ダークエルフと悪役令嬢   作:アヤ・ノア

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ボス戦です。
美しい姫、だけど心の方はというと……。


第11話 眠れる森のお姫様~後編

 一行が細い道を歩いていくと、きらきら光る泉が見えた。

 泉の周りには、妖精達が果物を食べながらお喋りをしていた。

 蝶の羽を持ったフェアリー、花のドレスを着たピクシー、エプロンを着けたブラウニーがいる。

「きゃあ!」

「ながいみみ!」

「フォノンとおなじ! こわい!」

 すると、妖精達はルドルフを見て怯え出した。

「いえ、僕達は味方です。安心してください」

「いじめない……?」

「やさしい……すき」

「うん、あたし達は味方だよ」

 ルドルフとエリーの裏表のない態度に、妖精達は一安心した。

「ところで、フォノンって誰?」

「きれいなかみのけのおんなのこ」

「ともだちだったおんなのこ」

 おどおどしながら妖精達はフォノンについて話し出す。

 何故フォノンがこんな妖精を裏切ったのか、アエルスドロはそれを聞きたかった。

「友達『だった』とは……どういう事だ?」

「フォノンが、みんなにひどいことした」

「それで、後はどうなったんだ?」

「みんなかなしくなって、いばらがやしきをかこったの」

「わからない」

「情報、ありがとうございました」

 どうやら、妖精達はそれ以上の情報を知らなかったようだ。

 アエルスドロ達は妖精にお礼を言った後、泉を去っていくのだった。

 すると、一行の脳裏に光景が浮かび上がった。

 

 少女の足元には、たくさんの妖精が倒れている。

 倒れた妖精は光の粒子となって消えていった。

 慌てた足音が聞こえ、後ろの扉が開き、顔を青くしたエルフの夫婦が入ってきた。

「これは、何事だ!?」

「一体何をしたの!?」

 怒り狂う両親に、少女も怒りながら答えた。

「私は蛮勇の精霊を使いたかった! でも、妖精はそれを断った。だから殺してやったのよ!

 あなた達も、死になさい!!

 少女は銀髪をなびかせ、両親に襲いかかった。

 その肌は、浅黒く染まっていた。

 

「……あぁ、ついにこうなってしまったか……」

 ダークエルフに堕ちた少女を見たアエルスドロが、ついに落胆する。

 もう、彼女を救う事はできないのか……と。

「アエルスドロ。きっと彼女は苦しんでいると思います……。

 だから、せめて倒す事で救ってください」

「あなたがそう言うなら……分かりました」

「ボクがこんな甘い事を言うのも、アレですけどね」

 何を言ってるんだか……とユミルがぼやきながら一行が太い道を進むと、開けた場所に出た。

 広場の中央には、美しいエルフの少女の像があり、その周りには破壊された妖精の像がある。

 台座の文面には「我が娘と妖精の永遠の絆を祈る。ジェレミー、イヴェット」と書かれてある。

 道は、そのまま真っ直ぐ奥へ続いている。

「ジェレミー、イヴェットとは……もしかすると、フォノンの父と母の名前か?」

「そうかもしれませんわね」

「さぞ、たくさんの愛情を受けただろう……」

 アエルスドロの母親は、彼を自分の子とは全く思っていなかった。

 オッドアイの上に男児、しかも善の属性を持っていたために、

 母親にとっては「失敗作」同然の子だった。

 そんな彼は、ますますフォノンを哀れみ、羨んだ。

 マリアンヌは「ふーん」と思いながらも、アエルスドロが少しだけ心配になった。

「……まぁ、そんな事はどうでもいいですけど、ちょっとこの像を調べてもよろしいかしら?」

「いいですよ」

 そう言って、マリアンヌは少女の像を見た。

「……あら?」

 すると、マリアンヌは地下に続く階段を発見した。

「隠し通路を見つけましたわ!」

「本当ですか?」

「ええ……ここから何かいいものが見つかるといいですわね」

 一行はマリアンヌの導きで、地下祭壇に進んだ。

 マリアンヌを先頭に、薄暗い階段を降りていく。

 最後の段を降りた瞬間、頭上からガラガラという音が聞こえた。

「しまった……罠ですわ! みんな、避けてくださいませ!」

 一行はマリアンヌの号令で、罠を避けようとした。

 ユミルは一瞬遅れたが、ミロが引っ張った事により何とか避ける事ができた。

 次の瞬間、アエルスドロ達がいた場所に鉄格子の檻が降りてきた。

「危なかった……。遅れていたら、捕まってましたね……」

 ユミルは安心したのか、ふぅ、と胸に手を当てる。

「あれは多分、侵入者用の罠でしょう。気を付けていきましょうね」

 

 侵入者用の罠を抜けた一行は、薄暗い通路を歩いていった。

 奥へ進んでいくと、小さな祭壇があった。

 祭壇の上には小さな糸車が置いてあり、からからと回って聖なる糸を紡いでいる。

 アエルスドロがそれをじっと見つめていると、彼の目の前に光景が広がった。

 

 銀色の髪と赤い瞳、浅黒い肌を持つ少女が、返り血を浴びながら歩いていく。

 自分の誕生日パーティーが開かれた大広間を抜け、

 広場を通過する際に妖精像を壊し、彼女は高い塔の前へ行った。

 握り締めていた血まみれのコインを扉の口に投げ入れて扉を開き、

 螺旋階段を登って最上階へ辿り着く。

 少女は宝物庫で宝物を漁っていたが、いつの間にか彼女は糸車を手に取っていた。

 カラカラと回る糸車がその糸で少女、フォノンを捉え、彼女の胸を突き刺した。

「私は死にはしない……ただ、百年眠るだけ!」

 こうして、魔女フォノンは深い眠りに落ちた。

 

 糸車が止まると、か細い少女の声が聞こえた。

「どうか……闇に堕ちたあの子を止めて……」

 アエルスドロの手の中には、妖精の羽をあしらった小さなコインがあった。

 彼らにコインを託した糸車は、また静かに回り出すのだった。

「……ありがとう。私は、必ず彼女を救ってみせる。……さぁ、そろそろ戻るぞ」

「はい」

 

 コインを入手して地上に戻ると、地上の様子が一変していた。

「! こ、これは……!」

 張り巡らされた茨は、光の糸に変わっていた。

 恐らくは、あの糸車に認められたからだろう。

 アエルスドロ達が進もうとすると、糸は自然にほどけて道が開いていった。

 フォノンの像がある広場を抜けて奥へ進むと、道は二つに分かれていた。

「こちら側は屋敷に続いて、そちら側は塔に続いているようですね」

「屋敷はもう探索しましたし、そろそろ塔へ行きましょうか」

 そう言って一行は塔へ向かった。

 塔の扉には目と口がついていて、アエルスドロが近づくと落ち着いた声が響き渡った。

「この先に眠るは、我が盟友ジェレミーの宝。許可無き者よ、立ち去るがよい」

「許可は、どうやって手に入れれば……あ!」

 アエルスドロは、先ほどの光景と、自分が手に入れたコインを思い出した。

 このコインを入れれば、塔に入れるかもしれない。

 アエルスドロが扉に口にコインを入れると、

 「ジェレミーの証、確かに」という声と共に扉が開いた。

 塔の内部は螺旋階段となっていて、最上階に部屋は一つだけだった。

 ここが最後の地……フォノンがいる部屋だ。

「これで、後はフォノンを救うだけだな」

「いきますわよ、アエルスドロ! とっととこの茨の異変、解決しましてよ!」

 ダークエルフと悪役令嬢を先頭に、一行は部屋に入るのだった。

 

「ここが、フォノンがいる場所……」

 部屋の壁には宝剣や絵画が飾られており、床には綺麗な装飾のついた箱がたくさんある。

 多くの品物には妖精の祝福が授けられており、きらきらと温かく優しい光を放っている。

 そんな、穏やかで優しい空間の奥に、うごめく影が一つあった。

「……フォノン……」

 それは、糸で全身を拘束され、胸に糸が刺さった銀髪の少女だった。

 糸が少女の闇を吸い取り、赤く染まっている。

「やっと……百年経った……! こんなもので私を縛ろうなんて、許せない……!

 皆殺しにしてやる……!」

 少女は、胸に刺さった糸を力任せに引き抜き、地面に投げ捨てた。

 すると、少女の瞳が赤く染まり、肌が浅黒くなっていく。

 それはまさに、ダークエルフそのものであった。

 魔女フォノンは爛々と輝く瞳で、アエルスドロ達を射抜いた。

 戦いが、始まった。

 

「悪く思わないでくださります? 行きますわよ!」

 マリアンヌは二丁拳銃でフォノンを攻撃する。

 しかし、フォノンが形成した防御壁に阻まれ、大したダメージは与えられない。

「闇の精霊よ、その暗黒の姿を現せ!」

 フォノンは闇の精霊の力を借りて、魔力による刃を形成しマリアンヌを切り裂いた。

「きゃあああーーっ!」

「危ないよ、マリアンヌ!」

 エリーが光の盾を張った事で、何とか戦闘不能になる事は免れた。

 それでもかなりのダメージを受けたようで、エリーはすぐに魔法でマリアンヌを回復する。

「ねえアエルスドロ、ダークエルフってこんなに魔力が強いんですの?」

「ダークエルフは男性よりも女性の方が心身共に強いのです」

「ふーん、人間とは逆ですの……ね!」

 マリアンヌは二丁拳銃を連射し、フォノンに着実にダメージを与えていた。

「風の精霊よ、見えざる衝撃を! ウィンドブラスト!」

「デ・ゲイト・ラ・ロタ・ド・イス!」

「私にそんな攻撃は届かない」

 ルドルフとユミルが魔法でフォノンを攻撃するが、防御壁のせいでダメージが通らない。

「……なかなかダメージが通りません。この防御壁を何とかしなければ……」

「大人しく食われればいいものを……。

 炎の上位精霊イフリートよ、炎の嵐を起こし焼き尽くし給え!」

 フォノンが手を掲げて呪文を詠唱すると、炎の嵐が巻き起こりアエルスドロ達に襲い掛かった。

 巻き込まれれば、骨まで焼き尽くされるだろう。

「まずいぞ、避けろ!」

「ううん、避けたらダメ!」

 ミロは炎の嵐に突っ込んでいった。

「まずいですよ、ミロさん! やめてください!」

「安心しなさい! あたしは強いのよ?」

 ルドルフが止めようとするがミロはそれを聞かず、

 炎の嵐を「掴む」と、なんとフォノンに向かって投げ飛ばした。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 フォノンが逆に炎の嵐に巻き込まれた。

 美しかったドレスは見る見るうちに焼け、身体も炎に飲み込まれていく。

 魔法を投げ飛ばすなんてなんという力なんだ……とルドルフは脱帽した。

 そして、そして、火と共に防御壁が消えたのを確認すると、

 ミロはアエルスドロとマリアンヌに譲った。

「さあ、後はあなた達でとどめを刺すのよ!」

「え……わたくしが?」

「私が?」

「美味しいところはあなた達に任せるわ! さあ、行ってらっしゃい!」

 ミロはそう言って飛び退き、とどめをアエルスドロとマリアンヌに任せた。

 

「な、なんだか複雑ですけど……」

「やるしかありませんわね!」

 アエルスドロとマリアンヌはそれぞれの武器を構えた。

 フォノンは這いつくばりながら、二人にゆっくりと近付いていく。

「貴様……よくも……!」

「悪いが、私達はお前を楽に死なせたい」

「だから、無駄な抵抗はよしなさい!」

「ド・トニト・ド・テネブ!」

 アエルスドロが呪文を唱えると、フォノンの身体が動かなくなる。

「う、動けない……!」

「さあ、とどめといきますわよ! ピアシングショット!!」

 そして、マリアンヌが強力な弾丸を撃ち出すと、

 それはフォノンの胸に吸い込まれるように入っていき、命中するとフォノンは血を吐いた。

「どうして……?」

 フォノンは最期に優しそうな声でそう呟くと倒れ、そのまま二度と起き上がる事はなかった。

 カラカラと、糸車が回る音がする。

 糸がフォノンの身体を包むと、ゆっくりと宙に浮かび、そして天へ昇っていった。

 

―フォノンを止めてくれてありがとう。

―あの子の魂は私達が連れていくわ。

―本当に、ありがとうございました……。

 

「……戦いは終わった。フォノンもこれで、救われるだろう」

「今度は、良い人に生まれ変わってくださいね……」

 アエルスドロとマリアンヌは、フォノンがいた場所を見つめ続けるのだった。

 

 アエルスドロ達が外に出ると、糸はすっかりなくなっていた。

 眠れる森の異変は、解決されたのだった。




~モンスター図鑑~

フェアリー
蝶のような羽を生やした、風の妖精。
悪戯好きで、人前に出て驚かすのが好き。

ピクシー
トンボのような羽を生やした、植物の妖精。
好奇心旺盛で、よく物事に首を突っ込みたがる。

ブラウニー
家に住み着く小さな妖精。
茶色い服を好んで着るために「ブラウニー」と呼ばれている。
家事を手伝う事が多いが、機嫌が悪いと住人に襲い掛かる。
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