「さあ! とどめですわよ!」
「……」
カルキュドリは、最早戦える気力を持たなかった。
マリアンヌは遠慮なく二丁拳銃をカルキュドリに向け、とどめを刺そうとする。
しかし……。
「とどめを刺されるくらいならば、僅かな力で、この女を……!」
「!」
カルキュドリはその指でエマを指差すと、彼女の身体が光り出した。
「何をするつもりですの!」
「この女はいずれ……アラネアに……!」
カルキュドリがそう言うと、カルキュドリは燃え尽き、灰となって消滅した。
同時に、魔族に操られていたエマも、光となってどこかに消えていった。
そして、この場に残されたのは、アエルスドロ達だけだった。
「……アラネア、か……」
魔族は倒され、陰謀はティファニー達も把握し、エマと皇子の結婚は破談となった。
本来ならば次にエマは裁きを受ける事になるが、
彼女が行方不明になっている以上それはできなかった。
舞踏会は当然中止、帝都の人々も訝しがるが、やがて忘れられてしまうだろう。
「エマ……」
アエルスドロは、エマがいた方を見つめていた。
今はもぬけの殻になっており、風が吹くのみ。
「助けたいのは分かりますけど、エマが連れていかれた場所がどこか分からない以上、
今動いても無駄ですよ」
「……」
「……戦いは終わりましたし、今は無事に勝てた事を喜びましょう」
そう、マリアンヌの言う通り、不安は残ったが戦いは終わったのだ。
ひとまず脅威が去ったため、アエルスドロ達はナガル地方に帰る事にした。
港に潮風が吹き、マリアンヌの髪を揺らす。
ダークエルフと悪役令嬢とその仲間は、もうすぐナガル地方に帰還する。
次の航海は、帝都に戻ってきた時とは違ったものになるだろう。
「皆様、もちろんわたくしのナガル地方についてきますわよね?」
「当然だ、この命が尽きるまで君についていこう」
「僕は運命ではなく、自分の意志でマリアンヌさんに仕えたいのです」
「あたしも、ルドルフと一緒だよ!」
「最初はここで終わる予定だったんだけど、あなたを見ていたら放っておけなくてね」
「エマを助けるまで、ついていきますよ」
「……俺はもう、誰も裏切らない」
アエルスドロ、ルドルフ、エリー、ミロ、ユミル、驟雨は、
マリアンヌについていく事を決めた。
悪役令嬢ながら皆から信頼を受けている事に気づいたマリアンヌは、感動のあまり涙を流した。
「マリアンヌ、仕事をくれ」
「安月給ですけどいいですわね?」
「君という人は!」
アエルスドロとマリアンヌのやり取りに、一同は大きく笑い、驟雨も小さく微笑んだ。
ミロは彼をちらっと見てくすっと笑みを浮かべた。
「では、話が決まったところで、早速出港しよう!」
帝都を騒がせた悪役令嬢、マリアンヌ・フロイデンシュタインが、この帝都を去っていく。
そんな話をどこかから聞きつけたのか、
彼女達の出港時は、多くの人が見送るために姿を見せていた。
「こ、こんなに人がいるの!?」
港には大勢の人達が見送りに来ていた。
ボンクラ貴族や、新聞記者のロルフ、そしてマリアンヌの両親。
両親は、マリアンヌの活躍を見て、勘当を解いたようだ。
「ふふ、お父様、お母様、見てくれましたか? わたくしは、魔族を倒しましたのよ。
本当なら帝都に帰りたかったけど、こんなに信じられる仲間がいますもの。
わたくしはナガル地方にもうしばらくいますわ。だから、あなた達は帝都で待っていなさい!」
マリアンヌは両親に別れの挨拶をした。
そして、そこから少し離れたところにある馬車の中から、
ティファニーがマリアンヌ達を見送っている。
その馬車の中で、ティファニーはこう言った。
「君達は悪ではあるが、本当の悪ではない。
本当の悪というのは、自分が悪である事を自覚していない奴や、正義や権力を振りかざす奴だ。
私は、そういう奴は絶対に許さない。君達、悪役令嬢に幸あれ、だ」
やがて、出航の時間となり、船はガルバ帝国の岸を離れていく。
「さあ、皆さん! わたくしの野望に、最後まで付き合いなさい!」
「「「「「おーっ!!」」」」」
「……」
そして、風を受けた帆船は、港から海に向けて滑るように走り出す。
マリアンヌは甲板に立ち、船の進む先を見つめる。
「いよいよ、ナガル地方に帰りますのね……」
今やすっかり自身の領土と化したナガル地方。
その地にいよいよ、戻ってくるのだ。
「さあ、次はどんな冒険が待っているのかしら?」
「もう私達は冒険しまくりで疲れたがな……」
「アエルスドロ、まずは祝祭を上げますわよ!」
「……そうだな。ひとまず、戦いは私達の勝利で終わったからな」
そして、船が港に到着した後、領主マリアンヌは住民に向けてこう言った。
「ただいま、帰還しましたわ!」
エマ編はひとまず終了です。
次回からは再び、ナガル地方編に戻ります。