語り合う2人   作:黒霧Rose

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『永遠』の存在

 

「と、いうわけで比企谷くん。『永遠』が存在しているか否かは考えてきてくれたかしら?」

 

『恋と愛の違い』なんていう小っ恥ずかしさマックスな議題でそれぞれの考えを語り合った翌日、放課後いつも通り部室に行くと我がパートナー様はニッコリ顔でそんな事を言い放った。

 

まさか翌日にやるとは思わないじゃん?

 

「まぁ、一応はまとめてきたけど」

 

しかし、あーだこーだなんだかんだで考えて来てしまっているのが俺、比企谷八幡ですどうも。結局のところ、雪ノ下にやれと言われたら否が応でもやっちゃうんですよ俺の悪癖なんですが知ってますか?

 

知ってますよね。それを拗らせて、意地を張って今の関係に落ち着いた訳ですし。

 

「よろしい。では、ルールは昨日と同じでいきましょう」

 

昨日と全く同じドヤ顔。なんだお前それ可愛いな。

 

やっぱり、コイツが楽しそうなら何でもいいのである。

 

 

 

「『永遠』というものは物理的には存在しないというのが大前提ね」

 

「理由は?」

 

「簡単な話、『永遠』という時間を物理的に測る術を持たないからよ」

 

うんうん、と頷く。そんな途方もない時間の測り方があるとしたら、そいつこそが永遠の体現者であろう。

 

「観測されたことの無い事象を存在している・・・とは言えないわね」

 

雪ノ下が言いそうなことである。コイツのような真っ直ぐさというか、生真面目さというか、そういう所を加味すれば証明されていないものを自身の論にする事はあまり考えられない。

 

「ただ、あくまで今まで観測されたことが無いという話であって、流石にこれから先の事は分からないわ。もしかしたら、何らかの方法でそれが証明されるかもしれない」

 

「ま、だろうな」

 

「それで、ここからが本題よ。物理的に存在はしていないと言ったけれど、精神的には存在しているかもしれない・・・と、私は思うのよ」

 

そりゃまた随分な方向転換で。物理、或いは物質と精神は対義語として記されている。なるほど、確かにそれなら一考の余地有りかもしれん。

 

「例えば、何かを求める気持ちね。永遠に、絶対に手に入らないものを求め続ければ、その想いは永遠に続くと言えるのではないかしら?」

 

それなんてパラドックス?

 

要するに、雪ノ下はこう言っているのだ。

 

『永遠を否定し続ければ、その否定は永遠に続く』と。

 

『永遠』を否定し続けるということは、『永遠』の存在が明らかになるまで終わらない。しかし、『永遠』が存在すると証明するには『永遠』を体現するしかない。

 

『永遠』の存在が証明されなければ、『永遠』を否定するという行為そのものが『永遠』になってしまう。

 

即ち、どの道『永遠』は証明されてしまう。

 

もっと分かりやすく言おう。

 

コンピューターが『永遠』を演算で証明出来れば、『永遠』の存在は肯定される。

 

しかし、『永遠』の証明が終わらなければその演算は『永遠』に続くのだ。

 

多分、こんな感じだ。それを精神的に、人間のベクトルに話を置き換えただけであろう。

 

『永遠』がゲシュタルト崩壊を起こして来ているが、まぁ話にはついて行けている。そんな哲学者に科学者、物理学者、若しくは数学者辺りがこぞって考えそうな命題をなんでここで放っちゃいますかね。俺ってば混乱してきたぞ!

 

「言うなれば、物理的な『永遠』は存在しないと否定した私のこの考えでさえ、精神的な話にすれば『永遠』に続くとも言えるのよ」

 

「・・・お、おう」

 

マジで頭の中がこんがらがって来た。まさかここまで複雑な論法で来るとは思わなかった。もっとこう、微笑ましかったり可愛らしいものを期待していたのだが・・・雪ノ下雪乃はこういう人だということを忘れてました。

 

そんなとこも可愛いな全くけしからん。

 

「私の考えはこんな感じなのだけれど・・・どう?」

 

「ま、まぁ、大体は理解した。ただ、一つだけ質問があるんだが、いいか?」

 

前回ルールでは、質問タイムはお互いの考えを述べた後だった。だが、今回は事が事なので質問を先にさせてもらうことにした。

 

「え、ええ。もちろんよ」

 

それはもう滅茶苦茶ワクワクしてそうな笑顔で返された。

 

たのしそーだなー。その表情が見れただけで満足なまであるんですよ・・・っていかんいかん。ここはきちんと、雪ノ下の期待に応えなければ。

 

「あくまで仮の話になるんだが、物理的な『永遠』の不在が証明された場合はその精神的な『永遠』も否定されると思うんだが・・・どうだろうか」

 

どうだろうか。

 

「精神的な『永遠』を否定することは不可能とも言えるわね」

 

「その心は?」

 

「感情、本能、精神、心理、そういったものが物理的に観測出来ないからよ。仮に、それが観測出来るようになったとしましょう・・・けれど、それこそ精神的な『永遠』の存在を証明してしまう結果になってしまうわ」

 

・・・?つまり、どういうことだってばよ・・・。

 

「見える、測れる、認識出来るとは即ち、『精神的永遠』という新たな命題が生まれる発端になるでしょう?物理的に可視化出来たとしても、『物理的永遠』が否定されてしまえば同時に『精神的永遠』を物理的に証明する、或いは演算する手段が無いのよ」

 

「・・・なるほど、そういう事か」

 

つまり、『物理的に導くのは限界があるから、精神的永遠を証明、または否定するには同じく精神的理論が必要だよね。だって、物理的永遠は存在しないんだから、観測出来るわけ無いじゃん』という事だ。

 

「・・・お前、マジですげぇな。そんな事考えてんのかよ」

 

「・・・ちょっと楽しくなっちゃって・・・」

 

かっわっっっっっ。

 

危ねぇ・・・また意識が飛びかけた。こんな複雑でよく分からん事を考えていても可愛いとか無敵かな?

 

「じゃあ比企谷くん、よろしく」

 

「お前のに比べれば、あんま大した事ないぞ」

 

「それでもいいのよ。あなたの考えが知りたいの」

 

そんな上目遣いで見られたら頑張っちゃうのが男の子なのです。これマジ重要。

 

「俺の見解としては、物理的にも精神的にも『永遠』は存在する・・・但し、過去形でな」

 

「・・・過去形?」

 

なに、そんな疑問に思うような事じゃない。ただの屁理屈の寄せ集めみたいなもんだ。雪ノ下のように、立派なら論理がある訳でもない。

 

「『比企谷八幡は雪ノ下雪乃を愛している』・・・この事実は、一応、まぁ、今現時点では存在している」

 

「なっ・・・」

 

もっといい例えは無かったのか俺。どうしてこの場で告白なんざしているのか。

 

「未来のことは分からん。俺が心変わりするかもしれないし、事故にあったり病気で死ぬかもしれん・・・まぁ、心変わりすることは・・・ないと思うけど、な」

 

「・・・」

 

ちょっと雪ノ下さん、顔を真っ赤にしないでください。俺も恥ずかしいんだから。

 

「それでも、『比企谷八幡が雪ノ下雪乃を愛していた』という過去は永遠に存在し続ける。誰も過去に干渉できないんだから、当然の事だろ?」

 

10秒前、確かに俺は雪ノ下雪乃を愛していると宣言した。それはつまり『10秒前の比企谷八幡は雪ノ下雪乃を愛していた』という事実は、これから何年、何十、何百・・・何億年先まで変わることはない。永久不変の事実として、この世界に記録されている。

 

「尤も、観測も出来ないし、証明も出来ないからそれが『永遠』の肯定になるかと言われれば微妙なところたけどな」

 

あくまで理論上はという話でしかない。その理論ですら危ういのだから、やはり屁理屈の寄せ集めというのが正しいだろう。

 

「だから、そんな不確かな『永遠』なんかより・・・・・・」

 

昨日、雪ノ下があんなことを言ったせいだ。だから俺も必要以上に口が開いて、余計な事を言っちまう。

 

 

「愛おしさ募る今という一瞬を・・・俺は求めていたい」

 

 

言葉に出来ない程の想いの、ほんの一欠片。

 

雪ノ下の目は見開かれ、耳まで真っ赤になっている。多分、俺も同じような顔をしている。

 

「・・・読書家らしい表現ね」

 

そう言った彼女は、ただの女の子がするような可愛らしいだけの笑顔を浮かべていた。今にも火が出てしまいそうな程の真っ赤な肌に、その表情はよく似合う。

 

「なら・・・私は、『永遠』を超えるようなありったけを・・・あなたにあげる」

 

それは、必殺の一言だった。

 

「・・・じ、次回は、『お金』についてよ・・・ちゃんと、考えて来てね」

 

 

どんな顔してこの後部活に励めばいいのやら。

 

 

 

 

 

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