ファンタジーでは定番ですが、その出会いは衝撃的になっています。
「はぁ、はぁ……ここが、地上か?」
アエルスドロは追っ手のゴブリンを倒しつつ、命からがら地下都市から脱出した。
「う……眩しい!」
外はちょうど、真昼間だったらしい。
太陽の光に弱いダークエルフのアエルスドロは、目が眩んでしまった。
「光が当たらない場所に避難しなければ……しかし……うぅ、眩しい……」
そんなアエルスドロの耳に、ハイヒールの足音が聞こえてきた。
目は見えないが耳は聞こえるようで、彼はハイヒールの足音を避けようとするが、
目が見えないためまともに進めない。
そして、足音がアエルスドロの耳元まで近づくと、彼の腹部目掛けて、銃弾が飛んできた。
「ぐぅう……! うぁ……ぁ」
アエルスドロは血を吐き、そして倒れた。
「……なんだ、ただのダークエルフでしたのね」
倒れたアエルスドロに駆け寄ったのは、プラチナブロンドの髪に青い瞳、
派手なファーコートにドレス……と、いかにも貴族然とした容貌の少女だった。
少女がそっとアエルスドロの息を確認すると、僅かだが息をしている。
「わたくしの銃撃を受けても死なないとは……ふふ、新しい武官に相応しいですわね」
そう言って、少女はアエルスドロを担ぎ、小屋の中に担いでベッドに寝かせた。
「……ん、ここは……」
「あら、お目覚め?」
アエルスドロが目覚めると、彼は小屋の中にいた。
赤黒く変色した血で塗れた服を見て、アエルスドロは撃たれた事を思い出す。
「といっても、まだ名前を名乗っておりませんでしたわね。
わたくしはマリアンヌ・フロイデンシュタインですわ」
アエルスドロを撃った少女は、マリアンヌと名乗った。
先ほど自分を攻撃したにも関わらず、謝りもせず堂々と自己紹介をしている。
アエルスドロはそれが不思議でたまらなかった。
「お前は……誰だ?」
「……」
アエルスドロがそう言った瞬間、マリアンヌは再びアエルスドロに銃を向けた。
「フロイデンシュタイン家の者であるこのわたくしに向かって、
その口の利き方はありませんわよ?」
「……すみませんでした」
「まぁ、それはいいとして……あなたを連れてきた理由としては、
ナガル地方の新しい武官を得るため、ですわ」
「私が武官ですと?」
どうやらマリアンヌは人材を探しているらしい。
居場所がないアエルスドロにとって、これは朗報だった。
アエルスドロは頷き、マリアンヌの武官になる事を決めた。
「……とは言いましても、その怪我ではまだ動けませんわよね。しばらく、休みを取りなさいな」
「はい」
それから3日後。
「よっこいせ」
「アエルスドロ、もう大丈夫ですの?」
「安心してください、治癒力は高い方ですから」
傷が癒えたアエルスドロは、ベッドから降りて背伸びする。
「マリアンヌさんは、こんな私でも武官にしてくれるんですか?」
「そうですわ。たとえ人間以外の種族であっても、わたくしの領土では武官・文官にするのです。
まぁ、ガルバ帝国のやり方に反対するのもありますけどね……」
マリアンヌによれば、ガルバ帝国は人間以外の種族を奴隷扱いしているという。
そして、彼女は自分が辺境に追いやられた理由を話した。
マリアンヌの回想――ガルバ帝国。
フロイデンシュタイン伯爵に呼ばれたマリアンヌは、軽やかな足取りで父のところへ向かった。
『お父様、もうすぐレーヴェ皇子様と結婚しますわよね? 盛大な式にしましょうね!』
『うむ、その話だが……。……皇帝陛下の命により、婚約破棄、結婚式は中止となった』
『な、何ですって!?』
フロイデンシュタイン家のマリアンヌは、
ガルバ帝国の第一皇子レーヴェと婚約して権力を握ろうと画策していた。
財力や政治的なものだけでなく、
マリアンヌが敵視している貴族令嬢エマを失脚させるために評判を落としたりしていた。
だが、その策略が皇帝にばれてしまい、こんな事になったわけだ。
『マリアンヌ、お前はこの地に送る事にした』
そんなマリアンヌに、伯爵は皇帝からの言葉――所謂、辺境への左遷を伝えた。
本当ならば牢獄行きであったが、何とか穏便な処置に留めたのだという。
当然、マリアンヌは納得できず、皇帝がいる城へ乗り込んでいった。
途中でエマと出会い、彼女のおかげ(?)で何とかベルハルト皇帝に謁見したが、
皇帝の決定を覆せるはずもなく……。
「……と、いうわけで、わたくしはナガル地方に左遷させられましたわ」
マリアンヌの話を、アエルスドロは黙って聞いていた。
「そして、あの女を倒すために、力を蓄えますわ! ……しかし、まだ力は足りませんわ。
そんなわけで、新しい人材として、あなたをわたくしの武官にいたしますわ!」
「……ありがとうございます」
こうして、アエルスドロはマリアンヌが領主であるナガル地方の武官となった。
そして、マリアンヌもまた、エマに復讐するために立ち上がるのだった。
「あ、それと、あなたはダークエルフですので、この日傘を差し上げますわ」
「ありがとうございます」
アエルスドロは、マリアンヌから貰った日傘を差して小屋を出た。
森林は少なかったが、人々は賑やかにマリアンヌが治める場所で平和に暮らしているようだ。
あちこちにはガルバ帝国が差別している人間以外の種族もいるため、
マリアンヌの分け隔てない性格が伺える。
「資源はそんなにないけど、結構賑やかだな」
「まぁ、わたくしは腐っても貴族ですからね」
「それで、私は何をすればいいのですか?」
「今日の分の食糧を獲ってきなさい」
「分かりました」
そう言って、アエルスドロは食糧を獲りに森へ向かった。
「はぁっ!」
アエルスドロは剣を振り、狼を切り裂いた。
野菜や果物は、妖精や植物系の魔物に見つからないように慎重に採っていく。
魚も、ナイフを投げて上手く突き刺して獲った。
「量は多すぎてもいいようだ。だが、腐らないようにするには、どうすればいいのだろうか。
……やはり、プリザベーションかな」
食糧を獲った後、アエルスドロはプリザベーション処置ができる人を探した。
「これらの食糧のプリザベーション処置をお願いいたします」
「……!」
アエルスドロはエルフにプリザベーション処置を頼もうとしたが、避けられてしまった。
「プリザベーション処置を……!」
「ダークエルフだ、逃げるぞ!」
他の人にも頼んだが、アエルスドロがダークエルフという理由で皆、彼を避けていった。
「マリアンヌさん、プリザベーション処置を頼みます!」
「え? どうしましたの?」
「皆さんが、私を避けているみたいで……!」
アエルスドロは、マリアンヌに食糧を全て渡した。
「ど、どうしてわたくしに?」
「私はダークエルフなので、皆さんは私を避けているようです。
だから、私はあなたに頼んだのです」
「なるほど、それならよろしいですわ」
マリアンヌはプリザベーション処置へ向かった。
「……やはり、私はダークエルフだから、誰からも嫌われるのだろうか……。
私の事を認めてくれるのは、マリアンヌさんだけだ……」
アエルスドロは、自分がダークエルフである事に悩んでいた。
ダークエルフは一般に悪の種族と呼ばれ、誰からも嫌われている。
だが、アエルスドロは善の心を持っていた。
それがますます、彼を悩ませていた。
「……私は、どうすればいいのだろうか……!」
マリアンヌは、悪役令嬢ものへの反発として、現地人かつ戦闘能力を付与しています。
戦うヒロインは、私が好きなものでもありますしね。
ダークエルフのアエルスドロは、辺境の地でも生きられるのか不明ですが。