今回はネタ少な目で短いです。
ゴールドシップのトレーナーは激怒した。必ずかの奇想天外の浮沈艦を倒さねばならぬと。
トレーナーにはゲートの感覚がわからぬ。トレーナーはただのゴルシキックに耐えれるだけの人間である。ゴルシにある時は北海道に蟹工船だと連れ出され、ある時はバレンタインのマグロの為に黒潮海流に乗り、ある時はどこかの山でサバイバルをするなどと、振り回されながら暮らしていた。けれどもレースにだけは人一倍情熱をかけていた。
きょう未明トレーナーは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此の阪神の競バ場にやって来た。トレーナーには彼女も、女房も無い。三十六の、独身な寂しいトレーナーだ。
このトレーナーの担当であるゴルシは、近々、宝塚記念の2連覇を狙う事になっていた。レース開催も今日なのである。
トレーナーは、それゆえ、推しTの予備やらライブのサイリウムやらをバッグ入れ、はるばる兵庫にやって来たのだ。
トレーナーとゴルシは若いウオッカに連れられて阪神競バ場に入った。
先ずゴルシに、そのレース場を慣らせ、それから都の大路をぶらぶら一緒に観光した。
レースは、曇りの良バ場となった。
いつもの実況者と解説者の、人気順位発表とパドックを終えたころ、レース場を黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。
祝宴に列席していた観客たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い会場の中で、むんむん蒸し暑いのも怺え、陽気にサイリウムを準備し、出走を待った。ゴールドシップも、満面に喜色を湛え、しばらくは、あの謎の声をさえ忘れていた。
レース場は、ゲートインに入っていよいよ緊張感が高まり、ゴルシファンは、この豪雨を全く気にしなくなった。トレーナーは、このまま雨が続けばさらに有利だ、と思った。ゴールドシップは「雨の日◎」を持っていたのである。
しかし彼らは忘れていた。競バとは、ゴルシとは、ままならぬ物である。
控室でゴルシは、ついに出発を決意した。
きょうは是非とも、アタシのファンに、ゴルシ様の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑ってウイナーズサークルの上に上ってやる。
ゴルシは、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。
さて、ゴルシは、ぶるんと両腕を大きく振って、地下バ道を悠々と歩いて行った
『おおっと!ゴールドシップとエアシャカールが出ない! 出ない!』
「「「「走れゴルシィィィィィィ!!!!!!!!」」」」
ゴールドシップのトレーナーは激怒した。必ずかの奇想天外の浮沈艦をどうにかせねばならぬと。