だった犯人達が急に黙秘を通し始めた。俯いている顔には僅かに面白くなさそうな表情が浮かんでいる。

 ―――怪しい。明らかに「知られたくなかった」って顔だ。

 業を煮やした曹長が犯人の一人の顔面を床に叩き付けると、別の一人が舌打ちして渋々口を割った。

 

「…そうだよ。ハウンズローで切り替えだ。まだセントラルに行く既定のルートを走ってる」

 

 その言葉を聞いた俺と曹長は顔を見合わせ、お互いの意図が一致している事を悟った。

 「セントラルへ予定通り向かう。早い所テロリストを排除して列車を取り戻せばそれが可能」―――その事実が、俺だけでなく乗客の中のかなりの人数に対してやる気を起こさせる要因となっている事は間違いなかった。

 

「曹長さん、作戦は立て終わりましたか…!?ハウンズロー駅まであまり時間が無いかも」

「ああ。テロリスト共の見張りの為にここに一人残して、六人で銃を持って車両を奪還していく。単純な策だが最も妥当なはずだ。だが急がなければ!テロリストが気付いたら一気に不利な状況になる!」

 

 確かに単純だったが、上手く小規模戦闘を繰り返して敵の数を削っていけば勝機はあると思えた。

 そうなると、気になるのは俺自身の役割だ。まさか「ここで待っていても良い」とは言って貰えないだろう、と覚悟していた通り、曹長が言い出したのは割と荷が重いように思える仕事だった。

 

「君の錬金術の能力は非常に有用だ。私達に帯同して障壁なんかを作り出し、サポートして貰えないだろうか?」

「障壁を…」

 

 それはつまり、最前線に立って壁を作らなければならないという事だ。俺達の後ろに壁を作った所で意味が無いのだから当たり前だが、一番危険な役回りでは無いのだろうか。

 だがしかし、もう今更「出来ません」とは言えない状況だ。その上、曹長は「危険に晒す事になるが、どうか頼む」と頭まで下げてしまった。これではどうしようもない。

 

「わ、分かりましたよ…。分かりましたから頭を上げて下さい。但し、壁を作ったらすぐに後ろに退避させて貰いますよ?俺も死にたくない」

「勿論だ。感謝するよ」

 

 それから一、二分の間に、曹長と俺を含めた七人の準備が整った。全員銃を構え、切羽詰まった表情でドアを見つめている。俺自身も心臓の鼓動が速くなっているのを感じていた。

 

「…行くぞ」

 

 曹長の一声と共にドアが開かれる。

 緊張で火照った顔を冷やすには、夜風は少し生温かった。

 

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