side:波動
私が彼の噂を聞いたのは小学生の頃だ。
曰く、ヴィラン組織の首領。
曰く、ヴィランを飼いならしている。
曰く、ヒーローや警察を使って、事件を隠蔽している。
曰く、犯罪クリエイター。
探せば他にもある。そもそも事件や事故現場にいるならともかく、その前後にもいるのだ。犯罪の下見と思われても仕方ないだろう。だからこそ、私は何か言ってやろうと思った。でも、
『帰宅途中に彼に絡まれた時、目の前で交通事故が起きていた。彼に絡まれていなければ自分も被害に遭っていた』
世界的に犯罪発生率は20%だけど、日本ではオールマイトの活躍で5%ほどだ。有名なヒーローがいる街ではもう少し低いところもあるらしいが、この街ではなんと2%だ。10年前から比べると極端に下がったというのは世界的ニュースになっている。それも有名な―――少なくとも良い意味では―――ヒーローがいる訳でもないのだから驚きだ。だからこそ事件が起きることが少ないため、学生で事件の被害者を助けたという話はまず聞かない。
なのに彼にはこんな話がいくつもある。印象的な事件は『連続児童誘拐殺人事件』だ。以前、公園にいた園児や小学生を全員追い出して家に帰らせた。彼は警察に通報されたが、その時公園付近に8人を殺した連続殺人鬼が居た。その犯人の対象は10歳以下の少年少女だったと聞いた時、背筋が凍った。しかも犯人の供述から
『あの時間帯に好みの女の子がいたからな。他の子たちもたくさんいて親の目も離れるし』
そういって実際に誘拐も考えており、後から知ったが計画は完璧だった。専門家の見立てでは「最低でも10人の誘拐・殺人は実現していた可能性が極めて高い」と報道されていた。これはオールマイトがヒーローになってから起きた事件の中で最大級の事件だ。これを防いだことが近所の不良だとは報道されず警察やヒーローの手柄になった。けど地元の人間は彼が行ったと知っていた。
はっきり言って分からない。白髪で赤い目。常に眉間にしわを寄せ目つきは鋭い。口は悪いなんてものではなく、聖人とすら言われた男子に唾を吐き蹴りとばした。その時のセリフが
「死ね!ゴミクズ野郎!!」
誰もが福佐君を責める中、その男子がヴィランだったと知らされた。容疑は『強盗・強姦・人身売買・殺人』被害者は5名。私の友達も被害者の一人で、ターゲットリストの中に私の名前をあったらしい。犯行は彼の個性『噂で人々の認識を書き換える』を使い自分を”良い人”と認識させて人目のつかない場所へ誘導する。その後に犯行に及んだらしい。軽い洗脳状態のせいで被害に遭ったと認識できないため警察へ相談できなかったとのことだ。今でも1名が行方不明という事件。そのせいで友達も先生もヒーローや警察だって誰も信用できなくなった。
街中が疑心暗鬼になった中、一部のヒーローやボーダーによって事態は収束した。
でも、福佐君は最初から分かっていたんだと思う。彼が悪態をつくのは悪人に対してか、誰かを助けるときだけと聞いた。絡むことで事件や事故から回避させていた。それで助かった人はかなりの数だと思う。
けど、そんなことができるの?だってあの男子の事が分かったのは洗脳が解けた被害者が警察まで這って助けを求めたから。それまで誰にも悟らせなかった。警察すら「何かの間違いだろう」として初動は鈍かった。
だから知りたい。どうしてそんなことが出来るのか。そこまでして人を助けようとするのか。ヒーローを目指す人として聞かないといけない。そんな気がするの。
「ねえねえ、君だよね?福佐君って。一度話してみたかったんだ~。知ってる?皆君の事ばっかり噂してるんだよ??」
―――その後、福佐君は逃げ出した。
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どうにか福佐君を捕まえた私は彼の”個性”について聞いて絶句した。
『俺は人の心が読める、読心という能力がある』
詳しく聞くと幾つかの複合らしいけど、要約すると
1.自分に向けられた感情を痛覚で判断できる。このとき相手の感情が負の感情程不快に感じる。
2.自分以外の考えや感情を相手のオーラの色で分かる。
3.嘘をついた相手の口から黒い煙が見える。また、部分的な嘘の場合、どの部分が嘘かもわかる。
この3つで相手の心が読めるらしい。詳しくはわからなくても、人をだまそうとか危害を加えようとする人の判別くらいは簡単にできる。人から受ける痛覚は人からいろいろ言われるのと同じらしい。目は口ほどにとは彼のためにある言葉だと思う。
私はそんな力があったらと思い、怖くなった。相手の考えや感情が分かれば自分に何をしようとしているか分かる。もし仲のいい友達が何か悪いことを考えていたら?もしあの聖人とすら呼ばれた男の子が何か企んでいるのが分かったら?
女の子は男の子の視線に敏感というけれど、彼はそんなレベルじゃない。それに自分に向けられた以外の感情が分かるなら、詐欺師や犯罪者も分かるし犯罪を使用としている人間も分かる。それでも
『嘘発見』の”個性”は昔テレビで見たことがある。その人は事情聴取や話し合いで引っ張りだこ、高額収入を得ていると言ってたけど「自分に嘘をついて近寄ってくる人が分かるのは人間不信になる。制御できない頃は毎日が地獄だった」と話していて悲しい目をしていた。実際、気味悪がれて友達もできなかったらしい。
なら彼は?人の感情や考えまで分かる人間ならどうなる。そんな”個性”があると分かったら周囲の人はどんな態度で接するか。彼は何も言わなかったけど理解できた。理解させられた。
「辛くないの?」
「知ってるか?傷は腐ると痛くなくなるんだぜ?」
「……そう。ありがとね。教えてくれて」
「別にいいさ。ただ俺とは関わらない方がいいぞ。俺みたいな気味の悪い奴と一緒だと困るだろ、株が下がるし」
「そんなこ」
「ある!!!」
「っ!」
「あるさ、だから関わらない方がいいぞ」
何も言えなかった。その目は私でも分かるほど哀しい目をしていたから。
「それじゃあ、ね」
彼はそのまま屋上で眠ってしまった。私はそっと屋上から離れると
「あんた、今日はまっすぐ家に帰りな。
後半は分からなかったけど、彼が心配してくれてるのは分かった。悪い子ではないと思うけど、私は自分の不甲斐なさを感じた。辛い思いをさせるヒーローがいるのだろうか。雄英に行ってヒーローになったら彼を救えるのかな……
―――この後、人生を変える程の大事件に遭遇するなんて、この時の私は想像もつかなかった。
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「ねえ、この後カフェに行かない?」
「近くに新しいカフェ出来たんだよ」
「あそこって、おいしいって評判だよね」
私は彼の話で気分が重くなっていたから、気分転換に友達と新しいカフェに行った。ちょうどレディースデイでみんなと楽しく話しながら遅くまで食べてた。
みんなと分かれて暗くなって来た道を私は一人帰っていく。でも、なんで誰もいないんだろう。住宅街には一人もいなかった。その時、学校からお知らせメールがスマホに入っていることに気づいた。その内容は数年前の事件を彷彿とさせる内容で、目の前が真っ暗になった。
『緊急連絡!!!
このあたりに指名手配犯の『ザ・リッパー』が目撃されました。全員、避難所に避難してください!ヴィランはすでに5人を殺害しているシリアルキラーです。巡回中のヒーローや警察の方を見かけたらすぐに助けを求めてください。また、避難の際に”個性”の使用は特例で認められています』
ありえない。ヒーロー社会において、ヴィランの出現どころか目撃で避難所に避難を呼びかけることはない。特に、この街は世界的にも安全な街のはずだ。私は走った、いや個性を使って飛んで学校まで逃げようとした。この先の路地を抜ければすぐに学校に行ける。皆がよく使う学校までの近道だ。大丈夫、まだ目撃情報だ「獲物はっけ~ん」なんで!?
今、私の目の前にはさっきのメールで添付されていたヴィランが現れた。どうし「今日はまっすぐ家に帰りな。
「なあ、お前いい女だな~。お前を殺したら、どんなに気持ちいかな??」
―――この時の私には知る由もなかった。このヴィランが5人もの女性をバラバラ殺人した犯人であり、1時間前に『最も平和な街で犯行を行う』と場所と時間を指定して予告状をマスコミや警察に送り付けた凶悪犯であること。すでに5人のヒーローを再起不能にした実力があること。つまり、プロヒーローを極短時間で殺害していたことを。でも、この時の私の心は1つ
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side:福佐
「まったく。あのバカ女人の忠告くらい聞けよ」
ホント人の忠告はしっかりと聞いて欲しいものだ。しかしあのヴィランの”個性”はなんだ?俺の見た未来だと斬撃系だと思うのだが、あいつは一切の刃物を所持していない。となると『斬撃を発生させる』や『武器化』辺りだと思うが、違和感がある。よく見ると奴の手の先には穴が開いている。でも、それなら銃に関係する”個性”のはず。
いや、そういや斬撃の銃ってなんかのゲームで見たような…
「不味い!」
奴が手をピストルの形にし、バカ女に向けている。バカ女は腰が抜けているのかその場にへたり込んでいるし、この辺りは避難所の近くのためヒーローは避難所を警備している奴だけ。ほとんどのヒーローは避難できてない人の捜索やヴィランを見つけるために別の場所にいる。
もう、俺が行くしかないが…あまり顔をバレると面倒だ。騒ぎになってマスコミや学校の奴らに俺がヴィジランテをしていることが知られるのは不味い。
仕方ない、か。
「失せろヴィラン!!!」ドン!
「!?」
「くっ、お前誰だ!?」
ここで見捨てることはできない。俺に正義などない、これは贖罪なのだから。臆病で、卑怯者な俺ができる唯一の罪滅ぼし。
「安心してろ、バカ女。
「!!」
「なんだ、お前。俺がいる?見ればわかることだろ。男を切り刻む趣味はねぇが、ついでだ。」BAN!
「(撃ってきた!だが、なるほど、厄介な個性だが)俺には効かないな!」
おれはバカ女を抱えてザ・リッパ―の銃弾を素手で弾く。その銃弾を近くの壁に着弾後、まるで複数回切り付けられたように斬撃が走る。
「これがお前の”個性”か」
個性『斬撃弾』
手の先から銃弾を発射できる。着弾の数秒後、2つの円を描くように斬撃を発生させる。回避しても近くにいると斬撃の餌食になる。
「被害者がバラバラだったのは本当に何度も斬りつけていたから。体の数カ所に着弾させればバラバラ殺人完成って寸法か」
「そうさ、初見でバレるのは初めてだったがな。俺を近接系と考えて距離を取った奴は多いが馬鹿だよな~。遠距離系に距離を取るなんてよ。だがどうやって避けた?というより銃弾を素手で弾かなかったか?」
「別にただの”個性”だよ。俺は『触れた物のベクトルを変更』できるんでね」
「っち、嫌な”個性”に当たったな。よりにもよって一番嫌な奴だ」
「それでどうする?お前じゃ俺に勝てねえぞ。ここで終わりだ。俺の”個性”がそう言っている」
「何言っている。女一人抱えて俺の銃撃から逃げられると思ってんのか?」
「わたあめより軽い奴が重りになるわけねえだろ」
「いや、あからさますぎるだろ。つーか、重いなんて俺言ってねえけど…」
「死にさらせ!!!」
断言するが、このままだとバカ女の機嫌が悪くなり、面倒ごとになるのを嫌ったわけではない。
俺はヴィランを倒すために一撃入れたのだ。いや、正確には触れてはいない。俺の必殺技”亜空間アタック”だ。これは神速を超えた超神速の一撃であり、神速の抜刀術を超神速の抜刀術へ昇華させる、最速の抜刀術の素手版だ。いわゆる空気砲だが、絶対に当たらないところからでも当てることができることと
―――この技を作る為に3回ほど死にかけたが……
「もう終わったから安心していいぞ」
「い、今のって…」
「俺の必殺技だ。ちなみに個性云々は嘘な。相手に『遠距離なら自分が有利』と思い込ませるためのな。馬鹿だよな~、遠距離持ちに距離を取るなんてよw」
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どうしたものか。
あの後、事情は今度説明すると言ってから学校が再開するまでの間で言い訳を考えていたのだが
「それで、事情を説明してもらえるかな~!」
こいつの顔を見て逃げようとしたのがまずかった。一瞬で距離を詰められて屋上まで拉致られた。ご丁寧に首の血管を制服で圧迫することで動きを鈍くさせて、だ。
そもそも逃げたんじゃない。面倒なのだ。俺はこの”個性”で結果から言えば数百万人以上の人間を救ったことになる。テロを何度も防いだのだから当然だ。だが、それは正義感があっての行動じゃない。
俺はかつて1人の人間を
「ねえ!ちゃんと答えて!」
(そういえばいたな、こいつ)
「分かったから。でも時間もないし、放課後にゆっくり話すよ。俺は1年1組だから」
「じゃあ、迎えに行くからね」
「はいよ~」
だからお前はバカ女なんだよ。人の言葉を鵜呑みにして、お前は雄英に行くんだろ?学校の誰もが言っている。「ヴィラン事件の被害者である美少女が雄英のヒーロー科に行く」と。学校の誰もが心配し協力している。そんな周りに群がる愚民共を振り切る前に逃げればいいし、そもそも受験勉強で忙しいだろうな~。今回の事も忙しさから気にしなくなる。俺の”個性”の前じゃ、お前の頑張りなんて意味ねえんだよ!
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拉致られました。
放課後、教室に乗り込んできたバカ女に拉致られバカ女の家に監禁された。忘れていた、俺の未来視はバカには通じないことを。
「これで心置きなく話せるね!大丈夫、おうちの人には『以前助けて頂いたお礼がしたい』って言って外泊許可貰ったし。今日は家の人帰ってこないから♪」
「どうやって連絡先を調べた!というか、母さんをどうやって誑し込んだ!そしてお前は女として今の状況を冷静に考えろ!!!男を家に連れ込んで、家族はいないとか!」
「あのね、連絡先は先生に聞いたら教えてくれたし。福佐君のお母さんは買い物するときによく合う知り合いだし。それにただのお泊りだよ?」
(こいつ、もしかして幼稚園児が薬で大きくなっただけじゃないのか?小さくなる毒薬があるんだ、大きくなる奴もあるだろ)
「分かった。話す、話すからな?さっさと済まそうぜ。ただし、俺は質問に答えるがこちらからは話さない。お前が聞きたいとこを教えるだけだ。」
「分かった」ガチャ
「え?首輪?」
「素直になったら外すね」
そこから俺は自分の”個性”のこと、なぜヴィジランテ活動をしているのか、美味しいスイーツについて、過去の出来事、趣味・特技、断じて覗きなどをしていないこと、あの日の真実などを答えた。関係のないことが7割だった気がする。しかもあの日の出来事は後半になって聞いて来やがった。本題それだよな???
文句を言う度に体に付けられる拘束具が増えていくので素直に話すしかなかった。外すことは出来るが、後日俺が性犯罪者として逮捕される未来が視えた以上いう事を聞くしかなかった。
その後、母さんに電話したら
『泊まったら?』
『いや、若い娘が1人の家に男が泊るわけにはいかないだろ。俺が狼にでもなったらどうすんだよ』
『え、襲う気なの?』
『そんな非道なことするわけないだろ!』
『ならいいじゃない。それじゃあね~』
そう言われて切られた。一瞬の出来事だった。その後、着信拒否されて「女の子1人にする気?」とメッセージが送られてきたため、仕方なく泊まることにした。幸い明日は休日だ。玄関から出る姿を見られる前の早朝に出ればいいだろう。
バカ女呼びが気に食わなかった奴はここでも脅しをかけてきた。「ねじれちゃん」と自然に呼ぶようにと脅されたが流石に断った。
―――直後、奴は警察に通報しやがったため「先輩」呼びで手打ちにしてもらった。
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それから、俺は先輩に付きまとわれた。買い物に、映画、勉強を教えてもらったり(3年までの勉強を教えてもらい、最近は俺が教えている)した。学校の奴らからは『美女と野獣』とか『不良に誑かされた少女』とか言われているが。先輩の友人も俺とも付き合いをやめるように言ったらしいけど、先輩は1学期、俺に絡み続けてきやがった。
別に俺が文句言われるのはいいが、先輩に文句言われるのは違うよな。鏡に映る自分を見ながら、ファッション誌を開いた。