この日、雄英高校に緊張が走っていた。
今日は入試当日のため当然と言えば当然だが、例年とは違う緊張だ。雄英高校にはごく稀にヴィランが受験生として来ることがある(数十年に1度)が、受験生に被害が無いようにプロヒーローがいる。だが、今日、この雄英高校にはNo.1ヒーローオールマイト、No.2ヒーローエンデヴァーを始めとした多くのヒーローが警備にあたっていた。その総数は40人を超えている。
このように警戒しているかの理由はたった1人の15歳の少年が受験するというからだ。その名は福佐陽介、あるいは迅悠一と言われる存在だ。
警戒される理由は2つ。1つ目は警察やヒーロー協会、一部の政治家から命令通達。2つ目が”ボーダー”の創設者であること。
1つ目は主に公安や野党議員からのものだ。公安からは未来視の”個性”で最悪の未来に改変できる危険性から。議員からはこの国の発展のために、と。
2つ目は彼が設立した企業を中心とした民間でありえない程の戦力を保有している組織、通称「防衛機関ボーダー」の創設者だから。このボーダーに関しては元ヴィランやヤクザの受け入れ先になっているため、ヤクザの総数や再犯率減少につながっていることで手が出せない。しかし、ヒーロー免許を取らせて民間警備員としたりして戦力の増強をしている。そもそも、暴力を生業とする者や元犯罪者を受け入れている時点で戦力はあるが、公に力を振るえるようにしていることが問題だ。
以上の2点が組み合わさって迅悠一という男はヴィラン予備軍であり、次代の悪の皇帝候補と呼ばれている。他にも様々な業界にその力を広げていることも警戒されている理由だ。
その危険人物がおそらく対極に位置するヒーロー科の受験をするなど予想できなかった。ただでさえ今年から実技試験の内容を大幅に変えたばかりで人手が足りなかったこともあり、外部からヒーローを呼び寄せたのだ。彼の”個性”が未来予知なら、大量のヒーローがいる場所で事件を起こすはずがないという校長の考えを職員も納得、現場にいるヒーローにもこれを伝えている。
そして、誰よりも速く雄英に着いた福佐陽介はそのまま筆記試験の会場に向かった。・・・その姿を監視されていると知らずに。
side:イレイザー
やり過ぎとすら思える中、俺は福佐という受験者のいる教室に向かう。5分前になるまで寝ていたそいつは俺の顔を見た瞬間に敵意を一瞬見せると、何でもないように受験用の筆記具を俺から受け取った。だが、こいつの敵意は何だ?現場にいた時の誰よりも濃い殺気と思うほどだ。
試験が始まった瞬間、福佐に”抹消”を使ったが意味はなかった。てっきり”個性”でカンニングでもするかと思ったが、そのまま問題を解いて10分程たってから
「回答が終わったから退室していいか?」
と言いやがった。嘘だろ!?偏差値79の高校入試の問題だぞ!!普通の教師なら60分では解ききれない。合格者の平均点ですら
「す、全て解いたのか?」
「はい。なので教室から出ていいですか?」
「(他の受験者に合図で答えを教えられると困るし...)いや、時間までは退出を認められない。」
「分かりました。」
その直後、こいつは寝やがった。これを5教科全て行ったのだからよほどのバカか天才か。
side:事務員
今日、何故私が受験者の申請された装備の引き渡し受付をやらされているのだろう。
私は事務員の山本と言います。覚えなくて結構です。
今日は受験当日、ここからオールマイトやエンデヴァーのような未来のトップヒーロー候補たちが来る場所です。その受験生にエールを送ることが毎年の楽しみだったのですが、今日は話が違います。ここに
「失礼します。申請していた武器を取りに来ました。」
「ああ、名前を教えてくれるかな?」
「はい、福佐陽介です。」
来たー!お母さん、お父さん助けて!!粗相をしたら斬られる...!
「っ!は、はい!こちらの刀ですね!?間違いないでしょうか!?」
「合ってます。それじゃ。」
助かった!!変な感じだったけど、特に気にしてな
「(え?)」
一瞬、こちらを振り返って少し笑った?何かおかしいところでもあったかな?
あ、そういえば、ロボットの点検の業者さん大丈夫だったかな?警備の件で忙しくて、ほとんど時間がなかったけど。
side:教師
「さぁ、始めようか!」
「校長、大丈夫でしょうか。」
「夕方のニュースがヴィランによる襲撃とかにならないことを祈るばかりだ。」
『スタート!』
プレゼントマイクの言葉で試験が開始された。スタートの言葉に反応できる受験生は少ない、これは毎年の事だ。2年前の波動ねじれのような人物の方が例外だ。今活躍しているヒーローも、入試で反応できた者は少ない。当然なのだ。いち早く動けるようにすることも、この雄英高校で学ぶことの1つなのだから。だから、ビクつく受験生はいても、一歩踏み出す受験生などは1人いればいい方なのだ。
なのだが...どうやらこの声に反応出来た受験生は教師陣が確認できるだけでも2人は居た。
1人はヘドロ事件でそのタフネスを褒められていた爆豪勝己。かなりの”強個性”で、オールマイトが駆け付けるまで1人で抵抗し続けた。
もう1人は福佐陽介。これには驚かなかった。こいつは動いたとかではない、すでに仮想ヴィランを倒している(現在13ポイント)。何故か奥の方に進んでいるため撃破数自体は少ないが、他の受験者がまだスタートしていない状態と考えれば異常だ。
「今年は2人も動けたなんて凄いじゃないか!今年は豊作の年かもしれないね!」
「福佐君も純粋にヒーローを目指しているのなら歓迎すべきだ。多くの人間を救い、犯罪率や犯罪発生率を下げているのだから。彼の危険性が無いと分かれば、これほど頼もしい味方はそういないよ?」
この場で1番権力のある根津の発言に教師陣は頷く。確かに、彼の保有する戦力がヒーローなり会社員なり社会復帰するならヴィランは減るしこちらの戦力は増える。”未来視”もヒーロー側にあれば頼もしい。噓か真か「未来を可能な限り改変できる」という能力をヒーロー全体で行えれば、オールマイト並みの成果を出せるヒーローが量産できるかもしれない。
この場にいるオールマイトを見ながら教師陣は最善の未来を考える。そのオールマイトもかつてサイドキックのことを想いながら、
1人は掌から爆破の”個性”を使って試験場を縦横無尽に動き、目の前の仮想ヴィランをなぎ倒している。もう1人は何をしている?まるでライン引くように仮想ヴィランを倒してから、遠くにいるヴィランを倒していた。ライン上に倒すのかと思ったが、数体無傷の仮想ヴィランもいる。だが、それよりも驚くのは・・・
「彼の個性は未来視ではないの?」
「・・・アア、ソノ筈ダガ...」
ミッドナイトの言葉に頷くエクトプラズマ。
彼らが疑問に思ったのは「空中を走り、増強系のような速度で行動したこと」にある。
画面には電子媒体になった受験生の願書がインストールされており、気になった受験生のものは直ぐに見られることが出来る。何なら福佐の場合は教師全員にコピーして、紙媒体で配布済みだ。そこには、胡散臭い顔の証明写真、そんな男が書いたとは思えない達筆な字。そして”個性”の詳細が記載されている。そこには簡潔にこう書かれていた。
一同の頭に?が浮かんだことは言うまでもない。
例えば、爆豪勝己は”個性”『爆破』詳細で『掌の汗腺からニトロのような物質を出すことができ、それを爆発させる。』と簡潔だが分かりやすく書かれている。
福佐の”個性”は『超機能』であり、詳細は先の通りだった。
数人は不気味さすら感じたが、イレイザーヘッドの言葉で話が変わった。
「これ、もう数ページありませんか?」
「ちょっと待ってください。今確認します。」
そうして、そこには彼の”個性”のより詳しいことが書かれていた。
〇詳細
・主に生物としての機能、身体能力や頭脳、回復能力などが高い。身体能力は強化しているのではなく、成長限界値が常人に比べて高いと判明。
・高い機能により、幾つかの副作用が現れている。以下はその判明しているものであり、本人にも判別不可の能力がある。
・未來視:起こる可能性のある未来を視る。未来の分岐点を視ることで未来を改変できる。また、この未来視は高度な予測と予知の複合であり、未来の情報は視覚情報のみである。
・感情受信:自身に対する他者の感情を判別可能。
・感情視:他者の感情をオーラとして視ることが出来る。
・嘘発見:相手の嘘を見抜く。嘘の度合いや部分的な嘘、全てを話しているわけでないことも判別した。
・強化睡眠能力:睡眠時の学習効果が常人の数倍~数十倍と判断されるが、詳しい比較データが無いため正確な数値は不明。
・気配遮断:気配を消せる。視覚以外の五感では捉えられず、視覚でも捉えることは難しい。事実上、センサーを使用することでしか見つけることが不可能。
他にもあったが、時間がないために切り上げた。それにしてもどんな”個性”なのだろうか?まるで
そのことを教師の1人が話すと、オールマイトや校長が深刻な顔をした。
「「((まさか、オールフォーワンの関係者か?))」」
詳しくは理解できないが、”個性”により身体能力が上がっているのだろうと判断した。あの行動もおそらく数多の能力の1つだと。
余計に険しい顔になる2人はさておき、他の教師陣は疑問が解消されたことですっきりとする。それと同時に、彼の危険性がよく理解できた。彼が敵になればどうなるか、今ある能力以外にも他に隠していると考えるべきだろう。
では、彼にヒーローとなる資質があるのかを試そう。残り3分の段階で0Pヴィランが投入された。