ー某日ー
俺、渡部海は自分のステージの直前、とあるネットニュースを見ていた
ー謎のアーティストついにLIVEで生歌唱決定!ー
先日発表されたアニソンフェスティバルの出演者一覧の中に、今まで1度も姿を見せなかったアーティスト「Freeze」の名前があり、話題になっている
Freezeは初めて曲を発表した時からメディアに顔を一切出さないどころか、SNSなどでも一切発言せず、男性であること以外の情報が何も明らかになっていないアーティストだ。しかし曲のダークな世界観や直球の歌詞が話題となり、一躍人気アーティストとなっていった
新曲がアニメの主題歌に抜擢されたことも記憶に新しいがLIVEに突然姿を現す発表をみて驚いたファンも多いだろう
どのようなステージになるのか楽しみだ
公演日○月✕日
ほか出演者 Pastel*Palette…
ここまでみてスマホから目を離した
俺がFreezeとしての活動を初めて約3年、その前の活動を含めると何年音楽をやってきたのか数えるのも億劫だ。しかしようやくここまで来ることが出来た。これがFreezeとしての初めての最初のステージであり、そして渡部海の最後のステージになるだろう。
これで天才になれなかった空っぽで何もない自分ごと、全て終わらせることが出来る。悲しい事実なはずなのにどこかで気持ちが高揚している自分に少し可笑しくなってしまう。
人の心に残る音楽とはなんだろうか
ある人は、人を元気づける明るい曲調の応援ソングが心に響くんだと言うかもしれない
またある人は、胸を締め付けるような気持ちにさせてくれるラブソングが心に響くんですと言うかもしれない
中には、アイドルが歌って踊る姿を見て、音楽関係なく元気をもらっていると言う人もいるのかもしれない
違うそうじゃない。それらが心に残るのは応援ソングだからでもラブソングだからでもアイドルだからでもない。
それを作る人間、音を奏でる人間に類まれなる才能があるからに違いない。
俺にはそれがなかった
だから、他人を羨み、人を呪い、殺意を向けることで自分に視線を集めることしか出来なかったのだ。
誰だって目の前でナイフを向けられればマイナスの感情であれどこちらに関心を示すのは間違えない。
それを利用してここまで来た
このLIVE後にはきっと100%否定的な意見を身に纏うことになるだろう。そうしたらもうなんの後腐れもなく全てを終わらせることが出来る。だからありったけの殺意をこの声に込めて解き放とう
そう決意してステージへ向かっていった
このお話は終わらせることが出来た非才なアーティストと、天才アイドルが出会って何かが変わっていく
真っ暗闇の中にある僅かな光を探すような物語である
これで主人公がどんな人間なのか伝わってればいいな