しかし……。
その頃、アエルスドロ達は、アンダーダークでの休息を終えて、外に出ようとしていた。
「もうそろそろ体力も回復した頃だし、元凶を叩きに行こうかしら」
「叩くって……」
さて、ここまでのあらすじをまとめよう。
ナガル地方に瘴気が溢れ出るのを防ぐため、アエルスドロ達はアンダーダークに向かった。
そのアンダーダークでアンデッドになった執事のアルトンを眠らせ、
戦いの疲れを取るために休んだのだ。
そして、疲れが十分に取れたため、瘴気の元を取り除こうとここを出る事にした。
「……そうだな。一刻も早く異変を解決し、ナガル地方を救わなければな」
「わたくしのナガル地方、悪い奴に侵略されてたまるものですか!」
八人が部屋を出て、右の方に向かうと、上空に、鋭利なナイフが無数に滞空していた。
もし回避に失敗すれば、これらが物凄い勢いで落下してくるだろう。
「ここは、ボクが出ますね」
ユミルはそっと前に出て、罠をわざと発動し、皆が罠にかからないようにした。
彼が少し前に出ると、ギリギリユミルから離れた場所に大量のナイフが落ちてきた。
「危なかったです。できるだけ罠が少ないところを進みましょう」
「そうだな」
ユミルを先頭にして、アエルスドロ達は罠がないかを慎重に調べながら移動した。
だが、彼らの目の前に、二体のオークが現れる。
「雑魚が、私の前に立つな! ダブルスラッシュ!」
アエルスドロはオークを二回連続で斬りつけ倒す。
「パワークラッシュ!」
「ブライトショット!」
茜は全体重をハンマーに乗せて振り下ろし、オークの頭を叩き潰し、
エリーが光の弾を放ってとどめを刺した。
「あら? あなた、攻撃魔法を使えるんですね」
「へっへー、サポートだけじゃないんだよ」
エリーが敵を倒した事をユミルに褒められて喜ぶ。
彼女は回復や支援を得意とするが、攻撃魔法も弱い威力だが使うができるのだ。
「さて、探索再開ですね」
「……おっと。風の精霊よ、大気の動きを静め、沈黙を導け。サイレンス」
オークを倒して、八人が探索を再開すると、どこからともなく不快な風鳴りが響いてきた。
ルドルフは音を聞かないように、風の精霊を召喚して周りの音を消した。
これで、不安になる事なく、探索を続ける事ができるようになった。
「……むぐ」
すると、驟雨が急に険しい表情になる。
「どうしたの?」
「瘴気を少し吸って、気分が悪くなった」
「あらまぁ……お大事に」
「……そして、向こうに魔物がいる」
驟雨は、洞窟の壁に吸血蝙蝠がぶら下がっているのを発見した。
吸血蝙蝠はまだ驟雨に気づいていないため、驟雨は音を立てずに吸血蝙蝠にナイフを投げる。
ナイフが刺さった吸血蝙蝠は、驟雨に気づく事なく墜落した。
「食らいなさい!」
そして、ミロが吸血蝙蝠に踵落としでとどめを刺した。
「大した相手じゃなかったわね」
「まぁ、一匹だけでしたし、何よりミロさんが強すぎますから」
ミロは、仲間達の中でもかなり戦闘能力が高い方に入る。
彼女さえいれば道中は平気なのだが……彼女一人だけでは、
他の仲間の出番を奪ってしまうのが玉に瑕だ。
「瘴気が強い方を探そう。そこに元はあるはずだ」
アエルスドロは、瘴気を感知し、より強いところへと七人を案内した。
「うーん……道は近いが……」
西の方に行くと、目の前に瘴気で腐った沼地が広がっている。
このまま進むと、沼地に溜まった瘴気の影響でダメージを受けてしまう。
「遠回りした方がよさそうですね」
「ああ」
「あたしと茜は飛べるから、先に進むわね~」
「任せておけ」
空を飛べるエリーと茜に先回りしてもらい、他の六人は迂回する事にした。
「茜ってさ、天狗なんでしょ? 空を飛べて、力も強くて、傷も癒せるなんて、凄いな~」
「お前も魔法で傷を癒せるだろうが」
「あっ、そうだったねぇ。でも、キミも傷を癒せるでしょ?」
「私が得意なのは、どちらかというと防御の方だ。傷を癒すより味方を守るのが性に合うからな」
意外に謙虚な態度を取る茜と、からかうような口調のエリー。
空を飛べるもの同士の、楽しそうな会話である。
「ただいま!」
エリーと茜は、アエルスドロ達と再会した。
「やっぱり瘴気はきつかったよねぇ」
「ああ……耐えられるのは私とミロくらいだったからな、迂回を選んだのはそれが理由だ」
「でも、また罠が見えましたよ」
八人が進もうとした通路は、棘状の岩などで覆い尽くされていた。
上手く通らないとすぐに擦り傷だらけになってしまう。
「よし、引っかからないように通りますわよ」
マリアンヌは、岩に引っかからないように身体を捻って奥に進んだ。
衣服が切れないように、ギリギリではなく、余裕をもって罠を避けていた。
そして、奥まで進むと、レバーを見つけた。
「このレバーを倒せば!」
マリアンヌがレバーを倒すと、道を塞いでいた岩が全て地面に沈んだ。
「ほら、この通りですわ」
「おぉ、マリアンヌやるぅ!」
「もっとわたくしを褒めたたえなさい、おーっほっほっほっほっほ!!」
「は、はは……;」
マリアンヌはアンダーダークに響く高笑いをした。
アエルスドロはマリアンヌに苦笑した後、
仲間達が瘴気の影響を受けないように、弱い瘴気を放って守る。
すると、驟雨の険しい表情が柔らかくなった。
「楽になった……助かる」
「あたしもだよ、気分が悪かったからね~」
驟雨が楽になり、他のメンバーの表情も和らいだところで、八人は探索を続けた。
途中、不快な風鳴りをシルフが吹き飛ばしたり、スケルトンの群れをバラバラにしたりしたが、
一行はもうすぐ目的地に辿り着こうとしていた。
しかし、それを阻むかのように、通路が巨大な岩によって塞がれている。
「せっかくここまで来たのに、どこまでもあたしの邪魔をするのね」
ミロはここに来るまでにたくさんの障害があった事に不満を抱いていた。
「時間稼ぎのためだ」
目的のためなら決して手段を問わない、それがダークエルフだ。
アエルスドロはそれを痛いほど良く知っており、彼の険しい表情からもそれが伺える。
「どかさなきゃいけないのね……。アエルスドロ、あたしと二人で押すわよ」
本当は、ミロは彼女一人で岩を押したかった。
しかし、このパーティの主役はアエルスドロとマリアンヌである。
ミロが活躍すれば二人の立場を奪ってしまうため、アエルスドロと一緒に押す事を決めたのだ。
「ありがとう、ミロ……」
「どういたしまして。いっせーの……」
「「せい!」」
アエルスドロとミロが同時に巨大な岩を押すと、巨大な岩はズズズという音と共に動いた。
すると、向こうから濃密な瘴気の臭いが漂った。
「う……なんて酷い臭い……!」
「ああ……ここに私達の目指すものがある……!」
ついに、アエルスドロは目的地を見つけた。
ナガル地方の瘴気を消し去るためにも、必ず攻略しなければならない場所。
アエルスドロは剣に手をかけ、マリアンヌも二丁拳銃を取り出す準備に入っていた。
「……行くぞ」
「はい!」
覚悟を決めた八人は、奥の部屋に入った。
八人が入った部屋は、魔導師ではないマリアンヌにも分かるほど濃密な瘴気で満ちていた。
長い間いると、心身がおかしくなってしまう。
アエルスドロが弱い瘴気で守らなければ、あっという間に倒れていたかもしれない。
「来たか」
「キアラン……?」
その部屋には、アエルスドロが見知ったダークエルフの女性が、魔物を従えて立っていた。
その女性の正体は、アエルスドロの実の姉、ツリーンマチャス家の現当主、
慈母キアラン・ツリーンマチャスだった。
次回は慈母になったキアランとの戦いです。