ですが、どこかきな臭いところがあるようで……。
一艘の船が、帝都ユーリエルの港へ入ってきた。
今日は快晴なので、アエルスドロは日傘を差していた。
「わたくしは今、ユーリエルに帰ってきましたわ!」
久々に故郷に帰還したマリアンヌは、感慨と共にタラップを降りて港を睥睨する。
アエルスドロやルドルフも、港に着いて帝都を見つめた。
「ここが、マリアンヌの故郷か」
「なんか、重々しい場所だねー」
軍事国家というだけあって、質実剛健がそのまま形となったかのような港だった。
「確か、ここは人間以外立ち入り禁止の帝国だっただろう?
私達は、どうすれば帝都に入れるんだ」
「それならわたくしに任せなさい。帝国貴族として必ず入らせてもらいますわ」
一行はマリアンヌを先頭に、帝都ユーリエルに行こうとした。
すると、一行はマリアンヌの父とその隣の小動物を目撃した。
小動物に囲まれているのは、黒髪の少女だった。
「エマ!?」
マリアンヌが叫ぶと、小鳥達が飛び立ち、少女の前にいた小動物が少し距離を取る。
小動物の中から、少女――エマが現れた。
「お久しぶりですわね、エマ・クレーシェル」
マリアンヌはエマにそう挨拶すると、エマは華やかな笑顔を見せて頷く。
「ナガル地方での活躍は聞いていますよ」
「まったく、あんたのせいでこんな事になりましたのよ」
マリアンヌはエマに聞こえないように小声で愚痴を吐いた。
辺境の地に左遷されたのは自業自得だが、アエルスドロは口に出さなかった。
「とにかく、わたくしがここに来た理由は、あなたと決着をつけるためですわ」
そう言ってマリアンヌはエマを勢いよく指差した。
いきなりの敵対宣言にエマは困惑し、瞳をキラキラと輝かせて嘆く。
「どうしてそんな事をおっしゃるのです?」
「わたくしの婚約者を奪ったからですわ! 気に入らなくて、当然ですわ!」
エマはマリアンヌにはっきりと敵対されたため、涙ぐんだ。
子猿がハンカチを取り出して彼女の涙を拭う。
「……マリアンヌ。エマ様に失礼だぞ」
マリアンヌの傲慢な態度に、彼女の父フロイデンシュタイン伯爵が苦言を呈す。
「来てましたのね、お父様」
「ああ、お前に久々に会えて嬉しいよ。……だが、帰ってこないでくれ」
久々に娘と再会したフロイデンシュタイン伯爵。
だが、フロイデンシュタイン伯爵は娘の帰還を良く思っていなかった。
「お前が今までに行ってきた悪事のツケだ。しかも後ろには、亜人がいるではないか」
「げ」
「人間至上主義の国家に汚い亜人を持ってくるとは、お前も汚くなったものよ。
いや、元々汚いからそれは問題ない、か」
「ふんっ」
つまり、マリアンヌは事実上、ガルバ帝国の帝都にはいられなくなったのだ。
マリアンヌが拗ねていると、ロルフがやって来た。
「ロルフ?」
「ご安心ください。皆さんには、帝都ホテルのスイートルームを用意してあります」
「手回しが良くて助かりますわ。ではエマ、ごきげんよう」
そう言って、マリアンヌ達はその場を去っていき、帝都ユーリエルのホテルに向かっていった。
こうして、アエルスドロ達はロルフの案内で帝都ホテルに向かった。
内装は豪奢で、見る者の目を楽しませ、サービスも行き届いているまさに一流のホテルだ。
アエルスドロ達は、マリアンヌがいるという事で、最上階のスイートルームに泊まっていた。
「ふぅ~。色々ありましたけど、何とか故郷に帰る事ができましたわね」
マリアンヌはソファーに広がるように座り、
アエルスドロとルドルフはその隣で静かに腰掛ける。
エリーはルドルフの頭上を飛び回っており、驟雨は一人で黙々と武器の手入れをしている。
ミロとユミルは、ソファーで雑魚寝している。
「マリアンヌがいなかったら私達は連行されていただろうな」
「そして、最悪処刑でしょう」
「やだー、処刑いやー!」
処刑、という言葉を聞いたエリーが震えてルドルフに抱き着く。
「僕がいるから、安心してください」
「ありがと、ルドルフ……」
七人がそんな他愛のない会話をしていると、向こうから声が聞こえてきた。
「皆様、こちらに来てください」
声の高さからして、どうやら女性のようだ。
七人がその声のした方に行くと、
待っていたのは赤のポニーテールと茶色い瞳を持つ重装備の女性だった。
「まずは、あなたの名前をお聞きしたい」
「私の名はティファニー。ギルド『太陽の矢』のマスターをしている」
ティファニーは一礼してアエルスドロ達に話をする。
「へぇー、あなたギルドマスターでしたのね。良いコネクションにはなりそうですわ」
マリアンヌは、腹に何かを溜めていそうな笑みを浮かべた。
ティファニーはそれを気に留めずに話を続ける。
「……単刀直入に言う。私がこちらに来たのは、君達に依頼があったからだ」
「依頼?」
「エマの人気が素晴らしいのはご存知だろう?」
ティファニーの言葉に頷くマリアンヌ。
エマは老若男女だけでなく、動物にも好かれるほどの人気者だからだ。
「その中でも、三人の貴族が彼女に夢中であり、何やら良からぬ事を企んでいるようだ」
ガルバ帝国では貴族の権力が強くなっている。
ティファニーはそれも利用しているのだろう、と付け加えた。
「まさか、エマがその三人を唆して?」
「いや、まだ彼女が犯人と決まったわけではない。私は、この四人の調査をお願いしたい」
「?」
何故ギルドマスター自身が行かないのか。
疑問に思ったルドルフは、ティファニーに質問をした。
「何故、僕達が調査をするのです?」
「私も、ある程度この件について調査したのだが、ことごとく妨害に遭って失敗した」
「でも、そんなの、あたしには無理だよ!」
「エマもそこにいる女には気を許すだろう。パーティーにはあの貴族も出席する予定だ。
君達も近付きやすいだろう」
「……」
ティファニーはルドルフの質問にそう答えた。
しかし、それでもアエルスドロ達が調査する理由が乏しい。
アエルスドロは依頼を受ける気にはなれなかった。
その時、ユミルが思い出すようにこう言った。
「ちょっと待ってください。確か、パーティーではマリアンヌとエマが対決するんですよね?」
「あら、ご存じで」
「その前に、エマが犯人だと分かればマリアンヌが勝ちますよ」
「……」
ユミルの言葉に気づいたマリアンヌは、満面の笑みを浮かべてこう言った。
「その話、引き受けましたわ!」
「ありがとう。実は私も調査しすぎて皇室に睨まれていたのでな。本当に助かるよ」
「わたくしはエマさえ倒せば何でもよろしいですわ。さぁ、皆さん、行きますわよ!」
「はい(マリアンヌは分かりやすい人だなぁ)」
こうしてアエルスドロ達は、ガルバ帝国の闇を暴くために、
ティファニーに代わって調査する事にしたのだった。
次回はエマの動向をマリアンヌが調査します。