「……アルトン……マリアンヌさん……ルドルフ……エリー……」
一方、アエルスドロは未だ怪我が完治しておらず、
相変わらずうわごとのように仲間の名前を呟き続けていた。
「今、アエルスドロさんはこんな状態なんですのよ。戦線に復帰できればいいんですけど……」
「う~ん、とりあえず誰か、ヒーリングを使える人はいませんか?」
「あっ、あたしならいまーす!」
ユミルの提案に立候補したエリーは、アエルスドロの前に立ち、ヒーリングを唱えた。
「ド・オヴァ・デ・シー!」
エリーが指を振ると、アエルスドロの身体に光が舞った。
光を浴びたアエルスドロは、顔色が少し良くなったようだ。
「後は、このまま一週間休めばいいね」
「もっとかけないの?」
「ヒーリングは代謝機能を加速させて、治癒力を高めるだけ。
あまりやりすぎると身体によくないよ」
回復魔法も、万能ではないようだ。
皆はアエルスドロの回復を信じて、彼を待つのであった。
「マリアンヌって銃が使えるんですね!」
ユミルは、マリアンヌの二丁拳銃を輝かしい目で見ていた。
あまりにも露骨にそれを見るため、マリアンヌは高慢な態度でミロに質問する。
「あら、どうしてあなたはわたくしの銃に魅入っておりますの?」
「だって、こういう武器は、こっちでは見た事がありませんから」
「こっち……?」
「ああ、こちら側の理由です。気にしなくていいですよ」
「そうですわね」
ユミルがさらりとそう言うと、マリアンヌは素っ気なく返事した。
しかし、ユミルの目は、相変わらずマリアンヌの武器を見続けていた。
「じゃあ、マリアンヌってそのエマって人に復讐するために力をつけてるのね」
「わたくしを辺境に追いやったんですのよ! いつか、ぎゃふんと言わせてやりたいですわ!」
「自分がそうならないように気をつけなさいよ」
「ふん、そんな事あり得ませんわよ」
自信たっぷりに言うマリアンヌ。
その様子ならきっと、エマに復讐できそうね……とミロは思った。
「「「ひゃっはーーーー!! 汚物は消毒だぁーーーー!!」」」
「あ、あららら?」
ミロが外に出ると、ガラの悪そうな青年三人組が叫びながら肥溜めを掃除していた。
「この方達はショユ、トコツ、ミッソのラメン三兄弟ですわ。
こんな見た目ですけど凄く良い人なんですのよ」
「ふーん」
「「「ひゃっはーーーー!! 種もみなんぞいらねぇんだよーーーー!!」」」
ラメン三兄弟が、そう叫びながら畑を耕していた。
ミロは、そんな
「……うぅぅ……」
一方、アエルスドロの方は、まだベッドから降りられないでいた。
怪我は治ってきているが、まだ完治しておらずしかも病み上がりに動くのは危険だからだ。
「……どうしましたの? アエルスドロさん」
「ああ、マリアンヌさん、か……」
そんな彼を見舞いに来たのは、彼を最初に見つけた人間のマリアンヌだった。
「……私は、あなたに惹かれているのかもしれません……」
「はぁ? どういう事ですの?」
「……私とあなたは、似ているから……」
アエルスドロは、元々アンダーダークにいたが、
異端のダークエルフだったために故郷を捨てた。
マリアンヌは、高貴な身分であったが、策略がバレて辺境に追放された。
似た境遇を持っている二人だからこそ、二人は惹かれようとしているかもしれない。
「言われてみれば、そうかもしれませんわね。でも、あなたは復讐を望んでおりまして?」
「いえ、望んではいません」
「どうか、あなたが健全に育ちますように」
マリアンヌはアエルスドロの顔をじっと見た後、小屋を出ていくのだった。
「……マリアンヌさん、ありがとう……」
アエルスドロは、マリアンヌの優しさを感じ取り、ぐっすりと眠りについた。
「……うぅ」
また、アエルスドロは夢を見ていた。
アンダーダークから地上に出る前の、幼い頃の。
「どこにいった、アエルスドロ! 逃がさんぞ!」
生まれつき善の属性を持っていたアエルスドロは、
悪が蔓延るダークエルフの社会に適応できず逃げ出していた。
それを、周りのダークエルフが追ってきていた。
裏切り者を許さないダークエルフは、アエルスドロを見つけたら彼を殺すつもりだ。
「もう……ぼくはここにいたくない……」
アエルスドロは、縮こまりながら安全な場所に隠れていた。
彼は他のダークエルフに追いかけられると、いつもこの中でやり過ごしていた。
そして気配を感じなくなるまで縮こまっていると、男にしては長い銀髪のダークエルフが来た。
その顔は、アエルスドロが知っているものだった。
「アルトン……?」
自分を唯一理解してくれる、自分と同じく善のダークエルフ、執事のアルトン。
孤独なアエルスドロは、依存とも取れるようにアルトンを慕っていた。
「お坊ちゃま、こちらにいましたか。さぁ、お帰りください」
「いやだよ……ぼく、またダークエルフにみつかったら、ころされちゃう……」
「ご安心ください、お坊ちゃまはわたくしが必ず守ります」
アルトンは、優しくアエルスドロを抱きしめた。
その温もりに、アエルスドロは身を委ね、そのままアルトンの胸に寄り添った。
その時、風が吹かないはずのアンダーダークで、一陣の風が吹いてきた。
アエルスドロが顔を上げると、
右手にレイピアを握った、鋭い赤い瞳の女性ダークエルフが立っていた。
「姉……上……!?」
いつの間にか、アルトンはキアランにすり替わり、アエルスドロも現在の姿に戻っている。
アエルスドロは思わず後ずさりし、顔が青ざめる。
「見つけたぞアエルスドロ……さぁ、死ぬがよい!」
「い、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
アエルスドロは、キアランから必死で逃げ出した。
だがキアランの足は速く、全力で走らなければ追いつかれるレベルだ。
アエルスドロは必死で逃げる、とにかく逃げる。
「あそこに入れば……私は逃げられる!」
やがて、アエルスドロは暗闇の中にある小さな光に飛び込んだ。
「はっ!」
その時、アエルスドロはベッドから飛び起きた。
辺りを見渡すと、そこは小屋の中だった。
(……また、あの夢を見てしまったか……)
アエルスドロはアンダーダークを逃げてから、ずっとこの夢ばかり見ていた。
まるで、逃亡者の自分を罰するかのように。
「アエルスドロ、どうしましたの?」
そんな彼のところにやって来たのは、マリアンヌだった。
「……あの夢。アンダーダークの夢をまた見ました」
「まぁ! ずっと起きないと思ったら、そのせいでしたのね」
「もう、私はこの夢を見たくないんです……。普通に過ごしたい、それだけなのに……!」
アエルスドロの目には涙が浮かんでいた。
マリアンヌは「そうだったのね」と笑ったが、彼の表情を見てすぐに態度を改める。
「まったく、わたくしとした事が……こんな事には、付き合いたくないんですけどね……」
マリアンヌはぎゅっとアエルスドロを抱きしめた。
それは、夢の中でアルトンが幼いアエルスドロにしたのと同じだった。
「不安が取れるまで、わたくしに身を委ねなさいな。
あぁ、もちろん朝食に遅れてはいけませんわよ?」
「……はい、ありがとうございます……」
アエルスドロとマリアンヌの仲は、かなり進行したようだ。
アエルスドロもマリアンヌも、つまはじき者。
だから気が合うようにしました。