美しい姫、だけど心の方はというと……。
一行が細い道を歩いていくと、きらきら光る泉が見えた。
泉の周りには、妖精達が果物を食べながらお喋りをしていた。
蝶の羽を持ったフェアリー、花のドレスを着たピクシー、エプロンを着けたブラウニーがいる。
「きゃあ!」
「ながいみみ!」
「フォノンとおなじ! こわい!」
すると、妖精達はルドルフを見て怯え出した。
「いえ、僕達は味方です。安心してください」
「いじめない……?」
「やさしい……すき」
「うん、あたし達は味方だよ」
ルドルフとエリーの裏表のない態度に、妖精達は一安心した。
「ところで、フォノンって誰?」
「きれいなかみのけのおんなのこ」
「ともだちだったおんなのこ」
おどおどしながら妖精達はフォノンについて話し出す。
何故フォノンがこんな妖精を裏切ったのか、アエルスドロはそれを聞きたかった。
「友達『だった』とは……どういう事だ?」
「フォノンが、みんなにひどいことした」
「それで、後はどうなったんだ?」
「みんなかなしくなって、いばらがやしきをかこったの」
「わからない」
「情報、ありがとうございました」
どうやら、妖精達はそれ以上の情報を知らなかったようだ。
アエルスドロ達は妖精にお礼を言った後、泉を去っていくのだった。
すると、一行の脳裏に光景が浮かび上がった。
少女の足元には、たくさんの妖精が倒れている。
倒れた妖精は光の粒子となって消えていった。
慌てた足音が聞こえ、後ろの扉が開き、顔を青くしたエルフの夫婦が入ってきた。
「これは、何事だ!?」
「一体何をしたの!?」
怒り狂う両親に、少女も怒りながら答えた。
「私は蛮勇の精霊を使いたかった! でも、妖精はそれを断った。だから殺してやったのよ!
あなた達も、死になさい!!」
少女は銀髪をなびかせ、両親に襲いかかった。
その肌は、浅黒く染まっていた。
「……あぁ、ついにこうなってしまったか……」
ダークエルフに堕ちた少女を見たアエルスドロが、ついに落胆する。
もう、彼女を救う事はできないのか……と。
「アエルスドロ。きっと彼女は苦しんでいると思います……。
だから、せめて倒す事で救ってください」
「あなたがそう言うなら……分かりました」
「ボクがこんな甘い事を言うのも、アレですけどね」
何を言ってるんだか……とユミルがぼやきながら一行が太い道を進むと、開けた場所に出た。
広場の中央には、美しいエルフの少女の像があり、その周りには破壊された妖精の像がある。
台座の文面には「我が娘と妖精の永遠の絆を祈る。ジェレミー、イヴェット」と書かれてある。
道は、そのまま真っ直ぐ奥へ続いている。
「ジェレミー、イヴェットとは……もしかすると、フォノンの父と母の名前か?」
「そうかもしれませんわね」
「さぞ、たくさんの愛情を受けただろう……」
アエルスドロの母親は、彼を自分の子とは全く思っていなかった。
オッドアイの上に男児、しかも善の属性を持っていたために、
母親にとっては「失敗作」同然の子だった。
そんな彼は、ますますフォノンを哀れみ、羨んだ。
マリアンヌは「ふーん」と思いながらも、アエルスドロが少しだけ心配になった。
「……まぁ、そんな事はどうでもいいですけど、ちょっとこの像を調べてもよろしいかしら?」
「いいですよ」
そう言って、マリアンヌは少女の像を見た。
「……あら?」
すると、マリアンヌは地下に続く階段を発見した。
「隠し通路を見つけましたわ!」
「本当ですか?」
「ええ……ここから何かいいものが見つかるといいですわね」
一行はマリアンヌの導きで、地下祭壇に進んだ。
マリアンヌを先頭に、薄暗い階段を降りていく。
最後の段を降りた瞬間、頭上からガラガラという音が聞こえた。
「しまった……罠ですわ! みんな、避けてくださいませ!」
一行はマリアンヌの号令で、罠を避けようとした。
ユミルは一瞬遅れたが、ミロが引っ張った事により何とか避ける事ができた。
次の瞬間、アエルスドロ達がいた場所に鉄格子の檻が降りてきた。
「危なかった……。遅れていたら、捕まってましたね……」
ユミルは安心したのか、ふぅ、と胸に手を当てる。
「あれは多分、侵入者用の罠でしょう。気を付けていきましょうね」
侵入者用の罠を抜けた一行は、薄暗い通路を歩いていった。
奥へ進んでいくと、小さな祭壇があった。
祭壇の上には小さな糸車が置いてあり、からからと回って聖なる糸を紡いでいる。
アエルスドロがそれをじっと見つめていると、彼の目の前に光景が広がった。
銀色の髪と赤い瞳、浅黒い肌を持つ少女が、返り血を浴びながら歩いていく。
自分の誕生日パーティーが開かれた大広間を抜け、
広場を通過する際に妖精像を壊し、彼女は高い塔の前へ行った。
握り締めていた血まみれのコインを扉の口に投げ入れて扉を開き、
螺旋階段を登って最上階へ辿り着く。
少女は宝物庫で宝物を漁っていたが、いつの間にか彼女は糸車を手に取っていた。
カラカラと回る糸車がその糸で少女、フォノンを捉え、彼女の胸を突き刺した。
「私は死にはしない……ただ、百年眠るだけ!」
こうして、魔女フォノンは深い眠りに落ちた。
糸車が止まると、か細い少女の声が聞こえた。
「どうか……闇に堕ちたあの子を止めて……」
アエルスドロの手の中には、妖精の羽をあしらった小さなコインがあった。
彼らにコインを託した糸車は、また静かに回り出すのだった。
「……ありがとう。私は、必ず彼女を救ってみせる。……さぁ、そろそろ戻るぞ」
「はい」
コインを入手して地上に戻ると、地上の様子が一変していた。
「! こ、これは……!」
張り巡らされた茨は、光の糸に変わっていた。
恐らくは、あの糸車に認められたからだろう。
アエルスドロ達が進もうとすると、糸は自然にほどけて道が開いていった。
フォノンの像がある広場を抜けて奥へ進むと、道は二つに分かれていた。
「こちら側は屋敷に続いて、そちら側は塔に続いているようですね」
「屋敷はもう探索しましたし、そろそろ塔へ行きましょうか」
そう言って一行は塔へ向かった。
塔の扉には目と口がついていて、アエルスドロが近づくと落ち着いた声が響き渡った。
「この先に眠るは、我が盟友ジェレミーの宝。許可無き者よ、立ち去るがよい」
「許可は、どうやって手に入れれば……あ!」
アエルスドロは、先ほどの光景と、自分が手に入れたコインを思い出した。
このコインを入れれば、塔に入れるかもしれない。
アエルスドロが扉に口にコインを入れると、
「ジェレミーの証、確かに」という声と共に扉が開いた。
塔の内部は螺旋階段となっていて、最上階に部屋は一つだけだった。
ここが最後の地……フォノンがいる部屋だ。
「これで、後はフォノンを救うだけだな」
「いきますわよ、アエルスドロ! とっととこの茨の異変、解決しましてよ!」
ダークエルフと悪役令嬢を先頭に、一行は部屋に入るのだった。
「ここが、フォノンがいる場所……」
部屋の壁には宝剣や絵画が飾られており、床には綺麗な装飾のついた箱がたくさんある。
多くの品物には妖精の祝福が授けられており、きらきらと温かく優しい光を放っている。
そんな、穏やかで優しい空間の奥に、うごめく影が一つあった。
「……フォノン……」
それは、糸で全身を拘束され、胸に糸が刺さった銀髪の少女だった。
糸が少女の闇を吸い取り、赤く染まっている。
「やっと……百年経った……! こんなもので私を縛ろうなんて、許せない……!
皆殺しにしてやる……!」
少女は、胸に刺さった糸を力任せに引き抜き、地面に投げ捨てた。
すると、少女の瞳が赤く染まり、肌が浅黒くなっていく。
それはまさに、ダークエルフそのものであった。
魔女フォノンは爛々と輝く瞳で、アエルスドロ達を射抜いた。
戦いが、始まった。
「悪く思わないでくださります? 行きますわよ!」
マリアンヌは二丁拳銃でフォノンを攻撃する。
しかし、フォノンが形成した防御壁に阻まれ、大したダメージは与えられない。
「闇の精霊よ、その暗黒の姿を現せ!」
フォノンは闇の精霊の力を借りて、魔力による刃を形成しマリアンヌを切り裂いた。
「きゃあああーーっ!」
「危ないよ、マリアンヌ!」
エリーが光の盾を張った事で、何とか戦闘不能になる事は免れた。
それでもかなりのダメージを受けたようで、エリーはすぐに魔法でマリアンヌを回復する。
「ねえアエルスドロ、ダークエルフってこんなに魔力が強いんですの?」
「ダークエルフは男性よりも女性の方が心身共に強いのです」
「ふーん、人間とは逆ですの……ね!」
マリアンヌは二丁拳銃を連射し、フォノンに着実にダメージを与えていた。
「風の精霊よ、見えざる衝撃を! ウィンドブラスト!」
「デ・ゲイト・ラ・ロタ・ド・イス!」
「私にそんな攻撃は届かない」
ルドルフとユミルが魔法でフォノンを攻撃するが、防御壁のせいでダメージが通らない。
「……なかなかダメージが通りません。この防御壁を何とかしなければ……」
「大人しく食われればいいものを……。
炎の上位精霊イフリートよ、炎の嵐を起こし焼き尽くし給え!」
フォノンが手を掲げて呪文を詠唱すると、炎の嵐が巻き起こりアエルスドロ達に襲い掛かった。
巻き込まれれば、骨まで焼き尽くされるだろう。
「まずいぞ、避けろ!」
「ううん、避けたらダメ!」
ミロは炎の嵐に突っ込んでいった。
「まずいですよ、ミロさん! やめてください!」
「安心しなさい! あたしは強いのよ?」
ルドルフが止めようとするがミロはそれを聞かず、
炎の嵐を「掴む」と、なんとフォノンに向かって投げ飛ばした。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
フォノンが逆に炎の嵐に巻き込まれた。
美しかったドレスは見る見るうちに焼け、身体も炎に飲み込まれていく。
魔法を投げ飛ばすなんてなんという力なんだ……とルドルフは脱帽した。
そして、そして、火と共に防御壁が消えたのを確認すると、
ミロはアエルスドロとマリアンヌに譲った。
「さあ、後はあなた達でとどめを刺すのよ!」
「え……わたくしが?」
「私が?」
「美味しいところはあなた達に任せるわ! さあ、行ってらっしゃい!」
ミロはそう言って飛び退き、とどめをアエルスドロとマリアンヌに任せた。
「な、なんだか複雑ですけど……」
「やるしかありませんわね!」
アエルスドロとマリアンヌはそれぞれの武器を構えた。
フォノンは這いつくばりながら、二人にゆっくりと近付いていく。
「貴様……よくも……!」
「悪いが、私達はお前を楽に死なせたい」
「だから、無駄な抵抗はよしなさい!」
「ド・トニト・ド・テネブ!」
アエルスドロが呪文を唱えると、フォノンの身体が動かなくなる。
「う、動けない……!」
「さあ、とどめといきますわよ! ピアシングショット!!」
そして、マリアンヌが強力な弾丸を撃ち出すと、
それはフォノンの胸に吸い込まれるように入っていき、命中するとフォノンは血を吐いた。
「どうして……?」
フォノンは最期に優しそうな声でそう呟くと倒れ、そのまま二度と起き上がる事はなかった。
カラカラと、糸車が回る音がする。
糸がフォノンの身体を包むと、ゆっくりと宙に浮かび、そして天へ昇っていった。
―フォノンを止めてくれてありがとう。
―あの子の魂は私達が連れていくわ。
―本当に、ありがとうございました……。
「……戦いは終わった。フォノンもこれで、救われるだろう」
「今度は、良い人に生まれ変わってくださいね……」
アエルスドロとマリアンヌは、フォノンがいた場所を見つめ続けるのだった。
アエルスドロ達が外に出ると、糸はすっかりなくなっていた。
眠れる森の異変は、解決されたのだった。
~モンスター図鑑~
フェアリー
蝶のような羽を生やした、風の妖精。
悪戯好きで、人前に出て驚かすのが好き。
ピクシー
トンボのような羽を生やした、植物の妖精。
好奇心旺盛で、よく物事に首を突っ込みたがる。
ブラウニー
家に住み着く小さな妖精。
茶色い服を好んで着るために「ブラウニー」と呼ばれている。
家事を手伝う事が多いが、機嫌が悪いと住人に襲い掛かる。