俺の個性がそう言っている   作:大紫蝶

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リューキュウ2

 それにしてもこの男はやる気があるのかしら。

 対峙する迅悠一の姿を見てそう思う。青いジャケットにダークブラウンのズボン、ブリッジ部のないサングラス。服のいたるところにポケットがあるから、そこに武器を隠し持っている可能性が有る。しかし、一切武器を取り出す様子がない。準備運動をする様子すら見えない。

 ねじれが審判を務めることになった。まぁ、開始の合図だけだけど。

 

「それじゃあ、いくよ~。始め!」

「(先手必勝!)行くわよ!」

 

 加速によりスピードを付けてから、”個性”でドラゴンになる。初速に重さと変身による加速で威力をつける。イメージは空手の正拳突き。この高威力広範囲の一撃なら未来を読まれても対処は不可能!

 

「これは俺が”流水岩砕拳”を改良した必殺の戦闘スタイル”流”の使い手と知っての愚行か?いや、それ以前に、こんな弱攻撃・・・」ゴッ

 

 う、ウソでしょ?私の一撃を片手で受け止めた!?どんな大型ヴィランでもこんな事できなかったのに・・・いや、1人だけ。オールマイトには止められたけど、それにしたっ「考え事か?」え?ドッ!

 

「先に言っておく。今のところ師匠やマキアさんの方がよほど強いぞ?まぁ、元プロの師匠はともかく、一般人?のマキアさんより弱いとは、いくら女だからと言ってもひ弱過ぎるだと思うのだが。」

「女?」

「そうだろ。女だからとまともに訓練をせず見た目やコネでここまで来たのなら、悪いことは言わない。引退した方がいいぞ。そのルックスなら他の職でも食っていけ「ふざけないで!」ん?」

「女だからとか、そんな理由で私たち女性ヒーローの覚悟をバカにしないで。本気で戦っているの!」

「だったら示して見せてみなよ。その本気とやらを」

 

 意気込んだものの彼に有効打を与えられる攻撃が思いつかない。真正面から攻撃を受け止められた。それも片手で。いや、真正面からがダメなら・・・

 

「啖呵を切って空中に逃げるのか。それが有効だと思っても、真正面からの殴り合いがセオリーじゃないか?」

「そう?自分の土俵で戦うことが戦闘の基本でしょ?それとも自分の得意でしか女と勝負できないの?

「別に構わないぞ?空中戦でも。だが、空中なら勝てるとでも?”六式”を習得した武術家に空中戦とは愚策もいいところだ!」

 

 ”六式”、欧州で開発された対個性格闘術の1つ。主に空中戦と遠距離戦を可能とした汎用性の高さが特徴。さらに、体を硬化、超加速も可能にする。でも、それはねじれの話で聞いていた。彼が使う”月歩”の弱点の調べたことがある。それは「踏み込みのために踏ん張れない」というシンプルなもの。そして攻撃力の低下。大体、攻撃でも防御でもちゃんとした地面が前提で訓練している。そのため、踏ん張りがきかず攻撃の威力が低下する。それにまともな防御も出来ないで攻撃も単調になる。ドラゴンになった私なら単調で威力の低い攻撃なら「耐えることが出来る、か?」っ!

 

「確かにあんたの言う通り、”六式”にも弱点はある。汎用性に優れているとはいえ、どうしても弱点は出来てしまう。俺の”流”も空中だとまともに使えない。だがな、そんな対策をされることを見越して対策の対策もしている。そもそも多種多様な”個性”を持つヴィランに対抗するために、多種多様な戦闘スタイルを身に着けている。当然、空中で大型ヴィランを戦う用意もしてある。」

 

 懐に潜り込まれた。巨大化する”個性”持ちには有効な手。でも、私もそのやり方はよくとられる。だからこそ、それを利用すればいい。”個性”を解除することでさっきまでとは違う空中戦に移行する。私は飛べなくなるけど、防御も回避も満足にできない相手なら、”個性”の部分使用で攻撃をすればいい。私が地面に落ちてもすぐに体勢を立て直せる。寧ろ、助走をつけて一直線に攻撃できる。

 

「(確かに有効かもしれないが、だとしてもデメリットの方がデカいだろ)”ピンボール”」

「(何これ、鳥かごのように囲まれてる!?それに少しずつ狭くなっている。このままじゃ、嬲り殺される。でも)動きが直線的すぎるわ!」

 

 私はこっちに向かってくる瞬間に手をドラゴンに変化させる。私の下に彼が来たら、全身をドラゴンに変化させ押しつぶす。翼で加速しながら一気に落ちる。受け流せないし、防御も圧倒的な質量の前では意味をなさない。あまりいい勝ち方でないけど、これで勝った。たとえ立てても”ドラグーンパニッシュ”でとどめよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言うと一撃もまともに入れられなかった。圧倒的質量とか蹴りで吹き飛ばされて終わりました。一応、多少かすったらしく血が1滴くらい出てたけど、すぐに傷がふさがっていた。

 えっ、強すぎない?公安とかこの化け物と戦う気なの?未来視の”個性”以前に、中学生にプロヒーロー(成人済み。巨大化可能な”個性”持ち)がパワー負けしたとか恥ずかしくて言えない。彼が増強系の”個性”ならまだしも、「日々の鍛錬」による身体能力なら私の努力不足だし。何でNo.10とかなったんだろう。かすり傷1つが限界なのにトップヒーローとか言われて、しかもまともなサイドキックも集まらないとか貧乏くじ過ぎる。もし彼と対立したら前線に送られてボコボコにされるんだろうな~。幸い、手合わせだから顔とか肌が見えるところに攻撃しないでくれたから、痣だらけで人前に出ないで良さそうだけど。でもそれは私を気遣う程、余裕があったと言う事。

―――ねじれも彼に師事して強くなったんなら、私も彼に指導してもらおうかしら。この際、年上とかプロの意地とか言ってられないし。あれだけ啖呵切ってかすり傷が精々とか恥ずかしい。

 

「あ、リューキュウ。お疲れ様です。」

「お疲れ様。そういえば彼はどこ行ったの?」

 

 私が倒れて考え事しているうちに迅君の姿が見えなくなっている。

 

「彼なら事務所の書類整理を手伝ってくれてますよ。面倒な書類とか整理してくれますし、データ化してすぐに確認できるようにまでしてくれてます!」

 

 もはや何も言うまい。とりあえず、彼と話し合いましょう。実力差は「分からない程レベルが違う」と分かっただけでも収穫のはず。少なくとも物理攻撃で倒すのは不可能ね。

 これを協会や警察に報告するとなると今から暗い気持ちになる。トップヒーローが中学生相手にハンデ(コスチューム)貰って負けたなんて恥ずかしいけど、言わないと後で文句を言われるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、リューキュウさん。あなたが俺の事警戒している理由って、公安からの”迅悠一”の粗探し~って奴のせい?」

「(バレてるし)そんなことないわよ。ただ、女の感が働いただけで・・・」

「あんた・・・つまんないウソつくね。先に言っておく、俺は”嘘発見”の”個性”持ちでもあるよ。」

「っ!未来視じゃないの?」

「未来視もある。でもそれだけじゃない。分かりやすく言えば、複数の”個性”持ちだよ。」

「(複数の”個性”!?そんなこと聞いたこともない)」

「ついでに言えば、俺は相手の心が読める。あんたが俺に修行をつけて欲しいことも分かるよ。俺に警戒心を抱いていることも。」

「いや、それは嘘ね。もし心が読めるのなら、最初に私の考えを読んでいたはず。それで私を誘導することもできたはずよ。なのに、あなたは私に対して焦っていた。」

「(思ったよりは賢いな。視野も広いようだし)そうだな、確かに”心を読む”は正確ではない。正しくは”相手の感情”を読んでいる。俺は相手の心や感情を”オーラ”として見ている。そして、自分に向けられた感情は痛覚で識別している。」

「前者は分かるけど、痛覚で感情が分かるってどういうこと?共感覚とかかしら。」

「それに近い。俺は負の感情程強く不快な痛みとして認識している。だから、戦闘ならどこに攻撃が来るかが分かる。あんたは範囲攻撃が多いからあんまり意味なかったけどね。」

「確かに未来視でタイミング、痛覚で攻撃される場所が分かれば攻撃の対処なんて簡単...ちょっと待って。痛みって言った?それって・・・」

「あんたの考えの通りだ。俺はある一定の負の感情を受けると拷問と同じような痛みを受ける。昔は発狂していたが、今はチクチク程度に思っているよ。師匠に切られたり、殴られているから痛みには慣れてるし。」

「(それが本当なら「本当だよ」...本当なら彼の弱点は人が密集している場所「それは克服したよ」)本当に心が読めているわけではないのよね?」

「そうだよ。まぁ、感情から相手の考えを推測しているだけだよ。優秀な先生からその辺の技術も教えられてるし。」

「なんか、とんでもない”個性”ね。命とか狙われそうだけど。」

「もう狙われてるよ。公安から「公安専属のヒーローになれ」とか言われたこともあるし。まぁ、ヤバそうな未来が見えたから断ったけど。それ以来警察やヒーローから敵視されてるよ。拉致されそうになったし。母さんが俺を連れて今住んでいる街まで逃げてなきゃ、俺は今ここにいないよ。その後は先生に守って貰って、少し前から自分で対処してるけど。」

「それって具体的に聞いても?」

「いいけど、ただ単に「運悪く」を連発させてヒーローとか工作員を追い返しているだけ。俺の未来視狙いらしいけど、そんな便利なモノじゃないし。俺の未来視は未来を視る能力ではないしね。」

「え、それって前提が覆るほどの重要事項なんだけど。喋っていいの?」

「いいのいいの。向こうに説明済みだし、まぁ信じてないけど。俺の未来視は未来を視るより、可能な限り自分の好きな未来に改変できる能力だよ。読み逃しも多いから絶対ではないしね。未来も視覚情報だけ、断片的な物ばかりだし、1か月くらいが限界かな。それ以上は正確性がないとか、不確定すぎるからね。時々、正確に視える未来もあるけど、それは例外だ。それに、突発的なことには対処できないし、正確な予知は大体2週間先くらいが目安だよ。たまにそれ以上も見えるけど。」

 

 もしかして、公安が彼を敵視する理由って、メンツと利益じゃないわよね?「それで合ってるよ」...本当に心が読めるとしか思えない。嘘を「ついてないよ」

 

「お願いだから心の声に反応しないで。」

「いや、教えた方が合理的かな~って。」

 

 ともかくメンツと利益目的で粗探ししているなら、情報提供する必要はないわね。報告書は適当に書いときましょ。

 話を聞いていくうちに彼が良い人なのは分かったわ。本当に社会復帰のために元ヤクザや元ヴィランを受け入れて、危険な”個性”持ちを保護している。聞いたうちで一番ヤバいのは「八ちゃん」という娘ね。”視覚・聴覚を媒介に精神崩壊させる個性”とか危険すぎる。具体的には、自分に恐れを抱く者の感情を増幅させ恐怖で人を壊す”個性”。範囲は周囲数十mでコントロール不可。仮にコントロールの指導ができる人がいても内容を理解しているはずだから「もし、恐れを抱いたら壊される」と恐怖して廃人になる。増幅させた恐怖の一部を力として蓄え、身体能力を強化させるおまけ付き。もう手に負えないわね。普段はアホな男たち(黒野や鬼原)に相手させているらしい。絶対に恐れを抱かないし壊れないから。

 

 とにかく、彼が敵でないことは分かったわ。

 

「そうだ。あなたにお願いがあるのだけど「指導して」くれないかしら。それと、もしよかったら「職場体験やインターンでうちの事務所に来て」くれないかしら。...もう何も言わないわ。」

「後者はこちらからお願いしたい。前者は俺の修行の合間に先輩と一緒でいいなら面倒見るよ。どうせ2人共”か弱すぎる”し。」

 

 No.10でカッコよすぎるヒーローって言われてるのに”か弱い”か~。・・・新人からやり直したい。

 

 

 その後、彼は私に履歴書や自分の能力などの資料を渡してから(過程はともかく、資料が必要になる未来は見えていたらしい)雑談しながら書類の整理とデータ化をしてくれた。私やサイドキック、事務員たちと彼の資料を見終わったくらいに晩御飯が出来上がっていた。・・・ホークスより速すぎると思う。

 栄養価も高く満足のいくご飯だった。しかも、アレルギーとなる食材は避けていて、好き嫌いに配慮したものだった。どうやって知ったのか聞いたら

 

「未来視て、どの飯出したら喜ぶか見ただけ。読唇術で好き嫌いやアレルギーについて情報を得たしね。」

 

 なんでもありね。美味しいから文句が言えないけど、肉3倍野菜炒めはどうなのかしら。

 最後に食器を洗ってから、今後1か月で起こりえる事件や事故を予知したメモを渡された。大体9割くらいドンピシャだった。そのせいで、メモの通りに行ったら

 

「リューキュウはなんて迅速に事件現場に駆け付けるんだ!」

 

と誤解された。未然に防いで余計に評価を上げたこともあった。もし、この調子でいけば・・・私、過大評価と罪悪感で潰れる未来が見えるわ。新しい”個性”に目覚めたかしら...

 

 

 

 

 

 

 

 福佐に会った翌週からリューキュウは福佐の指導の下、学生時代より本気で修行を始めた。順調に力をつけ、福佐に会う度に未来メモを渡されることで評価が上がっていく日々。福佐からすれば親切心なのだが、リューキュウは周りの過大評価と罪悪感に胃を痛めながら生活する羽目になる。

 彼女は次回のビルボードで8位にまで順位を上げることになる。実力も実績もそれに相応しいのだが、彼女の感じる罪悪感が余計に増えることになるのは知らない方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、よく”武装化”した俺に傷を与えられたな。師匠でも”武装化”しないで俺を傷つけるのは”円刃”使う以外なら不可能に近いのに...」




 福佐は色々価値観とかが壊れています。
 修行相手が「世界は広いな。こんな化け物がいるなんて・・・」とか言われる化け物ばかりなので、一般的な強さが分かっていません。
 リューキュウは一応実力はあると思ってますが、どちらかと言うと保護対象に近いと思ってます。そのため、民間人と同様にリューキュウを守ります。

 リューキュウ相手には無双してますが、福佐の修行相手である化け物たちは福佐を防戦一方にして追い詰めています。彼は迫り来る死(ウィザやバンクなど)から生き延びるために防御・回避能力がずば抜けています。例えるならワールドトリガーの雨取千佳のトリオン量並みです。
そのため、リューキュウが福佐に傷を与えたこと自体が奇跡に近いです。
 彼の使う”流”や”武装化”の詳細は今後説明していきます。


ピンボール:ワールドトリガーの技。福佐は”月歩”をグラスホッパーの代わりに使用している。なお、この技の本来の使い手は別にいる。
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