ある童話をモチーフにしましたが……。
「もう大丈夫ですの?」
「はい、すっかり元気になりました」
ようやく怪我から完治したアエルスドロは、ベッドから下りてマリアンヌのところに向かった。
「よかった。これでまた、わたくし達と一緒に戦えますわね」
アエルスドロが戦線復帰した事により、このパーティは六人になった。
これで、安心して魔物と戦う事ができる。
「久しぶりだな……。みんなと一緒に生活して、みんなと一緒に戦えるのは……」
アエルスドロは、壁に掛けてあった剣を取り、ぎゅっと握りしめる。
この感覚は久しぶりで、温かく感じる。
「まぁ、たかが大怪我くらいでくたばるわけがないですわよね! おーほほほほほほほ!」
「は、はははは……」
マリアンヌの高笑いに、アエルスドロも釣られて笑うのだった。
「アエルスドロちゃん、もう元気になったのかい?」
「はい、おかげさまで」
「全然物を食べてなかっただろ、たーんとお食べ!」
今日のメニューは、コールスローサラダとヴィシソワーズ、パスタボロネーゼだ。
ファルナはアエルスドロに対しては完治したとして挽肉をたくさん追加した。
「……ああ、とても美味しい。でも、ちょっと量が多いな……」
「何、あんたは小食なのかい?」
「普段はあまり食べない方ですので……。でも、今の私には十分な量ですよ」
「そうかい、ありがとよ」
そして今日は、アエルスドロがナガル地方に来てから、ちょうど三ヶ月となる日だった。
「ここでの生活もだいぶ慣れてきた事ですし、
そろそろ家事もできるようにはなってほしいですわ」
「何故私に?」
「……それは、わたくしなりの善意でしてよ」
「……」
アエルスドロは、マリアンヌの真意を見抜いた。
本当は自分は家事なんてできないから、自分に家事を押し付けようとしていると。
そのため、アエルスドロは断ろうとしたが、マリアンヌの根の善良さを信じて頷いた。
「あなたがそう答えると思いましたわ! さぁ、いきますわよ!」
「……はい!」
案の定、マリアンヌは家事は得意ではなかった。
アエルスドロとマリアンヌは、『ガルバ帝国簡単料理本』を持っていた。
「えー……それでは、94ページを開いてくださいませ。『ジャーマンポテトの作り方』から」
マリアンヌと共にアエルスドロは料理本を開いた。
ジャーマンポテトは、ガルバ帝国ではそこそこ有名な料理なので、
まずはこれから作ろうとしていた。
二人とも料理はした事がなかったので、理解にはかなりの時間がかかったが……。
「……とりあえず、これで軽食くらいはできるようになりましたわね」
何とか、二人とも本の内容を理解できたようだ。
これで二人は簡単な料理ができるようになった。
そして、二人が戻ろうとした時、ルドルフとエルフの女性が何かを話しているのを聞いた。
「ねぇ、聞きました? 街外れに、茨で囲まれた場所があるそうですよ」
「まぁ……どんな方が住んでおりますの?」
「分かりません……しかし、僕はこんな物語を聞いた事があります」
「何ですの?」
「あの……すみません」
二人は、その話が気になったので入ってきた。
「アエルスドロさん、何ですか?」
「それはどんな物語だったんだ? 私に少し聞かせてくれないか」
「あ……はい」
ルドルフはエルフの女性に礼を言った後、アエルスドロとマリアンヌのところに行った。
「それでは、お話いたします。ある国の国王夫妻に待望の女の子が生まれました。
その誕生祝で国中の魔導師を呼びました。魔導師達は王女にたくさんの祝福を授けました。
ところが、呼ばれなかった13人目の魔導師が、
『16歳の誕生日に糸紡ぎの針に指を刺して死ぬ』という呪いをかけました。
危機感を覚えた12人目の魔導師は、『死ぬ』を『百年眠る』と書き換えました。
そして王女の16歳の誕生日、
老婆に化けた魔導師が授けた糸紡ぎの針が刺さり、王女は眠ってしまいました。
それに合わせて、城も茨に包まれて眠りに落ちてしまいました。
それから百年後、隣の国の王子が噂を聞きつけ、城を訪れました。
茨は王子を歓迎するようにひとりでにほどけ、王子は王女のところに向かいました。
そして、王子の活躍により復活した王女は王子と結婚し、幸せに暮らしましたとさ」
「……なかなかいいお話でしたわね。でも、それとこの塔とどう関係ありますの?」
「昨日、僕は夢の中で茨に囲まれた塔でエルフの女性が眠る光景を見たんです。
あれは神託だったのかもしれません……と。それで、情報を収集していたんです」
「後ね、茨で囲まれた場所に行った冒険者達が行方不明になったんだって!」
その場所で何が起こっているのかを調べ、できれば原因を排除したいとか。
アエルスドロはせっかく復帰最初の冒険だからと、行ってみたいという気持ちがあった。
「とりあえず、行ってみるだけ行ってみましょう。
もちろん、ディストには事前に連絡しますわよ」
「え、あたし達も一緒にあの場所に行けっての?」
「一筋縄ではいかないかもしれない。お前達の力も必要なんだ」
「別に、放っておいていいんじゃないの? あなた達だけなら多分あいつを倒せるし」
「ボク達は忙しいですしね~」
無関心なミロとユミルに対し、
アエルスドロは「多くの冒険者が帰らない」と真剣な表情で言った。
流石に不穏になった二人は、万全の体勢を整えなければと思った。
「……仕方ないわね。行ってみるわ」
「ボクの魔法を思う存分振るえると思いますし」
「ミロさん、ユミルさん、ありがとう」
「あなた達の力があれば、きっと事件は解決できますわ」
アエルスドロとマリアンヌは、渋々ながら協力してくれた時空警察にお礼を言った。
こうして、アエルスドロ達は、茨に囲まれた場所に行く事にした。
「……うわぁ」
街外れは、確かに絡みついた茨が侵入者を拒んでいた。
遠くには大きな屋敷と、禍々しい気配が漏れ出した高い塔が見える。
この茨をどうにかしないと、先に進めそうもない。
「こんなに茨があるわね……どうしましょう」
「私に任せろ。はぁあっ!」
アエルスドロは剣を振って絡んだ茨を切り裂いた。
すると、六人の脳裏に、奇妙な光景が浮かんだ。
「……」
暗い闇の中で、糸が光り輝いていた。
真っ赤な瞳と銀髪の少女が、糸に縛られて苦しんでいた。
「私をこんな目に遭わせるなんて……許せない……人間……!」
「人間……」
しかし、今ここにいる人間は、マリアンヌのみだ。
特に気にせず一行が進んでいくと、
鎧を纏った骸骨の戦士が二体、ふらふらとこちら側に歩いてきた。
恐らく、この茨の地に挑んだ冒険者の成れの果てだろう。
「大人しく眠りなさい!」
マリアンヌが二丁拳銃でスケルトンウォリアーを撃つ。
直後に別のスケルトンウォリアーがマリアンヌに斬りかかってきた。
反応できずにマリアンヌはそこそこのダメージを食らう。
「力を授けるよ!」
「おーけー!」
エリーがミロの身体能力を強化した後、
ミロがスケルトンウォリアーに突っ込んで爪で切り裂く。
本来、斬撃攻撃があまり通らないスケルトンウォリアーだったが、
元々の高い身体能力がさらに強化されたため易々と切り裂いた。
「風よ!」
「炎よ!」
「「フレイムトルネード!!」」
そして、ルドルフとユミルが同時に呪文を詠唱すると、
炎の竜巻が発生しスケルトンウォリアーを飲み込んだ。
「……どうやら、この地には魔物がたくさんいるようだな。皆、注意して進むぞ」
「分かりましたわ」
「ここは、こうすればいいですわね」
マリアンヌが絡んだ茨をほどいていくと、再び一行の脳裏に謎の光景が広がった。
「お誕生日、おめでとう!!」
屋敷の大広間には、大きなバースデーケーキと、たくさんのごちそうがあった。
招待された客はプレゼントをたくさん持っており、ゆりかごの中には赤子が眠っていた。
七人の大妖精がゆりかごに近付き、赤子に祝福を与えていた。
そして、白い服を着た七人目の妖精が、糸紡ぎを回しながら赤子の額に口づけた。
「あなたに幸があらん事を」
「これは……誰かの誕生日でしょうか?」
ピタッとルドルフは立ち止まる。
この赤子は、もしかしたらあの少女なのかもしれない……と。
「ルドルフ? どうしたの?」
「お話通りだとすれば、彼女は……」
ルドルフが考えながら先に進んでいくと、少しずつ道は広くなった。
目の前に太い道があるが、横の茨を何とかすれば細い道の先に進めそうだ。
「茨なら、あたしがちぎってやるわ」
「ミ、ミロさん?」
「そーれ、ぐいっと!」
ミロは、その怪力で茨を引きちぎった。
その結果、細い道へ行く事ができるようになったので、一行は細い道を通っていった。
そして、三度奇妙な光景が広がる。
「凄いわ! これが魔法の力なのね!」
幼くも美しい銀髪の少女が、精霊魔法を駆使している。
風を起こし、地を揺らし、水を出し、光と闇も操った。
妖精達は皆、少女を褒めたたえていたが、少女は少し不満そうな表情だった。
「ああ、この調子でいけば、蛮勇の精霊とも契約を結べるのね!」
しかし、少女の言葉に妖精は首を横に振った。
何故なら、蛮勇の精霊は、男性の方がより強い力を発揮するからだ。
だが、それに苛立った少女は舌打ちし、その妖精にこう言い放った。
「今はそんなの、男も女も関係ないでしょ? 私は、何でもできるんだから」
「……っ! 何という傲慢な……! 同じエルフとして許せません!」
ルドルフはその少女の傲慢さに怒りを抱いていた。
確かにエルフは基本的に誇り高く冷静沈着だが、秩序を愛する善良な民である。
だが、こんなエルフはエルフとして恥だ、と彼にしては珍しく怒っていた。
「あなたが怒りを抱くのはいいですよ。
でも、実際に彼女に出会わなければ、それはただの八つ当たりです」
「……この光景が、嘘でなければいいのですが」
茨が茂ったこの地で、カラン、カランと、
小さいながらも糸紡ぎの音は確実に聞こえてきていた。
~モンスター図鑑~
スケルトンウォリアー
剣術を身に着けた戦士がスケルトンになったモンスター。
通常のスケルトンよりも能力が高い。