では、からくり絵巻の始まり始まり……。
クルクルクル……。あ~目が回る~!いえ、からくりなので大丈夫です。私は雅神 焔《まさかみ ほむら》こと焔です。現実世界では病気で死んでしまいました。で、強制的に第2の人生がからくり武者に転生なんです、良いのかどうか分かりませんけど。
学校の歴史で習った戦国時代の様で、さるお城から抜け出して追われている所を通りすがり!?のお二人に助けていただいたのがきっかけで、お仕えする事にしたんですが、ちょっと違っているのはからくり人形があるのは昔の時代からあった事は知ってはいましたけど、まさか軍用にまで広まっている!?とは……。大丈夫か?時代が変化しないのか!?と気にしたところで何もできませんが。なので、お二人について行っている次第なんです。
そのお二人と言うのはあやわたり家の乱菊様と自称下忍のむなじり?……めなじり?……いや、むりじい?………。
「お前……わしの名を覚える気がないじゃろ。」
(い、いえ、滅相もない!は、はまぐりさんっ!)
「お前、やっぱ壊す!!」
(ひいぃぃぃぃお助けぇぇっ!乱菊様ぁぁ!!)
「ふふ、許してあげてくださいまし、めじり様。」
「まなじりです……。」
さすがに諦めたのかがっくりうな垂れてます。今、私達は乱菊様の故郷へと向かっておりました……。先程も追手が来ましたが、まなじりさんが上手く躱してくれました。有難い事です……。
スタミナ・体力……それには関係のない今の私……縦長の大きなこおりを背負って歩いております。ホントに良かったのかどうか、トイレも食事も睡眠も全く気にしなくていい!あ、血も出ませんけどね……。唯一、腐ったとか破損したとかと言った時に動きが取れなくなる可能性があるだけ……違った意味でチート!?からくりなのでそういう事かと。
晴れ渡る日差しが道を照らし、周りにある木々が優しく風に揺らされてます……私にはその感触は分かりませんが……。
そんな良い景色を眺めながら進んでいると、見えてきました乱菊様の故郷が……。元々町と言うのはありません……屋敷の周りは畑が多く村が残っているだけで、屋敷も無く、屋敷跡の礎が残っているだけ。狩俣 貞義《かりまた さだよし》によって、制作途中であった人形を奪われ、更に屋敷の人間を一人残らず殺害……火を放って屋敷を丸ごと焼かれてしまったのです……。
その事はここに着いてから聞かされたお話……で、難を逃れた乱菊様と人形4体そしてまなじりさんとで敵討ちに行ったのだそうです。見事打ち取って来たとの事で、それ以上の犠牲者が出ない事が幸いかなと。しかしここは戦国の時代……どこもかしこも戦に明け暮れて天下統一を夢見ている大名や武将が一杯……その為に老若男女問わず巻き添えに……。まなじりさんの言うように平和に暮らせないかと思いたくなるほど。
私達はその城跡の側に来ていました……乱菊様が思いを馳せるように礎の石垣をなぞってます。色んな思いが交錯してるんでしょう、複雑そうな面持ちでした……。
「お!……おお!!……おおぉぉぉう!!」
突然後ろから驚きの声がありました。振り向くと前屈みに腰が曲がった白髪のおばあさんが、乱菊様を見て驚きと嬉しさで涙を浮かべてます……。
「千代ばあっ!!」
へっ!?知合いですか?ああ、そうか地元ですもんね。
「い、生きて……お戻りになられた……良かった……良かったでございますぅぅぅ……。」
「心配かけました……。」
2人抱きしめ合ってお互いの無事を喜んでます。私ももらい泣き……いえ、涙は出ませんけど。気持ちだけは……。
「ひ、姫様!?」
「あ!姫様だ!!」
「おおお!ご無事でっ!!」
「お帰りをお待ちしておりました……。」
おおうっ!村の人達がすぐに集まって来ました。少人数ではありましたが、乱菊様の無事を心から喜んでました……。
「皆さん無事で何よりです。」
「皆、姫様のお帰りをお待ちしておりましたじゃ。ささ、こちらへ。」
千代おばあさんが私達を自宅の方に招いてくれました。勿論、お城ではありません。お屋敷でもない……。普通の民家と言ったところでしょうか、かやぶき屋根の……壁は板張りでけっして立派ではありません。
千代さんが戸のすぐ横に立ちます……何で!?
壁に手をやって何かを回すしぐさをしました。するとカラカラと中で音が鳴って、ズズズッと戸が横に開いて行くではありませんか!
「ほ~う、からくりの扉……。」
まなじりさんも感心してます。確かに私も驚きました。この頃から自動ドアの元祖があったって言います!?
「どうぞ、お入りくだされ。」
感心している私達を微笑みながら中へと誘ってくれました。急に扉からからくりなので、恐る恐る中へと入ります。中は15畳くらいでしょうか、内玄関と茶の間が一体のような作りで真ん中に炉があります。焚き木で、その上に鍋が掛けられている……今の私には近寄り過ぎると薪と一緒になってしまうので、少し離れて座ります。
お千代さんが入るとどんな仕掛けか戸が自動で閉まっていきます。よく見れば、歯車と紐が上手く合わさって戸を動かしてました。しかし切り替えはどうやっているのか……!?
「長旅でお疲れですじゃろ、まずはゆっくりとしてくださりませ……。」
「ありがとう、千代ばあ……。」
「その扉は、あんたが!?」
まなじりさんが誰が作ったのか興味があるようでした。
「はい、ワシですじゃ。」
「ふ~ん、ならば人形造りも手伝っていたとか……。」
「はい、親方様がおかしくなられる前までは……。」
「おかしく!?あの、子供の皮を使う前……。」
お千代さんが目を瞑ってうつ向いてしまいました。両手を握り拳で震えてます。
「あ、いや、すまん、上様からこの前話を聞いたばかりでな。俺も流石に良い気はしなかった……。」
「いえ、いいですじゃ……。ワシらですら、あれは辛くて嫌じゃった……。子供の生皮を使うなど狂気の沙汰ではなかったでの……。ワシは他の何人かの職人と共に反対したんじゃ!すると親方様はワシらを人形造りから外してしもうた……しかもその後じゃ……姫様にまで手を……うぐぐぐぐ……。」
「いいの!千代ばあ!貴女のせいじゃない!父上が人形に憑りつかれてしまったから……。」
千代さんの肩に手を掛け乱菊様がなだめてました。私は直接見た訳ではないですが、とにかく凄惨さはお話だけでひしひしと伝わってきます。
「で、あろうな。このばあさんじゃ、あんな事は出来ん。じゃが、先の3体の人形は……?」
「はい、人の生皮を使う前……普通に糸や歯車を使っていますじゃ。糸は改良して丈夫なものにしましたがの……。」
凄いです!それだけの技術があったのに、何故人の皮などと……。
「そうか、嫌なことを思い出させちまったな……済まなかった。」
「い~え、これも避けては通れない事ゆえ罪を償ってゆかねばなりませぬ……。」
同じ人形造りの職人であるが故に……ですか。心中お察しします……。でも、見渡すとなかなか風情のある建物かな……。
あ、上の柱の所に何か引っかかってる?私は右腕を上げてそれを取ろうと伸ばします……ん!?あ、あれ、う、腕が上手く上がらない!?どして?
「うむ、歯車が一つ悪くなっておるな。」
え、腕の歯車ですか!?お千代さんが私の動きを見てすぐに分かったようで。ってか、さっきから私独自で動いていると言うのに驚かないんですか、このおばあさん……。
「ここに座ってくだされ。」
は、はい。上がりの所に腰かけます、その隣にお千代さんが。私の右肩に手を触れ、鎧を外します。中には大小細かに歯車たちが動かすために回ってます。その中に手を入れて間にかみ合わさっている小さな歯車を一つ取り出しました。
「ほれ、これじゃ動く物も動きが悪かろうて。」
おおっ!確かに見せてもらうと歯車に亀裂が入り、歯先が一つ折れてました。これは確かに……。
私が頷くとお千代さんがニッコリ微笑んでそれを作り直してくれると言ってくれました。有難い……お辞儀をすると千代さんも立ち上がって”少し待っておくれ”と言って奥から道具と板を用意してきました。
傍で眺めていると……職人です!……プロです!……本職です!……色んな小道具を使い、歯車の形に削られて行き同じ歯車に形を成していきます……。とてもおばあさんがしているとは思えない……見事な手さばき……!!
やがて、出来上がったのは見事同一の……更に良くなって歯車が出来上がりました。それを私の肩の中に……。
「どうじゃな?肩の動きは?」
凄い……スムーズに動く……上に真っ直ぐに手が上がる……。ありがとうございます!私は再度深々とお辞儀しました。
「一つでも歯車が悪いと動きに支障が出るでの……人も同じじゃて。直しておかねば、やがては自滅じゃ……。」
お千代さんは微笑んで乱菊様たちに食事の用意を始めました……。
その言葉は重みのある、大事な事を言っているようでした……。
やがて、普通の団らんとなり楽しく会話が弾みました。そこで、お千代さんに心で……話しかけてみたんです。
そりゃもうお千代さんビックリ!!今まで独自で動いていたのに気づかない事の方が私にはビックリですけど。
職人気質と言いますか、すぐに感動して私の事に食いついて来ました!今までの事をお話すると目は真剣で瞬きもせずに聞き入ってます。さすがにまなじりさんと乱菊様は呆れていましたが……。ですが、私には凄くなじみやすい人だと思いました。優しくしてもらったのが、いつぶりだろうと考えつつ……。
やがて夜も更けて、布団を敷いてくれたので休む事にしたんです。私は寝てもあまり意味がなさないので壁に寄り掛かって座り、夜の番をする事に。
「おや、薪が足りなくなってきたね。少し取って来るよ……。」
そう私に言って外に薪を取りに行きました。私はここで一緒に暮らせるのだろうか?戦国が始まってまもないこの時代で果たして平和に……過ごせるのだろうか?そんな事を自問自答しながら思いに耽ってました。
ん!?それにしてもお千代さんの戻りが遅い……転んで怪我をしたとか?様子を見に出てみるか……。
そう思って、立ち上がろうとした時、肩に手を掛け引き止める者が……。
(外の様子がなにやら変だ!……殺気が立ち込めてる……こりゃあ……囲まれたな……。)
なっ!まなじりさん、マジですか!お、お千代さんがっ!と立ち上がろうにも意外とまなじりさんの力が凄くて立ち上がれない!
(上様!上様!お休みの所を申し訳ありませぬ。敵襲です!囲まれております!)
それを小声で聞いて乱菊様も飛び起きました!声には出してはいませんが動揺が見えます。
「ひ、姫様~~っ!!お逃げくだされ~~~っ!!!」
戸の外から声を振り絞って大声で叫んでくる人が!!乱菊様がその声に気付いて青ざめてました。何故外に居るのかと……。
「ち、千代ばあ~~~っ!!」
叫んで、扉にまで飛び出そうとしますがまなじりさんがそれを抱かえて止めます!
「お待ちください、上様っ!!」
「いやあぁっ!!千代っ!千代ばあぁっ!!」
もがきながらも片腕を伸ばして扉の向こうに居る大事な人を助けようと必死に叫びます!
ですが、まなじりさんがそれを押えます!私も扉を方を向いて姫様の前に立ちました!姫様を危険に晒す訳にはいかない……まして失う訳にも……。
「姫様!お逃げくだされ!ワシにはもう姫様しか居りませぬじゃ!姫様が生きておられればそれで良いのですじゃ!ここで姫様を失ってはワシに悔いが残りますじゃ!ですからお逃げくだされ!この千代ばあ、最後のお願いですじゃっ!!」
「いやぁっ!!千代ばあっ!!千代ばあっ~~~!!!」
必死にまなじりさんを振り払おうともがき続けますが、まなじりさんも同じ……。
「姫様……必ず!……必ず!お幸せになってくだされっ!……さあっ!ここは通さぬぞっ!通れるものな……ぐぶうっ…………。」
「千代ばあぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
乱菊様が泣き叫んでました……乱菊様を押さえるまなじりさんも口惜しそうに眼を閉じます……。私も、からくりなので表に表情は出ませんが悔しさが一杯です!
でも、危険がこれで去った訳ではありません。外は敵に囲まれたまま、逃げる事も叶わず……どうするか……。
いや、私は悔しい!あの時殺気を感じる事が出来れば千代さんを外に出す事は無かった……優しくしてくれた人に恩を返せなくなった……自分自身に腹立たしいっ!!
私は、自然と両脇差しから刀を抜いてました……剣技が出来る訳でもないのに二刀流の構えで……。
(上様……お千代さんはご立派でございました……しかし、周りは敵に囲まれております……逃げ場が無いことも真の事……私も、この焔もあなたを御守りするとお誓いしました……ゆえに私に考えがございます……。)
扉の方を見据えながら小さい声で乱菊様に話しかけていました。目を真っ赤に染めながらまなじりさんを見上げます……。
(戦のこの世で……忍びの端くれと言えど……抵抗できぬ老人を無残に殺すのは……私も良い気がいたしませぬ……周りは囲まれておりますゆえ……なれば正面突破が良いかと……お千代さんの弔い合戦……といきますか……!)
「まなじり様……。」
「ちなみに、焔はどうやらその気が満々のようです……どうされますか……やりますか?」
乱菊さまが私の方を見て決心がついたようで目つきが変わりました。やる気です!!涙を拭って、操る為の木枠を取り出します!
「分かりました!まなじり様、焔さん!私に力を貸してくださいましっ!!」
「(御意っ!!)」
私は乱菊様に身体を預けます!身体中に糸が張り巡らされたのが分かります!刀を持ったまま両手首を回転させて、腰を落として構えます!
まなじりさんも乱菊様を守るべく傍で刀を抜いて構えました!
そのからくりの扉の向こうを見据えて身構えます!やがて爆発のような音と共に私の方へ扉が吹っ飛んで来ました!それを左手の刀の柄で叩き落とします!その暗闇の中からゆっくりと中へと入って来る者が……。
「お邪魔するよ~。あら、お揃いだねぇ。黙って大人しく一緒に来て欲しいんだけどねぇ。」
黒基調の忍び装束を着た黒のポニーテールの女性の忍びでした。くノ一という者でしょう、その後ろから数体の忍び装束を羽織ってはいますが……私と同じからくり……死なん兵団ですか、中に入って来ました。
「お前……武田の城に居た……?」
「あら、あの時の……いくら殿様に雇ってもらえなかったと言っても、こんなお嬢様に仕えるなんてヤケでも起こしたかい?」
「へっ!俺は今まで雇われて飯を食えれば良いと思っていた……だが今は……忠誠を誓えるお方が出来たのさ……。だから上様を馬鹿にする奴は……誰であろうと、容赦はせん……。」
「ふんっ!どうやら、大人しくなりそうにないねぇ。少々痛い目に合わせてからにしようかねぇ、殺さなきゃ良いんだから……。」
何気にこわっ!! さらりと言ってくれますね……その言い方は死んでなきゃどんな状態でも構わない……そういう事ですか。まなじりさんが知っている忍びの様ですが、武田側の忍びと言うことは分かりました。私を連れ戻しに来たという事ですよね。
「千代ばあを貴女が……?」
「ん!?ああ、そこのばあさんかい?あんまりどいてくれないもんだからさぁ、避けてくれればねぇ。」
「どうして、ここに居ると……分かった?」
「いやね、一件一件聞いて回ったのさ……誰もかれも口が堅くてねぇ、知らぬ存ぜぬの一点張りさ……子供まで威勢が良くってさぁ、教えてくれないもんだからついねぇ……。残ったのがここだった訳さ……。」
「ま……まさか……。」
「殺した……か……。」
「あんまり抵抗するもんだからさぁ、こっちもついつい熱くなっちゃってさぁ。」
マジか!一軒ずつ回って皆殺しに……!?!?こ、子供まで……。なんて奴だ!! じゃあ、村は!?……全滅……!?
…………何だかこっちも熱くなりますね……ここでのんびり畑を作りながら平和に……そう思って生活していた人達を、子供まで…………上から目線もイラっとしますけどね……益々許す訳にはいかない!!と言っても表情には出ないので分からないでしょうけど。
「千代ばあの敵……村の人達の敵……討たせてもらいます!!」
「ふんっ!生意気なっ!遊んでやりなっ!但し、殺すんじゃないよっ!!」
一斉に死なん兵団の忍びが飛び掛かってきました!一人はクナイを……一人は小太刀を……私目掛けて振り下ろして来ます!
「いざっ!!」
後ろでその掛け声と共に私もスイッチが入ります!と言ってもありませんけど、気持ちだけね♪
同じ長さの刀を二刀流で……左の刀を上に振り上げ、二体の攻撃を受け止めます!動きが止まった瞬間に右の刀で右斜め上から左下へと一閃!!二体同時に斜めに真っ二つに……!細かな歯車が血の代わりに飛び散っていきます……!!
同時に乱菊様の方へも二体のからくり忍びが……!
「上様はやらせんっ!!」
まなじりさんも刀で相手の武器を弾いて、横に斜めに切り刻んでました、さすがです!!あれならば乱菊様も操る事に集中出来る……頼もしい限りです!
腰を落として二刀を構え、両手首を高速回転させます!次々と襲い掛かって来るからくり忍びをスライサーと化した私の両手にバラバラに切り刻まれて行きます!真剣なつもりが面白いほどにバラバラになって行くので“いいねぇ”とちょっと関心してました。何でしょう、やはり乱菊様は凄い……ただ操るだけでも凄いと思うのに戦いを繰り広げるなんて普通じゃ出来ない……。まさに自然とそれをやっている乱菊様は素敵……コホッ♪
「何をやっているんだいっ!相手は三人だよ!さっさと動きを止めちまいなっ!」
その掛け声で数が倍に……。む……このままでは埒が明かない……。からくり忍びの数に対抗しつつも、限界があると思いました。何か突破口はないか…………。
ドカンッッ!!!とその時、外で爆破音と共に数体のからくり忍びがバラバラに吹っ飛んでます!何が起こったのか!?
「ちいぃっ!!何だい!後ろで何が起こったんだいっ!!」
そのくノ一が外に飛び出して行きました!爆弾か何かを用意していたんでしょうか?
(今だな……。)
「えっ!?なっ!?ちょっ……!?」
まなじりさんが操り糸を外さないまま乱菊様を抱きかかえて私にも外にと促します!私も頷いて戸の外へと飛び出しました!確かに真ん中付近が大きく開けてます、その代わりにバラバラになったからくり忍びが数体……無残な姿を晒してました……。
「仕掛けた奴が居ないなんて……一体どこの誰だい!良い度胸だね!」
私達にすると助け船があったような有難いんですけど、誰なのかさっぱり分からず……ま、それどころじゃないんですけどね。
「こりゃ、早めに捕まえないといけないねぇ……。」
ん!?マズイ!?くノ一が本腰を上げるようです。後ろを警戒しつつ、こちらを見据えてきました。
「何やら遊んでも居られなくなってきたようだねぇ。そろそろ終わりにしようかね……。」
「貴女には負けません!!」
「言ってくれるじゃないかい、なら目にものを言わせてあげるよ……夜叉王っ!!!」
なっ!?そ、空から何かが降りて来る……。月明かりにぼんやりと写しだされた、それは直立で腕を組み、忍び装束で般若の面を付けた者がこちらを見据えながらゆっくり地面に降り立ちます……。
「からくりの忍び……か……?」
「えっ!?からくり!?……。」
乱菊様も驚いてました。そうです、死なん兵団のからくり忍びはある程度量産する為需要となる歯車を作って動けるように細工してある殺戮人形ですが、私や乱菊様が使われた人形たちのような技術を駆使しているからくり人形はそう作られてはいないと思っていたのです。それこそ、あったとしても大名用か武将クラスぐらいにしか無いかと……。それが、いちくノ一ですら人形を所持しているとは……私達は驚きを隠せませんでした……。
そのからくり忍び……夜叉王と言いましたか、その後ろで乱菊様と同じく木枠の操り糸を使いその忍びを動かし始めました。目には目を……という事でしょう。更には腰のあたりから両腕に得物を出してきました。六角形の棒状で、両端を鉄枠で補強してあります。真ん中よりずれた位置に握りがあり、それを握ると腕に沿ってその棒が並ぶ形に……。握りを掴んだまま棒を回すと勢いが増して恐るべき武器と化します。
私も、転生前に見たことがあります、確かトンファーと言ったかな……二丁のヌンチャクを使いこなす武術家ならば使いこなすのは分かりますけど、トンファーとは……。ですがそれを操れるから所持しているという事でしょう、手練れそうです。
「さて、痛めつけて動けなくしてから連れて行こうかねぇ。覚悟は良いかい!?」
「上様……、そう申しておりますが、いかにいたしましょうか……?」
「覚悟ならば当の昔に出来ています!焔さん!」
(良いですよ!!乱菊様、お願いします!!)
「分かりました、いきますっ!!」
「ちっ!後で吠えずらかくんじゃないよっ!!」
夜叉王が左のトンファーを突き出して突進してきました!私も右の刀でそれを弾き返します!すぐに連続で右のトンファーを振り下ろして来ますっ!左の刀でそれを受け止めました!そこからサマーソルトキックで攻撃されます!トンファーを弾いて後ろに反り返りますが、つま先に仕込み刀が!?鎧を少しく傷を付けられました!動きが早い……今度は右足を軸にして左足で連続蹴り……しかも、仕込み刀付きで……。
両手の刀で弾くのが精一杯!なんて動きだ……!
「ほらほら、このままだと切り刻まれてくよぉさっきの威勢は何処に行ったんだい?」
ぐっ、くそっ……確かに押し返せない!乱菊様も攻撃を受け流すのに必死で反撃できない!
「もらったぁっ!!」
「ちっ!」
まなじりさんが上からくノ一を狙って刀を振り下ろしていきます!しかし、からくり忍びがそれを阻止してきました!3体ほどでまなじりさんに反撃を仕掛けます!
ですが、隙が出来た!
(乱菊様っ!)
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
左の刀で夜叉王の足を弾いて、右の刀で夜叉王の身体目掛けて降り下ろします!しかし、夜叉王の動きが速く後ろに飛び退かれてしまいました!
「邪魔な奴だねぇ、だが今度は容赦しないよ!これならどうだいっ!」
夜叉王をジャンプさせて跳び蹴りをしてきました!乱菊様もそれに反応して私の上体を反らせます!よしっ!かわせるっ!目の前に着地して行きます!そのまま躱しきれば……。
「甘いねぇ!」
なっ!?私の足の爪先を床ごと刺したっ!しまった!動きを止められたっ!?まさか、最初からこれが狙いか!?
「まずは、人形を止めるよ!やれっ夜叉王っ!」
右腕をストレートに突きだしてきます!更にトンファーを前に!先端に刃を乗せて……。
鈍い音と共に私の胸の中心が貫かれていました……まずいな……痛みはありませんけど、このまま凪ぎ払われたらお終いです!万事休す!
「ふんっ、威勢が良かった割りにはこの程度かい?」
「ほ!焔さ……えっ!?」
「な、なんだいっ!?」
夜叉王が貫いた私のからくりが、揺らめいたかと思うと一気に煙となって霧散していきました!その場には夜叉王が取り残され状態です!
「なっ!?……目眩ましっ!?ほ、本物は何処にっ!?」
遅いっ!私は右側から体勢を低くして近寄り、刀を鞘に収め握りをつかんで力を溜めながら、くの一の斜め下に!
「ちぃっ!下からっ!逃げっ………が、ぎゃぁっっ!!」
その場から、くの一が斜め後方に飛び退きましたが、私も同時に刀を勢いよく抜刀し左斜め下から右斜め上に一閃していました!
そうです、まなじりさんが忍術で私の幻術を作り横から私とすり替えたんです!私は糸も同時に切られていたので自由になっていました。くノ一が私の幻術に気を取られている隙に近づいたんです!
そして転生前に見たことがあった、“居合い斬り”と言うものをやってみました!ぶっつけ本番、見よう見まねでしたから、上手く出来るかは一か八かでしたけど!彼女の右の股と左腕を切り裂いてました……。そのまま彼女は後方に飛ばされ、地面にのたうち回ります!
「ウググググ……や、夜叉王っっ!!」
彼女が糸を動かすと、夜叉王がジャンプして彼女のところに……更には彼女の抱き抱えて走り出します!
「覚えておきなっ!次に会うときは、お前達の屍を晒してやるっ!!」
そう叫んで、闇の中へと吸い込まれていきました。その後を死なん兵団のカラクリ忍び達が追うように消えていきました……。
「すまんっつ!!もう忘れたっ!!」
まなじりさん……、遠くの方で彼らが木々にぶつかる音と喚き散らす声が聞こえたのは言うまでもなく……。
危険は去ったようですが……切なさは去る事はありません……。
「千代ばあ…………。」
乱菊様が膝を着いて、お千代さんを抱かえます。涙が頬を伝い、お千代さんの頬を濡らしていました……。
「上様……いつまでも悲しんでいる場合ではございませぬ……冷たいかもしれませぬが、上様がお幸せになられる事がお千代さんの願い……良くお顔をご覧ください……満足されたお顔を……。」
傍でまなじりさんが姫様に語り掛けます。私も姫様もお千代さんの顔を覗くと穏やかな、とても殺されたとは思えぬほどの顔つきでした……ありがとうお千代さん……あっぱれです……。
(皆さんをお千代さんの家の中に集めましょう。そして、弔いの火を……。)
私は、庇ってくれた村の人々を含め火葬にしようと持ち掛けました。このままにしておくのも忍びないので……。
「俺も……手伝おう……。上様を庇ってくれたしな……。」
(はい、お願いします。)
手分けして一人ずつではありますが、抱かえてきて家の中で並べて寝かせていきます……。ホントに子供まで……私は無残な子供の亡骸を抱きしめながら皆さんと一緒に並べてあげました。返り血など気にはしません、私達を守るために勇敢に立ち向かってくれたのですから……。
そして、姫様と一緒にお千代さんを……。家から少し離れて、まなじりさんがこちらを向いて頷き火を放ちます。月だけの灯りの中にひと際大きく燃え上がり周りを照らす炎……。その火の粉がゆらゆらと上空に舞っていきました……私達は手を合わせて追悼します、思いを馳せながら……。
「上様……これからどういたしますか……どこかで静かに暮らしますか……それとも武田に”喧嘩”を売りに行きますか……。」
姫様がまなじりさんを真剣に見つめます……。圧倒されてぐびりと唾を飲み込んでました。
「武田様のお城へ……これ以上人形たちを悲しませてはいけません!焔さんと同じように……人形に人を殺めさせてはいけないんですっ!!」
「では、明日の朝には出立を……但し、向かえば帰って来ることは叶いませぬ……それでもよろしいか?」
「はいっ!あなた方と居れば、怖いものなどありません!焔さんと……はまじり様が居れば……。」
「ま・な・じ・り・ですっ!!ホントに覚えが悪いんじゃから……ブツブツ……。」
「ご、ごめんなさいっ!あまぐり様っ!」
「まなじりですっっ!!」
姫様もなかなか……おっと、こっちを睨んできた……し~らないっと!
で、3人で顔を見合わせて微笑んでこれからの目標が出来た事でまた前に……と言っても茨の道でもありますが……なので私は何と言おうと姫様にお仕えします!!他の誰の物にもなりませんっ!って一体誰に言ってるんだろ私……!?
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…………天文22年……時は日本、戦国の世…………領地を広げんが為、諸大名や武将たちが戦を連ねていた時代……。
とある里の1つに、少々名の知れたるある物を造る一族がおりました。その一族は”カラクリ”と呼ばれる人形を造るに秀でた一族で、城主は人形造りにハマりすぎて、人形に執り憑かれてしまい、あろうことか人の皮までも使うと言う悲劇がありました。そしてその人形の技術は各方面に伝わり、死なん兵団を造るに至り更に戦が激戦と化していたのです……。この頃はちょうど、武田信玄と長尾影虎(上杉謙信)による川中島の戦いがあった後のこと。武田勢が負けて退くものの、諦めきれずに兵を強化せんと死なん兵団を信玄も造り出したのであります…………。
そして、信玄公の愛用にと作り出されたのが私”風林火山”と言ってましたか……しかし、この人形に転生した私がそのまま殺戮兵器にされてなるものかと脱走した次第……でも成り行きとは言え、また武田のお城に舞い戻る事になろうとは誰も……いや私ですら思いませんでした。一体どうなるの私!?!?
読了ありがとうございます。地味~~に更新していきますので長くお付き合いください。
次話にてお会いできることを切に願って……紅龍騎神でした……♪♪