悪役令嬢もこんな風に変わっていく事があるんです。
今日の夕食は、炊き込みご飯、刺身、漬物といった、倭国料理となった。
「いただきます」
マリアンヌはファルナが作った漬物に口を入れる。
「どうしたんだい、マリアンヌちゃん? 元気ないねぇ」
「……なんでもありませんわ」
アエルスドロがナガル地方を旅立っていく事については、マリアンヌは誰にも話さなかった。
マリアンヌはそれをまだ気にしているらしく、ご飯を食べる時もどこか元気がなさそうだった。
「なんでもない、じゃないよ。
あんたが元気じゃなかったら、ナガル地方のみんなはどうなるんだい!」
「そ、そうですわよね……。わたくしはここの領主ですものね……」
ファルナはマリアンヌを心配して大声を上げる。
マリアンヌは慌てて、表情を元に戻す……が、どこかぎこちないものであった。
「どうした、マリアンヌ? ご飯や刺身が冷めて、美味しくなくなるぞ?」
「茜……。ちゃんとご飯は食べますわよ。余計な心配はかけなくてもよろしいですわ」
「マリアンヌ……」
茜も、元気がないマリアンヌが心配になるが、マリアンヌは大丈夫だと言った。
しかし、マリアンヌはどこか無茶をしていた。
「ちゃんと、全部食べるんだよ。明日、元気にならないからね」
「はい……」
そして、ルドルフ、エリー、驟雨、茜が就寝した時の事だった。
「何故私を呼んだ」
「はい、あなたを呼んだのには理由がありますわ」
アエルスドロは、マリアンヌに彼女の部屋に呼び出されていた。
二人が椅子に腰かけた後、マリアンヌはゆっくりと口を開く。
「あなたは、本当にここを出ていきますのね」
「ああ、そうだが」
「初めての武官であるあなたと別れるのは寂しいですけど、
だからといって、引き留めればあなたは困りますわよね」
マリアンヌは悪役令嬢という事で、アエルスドロを引き留めようとした。
だが、アエルスドロ達と共に冒険していくうちに、悪役令嬢特有の棘がなくなっていき、
住民思いの良い領主に変わっていった。
アエルスドロと話している時も、マリアンヌは柔らかい表情をしていた。
「だから、わたくしはあなたに見せたいものを見せたくて、呼びましたのよ」
「見せたいものとは?」
「こっちに来なさい!」
そう言って、マリアンヌはアエルスドロの手を引っ張り、どこかに案内していった。
「これですわ!」
「花畑……!?」
マリアンヌが連れていった場所は、赤い花がたくさん咲いている花畑だった。
ナガル地方にこんな場所はあったっけ、とアエルスドロは思ったが、
まぁ、ここは何でも起こるしな、と自分で納得した。
「これは、ジニアの花畑ですわ。別名は、百日草と呼ばれていますの」
「綺麗な花畑だな……」
「ジニアの花言葉は『別れた友を思う』。
だから、遠くに旅立っていくあなたに、これを見せたかったんですのよ」
マリアンヌはアエルスドロがナガル地方を旅立っていく事を知った。
何もしないでただ彼を送りたくはなかったので、
マリアンヌは彼にプレゼントをしたかったのだ。
旅立つ彼に相応しい花言葉の花畑を。
「これが、わたくしからの贈り物ですわ。
寂しかったら、いつでもこれを思い出してくださいまし」
「ありがとう、マリアンヌ。あなたは本当に良い領主だ」
「当然ですわ、おーっほっほっほっほ!」
アエルスドロは、自分に花畑を見せてくれたマリアンヌに感謝した。
マリアンヌは上機嫌な表情で、腰に手を当てて高笑いした。
その時はマリアンヌが悪役令嬢だという事を忘れ、
「渡る世間に鬼はないんだな」とアエルスドロは思ったのだとか。
「それでは、お休みなさいませ」
「お休み」
そして、アエルスドロとマリアンヌは、互いに別れて眠りについた。
翌日、アエルスドロは、清々しい表情で食事をする場所に来ていた。
「おはよう、みんな」
「あら、おはよう! アエルスドロ、やけにすっきりしてますね」
ユミルは、アエルスドロが楽しそうな様子なのに気付いて彼に声をかけた。
「ああ……彼女と話したら、溜まっていたものを全て吐き出してな」
「よかったですね」
昨日の夜、アエルスドロとマリアンヌは溜まっていたもやもやを全て吐いた。
睡眠時間はその分短くなるが、ストレスが溜まっては寝付けず、
翌日にも疲れが残ってしまうため、二人がやった事は正しいとユミルは判断した。
「じゃ、朝食を食べましょうか」
「ええ」
八人が揃うと、朝食係のファルナが現れ、それぞれの席に朝食を置いていく。
「マリアンヌちゃんが作ってくれた牧場のおかげで、今日はこんな朝食になったよ」
「わぁ……!」
今日の朝食は、牛乳、チーズサンド、バターといった乳製品が豊富にあった。
ナガル地方に牧場が置かれたため、料理のバリエーションが増えたのだ。
「アエルスドロとミロが手伝ってくれたおかげで、このナガル地方が潤いましたわ」
「色んな食べ物が食べられるしね」
「言わないの。さ、朝食を食べますわよ」
「はーい。いただきます!」
八人は、乳製品をたくさん使った朝食を食べた。
ミロは、吸血衝動を抑えるために、他の人よりも朝食の量が多かった。
「それにしてもよく食べるな、ミロ」
「あたしはこうしないと生きていけないんだもん」
「だが食べ過ぎだと思うぞ」
「へーきへーき、後で運動するから」
そう言って、ミロは朝食を食べ続けた。
「……」
驟雨は、彼らの横で黙々と朝食を食べていた。
乳製品ばかりなので、あまり嬉しそうではなかったが、
きちんと食べないとファルナに怒られるため、朝食は口に入れていた。
「よし、ちゃんと綺麗に食べたみたいだね」
15分後、ファルナは全員の食器を確認する。
皿の中身も、コップの中身も、全て綺麗になっていた。
ファルナは笑みを浮かべて、全員の食器を流しに運んだ。
「ありがとうございますわ、ファルナ。これからわたくしは、ちょっと用事がありますので」
「いいよ、行っておいで」
マリアンヌはファルナに微笑みながら、アエルスドロ達に声をかける。
「というわけで、みんな、わたくしの城に来なさい」
「ん? なんでだ?」
「ちょっと、話がありますの」
「……?」
何があるのか分からず、首を傾げるアエルスドロ。
とりあえず、アエルスドロは皆と一緒に、マリアンヌのところに来るのだった。
「……さてと。皆さん、来ましたわね」
マリアンヌは、アエルスドロ、ルドルフ、エリー、ミロ、ユミル、驟雨、茜を城に呼んで、
これからの事を話す準備に入った。
「わたくしのライバル、エマ・クレーシェルは、今、邪神にその身を捧げられようとしています」
現在、エマはどこかに囚われ、邪神を呼び出すための生贄になろうとしている。
その邪神が復活すれば、エマやナガル地方を含めた世界が滅んでしまう。
マリアンヌはそれを阻止するために、七人を城に集めたのだ。
「ルドルフ、エマが囚われている場所が、どこにいるのかを探してください」
「……分かりましたよ」
ルドルフは頷いて、風の精霊を呼び出した。
風の精霊はルドルフの周りを回ると、超高速で窓をすり抜けて飛んでいった。
「さて、後は情報を待つだけですわね」
マリアンヌは、風の精霊を待っていた。
エマが囚われた場所を見つけて、そこに向かうのがマリアンヌの目的だからだ。
必ず、情報を手に入れなければならない。
「お帰りなさい」
しばらくして、風の精霊が戻ってきた。
風の精霊は、ルドルフにしか分からないテレパシーで彼に情報を話した。
ルドルフはうん、うんうんと頷いて、情報を頭の中でまとめていた。
周りから見れば独り言を言っているように見えるが、
まぁ、電話のようなものだと言えばいいだろう。
「……エマが捕まっている場所が、分かりました」
「え!? どこですの!?」
「……それは……」
ルドルフは、風の精霊の情報を元に、ゆっくりと口を開いた。
「ここから南東にある、“神の塔”です」
次回は神がいるという塔に向かいます。
アエススドロ達は、邪神の復活を阻止できるでしょうか。