ダークエルフと悪役令嬢   作:アヤ・ノア

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アエルスドロを追う者が、やってきます。


第13話 地下からの追っ手

 その夜。

 アエルスドロはマリアンヌと一緒のベッドにいた。

 

「あら、今日はわたくしと一緒に寝ますの?」

「はい……一緒に夕食を作ってくれて、ありがとうございます」

「そんな、あなたはただ、わたくしの料理を手伝っただけですわよ?」

 マリアンヌは常に他者を自分より下に見ている。

 それは、ここに入ってきたアエルスドロも例外ではない。

 しかし、アエルスドロがダークエルフであり、

 しかも自分の祖国が人間至上主義国家なので、アエルスドロを見捨てられなかった。

「それでも、私は嬉しいんです。ダークエルフの私を受け入れてくれる、ただそれだけで」

「アエルスドロ、なんでそんなにわたくしを気に入ってますの?」

「地上で、あなたと最初に出会いましたから……」

「こんな人間なのに?」

 自嘲気味にマリアンヌが言うが、アエルスドロは微笑みを崩さない。

「どんな形でも、私を傍に置いてくれる。それが、私が得た最初の幸せですから」

「……ダークエルフは世界中で嫌われているらしいですけど、

 見たところ、あなたは善良ですから、ますます嫌われていますわね」

「……はい」

 世界でも類稀な善のダークエルフは、人間社会からもダークエルフ社会からも忌み嫌われる。

 当然、居場所なんて見つかるはずがなく、大抵は殺されるか飢え死にするかのどちらかだった。

 このように普通に暮らしているというのは、まさに奇跡と言えるものだった。

「本当にあなたは幸運でしたわね。

 わたくしじゃなかったら、恐らくあなたは殺されていた事でしょう」

「ありがとうございます、マリアンヌさん……」

「わたくしに感謝なさい、おーっほっほっほっほっほ!!

 ベッドの上で、マリアンヌは高笑いした。

 この時、アエルスドロは思った。

 自分はマリアンヌと一緒にいて、本当によかった……と。

 

「それでは、明日が幸せになりますように。お休みなさい」

「お休みなさい……」

 アエルスドロとマリアンヌはそう言って、目を閉じた。

 

 数時間後。

マリアンヌ様、いますか!?

「!?」

 アエルスドロとマリアンヌが寝静まった頃、急に誰かが激しくドアをノックしていた。

 マリアンヌは驚いて起き上がり、ドアを開けた。

「ディストじゃない、どうしましたの!?」

「ナガル地方の周辺の森に……不死者が現れました……!」

「なんですって!? ほら、アエルスドロ、起きなさい!」

「……う、う~ん、まだ私は……」

 マリアンヌは大急ぎでアエルスドロを叩き起こし、ドアを開けて外の様子を確認する。

 外は暗くなっていて、不死者が活動できる最高の時間になっていた。

「……皆さんは寝静まっている頃ですわね。ディスト、魔物はわたくし達が退治しますわ。

 あなたは寝て待ってなさい」

「分かりました……。マリアンヌ様、アエルスドロさん、どうか無事でいてください」

「ふふっ、わたくしに歯向かう愚か者に鉛の弾丸を撃ちますわ!」

「不死者……嫌な予感しかしませんが……」

 マリアンヌは二丁拳銃、アエルスドロは剣と盾を装備し、森の中に入っていった。

 

「うわぁ……」

「森がこんなになっているなんて……」

 瘴気の影響で、森の中からは不死者が湧き出るように飛び出していた。

 黒く染まった木の群れの中から、瘴気を纏った不死者達が現れ、アエルスドロ達に牙を剥いた。

「うぐぉっ!」

 ダークストーカーが先制してアエルスドロを斬りつける。

 アエルスドロは一撃を盾でしっかり防いだが瞬時に切り返しを受け、重傷を負う。

「……うぐっ」

 アエルスドロは持っていたポーションを飲んで傷を癒す。

「……ふぅ。反撃だ! ラウンドスラッシュ!」

 ポーションを飲んだ後、アエルスドロはゾンビの群れに突っ込んで剣で斬りつける。

 そのままの勢いでダークストーカーも斬りつけた。

「覚悟なさい、ガトリングショット!」

 マリアンヌは二丁拳銃を乱射し、深手を負ったゾンビの群れを全滅させた。

「おーっほっほっほ! わたくしの前から消え失せなさ~い!」

「もう消えてますが」

 ゾンビの群れを撃破し、高笑いするマリアンヌ。

「さあ、あなたも倒れなさい!」

 マリアンヌはもう一度二丁拳銃を構え、ダークストーカーに銃弾を放った。

 しかし、ダークストーカーは紙一重でマリアンヌの銃弾をかわした。

「な、なんですって!? きゃあぁぁぁ!」

 ダークストーカーは油断したマリアンヌを斬りつけ、服を破り下着が露わになる。

「マリアンヌさん!」

「よくもわたくしの美しい服に傷をつけましたわね。

 あなたは完膚なきまでに叩き潰しますわ! ……さあ、覚悟なさい、不死者!」

 マリアンヌはダークストーカーに突っ込んでいき、至近距離から銃を乱射し蜂の巣にする。

 彼女の表情は、プライドを傷つけられたために鬼気迫っていた。

 アエルスドロはその様子に引きながらも、マリアンヌを見守っていた。

「さあ、これでとどめよ! リベリオン!!」

 そして、マリアンヌの光を纏った銃弾がダークストーカーを貫き、消滅させた。

 

「……アエルスドロ、絶対にこの異変は解決しましょう」

「……はい」

 震えながら、アエルスドロは頷いた。

 マリアンヌを怒らせてはいけない……と、アエルスドロは改めて思うのだった。

 

 不死者を倒したアエルスドロ達の視界には、

 毒々しい黒や紫の異形の森に変化した森が広がっていた。

 間違いなく、敵はこの中にいる……。

 アエルスドロとマリアンヌは注意深く辺りを見渡した後、森の中に入った。

 

「とりあえず、この森がどうなっているのかを調べる必要があるな」

 アエルスドロは精神を集中させ、森がどうなっているのかを調べてみた。

 すると、アエルスドロの頭の中に、情報が入ってきた。

 森は地形を変え、迷いの森と化し、強引に突破するには中心までの道を切り開く必要がある。

 中心に向かって攻撃を放てば、道は開ける、と。

「私に任せろ、ダークスラッシュ!」

 アエルスドロは、森の中心に向かって闇を纏った斬撃を放った。

 すると、木々はなぎ倒され、道を切り開く事に成功した。

「さあ、行きますわよ!」

「はい!」

 道を切り開き、敵がいる中心部へと向かうアエルスドロ達の前に、

 ダークエルフのクレリックに率いられた不死者の軍勢が立ちはだかる。

 その数は相当なものだったが、ここまで来て引き返す事はできない。

 急いでこれを倒し、先に進まねばならない。

 

「裏切り者のダークエルフめ、覚悟しろ!」

「私は……裏切り者などではない!」

 アエルスドロが剣を抜き、戦闘が始まった。

 

「はっ!」

「させない!」

 ダークエルフのクレリックが振るった鞭を盾で受け止めるアエルスドロ。

 直後にゴーストに斬りかかるが、その攻撃はゴーストをすり抜けた。

「何!?」

「どうやら、魔法の加護を受けていない攻撃は通用しないようですわ。

 悔しいけど、わたくしでは倒せませんし……頼みますわよ!」

「分かりました、ファイアスラッシュ!」

 アエルスドロは剣に炎を纏わせ、ゴーストの群れを薙ぎ払い一撃で倒した。

「ガトリングショット!」

 マリアンヌがグールの群れに突っ込み、至近距離から二丁拳銃を乱射する。

 さらにダークエルフのクレリックの腹目掛けて一発放った。

「ちっ! 人間の癖に、なかなかやるじゃないか! 不死者よ、こいつらを殺しておやり!」

 ダークエルフのクレリックが不死者に命令を下し、マリアンヌを攻撃させる。

「そんなものは通用しませんわよ」

 マリアンヌは身軽な動きで不死者全ての攻撃をかわし、

 二丁拳銃を連射して不死者を全滅させた。

「これが人間の力ですわ。思い知りまして?」

「なんだって!? ちっ……ここは、逃げるしかないようd」

「逃がすか!」

 アエルスドロは逃げようとするダークエルフのクレリックを追い、その背中を剣で斬りつけた。

「何をする!」

「お前が私を裏切り者と言うならば、私は裏切り者としてお前を殺そう。

 ……同じ事だ、ヒトの事は言えないだろう? さよならだ、ダークエルフよ」

 そして、アエルスドロの剣はダークエルフのクレリックを真っ二つに切り裂いた。

 

「……」

 剣についた血を拭き取りながら、アエルスドロはダークエルフのクレリックの死体を見る。

 アエルスドロは、地上で同族を初めて殺してしまったからだ。

「……こんな私でも……受け入れてくれるのだろうか……」

「少なくとも、わたくしなら受け入れて差し上げますわ」

 俯くアエルスドロの肩を、マリアンヌはポンポンと叩いた。

「悪役令嬢がダークエルフの味方をしている、っていうのは、いたって普通でしょう?

 些細な事で悩まないでちょうだい! 明るいあなたがみたいですわ!」

「……マリアンヌさん……それは、本当ですね?」

「もう敬語を使わなくてもよろしいですわよ? これからは普通に話してもよろしいですわ。

 さあ、わたくしと握手なさい!」

 その言葉は、マリアンヌがアエルスドロを完全に認めた証であった。

 アエルスドロは彼女が嘘をついていないと信じ、彼女の手をぎゅっと握り締めた。

「本当に……本当にありがとう、マリアンヌ……!

 これからも私と、永遠に離れないでくれ……!」

「もちろんですわ!」

 

 アエルスドロとマリアンヌが森の中心部に到達すると、

 空に巨大な穴が現れ、「門」が開き始めようとしていた。

 朝までに門を閉じなければ、ナガル地方が終わってしまう。

 そのことを認識した二人の前に、

 ダークエルフの神官、ブリジッティーラとシーリーナが現れた。

「来たようだな、裏切り者のダークエルフ」

「人間と手を組むとは……なんと愚かな」

「私はお前達よりも愚かではない」

 そう言って、アエルスドロは二人に剣を向けた。

「言ってくれるな……」

「私達は、アラネア様の加護を受けている。アラネア様の加護を失った貴様は、死あるのみ!」

「神なんて信じませんわ。信じるのは己のみ!」

 マリアンヌは腰から二丁拳銃を取り出し、構える。

「……ふん、信仰心は無いのか……。まぁいい、どのみち貴様らはここで死ぬのみだ」

「悪いけど、わたくし達はあなた達に負けるつもりなど微塵もありませんわ!!」

「さぁ、勝負だ!!」

 

 ブリジッティーラとシーリーナとの戦いが始まる。




~モンスター図鑑~

ダークストーカー
死者の魂が固まって生まれたアンデッド。

ゾンビ
死体が動き出したアンデッド。
肉体が腐敗しており、周囲に耐え難い悪臭を放つ。
自我も痛覚も知性も無く、ただ創造主の命令を忠実に果たす。

ゴースト
この世に強い未練を残して死んだ者が霊になって現れた姿。
実体を持たず、通常の武器では傷つける事ができない。
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