ですが、魔族側も、一筋縄ではいきませんよ。
アエルスドロ達がナガル地方を出てから2日目。
彼らは野宿をしつつも、目的地である神の塔を目指して進んでいた。
魔物が襲ってくる事もあったが、それらは全て、撃退していった。
「……ん?」
八人が道を歩いていると、ルドルフは何かを発見したように立ち止まった。
アエルスドロ達はすぐにルドルフに駆け寄る。
「どうしたの、ルドルフ?」
「あれ……見てください」
ルドルフはそう言って、どこかを指差した。
そこには、天にも届きそうなほど高い塔があった。
「これは、神の塔!?」
間違いない、あれが神の塔だ。
マリアンヌはすぐに、塔が見える場所へと走っていった。
アエルスドロ達も彼女の後を追って走り出した。
「これが……神の塔……!」
目の前にあったのは、まさしく神の塔だった。
だが……神々しいはずの神の塔は、黒い雲に覆われて禍々しい姿に変わり果ててしまっていた。
「聖地を平気で冒涜するとは……ダークエルフの根性は悪い意味であるな」
茜は神の塔に祈りを捧げたかったが、それはしたくはなかったようで、
代わりに鈍器を握り締める。
聖なる場所で、神に祈りを捧げる、それが彼女の望みだからだ。
「……どうか、この塔を元に戻してくれ」
「当然だ」
茜の真剣な言葉に、アエルスドロは静かに頷いた。
マリアンヌ、ルドルフ、エリー、ミロ、ユミル、驟雨も同じく頷いた。
「……入りますわよ」
「ああ」
声を掛け合って、八人は神の塔に足を踏み入れた。
塔の中は禍々しく染まっていて、常人では立っているだけでふらつきそうだった。
アエルスドロは弱い瘴気でバリアを作って皆の気を保った。
「君達の身体が瘴気に侵されそうだが……?」
「問題ない、微量だからな。……さて」
八人が最初に入った部屋は、鉄格子によって二つに分けられていた。
そこに、機械の砲台が鉄格子越しに砲弾を放ってくる。
「ひゃ!」
マリアンヌは砲弾が当たる寸前で身を逸らして回避する。
「何しますのよ!」
いきなりの砲撃に腹を立てたマリアンヌは、機械の砲台に拳銃を発砲する。
しかし、魔法の加護を受けていない銃弾は、いとも簡単に鋼鉄に弾かれた。
「攻撃が効きませんわね」
「疾風の術!」
茜はルドルフに風の加護を与えて素早さを上げる。
「風の上位精霊アイオロスよ、風よ裂けて刃となれ! ウィンドストーム!」
ルドルフは風の精霊を召喚し、竜巻を起こしてマジックキャノンを攻撃した。
マジックキャノンは重かったため少ししか浮かなかったが、
それでも地面に叩きつけて僅かに罅を入れた。
「ダブルショット!」
マリアンヌが罅が入った部分に二発撃つと、マジックキャノンは機能停止した。
「あら、呆気なかったですわね」
あっさりマジックキャノンを撃破する事に成功した一行。
物理攻撃に強いマジックキャノンを、
弱点を突いたとはいえ即座に機能停止したのを見て、マリアンヌは高笑いした。
「おーっほっほっほっ! わたくしの銃はナガル地方一ですわ!
さあ、どんどんかかってらっしゃい!」
「ああ……私の剣は、決して折れる事はない」
アエルスドロは自身の剣と盾を抱き、静かに目を閉じた。
この自信がある限り、彼らは決して折れる事はないのだ。
「さて、先に進むぞ。ん? 鍵がかかっているな」
アエルスドロが左の扉を開けようとすると、その扉には鍵がかかっていた。
「俺がやる」
驟雨は前に出て、楔を使い扉の罠を外した後、もう1つの楔で扉の鍵を開けた。
ダンジョン探索のエキスパートである彼の本領を発揮する事ができた。
「戦闘が得意な方ばかりでは、この先の罠にかかるかもしれませんからね」
「どんなに強い戦士や魔導師も無力となる罠……。
それに対処できるのは、
ダンジョンには、侵入者を排除する罠が仕掛けられている事が多々ある。
戦闘能力が高いものが入っても、
罠を探知したり解除したりする能力がなければ、死が待ち受けている。
そのため、スカウト技能など、それらに対処できる能力も必要なのだ。
「体だけでも心だけでもいけない」
「大事なのは、技だ」
驟雨がいて本当によかった、と思うパーティメンバーなのであった。
「よし、開きましたね」
ユミルが左の扉を開けると、部屋の中央に台座が置かれていた。
台座の上には、何もないように見えるが……。
「ここも、何かありそうだな。……む?」
驟雨は台座をよく調べてみると、コンシールトラップを発見した。
もちろん、驟雨はコンシールをはがす。
すると、中から宝箱が現れた。
「やったあ! 宝箱だ!」
「待て、これも罠が仕掛けられている可能性が高い、俺がまずは調べる」
そう言って、驟雨は宝箱を持ち出し、罠を調べた。
驟雨は、器用な指先で、どんな罠があるのかを探知する。
1分後、驟雨は罠の種類が分かったようで頷く。
「開けると爆発するエクスプロージョンの罠が宝箱に仕掛けられている。こうして外せばいい」
驟雨はそう言って、爆発する罠を外した。
「大丈夫でしょうかね……?」
ユミルはそっと宝箱を開けたが、罠は発動しなかった。
よかった、と言った後、中身である霊水を4つ手に入れた。
「流石は『忍びの者』ですね」
「それほどでもない」
驟雨は自分の機能を果たすためだけの存在だ。
なので、ユミルが褒めても、大して喜びはしないのだ。
「では、行くぞ」
アエルスドロはそう言って、階段を上り、二階に上がった。
二階では、部屋の中で様々な妖精達が賭け事をしていた。
「ねえねえ、一緒に私達と遊ぼうよ!」
「楽しいよ!」
「うん! やるー!」
エリーはその輪に混ざって、一緒に賭け事をする事にした。
「あ、こらこら、エリー。せっかくエマさんを助けるために来たのに、遊ぶのはいけませんよ」
「まあまあ、いいじゃないですか。たまには娯楽も、息抜きにいいでしょう?」
「……仕方ありませんねぇ。一回だけですよ」
「はーい」
ルドルフに許可を貰ったエリーは、妖精達の賭け事に参加した。
「よっし! スリーカード!」
「残念でした~、あたしはフラッシュです」
「うわぁ~」
エリーが参加した賭け事は、ポーカーの三連続勝負だった。
結果は、三戦三敗で、エリーは掛け金を全て取られてしまった。
「あ~あ、ダメだったよ」
「まあ、賭け事なんて、こんなものでしょうからね。気を取り直して、三階に行きましょう」
エリーはがっくりしながらも、ルドルフ達と共に、階段を上って三階に行った。
三階には炎の精霊と水の精霊がいて、八人に力試しを挑んでくる。
しかも、部屋全体に守護の加護を受けられない結界が張られていた。
「戦いが長引けば死ぬ……短期決戦でいくわよ」
やられる前にやる、それがミロの作戦だった。
アエルスドロ達は武器を抜き、戦闘態勢を取った。
「エレメント・ライト!」
エリーは驟雨の武器に光を付与した。
「闇の精霊よ、彼の者を闇に染めたまえ! レインボーカラー・ダーク!」
ルドルフは闇の精霊シェイドを召喚し、サラマンダーとウンディーネを闇属性にした。
驟雨の武器が光を帯びているため、彼らの弱点を突く事ができるようになった。
「陰陽連斬」
驟雨は光を纏った二刀の短剣でサラマンダーとウンディーネを斬りつけた。
ルドルフの魔法で二体は闇属性になっているため、それが弱点となり大ダメージを受けた。
サラマンダーは吹き飛ぶが、ウンディーネは吹き飛ばなかった。
「ウフフ……」
「うぐぅ!」
ウンディーネは微笑んで茜に水の弾丸を放った。
水の弾丸が茜に命中すると水柱となり、茜を飲み込んでダメージを与えた。
「デスバレット!」
マリアンヌは二丁拳銃を撃ってサラマンダーとウンディーネの身体に穴を開ける。
「おっと、こんな攻撃、ボクには……うあぁぁぁ!」
ユミルはサラマンダーの攻撃を避けようとするが、獄炎に包まれて重傷を負ってしまう。
「うぅ……まるで太陽に焼かれたみたいです……」
サラマンダーの炎の熱さによろめくユミル。
ユミルは、まるで火あぶりの刑にされたようだという顔をしていた。
「ブラッディポーション!」
ミロは自らの魔力を使ってポーションを作り、重傷を負ったユミルの傷を癒す。
「ちょ、なんであたしの魔法を使わないのよ」
「ユミルにはこっちの方がよく回復すると思って」
ミロの言う通り、彼女のポーションを浴びたユミルの傷が見る見るうちに癒えた。
ユミルは半吸血鬼なので、通常の回復魔法よりも吸血鬼の力を使った技の方が多く回復する。
「バッシュアンドバッシュ!」
「ガトリングショット!」
アエルスドロはサラマンダーに連続で剣を振り、
マリアンヌが二丁拳銃を乱射してサラマンダーを撃破した。
倒れたサラマンダーの身体から、結晶がぽろぽろと溢れ出る。
マリアンヌはそれを全て拾って、コネを利用して全てゼニーに変えた。
「金になるものは全て金に換えますわ」
(強欲な……)
「水と風の精霊よ、雷光となり敵を打ち砕け! ボールサンダー!」
ルドルフは水と風の精霊を召喚し、雷の玉にしてウンディーネに飛ばした。
雷に弱いウンディーネは大ダメージを受け、怯む。
「とどめよ! 鮮赤の刃!!」
そして、ミロは腕を赤く光らせ、
勢いよく振り下ろしてウンディーネを真っ二つにし、戦闘を終えた。
もちろん、ウンディーネが落とした欠片を、マリアンヌは残さず全て換金した。
「結構溜まりましたわね。この調子で行きましょう」
(……結局、あなたは金儲けが好きなのね)
精霊の身体の一部を換金するマリアンヌを、ミロはあまりよく思っていなかった。
というより、自然そのものである精霊を、道具のように扱う人間をよく思わなかった。
四階は、本がたくさんある部屋だった。
それ以外に、五階へ行くための階段も見受けられなかった。
「わあ、本がたくさんありますね!」
ルドルフは、たくさんの本を見て興奮する。
流石はエルフの魔導師、知識の宝庫であるこの部屋は彼にとって楽園のようだ。
「一体どんな本があるんでしょうか……」
そう言ってルドルフが本を取ろうとすると、
突然、本が宙に浮き、他の本もそれに合わせて本棚から飛び出た。
「うわあああ!? 本が襲い掛かって来た!?」
「この本には魔力が宿っていたみたいだな。こいつらを倒すぞ!」
アエルスドロは剣と盾を構えて、本の魔物、ブックモンスターの相手をした。
「エアスラッシュ!」
アエルスドロは飛び上がって二連続でブックモンスターを斬りつけ、打ち落とす。
続けてその勢いに任せて回し蹴りを行い、ブックモンスターを地に落とし、斬り倒した。
二体のブックモンスターは攻撃を仕掛けてきたアエルスドロに体当たりしてきた。
攻撃は命中するが、盾で攻撃を防ぎダメージは最小限に留めた。
「この一撃を受けろ!」
そして、アエルスドロは回転斬りで襲ってきたブックモンスターを全て薙ぎ払い、
とどめに瘴気の嵐を起こしてブックモンスターを衰弱死させた。
アエルスドロが本の魔物を全滅させると、本棚は全て消え、代わりに階段が現れた。
「この本棚は、罠でしたか」
「罠にかかりはしたが私が全て倒したから安心しろ」
そう言って、アエルスドロは剣を鞘に納めた。
「ありがとうございます」
胸を撫で下ろすルドルフの横で、マリアンヌは鋭い目で階段を睨みつけていた。
「……エマ。あんな奴なんかに利用されるんじゃありませんわよ。利用し返しなさい」
マリアンヌは、エマを束縛から解放したいと決めていた。
――最後に言った言葉は、余計だったが。
「余計、ですって? 撃ちますわよ」
「いや、ナレーションに口出ししても意味はないと思うぞ。……さあ、行くぞ、みんな」
「ええ」
八人は、ゆっくりと階段を上るのだった。
~モンスター図鑑~
ブックモンスター
本に邪悪な魂が宿ったモンスター。
ミミックの一種で、本棚を調べた者に襲い掛かる。