姉を討ち取る時、善のダークエルフは何を思うのか……。
アンダーダークから濃密な瘴気を出し、ナガル地方にまで影響を及ぼしていたのは、
アエルスドロの実の姉、慈母キアランだった。
「また会えたな」
「ああ……会いたいと思っていたよ」
そう言って、アエルスドロはキアランに剣を突きつけた。
「えっ? キアランってキミのお姉さんなの? どうして殺さなきゃいけないの?」
エリーは今の光景にキョトンとした顔をする。
キアランとアエルスドロが姉弟であるのも初耳だったが、
それ以上に実の姉弟で殺し合うのをエリーは疑問に思っていた。
「待て、エリー! そんな事を言ってはならん! あくまでも彼女は、慈母キアランだ」
「慈母?」
「ダークエルフ社会で最も地位が高い者の事だ。
たとえ血の繋がりがあっても、そう呼ぶのがしきたりだ」
アエルスドロは、エリーにダークエルフの社会について説明する。
裏切りや暗殺などの非道は美徳行為となる、
血が繋がっていても家族として扱ってはならない、男性よりも女性の方が地位が高い、など。
「アエルスドロ……一族の裏切り者である貴様が、何故ここに帰還した」
「今、ある地方が瘴気に汚染されようとしている。私はそれを払うために戻ってきた!」
アエルスドロは毅然とした表情でキアランに叫ぶ。
実の姉キアランに剣を向ける……それは、アエルスドロに唯一残った、
ダークエルフらしい部分だった。
「私は許さない……アルトンをアンデッドに変えた貴様を!
家族を見捨てて地上に逃げた、私自身を!」
「……」
マリアンヌは、アエルスドロがここまで感情的になったのを見た事がなかった。
アエルスドロは、一度は去っていったアンダーダークに帰還し、
異変の黒幕である姉と再会し、感情を噴出したのだろう。
キアランはそんなアエルスドロを鼻で笑う。
「ふん、威勢だけはいいな」
「何?」
「貴様らにはこれを見せてやろう」
キアランはそう言うと、八人に映像を見せた。
それは、魔法陣の上に寝ているエマと、数十人のエルフと、悪魔の姿だった。
「エマ!」
「アラネア様はこの上に降臨される」
『……』
『器を捕らえる事に成功したぞ。彼女の身体からは純粋な力を感じる。
我らが神を受け入れるために必要な資質だ』
魔法陣の上には、エマが横を向いて眠っている。
彼女の横には悪魔がおり、さらにエルフ達が虚ろな表情で魔法陣に魔力を注ぎ込んでいる。
『……う……』
『眠れ』
悪魔は、エマが意識を取り戻そうとしたところで睡眠魔法を唱え、再び意識を失わせる。
意識が残るのも器に相応しくないため、エマには眠っていてもらうのだ。
キアランは映像を消した後、含み笑いをしてアエルスドロ達に向き直る。
「どうだ……? エマという女の姿は」
「……」
エマの姿を見たマリアンヌは、このダークエルフに対し苛立っていた。
まだ怒鳴ってはいなかったが、確実に、彼女はキアランに怒っていた。
「『器』と言ったという事は……まさか、エマさんを器にして、儀式を行うつもりですか?」
「いや、召喚はまだ行わん。魔力が足りないからな」
キアランは、ルドルフにまだ儀式を行わない理由を話した。
邪神アラネアを現世に召喚するには、大量の魔力と、魂を入れるための器を必要とする。
そして、アラネアの器は、強く純粋な心を持つ女性が相応しい。
器は用意できたが、アラネアが完全に力を発揮するためには大量の魔力がなければならない。
その魔力を用意するために、エルフ達を操り魔力を邪神に捧げたのだ。
「貴様が善の心を持ち、私を裏切った事で、我がツリーンマチャス家は没落した。
その落とし前として、私は二人の妹をアラネア様の生贄に捧げた。
そして、貴様がエマと言った娘を媒体にアラネア様を召喚し、
ツリーンマチャス家を再興し、他の家系を恐れさせるのだ」
「そんな……そんな事のために瘴気をナガル地方にばら撒いて、エマを拉致しましたの!?」
キアランはエマを邪神の器に作り上げ、他のダークエルフが恐れる存在になりたかったのだ。
マリアンヌはナガル地方を瘴気で汚し、エマを攫い、
さらには邪神召喚の贄にしようとしたキアランに完全に怒り二丁拳銃をキアランに突きつけた。
「あの瘴気は副産物だ。そのナガル地方は、単に巻き添えを食らっただけだ」
「くぅ……許せませんわ! 食らいなさい!」
マリアンヌはキアランに発砲したが、キアランは身体を逸らして回避する。
壁には、マリアンヌが放った二発の銃弾が埋まっていた。
「さて、茶番はここまでにしよう。
貴様らは私が皆殺しにし、その身体をアラネア様に捧げよう。……いいな?」
キアランは大神官の杖を構え、彼女が従えた魔物も殺意を向けた。
「来ますわよ! 皆、準備はよろしくて!?」
キアランとアエルスドロ達の戦いが、始まった。
「ウオオオオオォーーーッ!!」
オーガウォリアーは雄叫びを上げて戦意を高める。
「multiple la vitesse deni arreter」
「トランス:スケイル」
キアランはオーガウォリアーの行動力を高め、真っ先に攻撃できるようにする。
アエルスドロは瘴気で鱗を作り、自身の防御力を上げた。
「ラ・ナチュ・マ・ギ・ド・イグニ・ド・ヴェン!」
ユミルは火炎の嵐を起こす魔法でオーガウォリアー達を包んで焼き尽くす。
「ちぃ、よくも潰してくれたな。これを受けよ!」
キアランが舌打ちして呪文を詠唱すると、杖が黒く輝く。
攻撃魔法を使って、一網打尽にしようとしていた。
「……させん」
驟雨は、キアランが詠唱中にその場にあった小石を拾ってキアランに投げつけ、
詠唱を中断させ魔法の発動を防ぐ。
その後、ビッグスパイダーを短剣で刺し牽制する。
「銀の弾丸、受けてみなさい!」
マリアンヌは二丁拳銃に銀の弾丸を込めてキアランの腹を撃つ。
「うぐぅっ!」
「キアラン様! くそ、これでどうだ! サモン・カトブレ……」
「させませんわよ!」
ダークエルフサモナーが召喚術を使おうとしたところに、
マリアンヌが牽制で銃を撃ち詠唱を中断する。
「光の精霊よ、我が召喚に応え敵を討つ雷となれ! ブライトショット!」
ルドルフはその隙にダークエルフサモナーに杖から光の弾を放ち、光の爆発で攻撃する。
闇に属するダークエルフなので、弱点の光魔法を使い大ダメージを与えたのだ。
「厄介なこいつから倒す必要がありそうね。食らいなさい! でえいっ!」
「ピアシングスラスト!」
ミロは踵落としでダークエルフサモナーを攻撃し、続けてパンチをぶちかます。
ビッグスパイダーはアエルスドロを足で叩き、エリーはアエルスドロの武器を魔法で強化した。
援護を受けたアエルスドロは、ビッグスパイダーに強力な刺突攻撃を放った。
「この一撃を受けよ! ホーリーハンマー!」
茜は聖なる気を纏ったハンマーをビッグスパイダーに振り下ろし、大ダメージを与えた。
「おのれ……人間以外とはいえ、このような非道は決して許さぬ!」
茜は、キアランに対し激しい怒りを抱いていた。
「人間以外」と言っているのは、彼女は人間に少し嫌悪感があるからだ。
キアランは相変わらず余裕の笑みを浮かべている。
「その余裕、いつまで続くかしら? 破壊の腕!」
ミロは腕を伸ばし、ダークエルフサモナーをずたずたに切り裂いた。
「ダークエルフサマナーを倒したか……。だが、私のこの魔法を防ぐ事はできるか?
pouvoir pouvoir jouer pouvoir!」
キアランは激しい炎の渦を起こし、ルドルフ、エリー、ユミルを巻き込んだ。
彼女の高い魔力が、より火力を強め、三人の身体を焼いていく。
「プ……プロテクション!」
「守護の術!」
「エーテルアーマー!」
エリー、茜、ルドルフは魔法でバリアを作り、威力を和らげるが、
それでも大ダメージは避けられなかった。
「うぅっ……まったく、熱いですね」
「この炎に耐えるとはな。だが、勝つのは私だ」
「そんな事にはさせませんわ! 驟雨、あの蜘蛛を弱らせなさい!」
「ああ。陰陽交叉!」
驟雨はビッグスパイダーの急所を見極め、2本の短剣をそこに突き刺した。
「デスショット!」
マリアンヌは壁に向かって銃弾を撃つ。
キアランは「どこに当てている」と笑ったが、銃弾は跳ね返ってキアランに命中した。
「な、何?」
「跳弾ですわ、この一撃は痛くてよ」
「くそっ……」
「「生命の精霊よ、傷つきし者には癒しを、敵対するものには裁きを。
リーンカーネーションブレイズ!」」
そして、ルドルフとユミルは、生命の精霊の力を借りて光り輝く炎をビッグスパイダーに放つ。
ビッグスパイダーに炎が当たると、眩い光の爆発が起こり、ビッグスパイダーは光の中に消え、
さらに味方全員の体力と魔力を回復した。
「攻撃と回復を兼ね備えた魔法、見ましたか?」
「本当は僕と協力して出したんですけどね……。さて、と。
勇気の精霊よ、彼の者に勇気を与え給え! ファナティシズム!」
ユミルがくるくると杖を回転させる。
ルドルフは苦笑しながらも杖を構え直し、アエルスドロと茜に補助魔法をかけた。
「勇気が湧いてくる……よし! キアラン、覚悟はいいか! ミアズマバッシュ!」
アエルスドロは瘴気を纏った剣をキアランに振り下ろす。
「ダッシュブレイク!」
「ぐああぁぁぁ!」
茜はその翼でキアランに突っ込んでいき、鈍器を思いっきり脳天に振り下ろした。
攻撃はキアランにギリギリ当たり、キアランは頭を押さえふらふらする。
「お……のれ……。こうしてくれる……。pouvoir pouvoir jouer pouvoir!」
キアランは攻撃を当てたアエルスドロと茜を睨みつけ、激しい炎の嵐で二人を焼き払った。
「うぐ……」
「熱いな……くっ」
「すぐに回復するね! エリアライフヒール!」
エリーは負傷したアエルスドロと茜を回復魔法で治す。
「皆様! 彼女は我がナガル地方を汚し、我が好敵手にまで手をかけました!
これは許されざる事です! さあ、手加減をせず、全力で彼女を攻撃しましょう!」
「おーーーーーーーっ!!」
マリアンヌの号令により、パーティメンバーの指揮が大きく上がった。
「クリムゾンフラッシュ!」
ミロは今がチャンスと、キアランに突っ込んで魔力を纏った連撃を食らわせる。
キアランはそれをまともに食らって地面に叩きつけられてしまった。
「貴様ぁ! pouvoir pouvoir jouer pouvoir!」
キアランは怒って炎の嵐を起こし、マリアンヌと驟雨を攻撃する。
「飛苦無」
「ピアシングショット!」
しかし驟雨はそれで怯む事なく、キアランに苦無を投げつける。
マリアンヌもキアランの防御が薄いところを拳銃で撃ち貫いた。
「蛮勇の精霊よ、勇敢なる者を守り給え! バルキリースピア!」
「ド・ゲイト・デ・テラ・ド・テネブ!」
ルドルフが呼び出した光の槍と、ユミルが呼び出した闇の槍がキアランに刺さり、
光と闇の大爆発が起こった。
「これで、とどめだ! 冥火幻舞刃!!」
「ぎゃあああああああああああ!!」
そして、アエルスドロは剣に地獄の炎を纏わせ、キアランを斬りつけた。
地獄の炎はキアランの身体を包み込み、跡形もなく焼き尽くした。
「……勝った……」
~モンスター図鑑~
ビッグスパイダー
巨大化したスパイダー。
毒もあり、糸も大きくなっているので、油断禁物だ。