果たして、マリアンヌ達はエマを捕まえる事はできるのでしょうか。
いよいよ、エマとレーヴェの婚約が発表されるパーティが始まる。
心なしか、町並みもうきうきしている。
しかし、そんな雰囲気をぶち壊すように、一台の馬車が走っていく。
その馬車に乗っているのは、ダークエルフ、悪役令嬢、エルフ、光妖精、吸血鬼二人、
フェルプールと、王道とは程遠いメンバーだった。
「急げぇー!」
皆が馬車に乗って進んでいくと、前の馬車が急に道を塞ぐようにして止まった。
「危なぁぁぁぁぁぁぁい!」
馬車を運転していたミロは、大急ぎで急ブレーキをかけて止めた。
「な、なんなんですの一体?」
「きっと、あれはランディだ」
アエルスドロがそう言うと、馬車からランディと猿を連れたエマが降りてきた。
これで探す手間が省けたとマリアンヌは強がり、馬車から降りてこう言った。
「エマ・クレーシェル! やっと見つけましたわよ! もう馬鹿な事はおやめなさい!」
「馬鹿な事? 私は何も馬鹿な事はしていませんわ」
エマは唇に人差し指を当てて恍けたような表情をしている。
しかし、マリアンヌは動じず、エマを指差してこう言った。
「こんな騒動を起こして許されるとでも思って?」
「騒動? いいえ、ここでは『嫉妬に狂ったマリアンヌ様の攻撃を正当防衛した』となりますわ」
マリアンヌの日頃の行いからか、エマの言葉には説得力があった。
エマが正統派ヒロインなのに対し、マリアンヌは悪役令嬢。
しかし、マリアンヌはあくまでも強気な態度を崩さなかった。
「ところで、そこにいるお猿さん、話がありますわ」
「ウキ?」
猿は怪訝そうな表情で首を傾げる。
「そこにいるぼんやりした女と、自分の力で辺境を良くしたわたくし。
どちらがあなたと組むに相応しいと思いまして?」
マリアンヌは、エマの陰謀を阻止するために猿に仕掛けた。
彼女の言葉に対し、猿は笑いながらこう言った。
「面白い事を言うじゃないか」
「カルキュドリ! 私を裏切る気!?」
「五月蠅い! お前のせいで魔族の俺がどれだけ苦労した事か!」
ついに、猿が本性を表した。
エマの方に乗っていた猿の正体は、猿に変身していたカルキュドリだったのだ。
「話が違います……。仲間を増やすためでは、なかったのですか?」
「キッキッキ、魔族を信じるのが馬鹿なんだぜ?」
困惑するエマを嘲笑うカルキュドリ。
すると、猿に化けた魔族、カルキュドリはエマの肩から離れ、マリアンヌの方に向かう。
マリアンヌは仁王立ちし、口に手を当ててこう言った。
「おーほほほほほほっ! これが、あなたの本当の実力でしてよ」
「そんな……」
信じていたカルキュドリに裏切られたエマの顔は真っ青になった。
エマは震えており、返答する余裕もない。
「まったく、これに懲りたらもう二度と悪事をなさらないでくださります?
……さて、と、皆さん! やっておしまい!」
カルキュドリがマリアンヌに近付いた瞬間、
マリアンヌは仲間にカルキュドリを攻撃するように命じた。
アエルスドロ達は頷くと、武器や魔法でカルキュドリを攻撃した。
「いて、いて、いてぇぇぇっ!」
「悪役令嬢を信じるのが馬鹿ですのよ! おーっほっほっほっほっほ!」
「……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
カルキュドリが咆哮すると、猿は巨大化していき、
やがて黄色い身体と2つの頭を持つ、蝙蝠の翼が生えた大柄な悪魔の姿になった。
その額には、赤い物質が光り輝いていて、エマの青いブローチと対になっていた。
「さぁ、やってしまいますわよ!」
悪役令嬢一行とカルキュドリとの戦いが始まった。
「まずは、こいつらから相手しろ!」
カルキュドリはレッサーデーモンやインプなど、多数の魔物を召喚した。
「トランス・スケイル!」
「分身の術!」
アエルスドロは瘴気で己を鱗で覆う。
驟雨は忍術で分身を作り出して回避率を上げる。
「ナイチンゲール!」
エリーは生命の精霊を召喚し、全員の体力と魔力を回復して万全の体勢を整えた。
「まずはカルキュドリを討ちなさい!」
「オトナシク キエロ!」
マリアンヌがカルキュドリを攻撃するように指示を出すと、
レッサーデーモンやインプは彼を守るように前に立つ。
「まずはこいつからやらなきゃいけないの!?」
ミロはレッサーデーモンを倒さなければならないと知って歯ぎしりを立てる。
レッサーデーモンはインプを召喚して身の回りを守らせた後、
自らは槍を構えてアエルスドロ達に突っ込んでいく。
槍は驟雨に当たったと思ったら消えてしまった。
当然、これは驟雨の分身であり本体にダメージは通らない。
「そんな攻撃、当たりませんわよ!」
マリアンヌも機敏な動きでレッサーデーモンの攻撃をかわす。
しかし、残りのメンバーには命中し、
レッサーデーモンはより効果的なダメージを与えられるように工夫した。
「地の精霊よ、その力を解放し盾となれ! ストーンガード!」
エリーは地の精霊ノームを召喚して最も打たれ弱いルドルフのダメージを軽減した。
「うっ。申し訳ありません」
「いいのよいいのよ、ルドルフが無事ならあたしはそれでいいから」
「油断大敵だぞ?」
「おっと!」
インプの攻撃を紙一重でかわすエリー。
次にインプはアエルスドロに火炎弾を放ったが、エリーが防御魔法で攻撃を防ぐ。
「……この攻撃はかわせはせん。陰陽発止!」
「グギャァァァッ!」
驟雨は凄まじい速さにより見切れない攻撃を行い、レッサーデーモンの急所を短剣で突く。
「ポイズンバレット! 毒に苦しみなさいな♪」
「グ……ウゥゥゥゥ」
マリアンヌは笑顔で毒を塗った二丁拳銃をレッサーデーモンにぶっ放す。
毒を受けたレッサーデーモンは苦しみ出し、マリアンヌは口角を上げた。
魔族以上に邪悪な、まさに悪役令嬢だ。
「なんて黒いよ……」
「わたくしは悪役令嬢ですもの、そうおっしゃってる暇がありましたら敵を潰しなさい」
「もっと黒いよ!!」
エリーはマリアンヌの発言にツッコミを入れつつ、回復魔法でミロを回復する。
「はぁ、ったくどんだけ数が多いのよ」
「まずは数を減らしましょう。
風の上位精霊アイオロスよ、風よ裂けて刃となれ! ウィンドストーム!」
ルドルフは風の上位精霊アイオロスを召喚し、竜巻を起こしてレッサーデーモンを切り裂いた。
「大人しくなさい! ゴッドパンチ!」
ミロは両手に光を纏わせ、レッサーデーモンを思いっきり殴る。
光の力に弱いレッサーデーモンには大ダメージを与える事ができたようで、
レッサーデーモンの身体の一部が消失する。
「やりますね、ミロさん!」
「どう?」
「ボクも続きますよ、ド・ポプル・デ・イグニ・デ・フラゴ!」
ユミルが呪文を詠唱して杖を振ると、
大爆発を起こしてレッサーデーモンとインプをまとめて吹き飛ばした。
爆発が消えた後には、レッサーデーモンとインプは全滅していた。
「ぐぅぅぅう!!」
レッサーデーモンとインプが倒れたと知ったカルキュドリは、
牙をむき出しにして叫び声を上げた。
敵は数が多く、叫び声に乗ってしまうと厄介だ。
「そうは、させませんわよ!」
「グェッ!」
マリアンヌは二丁拳銃から弾丸を放ち、カルキュドリの咆哮を妨害した。
ランディはカルキュドリにライトウェポンをかけて攻撃を強化する。
「グオォォォォォォォォォ!」
「うっ……」
「苦しいです……」
レッサーデーモンは援護を受けつつ、魔に侵された叫び声を上げる。
それを諸に受けたアエルスドロとエリーは毒を受ける。
ルドルフは攻撃に備えて、魔力を強化する呪文を唱える。
「よし、ここはルドルフの見せ場のために……。エレメンタルチェンジ・アース!」
エリーはカルキュドリがいる場所にエレメンタルチェンジを放ち、
カルキュドリとデーモンソルジャーを地属性に変えた。
「まずは、ランディを宝石から解放するぞ。と、その前に……風遁の術!」
驟雨はランディがいる場所に移動し、相手の弱点を突くため忍術で短剣に風を纏わせる。
「正気に戻れ!」
「……はっ!」
無事に驟雨はランディのブローチを外す事に成功。
ランディは正気に戻り、戦闘から離脱した。
「くっ、傀儡が逃げてしまったか……。まぁ、いい。役目は果たしたから良しとしよう」
ランディは、パーティーにやって来た人に、チャームブローチを送ろうとしていた。
もし、ランディを止められなかったら、
招待客がカルキュドリに操られていたと考えると、ルドルフは少し顔が青くなった。
「な、なんて狡猾な!」
「お前が言うな! ……とにかく、貴様らをこの槍で貫いてやろう。
ド・ゲイト・デ・テラ・ド・テネブ!」
カルキュドリは槍を回して突き出すと、広範囲に闇の槍を放った。
「当たらないよ!」
「当たらないわよ!」
エリーとミロは回避に成功したが、
アエルスドロ、マリアンヌ、ルドルフ、ユミルに命中し、アエルスドロが盾で庇う。
「仲間達に怪我はさせん!」
防御魔法を得て、アエルスドロは味方が受ける被害を防ぐ。
続けてレッサーデーモンが鋭利な爪と闇魔法で攻撃するが、
エリーの強力な防御魔法で軽傷に留めた。
次にデーモンソルジャーがマリアンヌがいる場所に突っ込んで、
彼女を槍で串刺しにしようとする。
しかし、魔族の攻撃はマリアンヌが全てかわし、逆に二丁拳銃を叩き込まれた。
「ふ、わたくしの銃を甘く見ないでくださります?」
くるくると二丁拳銃を回すマリアンヌ。
「さぁ、ボクの出番が来ましたよ。ラ・ロタ・ド・イグニ・ラ・ナチュ・ド・テネブ!」
ユミルが杖を掲げて呪文を唱えると、彼の杖を中心として炎の渦が巻き起こる。
真っ赤な炎は魔族目掛けて降り注ぐと、カルキュドリ以外の全員を焼き尽くした。
「これで、どうです!」
「ぐ……。それで終わりか?
ド・ゲイト・デ・テラ・ド・テネブ!」
瀕死の重傷を負ったカルキュドリが、闇の槍を放って攻撃する。
この攻撃がアエルスドロが盾でユミルを守り、彼の代わりに大ダメージを受けた。
「ぐ……回復を頼む」
「あいよ! 生命の精霊よ、この者の傷を癒し給え、ライフヒール!」
エリーが大ダメージを受けたアエルスドロを生命の精霊魔法で回復する。
ついでに自分とアエルスドロが受けた毒もレストアヘルスで回復した。
「遠慮しないぜ! さあ、闇に飲まれろ!」
カルキュドリが闇の槍を投げ、命中すると闇がアエルスドロ達を飲み込む。
「これに耐えなきゃ、死ぬ!
光の上位精霊アスタロトよ、我等に守りの加護を! シェルター!」
エリーは光の上位精霊アスタロトを召喚し、光の壁が膨大な闇を打ち消した。
しかし、ある程度は打ち消せず、闇がアエルスドロ達を貫く。
「……ふぅ、何とか生き残ったぞ」
「馬鹿な……何故生きている!?」
「私はまだ負けられないのだ。せっかく居場所を手に入れたのに、死ぬわけにはいかない!」
居場所を持たなかったダークエルフのアエルスドロは、
ようやく手に入れた居場所に執着しているのだ。
驟雨はカルキュドリの背後に近付いて短剣で突こうとするが、片手が滑り攻撃を外してしまう。
しかし驟雨はもう片方の手ですぐに持ち直し、竜巻がカルキュドリを飲み込んだ。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!」
「全力で行かせてもらうわよ!」
「おっと、そうはいかん!」
「それでも当てるわ! ゴッドキック!」
カルキュドリはミロの強烈な一撃を受け、地に膝をつく。
「効いてます! ルドルフ、頼みますよ」
「任せてください。
風の上位精霊アイオロスよ、旋風となり逆巻き、悠久なる眠りへと誘え! タービュランス!」
ルドルフの上空で、巨大な竜巻が渦巻き、カルキュドリを飲み込むと切り刻んだ。
だが、カルキュドリはまだ立っていた。
「ギギィ……だが、これで終わりだ! ラ・レクス・ラ・ロタ・マ・ギ・ド・テネブ!」
カルキュドリが呪文を唱えると、アエルスドロ達に暗黒の血液が降り注ぐ。
あれを回避しなければパーティは壊滅してしまう。
「……ふっ」
「当たりませんわよ!」
何とか体が軽いマリアンヌと驟雨は回避に成功したが、
アエルスドロ、エリー、ミロ、ユミルに命中する。
「させるかぁぁぁぁぁぁっ!」
「光の上位精霊アスタロトよ、我等に守りの加護を! シェルター!」
アエルスドロはエリー、ミロ、ユミルを庇い、
エリーは防御魔法を使ってミロとユミルを生き残らせる。
この結果、ミロとユミルは生き残り、アエルスドロは……。
「後は、頼む……」
戦闘不能になり、ばたりと倒れた。
「「アエルスドロ!」」
「カルキュドリ、よくもわたくしの盾を! 思い知らせてあげますわ!」
「ウオォォォォォォォォ!」
カルキュドリはマリアンヌに突っ込んで槍で攻撃する。
「エマへの愛が、お前を潰す!」
「そうはいかないわよ!」
ミロはマリアンヌを庇い、代わりに彼女がその槍に貫かれた。
このダメージは防御魔法でも防ぎきれず、ミロは戦闘不能になった。
「ミ、ミロさん!」
「大丈夫よ、後はあんた達がやりなさい……」
「ミロさん……。マリアンヌ、行きますよ!」
「ええ!」
ユミルは凛々しい表情になり、杖を構え呪文を詠唱する。
マリアンヌも彼と共に二丁拳銃を構える。
「わたくし達のやる事は!」
「ただ一つ!」
「「あなたを倒す事です(わ)!!」」
「させるか! うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
カルキュドリは咆哮を上げてユミルの呪文詠唱を阻止しようとする。
マリアンヌはカルキュドリの前に出ると、二丁拳銃で踊るようにカルキュドリを足止めする。
「うぐ、あ、うあぁ!」
「ミロさん……アエルスドロ……」
アエルスドロとミロの思いがユミルに力を与える。
ユミルは心を研ぎ澄まし、目の前の敵を倒す最大の力をイメージする。
「ド・ゲイト・デ・ホル・ラ・ロタ・ド・ステラ!」
そして、ユミルが杖を振り下ろすと、巨大な隕石がカルキュドリ目掛けて落ちる。
隕石がカルキュドリに命中すると、大爆発がカルキュドリを包み込んだ。
「これで、最後です……!」
ユミルの言葉と同時に、カルキュドリは倒れた。
ほとんどが満身創痍の中、ユミルは地に足をつけて立っていた。
~モンスター図鑑~
カルキュドリ
黄色い身体と双頭を持つ魔族。
動物に姿を変える事ができ、狡猾で、残虐な性格。
デーモンソルジャー
魔族の中でも高い実力を持つモンスター。
武術、魔術共に、高い実力を持つ。