ダークエルフと悪役令嬢   作:アヤ・ノア

49 / 60
キアランを倒した後の、アエルスドロのその後。
ダークエルフにも、心はあるのです。


第48話 アエルスドロの歩む道

「ア……エ……ル……ス……ド……ロ……」

 アエルスドロの姉キアランは、地獄の炎の中に消えていった。

「終わっ……た……」

 アエルスドロは、その場にぺたりと座り込んだ。

 炎が消えたすぐ後に、アンダーダークを覆っていた瘴気も、跡形もなく消え去った。

「瘴気が消えましたわ……。やりましたわね、アエルスドロ! ……アエルスドロ?」

 ナガル地方を守った事で、マリアンヌは喜んだ。

 しかし、アエルスドロは何故か、浮かない顔をしていた。

「……キアラン、たとえ貴女が私を裏切り者と言っても、私にとっては家族だった。

 その家族を討ち取った今、私は本当の家族を全て失った」

 アエルスドロの家族の中で唯一生き残った姉、キアラン。

 しかし、ナガル地方に瘴気を撒き散らした張本人だと知ったため、

 彼はキアランを倒さざるを得なくなった。

 そしてキアランは倒れ、こうしてアエルスドロは全ての家族を失ったのだ。

「貴方にとってはキアランは姉ですからね。普通の人では、その死を悲しく思うでしょう」

「私は生憎、その『普通の人』だからな」

 ルドルフが言った「普通」とは、ダークエルフでない種族の普通である。

 アエルスドロはその「普通」を持ってしまったからこそ、

 他のダークエルフとは異なる思考になったのだ。

「……エマ……」

 マリアンヌは、エマの居場所を知って、ぎゅっと握り拳を作った。

 強く握った拳に、汗が少し滲んでいる。

 エマを邪神降臨の器にされた事が、マリアンヌは静かに怒っているのだ。

「マリアンヌ、エマを助けに行くのか?」

「まさか。こんな疲れている状態で行っても倒れるだけですわよ」

 アエルスドロ達は、アンダーダークを歩き回り、様々な敵や罠を潜り抜けていった。

 その間で、体力も魔力も消耗してしまっている。

 これでは、エマを追いかけようとしても逆にこちらが倒れてしまうだけだと、

 マリアンヌは判断したのだ。

「ひとまず地上に戻って、身体を休めましょう」

「ああ……身体も痛いし疲れるし、一度リフレッシュさせよう」

 こうして、八人はアンダーダークを出て、ナガル地方に帰還するのであった。

 

「お帰りなさい」

「お帰り、マリアンヌ」

「ディスト……ファルナ……」

 帰還したマリアンヌは、副官のディストと料理人のファルナに迎えられた。

「皆さん、大丈夫ですの……?」

「ええ、貴女のおかげでナガル地方は無事ですよ」

「これはあたし達からのお礼さ! 受け取りな」

 マリアンヌ達が慈母キアランを倒して、瘴気の元を消し去ったため、

 ナガル地方が瘴気で覆われる事はなくなった。

 ディストとファルナはマリアンヌに感謝し、彼女に多額の報酬を渡した。

「まあ、こんなに!」

 その報酬は一人20000Z、ナガル地方に左遷された時はそんなに受け取れなかった額だ。

「うふふっ、これでナガル地方がどんどん発展していきますわね」

 資金が溜まったため、ナガル地方を発展させたいとマリアンヌは考えた。

 アエルスドロは「今更か……」と思いながらジト目でマリアンヌを見ていた。

「さて、まずはどうしましょう。……城は建てましたし、後、足りないものと言えば……」

「食糧だな」

「そうですわ。特に、肉とか」

 ナガル地方の農地は広く、川もあるが、

 そこから出る食糧が野菜や魚ばかりで栄養が偏っていた。

 肉は狩人が獲るのだが、収入が不安定になる。

 そこで、狩人に頼らずとも肉が取れるようにナガル地方を開発したいのだ。

「じゃあ、牧場を作るんだね! 楽しそー!」

「あら、作るのはそこそこ地味ですわよ?

 わたくしは地味なものは嫌いですので、アエルスドロとミロがやりなさいな」

 マリアンヌは、牧場作りをアエルスドロとミロに任せる事にした。

「えー、なんであたしが?」

「あなた達は武官だからですわよ。力仕事はしたくありませんの。さあ、牧場を作りなさーい!」

「……はいはい。手伝うわよ、アエルスドロ」

「分かった」

 ミロは、渋々アエルスドロと共に、牧場を作るのであった。

 

 数分後、ナガル地方に立派な牧場が出来上がった。

「ふ~、牧場ができたわ」

「もうできましたの? じゃあ、牛を呼びましょう」

 マリアンヌは、金とコネを使ってナガル地方に牛を呼び寄せ、牧場に入れた。

「よし、牧場は完成しましたわ!」

「これで肉や乳製品を使った料理も豊富になるな」

「そのためにも、しっかりと牛を育てましょう。

 牛が元気じゃないと、ボク達も元気じゃなくなりますからね」

 茜は、牧場を作ったおかげで、当分は食糧に困らないだろうと考えた。

 ユミルは、そのためにも、健康な牛を育てなければと考えた。

「じゃ、今日の夕食も、あたしが張り切って作るからね。楽しみに待ってるんだよ」

「はい!」

 

 そして、ファルナが食事を作っている間に、

 アエルスドロとマリアンヌは城でこれからの事を話していた。

「さて、エマの居場所も分かりましたし、彼女を助ける準備が必要ですわね……」

 エマは悪魔にさらわれ、邪神の器になろうとしている。

 邪神が現世に現れれば、ナガル地方だけでなく、アルカディアが闇に包まれてしまう。

 幸い、儀式には時間がかかりそうなので、焦る必要はないようだ。

「エマ、せっかく見つけたんですもの。何としてでも連れ戻しますわ」

「無力な人間を贄にしようとするとは、あの悪魔め、許せん!」

 アエルスドロは、戦闘力を持たないエマを邪神に捧げようとした悪魔に義憤した。

 マリアンヌは、エマの行方を知り、必ず彼女を連れ戻すと誓った。

「……アエルスドロ。この戦いが終わったら、あなたはどうしますの?」

「……旅に出るよ」

「旅に?」

 このままナガル地方に永住しないのか、とマリアンヌは問うが、アエルスドロは首を横に振る。

「ここが住みやすい場所とはいえ、やはり私はダークエルフ。

 もし、私を迫害する者がいれば、私はまた命を狙われる。安息は、事実上ないからな」

 アエルスドロは、生来、疑り深い性格だ。

 裏切り者のロルフがいたように、いつ、裏切られるのか分からないために、

 ナガル地方にも長くはいられないとアエルスドロは考えたのだ。

「私はいずれここを発つ。君はこれを皆に連絡してもいいし、しなくてもいい。

 では、私はこれで」

 そう言って、アエルスドロは城を立ち去った。

 

「アエルスドロ……」

 マリアンヌは、アエルスドロが立ち去った方向を寂しそうな目で見ていた。

 彼の腹部に銃弾を撃ったのが、アエルスドロとの初めての出会いだった。

 その後は、彼をこき使ってきたのだが、いざ別れるとなると、寂しくなってきた。

 最初は引き留めようと思ったが、アエルスドロの気持ちを汲んで彼を見守った。

 

「……あまり考えすぎても何も起こりませんわね。今は、ご飯を食べて、ゆっくり休みましょう」

 うじうじ悩むなんて自分らしくないとマリアンヌは思ったのか、

 彼女は席を立ち、外に出るのだった。




次回はエマを探すために、パーティーが決意します。
ヒロインを救う悪役令嬢……もえませんかね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。