エマとマリアンヌの対比も、表現してみました。
ガルバ帝国のホテルの一室に、一人の男が椅子に縛られていた。
ルドルフは男を椅子に座らせ、両手をロープで縛って意識を取り戻させた。
「私に何をするつもりだ」
「何をしているのか、聞かせてもらうよ」
じりじりとエリーは男に近付き、じっと見つめた。
男も、エリーを見つめ返した。
しばらく、沈黙の時が流れる。
「……」
「……」
「……」
「……」
10分後、ふと、男がぽつりと吐いた。
「ああ……こんなか弱い妖精に、何か言えないわけがないだろう……」
「? ? ?」
か弱い妖精、と言われたエリーがキョトンとする。
確かに肉体的にはそうであるが、精神的にはそうとは言えないからだ。
「情報を全て話すから、命までは取らないでくれ」
「分かりましたわ。全て話したらあなたを解放しましょう」
ふふふ、とマリアンヌは微笑んだ。
メイベンは身の安全の保証と引き換えに、知っている事をアエルスドロに全て話した。
・男の名はメイベンで、大神官の息子。
・あの計画を持ちかけたのはエマ。
・黒髪の男の名はヒーヴェルで、大商人の息子。
・金髪の男の名はケルミットで、大魔導師の息子。
・三人とも、親の権力を利用して、国家を揺るがすような事件を企んでいるらしい。
「……大体分かった。これを、ティファニーに報告すればいいのだな」
「分かったら、とっとと解放してくれ」
「かしこまりましたわ。では、あなたは帰ってよろしい」
マリアンヌはメイベンを解放した後、依頼主のティファニーを呼びつけた。
すると、赤い髪をポニーテールにした女性、アエルスドロ達の依頼主、ティファニーが現れた。
「ああ、こんにちは」
「お茶でもどうぞ。そこの人! お茶を!」
マリアンヌは近くにいた従業員を呼び、ティファニーにお茶を出すように言った。
従業員がティファニーにお茶を出した後、ティファニーは口を開いた。
「何か、新しい情報でも入ったか?」
「大神官、大商人、大魔導師の息子がエマと一緒に何かを企んでいるようですわよ」
「やはり、あの三人が動いていたんだな」
ティファニーはどこか訝し気な表情になった。
あの三人は権力を嵩に着て威張るだけの能無し貴族である。
そんな彼らが何故、大きな事件を企んでいるのか、ティファニーはそれが引っかかっていた。
「……やはりおかしい。絶対に何か裏がある」
「なら、そいつらに直接聞くしかありませんわ」
しかし、もしも三人が本当に能無しならば、彼らは囮の可能性がある。
また、現在はマリアンヌよりもエマの方が人気だ。
有力な証拠を掴まなければ、エマを捕まえる事はできない。
「それよりも、あの青い宝石は一体何だ?」
「私の方で調べたいから取ってきてくれ」
「よし、まずはケルミットを見つけるぞ。確か緑の大きな屋根に行ったな。皆、襲撃に行くぞ!」
「ええ!」
そう言って、マリアンヌ達は緑の大きな屋根の家に向かった。
ガルバ帝国の緑の大きな屋根がある家に、アエルスドロ達は忍び足で侵入していた。
アエルスドロはこっそりと家に近づいて、ドアから覗き込んだ。
中にはケルミットがいて、黒髪を三つ編みにした少女、エマに跪いていた。
「エマ様、我々は今、尾行されているようです」
「まぁ、そうですの? 子猿さん、ちょっと様子を見てくれないかしら」
「キキッ!」
子猿はエマの下から離れ、飛び跳ねながらドアの場所へ駆けていった。
そして、器用な手先でドアを開けると、アエルスドロ達の姿が見えた。
「しまっ……!」
「この猿、私達が尾行していた事を知っていたのか!?」
「ちっ、ばれては仕方ありませんわね……。
エマ・クレーシェル! わたくしは、あなたに勝負を挑みますわ!」
マリアンヌは堂々とドアを開けて、緑の大きな屋根の家の中に入った。
アエルスドロ達も彼女についていき、子猿はエマの下へと戻った。
「マリアンヌ様、貴女に相談があります」
「何なりと」
「そこにいるダークエルフを、殺してください」
そう言って、エマはアエルスドロを指差した。
「殺せ、ですって?」
「貴女もガルバ帝国民ならば、人間以外の種族は根絶やしにするべきでしょう?
それなのに、こんなにたくさん亜人を連れてきて……」
エマはアエルスドロ、ルドルフ、エリー、ミロ、ユミル、驟雨に対し憎しみの目を向けていた。
やはり、彼女はただの「良い人」ではなかった。
「ですが、ここで貴女以外を手にかければ、私は究極のガルバ帝国貴族令嬢になれる。
誰にでも優しい、完全無欠の令嬢に!」
「させませんわ!」
マリアンヌはそう言って、エマに銃弾を飛ばした。
もちろん、威嚇射撃であり、殺傷力はない。
「な、何故……?」
「本当の人間至上主義というのは、人間以外の種族を『排除』する事。
『殺す』ことではありませんわ! あなたは間違っていますわ!」
「間違い?」
「ええ……。それに、わたくしはもう、ガルバ帝国の民ではなく、ナガル地方の民なのですわ!」
ガルバ帝国における亜人達の安らぎの地たる、ナガル地方。
それを、エマによって人間だけの地方にされる事を、マリアンヌは蛇蝎の如く嫌っているのだ。
「わたくしは悪役令嬢として、ヒロインであるあなたを倒しますわ!」
マリアンヌはエマにそう毅然と言い切った。
その言葉を聞いたエマは、くすっと微笑み、そして冷たい声でこう言った。
「……本当に残念です。あなたには……死んでもらいましょう。メイベンさん、お願いします」
「エ、エマ様のために!」
メイベンが指を鳴らすと、精鋭兵達がアエルスドロ達を取り囲んだ。
「それでは、ごきげんよう」
「待ちなさい!」
マリアンヌは急いでエマを追いかけるが、子猿はエマを抱え上げて、テレポートで姿を消した。
残ったメイベン達が身構える。
「みんな、行きますわよ!」
「ああ……!」
「絶対に負けないんだから!」
どんな貴族であっても容赦しない、それがマリアンヌです。
次回はバカ貴族の一人との戦いです。