しかし、そこにはある企みがあるようで……。
「あ、お帰りなさい!」
「ただいま」
アエルスドロのパーティーとマリアンヌのパーティーは、お互いの任務が終わって合流した。
「こっちはどうでしたの?」
「ああ、ちゃんとサハギンの群れは退治できたよ」
「開発しようと思いましたけど、まさか魔物がいたなんて……。
悪い意味で、この地は有名になりましたわね」
皆、それぞれの任務の結果を話し合った。
アエルスドロは喜んでいたが、マリアンヌは溜息をついていた。
「まぁ、こんな辺境の地に来るのは魔物くらいだしなぁ」
「なんですって」
マリアンヌがアエルスドロに冷たい視線を浴びせると、アエルスドロはすぐに黙った。
ガルバ帝国の辺境にある、ナガル地方。
悪役令嬢が左遷されたこの地では、今は順調に開発と交易が進んでいる。
ルドルフ達がもらった報酬によって、この地はかなり賑わっていた。
「それでは、このナガル地方の方針は、わたくしが決めさせていただきます。
とりあえず、ここのナガル地方を人外のための素晴らしい観光地にしますわ!」
「素晴らしい観光地!?」
マリアンヌは、ナガル地方を世界有数の観光地にしようとしていた。
「こんな辺境の地を観光地にするとは……マリアンヌ、もう少し現実を見てくれ」
アエルスドロは、現実を見ていないマリアンヌに苦言を呈した。
しかし、マリアンヌは両足を踏ん張ってアエルスドロに宣言した。
「分かっておりませんわね。
このナガル地方は、ガルバ帝国で唯一、人間以外の種族を見る事ができるんですのよ?」
「あー……」
ガルバ帝国では昔から人間以外の種族を毛嫌いしており、
入っただけで酷い扱いを受け、最悪の場合は死ぬのが当然である。
故に、マリアンヌはこのナガル地方を、
人間以外の種族がガルバ帝国に住むための場所にしようとしているのだ。
「では、まずは手始めに、この地で四大元素体験ツアーを開く事にしましたわ。
そのために、プーカ達に道具を作ってもらうように説得しましたわ」
プーカは難しい事が嫌いなので魔法に関する能力はないが、
手先が器用なので細かい作業が得意である。
説得の結果はというと、その性格のためにあっさりと頷いてくれたとか。
「そんなわけで、小道具を作らせた後、
炎・水・風・地の魔法アトラクションをルドルフとエリーが作りますわ」
「えっ、僕がやるんですか? まぁ、どうせ暇ですし、手伝わせていただきますよ」
「なんとまぁ、偉そうに……」
(お前が言うな)
「じゃあ、あたしはキラキラマスコットとして案内役をするねー!」
というわけで、ルドルフとエリーは、四大元素体験ツアーを手伝う事になった。
「で、ミロとユミルは、拠点をもう少し大きくしてほしいのですわ」
「拠点が小屋だと、誰も領主がマリアンヌだとは思わないしね」
「何ですって……。それで、このナガル地方に、マリアンヌ城を建ててくださりません?」
マリアンヌ城とは、予算が足りなくなってしまうのではないか。
そう思ったミロはマリアンヌに苦言を呈そうとするが、マリアンヌは「大丈夫ですわ」と言う。
その根拠のない自信に流石のユミルも首を捻る。
「こんな予算で城なんか建てられるんですか?」
「安心しなさい。ユミル、あなたの魔法さえあれば城なんて一瞬で建てる事ができますわ」
「……ま、やってみますよ」
「そしてミロ、あなたはその魔法で作った城を安定させるための力仕事を担当しますわ」
「ふふん、あたしの力、甘く見るんじゃないわよ」
あまり乗り気でないユミルと、やる気満々なミロ。
対照的だが、二人ともマリアンヌに協力するという意志は同じだ。
そんなわけで、ミロとユミル、二人の時空警察は、城を建ててマリアンヌに貢献する事にした。
「それで、アエルスドロと驟雨には……こんな役目を与えますわ」
「というと?」
「あなたはわたくしに逆らう者達を始末しなさい」
「「何っ!?」」
二人は驚いたが、これはマリアンヌなりに考えた事でああった。
アエルスドロはダークエルフ、驟雨はフェルプールの暗殺者。
闇の者であるため、マリアンヌは二人に闇の仕事を与えたのだ。
「わたくしの世界征服のためですわ。逆らう者には容赦はしませんのよ」
「完全に悪、だな……」
「わたくし、悪役令嬢ですから」
驟雨の言葉に、マリアンヌは開き直った。
「ああ、分かった。この役目、引き受けよう」
「ふ、暗殺か……お前は分かっているようだな」
驟雨が2本の短剣をちらつかせる。
アエルスドロは自分が「役目」を持った事により、さらなる自信がついた。
「世界征服の第一歩として、まずはこのナガル地方を征服しますわ!
みんな、頑張ってください!」
「「「「おーーーーーっ!!」」」」
こうして、アエルスドロ達はマリアンヌの野望のために、
ナガル地方で平和な日常を過ごしていた。
マリアンヌは、小屋を建て替えた城で優雅にアエルスドロと紅茶を飲んでいた。
「本当に、ここで飲む紅茶は美味しいな」
「そうでしょう? これも皆さんが環境を整えてくれたおかげですわ」
ゆっくりと平和な時が過ぎていく。
しかし、そこに一通の手紙を携えた人物がやって来た。
「はーい」
マリアンヌはドアを開け、その人物を迎えに来た。
手紙を持ってきたのは、ガルバ帝国の新聞記者、ロルフだった。
「マリアンヌ様、手紙をどうぞ」
ロルフはマリアンヌに恭しく手紙を渡した。
マリアンヌが手紙を開けてみると、そこにはこんな文章が書かれていた。
皆様、ご機嫌麗しゅう。エマ・クレーシェルです。
今日、私はガルバ帝国第一皇子、レーヴェ・リドレインと婚約を交わしましたわ。
その記念に、あなた達をパーティにご招待いたします。
「エマからですの? わたくしを貶めるために……」
恋敵としているエマから手紙が届いたため、マリアンヌは不快な表情になった。
だが、アエルスドロは逆にここを出る事ができるチャンスだと捉えていた。
「まぁ、何にしろ、あの女と直接出会えるのなら、是非、勝負したいですわ。
そして、必ずわたくしが勝ちますわ!」
エマと直接対決ができるため、マリアンヌは燃えていた。
「この辺境の地とも、そろそろお別れのようだな」
「別れるわけではありませんわ。ちょっと離れるだけです。フォリアの船で出航ですわ!」
「おー!」
「……いよいよ、ここを出る時が来たようだな」
かくして、アエルスドロ達は帝都へ帰還した。
盛況を見せるナガル地方は一旦文官や武官に託し、
一行を乗せた船はガルバ帝国の帝都ユーリエルへ向かうのであった。
次回はアエルスドロ達がガルバ帝国に帰還します。