夜射刃”YAIBA” 灼熱騎士鎧伝~真夜中の鎖悪戒子(サーカス)~ 作:navaho
昨年にやると言っておきながらようやく形になり、早速ですが序章を投稿します。
不定期更新の為、次の更新は一か月後を目安にできればと思います。
数か月前・・・アスナロ市 第三ドーム周辺
昨夜の異常な騒動から一夜明けて、人々は崩壊した第三ドームの瓦礫撤去作業を行っていた。
その光景を二人の少女が呆然とした表情で見つめていた・・・
呆然というよりも瞳に輝きはなく、感情そのものが抜け落ちたかのように表情はなかった。
いつまでもそうしているわけにもいかない為、御崎海香は今も呆然とする少女 牧カオルの腕を掴み、その場から離れる。
むしろこの場から離れたかった。自分たちの所業が昨夜の騒動を引き起こした元凶だったからだ。
崩壊したアスナロ市 第三ドームそして周辺都市の被害を見るたびに罪悪感と後悔の念が責め立ててくる。
自分たちの行いが、あの”雷獣”を呼び寄せた。
そして、自分達が中途半端にあの悪名高い”魔法少女喰い”の怒りを買ってしまったが為に・・・
今も牧カオルの心は沈んでいる。
彼女の心が沈んでいるのは、かつてのチームメイトを失い、二度と会うことが出来なくなったからだった。
”魔法少女喰い 麻須美 巴”の手によって・・・命を喰われたのだかから・・・・・・
傍に付いていなければ、このまま呪いを振りまいてしまうかもしれない・・・・・・
御崎 海香は牧 カオルを一人に・・・いや、自分自身も一人になりたくないが故に彼女の傍にいる。
なぜ、このような結末に至ったのか・・・
悲劇を回避したく、呪われた運命に反逆するために動いてきたが、自分達ではどうにもならなかった・・・
自分たちの力を・・・どんなにちっぽけな力を集めても結局は何も成し遂げられない・・・
この世には”奇跡”も”希望”もない・・・あるのは強欲とそれにともなう呪いに塗れた救いようのない荒野と闇だけが永遠と続いているのだけ・・・
かつての仲間もほとんどが離反し、プレイアデス聖団は消滅したも同然であった。
今の朝日は、闇が訪れる一時の気休めでしかない・・・必ず訪れる冷たく残酷な夜の闇の前の・・・・・・
『・・・・・・どうしたのですか?希望を謳う魔法少女らしからぬ顔をしていますね・・・・・・』
誰かが自分たちの前に立っていた・・・魔法少女のことを知っている・・・
本来ならば、警戒すべき事態であるが、彼女達にはそれを警戒するほどの気力はすでになかった・・・
精魂尽き果て、このまま人知れず消えていくのも悪くはないとも考えていたのだから・・・・・・
「だれ?」
「・・・・・・・・・・」
御崎海香の質問に満足するかのように”それ”は嗤った・・・・・・
彼女を映した瞳は、暗く冷たい夜の闇を凝縮したかのように冷たい無機質なものだった・・・
その姿も異様であった・・・魔女でもなくかといってホラーでもない・・・
人間ではない・・・”何か”であった・・・・・・
『これはこれは・・・失礼しました。見た目の通り、私は、魔法使いですよ』
白く塗られ、道化のようなメイクをしており、異様なまでに背が高く、黒いマントから現れる腕は常人のそれよりも長いものであった・・・・・・
『・・・魔法少女は嗤わないと・・・笑顔ですよ笑顔・・・この魔法使いこと・・・クエーサルが貴方達の望みを叶えてあげましょうか?』
指も一本一本が異様に長く、その手のひらには”魔法少女”にとっては馴染み深い”二つのソウルジェム”が輝いていた・・・・・・
「これは・・・・・・」
『はい・・・魔法少女の願いは一度きりとは・・・誰が決めたのでしょうね』
”魔法使い”を名乗る”クエーサル”は、二人の少女に自身の魔法を披露するのだった・・・・・・
序 章
数か月後・・・・・・京極神社 少女達の祈りの石碑
アスナロ市の東北に位置するこの神社の境内に存在する数か月前にできた石碑を男 五道 アキラは不思議そうに眺めていた。
石碑は居なくなった少女達を忘れないでいるという残された者たちの供養が目的で作られたと・・・
ここを案内してくれた少し変わった少女達に聞かされたが、石碑に刻まれた少女達は皆、ある特別な事情を抱えていたという・・・・・・
「・・・・・・何故人は名前を残したがるんだ?生きていても死んでいても変わらないだろうに・・・」
鋭いというよりも目つきが悪いといった表情でアキラは、目の前の石碑に背を向けた。
『誰かが覚えていてくれるのなら、人はそれだけで幸せなんだよ。アキラ』
幼い少年のような声がアキラに語り掛ける。
「フン・・・生きている限り頼れるのは自分だけ、結局は一人なんだ。人間ってのは・・・」
アキラの脳裏に自身の暗い記憶の影が過るが、今更過去に感傷する程弱いわけではない・・・
自分はあの日、”絶対の力”を得ようと進む”存在”を見た時から・・・彼の”背”を今も追い続けているのだから・・・
『アキラの気持ちを汲んで僕は特に何も言わないけど、彼は魔戒騎士から外れた存在・・・ホラーと変わらない。それでも、彼を・・・暗黒騎士 呀に会ってどうしたいんだい?』
「・・・・・・・・・・・・」
会ってどうしたいのかなんて分からなかった。
たった一人生き残った自分が押しかけただけであり、彼にとっては傍迷惑でいつかは、置いていこうと考えていたのかもしれない・・・
自分は彼にとっては、その程度の存在でしかなかったということ・・・
冷静になれば納得するのだが、自分の中のもう一つの感情がそれを拒むかのように感情的に否定する。
その感情に呼応するようにアキラの影が揺らめき・・・変化していった・・・・・・
京極神社によく出入りする少女 ユウリは日課である石碑周りの清掃をしていた。
「あれ?さっきまでここにいたのって、狐目というよりもなんか人相が良くない奴だったよな?」
彼女の視線の先には、背を向けて鳥居を潜っていく黒髪の女性の後ろ姿があった・・・・・・
アスナロ市のとある場所で一人の少女が目覚めた・・・・・・
目覚めるまで夢を見ていた・・・
自分の手を引いてくれる黒髪の綺麗な少女と一緒にいる光景・・・
少し強引だけど、温かく自分を見てくれている悲しそうに揺らいでいる紫がかった瞳・・・
「・・・これは、私の記憶なのかな・・・私はどうしてここにいるんだろう?」
何故、あの女の子は悲しそうな瞳をしていたのだろうか?
そして自分は、なぜこの場所に一人でいるのだろうか?まさか、置いて行かれた?
あるいは・・・・・・
「・・・・・・うぅん。そんなことはない。ほむらさんが私を置いていくなんてない。きっと理由があったんだ」
少女は自分が何と呼ばれていたのかを思い出す。
そうだ・・・自然と口に出たほむらという少女が呼んでくれた名は・・・・・・
「・・・みちる・・・って呼ばれてた。私の名前はみちる」
”みちる”・・・”和沙 みちる”彼女が呼んでくれることならば許せるが、それ以外の人間に呼ばれるのは僅かではあるが嫌悪感を抱く。
この名前を呼んでほしいのは、彼女だけ・・・
「ほむらさん以外にはみちるって呼んでほしくない。だったら・・・」
仮の名前が必要である。ならば・・・自身の”和沙 みちる”から・・・
「・・・・・・かずみ・・・・・・わたしの名前は、かずみだ」
ここが何処かはわからないが、埃が積もり具合からして長いこと放置されていたのかもしれない・・・
自分が目覚めたのは、奇妙なカプセルの中だった・・・
もしかしたら、ここで治療を受けていて、彼女も後でここに来るつもりだったが、逸れてしまったのかもしれない。
彼女が自分を”怖い何か”から守ってくれていた。ならば、ここに自分を隠し何処かで戦っているのだろうか?
怖い何かが分からないが、ほむらと違い思い出すだけで嫌悪感を抱く数人の魔法少女達・・・
”魔法少女狩り”をしていた・・・
「わたしだって・・・やれる。守られるだけじゃないんだ」
グリーフシードとソウルジェムが掛け合わさった奇妙な宝石を抱き、かずみは施設を後にするのだった。
施設はアスナロ市の郊外に存在し、街の明かりと遠くには高層ビルが悠然と聳え立っている・・・・・・
「・・・・・・アスナロ市・・・わたしがほむらさんと出会った場所・・・」
かずみは遠くアスナロ市へと向かっていくのだった・・・・・・
去っていくかずみの影から現れるように黒い翼を羽ばたかせながら黒髪の少女が飛び出した・・・
「少し気になって先を見に来たけど、あの子に宿った13番目の魂は、彼女を強く思っていたようね」
アメジストに似た輝きを持つ瞳をした少女の姿は、かずみが求める”暁美ほむら”によく似ていた・・・
「バラゴにも訳アリの関係者が居るみたいだし・・・そして、彼女を求めるかずみ・・・」
適当な場所に腰を掛け、アスナロ市で開幕される”物語”に好奇心とも憂いにも似た視線を向ける・・・
「・・・置いて行かれた人達のその後・・・今まで考えてもいなかった・・・」
黒い翼を持つ少女は、この結末を見届けるべく視線をアスナロ市へと向けた・・・
煌びやかな大都市と行きかう人々、異様にまで明るい月・・・
都市の影に潜む”異形の者たち”・・・
「アスナロ市はバラエティに富んているから、都市全体がまるでイベントの会場・・・そう・・・サーカスみたいなものね」
今宵、静かにアスナロ市にて”真夜中のサーカス”が幕を上げるのだった・・・・・・
あとがき
知っている人は知っている五道 アキラ。彼を主人公にしたSSは、バラゴ以上に少ないのでないのならば自分で書いてしまえと・・・なければ自分で書いてしまえばよいと・・・・
勢いに任せての投稿です。書いていてですが、かずみが重い少女になってしまいました・・・
暁美ほむらの影響は、なんだかんだで大きい・・・・・・