しかし、彼はというと……。
「……」
ルドルフ達は、小屋の中で眠っている驟雨の様子を見ていた。
現在、彼はルドルフがかけたスリープクラウドの影響で、寝息を立てながら横になっている。
「まったく、こんなのが来るなんてこの世界もどうにかしているわ。ねーアエルスドロー」
「はい?」
ミロは驟雨の様子を見せるためにアエルスドロを呼んだ。
「ちょっと、こいつの様子を見てくれる?」
「ああ……」
アエルスドロは、驟雨の顔をじっと見つめた。
その顔は、穏やかに寝息を立てている。
「……寝ているな」
「でしょ? いきなり襲いかかってきたから、こうしたのよ。殺すのも惜しいしね」
「しかし、この後をどうするかが問題だな」
もし、驟雨をここで起こせば、彼に逃げられる確率が非常に高い。
眠らせたままでも、いつかは誰かが危険視して彼を殺してしまう可能性が高い。
そのため、ミロは驟雨の処遇について、アエルスドロに聞こうと思ったのだ。
「私は新しい人材にするか、そのままにするかを選ぶ。
前者ならマリアンヌが喜ぶと思うが、驟雨自身が喜ぶかは微妙だ。
後者なら驟雨を縛ったりはしないが、お前の言う通り、惜しい人材をなくすようなものだ」
「う~ん……。優柔不断なのねぇ」
「優柔不断とは、誰の事でして?」
「あ、マリアンヌ」
二人の話に入ってきたのは、領主のマリアンヌだった。
「この子、誰ですの?」
「驟雨っていう、氷雨に仕える暗殺者よ。
そいつの命令であたしらを殺しに来たけど、今、眠っているわけよ」
「暗殺者? いい人材になりそうですわね。早速、うちで雇ってみましょうか」
マリアンヌがにやりと口角を上げると、驟雨に向けて掌をかざし、そして大きく振り下ろした。
「……っ!」
いきなり頬に衝撃を受けた驟雨が、不機嫌そうな表情で起き上がる。
マリアンヌは相変わらず、腹に何か秘めている笑みを浮かべている。
「あら、おはよう」
「俺を起こして、どうするつもりだ……」
「決まっているでしょう? わたくしが雇って差し上げますのよ」
「人間のお前が俺を雇う、だと? 悪いが……」
そう言うと、驟雨は小屋の中で煙玉を投げつけた。
アエルスドロ達は咳き込んで驟雨の姿も見る事ができなかった。
そして、煙が消えると同時に、驟雨の姿も消えた。
「キィィィィィィ! 逃げられてしまいましたわ!」
有能な人材に逃げられてしまったため、マリアンヌは悔しがる。
「どうするんだ、マリアンヌ」
「決まっているでしょう? 探しますのよ!」
「でも今日は休むって……」
「いいえ、休日は返上しますわ! さあ皆さん、とっとと驟雨を探しますわよ!」
そう言って、マリアンヌは二丁拳銃を持って小屋を出ていった。
「……マリアンヌは本当に強欲だね。これが悪役令嬢っていうものなのかな?」
エリーは小屋を出たマリアンヌを見てそう呟いた。
「とにかく、私達も彼女を追わなければな」
「見つけましたよ」
「どうして私達を置いていったんだ……」
「わたくしについていかなかったのが悪い! んですのよ」
マリアンヌは傲岸不遜な態度を崩さなかった。
アエルスドロはマリアンヌを「良い面もあるがやはり悪役令嬢だな」と思った。
「……さて、どうすれば驟雨は見つかるのかしら」
マリアンヌは驟雨を怒らせてしまったため、彼を探し出すのは骨が折れる作業だ。
もし気付かれれば、逃げてしまう事もあるだろう。
まずは、ナガル地方で情報を集め、有益なものだけを絞らなければならない。
「とりあえず、話を聞いてみましょうか」
マリアンヌは住民達に驟雨がどこにいるのかを聞いてみた。
「驟雨の居場所、ですか?」
「ええ、彼がどこにいるのかを探しておりまして」
マリアンヌは、早速聞き込みを開始した。
まず、彼女は驟雨の特徴について住民に話し、彼がどこにいるのかを聞き出す。
「こっちはいい情報が集まりましたわ」
「ああ、僕もう彼に関する情報を集め終わりましたので」
「もうですの!?」
ルドルフは意外にも勘が鋭かったため、すぐにたくさんの情報を集める事ができた。
だが、全てが正しい情報であるわけではない。
ここから、必要な情報だけを絞り出す必要がある。
「う~、どれが正しいのよ。全然分からないわ。えぇい、こうなったら気合で行くしかないわ!」
ミロは気合で情報を絞り出そうとした。
しかし、彼女の頭では上手くいかず、ユミルとアエルスドロが代わりに情報を絞り出した。
「驟雨は氷雨にそう命令されているから、あまり遠くには行かないでしょう」
「つまり、ナガル地方のどこかにいるのは確実だ。
それに、相手は獣人。人工物が多く存在する場所には近付かないだろう」
「う~ん、だとしたら森か洞窟?」
「後者だろう。暗殺者は暗い場所を好むからな」
「そっか、じゃあ洞窟に行けばいいのね!」
こうして一行は有力な情報を選別し、驟雨の居場所を絞り込んだ。
まだ手掛かりというレベルなので、一度行って、そこにいるか探そうとした。
ここから先は、多少の幸運が必要だ。
「……よし、目星はつけましたわ」
一行はマリアンヌを先頭に、どこに驟雨がいるのかを探していた。
「わたくしの前から逃げた驟雨……必ず捕まえてみせますわ……!」
(そもそも逃がしたのはマリアンヌだろ)
「待ちなさいよ、驟雨……!」
その頃、驟雨は、魔物を倒しながら洞窟の中を歩いていた。
驟雨の周りには魔物の死骸が転がっており、彼の短剣には血もついている。
「……片付いたな。氷雨殿のところに戻らなければ」
魔物を倒し、主のところに戻ろうとしたその時。
彼の背後から、少女の声が聞こえてきた。
―あら、そこにいるのは?
「誰だ」
驟雨がそう言って声のした方に短剣を突きつけると、
そこには、黒髪を三つ編みにした少女が立っていた。
まだ驟雨は仲間になりませんので、ご了承ください。
次回は、悪役令嬢ものに欠かせない、あの人物が登場します。