しかし……?
「トランス:スケイル!」
アエルスドロは瘴気の鱗を纏って防御力を上げた。
ガーディアンはモーニングスターに力を溜め、ミロに勢いよくモーニングスターを振り回した。
「きゃああ!?」
「危ないっ!」
「プロテクション!」
鉄球がミロに命中しようとした瞬間、アエルスドロが身を呈して彼女を庇い、
盾と瘴気の鱗でガーディアンのモーニングスターを受け止めた。
エリーも、攻撃に合わせてバリアをアエルスドロの前に張った。
しかし、アエルスドロの硬い守りと、エリーの防御魔法をもってしても、
重傷を避ける事はできなかった。
「なんて腕力だ……。私の守りを打ち砕くとは」
「……ならば、仕留めるまでですわ。デスターゲット!」
マリアンヌは銃を素早くガーディアンに連射する。
ガーディアンは闇を作り出して銃弾を飲み込み、続けて闇を光に変えてレーザーを放射した。
あれに当たれば、ひとたまりもないだろう。
「私が君達を守る! パラディオン!」
アエルスドロは味方への被害を抑えるべく、仁王立ちして全てのレーザーを受け切った。
レーザーはアエルスドロの身体や盾、瘴気の鱗を次々と貫いていく。
合計20本のレーザーがアエルスドロを貫くと、
アエルスドロはしばらく立ち尽くし、やがてその場に倒れた。
「アエルスドロ……あたし達を守ってくれたのね」
ミロが、仲間を庇って倒れたアエルスドロを見て呟く。
ガーディアンの高火力の攻撃を全て食らったのだ、下手をすれば死んでいる可能性もある。
だが、今はあれこれ言っている場合ではない。
邪神が蘇ろうとしているのだから。
「時間はありませんわ」
「盾は私が引き受けよう」
茜がアエルスドロの代わりに前に立ち、レーザーをハンマーや盾で弾き、攻撃を防ぐ。
アエルスドロほどではないが、彼女も防御力は信頼できるほど高かった。
「こんな攻撃、当たるものですか!」
マリアンヌは闇の槍を紙一重で回避してガーディアンに反撃する。
「ふっ」
ガーディアンは闇を手のように伸ばし、ルドルフ、エリー、ユミルを掴もうとしたが、
驟雨がガーディアンに苦無を投げつけて闇を消した。
「邪魔しないでよね!」
「デ・ゲイト・ド・イグニ!」
ミロは破壊の爪でガーディアンを二回切り裂く。
ユミルは火柱を発生させて追撃をし、ガーディアンにダメージを与えるが、
まるで応えていないような表情をする。
「生命の精霊よ、傷つき倒れし者に命の灯火を……ライフエリクシル!」
エリーは生命の精霊力を倒れたアエルスドロに注ぎ込む。
アエルスドロは意識を取り戻し、ゆっくりと起き上がる。
「……う、ここは……」
「大丈夫か、アエルスドロ」
「……まだ、頭がふらふらする」
「私が癒す」
茜は頭を押さえているアエルスドロに癒しの術をかけて体力を回復させる。
ガーディアンは隙を見せたアエルスドロにモーニングスターを振り下ろそうとするが、
それが届く事はなかった。
「水の上位精霊クラーケンよ、全てを飲み込む激流を作れ! メイルストローム!」
ルドルフは水の上位精霊を召喚し、
ガーディアンの周辺に大量の水流を呼び出して飲み込んだからだ。
「ギギギ」
ガーディアンは渾身の力を込めたモーニングスターを驟雨に振り下ろす。
鉄球は驟雨の頭に直撃し、そのまま倒れる……かと思いきや、当たったのは驟雨の分身だった。
驟雨はガーディアンの頭上に現れて2本の短剣で斬りつけた。
「そこよ、エクスプローシヴ・ピアシングショット!」
マリアンヌはガーディアンの防御が薄い部分を狙い、炸裂弾を装填し、
二丁拳銃を撃って攻撃する。
炸裂弾が破裂すると大爆発が起き、ガーディアンに大ダメージを与えた。
「おーっほっほっほ!」
「ギ?」
マリアンヌの高笑いに気付いたガーディアンは、闇を生み出して槍に変えマリアンヌに投げる。
「させる……ものか!」
アエルスドロは力を振り絞ってマリアンヌの前に立ち、盾と瘴気の鱗で全て防いだ。
驟雨は一度、間合いを取り、ガーディアンの頭上に短剣を投げた。
「ギギ……!!」
「おっと、させませんわよ」
「こっちだ」
ガーディアンは怒り、全身を光らせて審判の光を放とうとした。
だが、マリアンヌと驟雨が音を鳴らし、
ガーディアンの注意を逸らした事で一行に光が当たる事はなかった。
「助かった……」
「ふふ、わたくしの力ですわ」
「ありがとうございます。蛮勇の精霊よ、勇敢なる者を守りたまえ! バルキリースピア!」
ルドルフは蛮勇の精霊を召喚し、輝く光の槍でガーディアンを貫く。
「せい! はあ!」
「ラ・ロタ・マ・ギ・ド・ヴェン!」
「ライフヒール!」
ミロは破壊の爪を二連続で振ってガーディアンを切り裂き、
ユミルは無数の小さな気流の刃を放ち追撃する。
エリーは生命の精霊を召喚してアエルスドロの傷を癒す。
「ダブルスラッシュ!」
「ダッシュブレイク!」
アエルスドロが二回連続でガーディアンを斬り、
茜が翼で飛翔しアエルスドロが攻撃した部分をハンマーで打ち据えた。
「まったく、しぶといですわね……」
これだけダメージを与えても、ガーディアンは倒れる様子がない。
邪神を呼ぶための時間稼ぎだろうが……それにしても桁外れの耐久力だ。
「……こいつに慈悲はいりませんわ。徹底的に叩き潰しますわよ」
「……ああ」
マリアンヌはガーディアンに突っ込み、至近距離で銃を発砲する。
驟雨は追撃を図り短剣を構えて投げるが、闇が全ての短剣を阻んだ。
「きゃあ!」
「ぐっ!」
「何をする!」
ガーディアンはミロにモーニングスターを叩きつけ、
さらに闇の刃を生み出してアエルスドロ達を切りつけた。
「風の上位精霊アイオロスよ、風よ裂けて刃となれ! ウィンドストーム!」
「せいやー!」
ルドルフは大きな竜巻を発生させてガーディアンを切り刻む。
ミロは高く飛び上がり、ガーディアンの顔目掛けてキックを繰り出す。
「マ・ギ・ラ・ステラ・デ・イグニ!」
「聖撃!」
ユミルは雷の矢を連射してガーディアンを攻撃し、茜が鈍器を振り回して闇を全て振り払った。
「ピアシングミアズマ!」
アエルスドロは瘴気を纏った連続突きを放つ。
「ギギギ!」
「させるか! 守護の光壁!」
ガーディアンはモーニングスターで反撃するが、
茜が魔法で大きな光の盾を作り、完全に攻撃を防ぐ。
「……」
エルフ達はまだ魔法陣に魔力を注いでいた。
もう魔力は枯渇しかかっており、全員の表情に生気が見られなかった。
「こいつらの命までも犠牲にするのか……!」
アエルスドロは歯を食いしばり、剣と盾を握る手を強める。
邪神が復活するほどの魔力を注げば、このエルフ達は全員、干からびて死んでしまう。
もう二度と、目の前で犠牲を出したくない……アエルスドロはそんな気持ちだった。
「皆さん、耐えてください……」
ルドルフもまた、同族の命が失われかけている事に心を痛めていた。
助けたかったが、バリアが張られている以上、近づく事はできないため、
ただ、祈るしかなかった。
「……ここで決めますわよ」
「……ああ」
「……ええ」
覚悟を決めたマリアンヌは、20発の炸裂弾を両手の拳銃に装填する。
アエルスドロと驟雨、茜は武器を構え直し、ミロとユミル、ルドルフとエリーは精神を集中。
八人はこの手番で、決着をつけると決めた。
「ギギギギギギ!」
ガーディアンはモーニングスターを振り回してアエルスドロの装甲にヒビを入れる。
「エクスプローシヴ・ピアシングショット!」
マリアンヌは至近距離から炸裂弾を放ち、爆発の衝撃でガーディアンの身体に穴を開けた。
驟雨は穴の開いた部分に気付かれないように忍び寄り、致命的な一撃を食らわせる。
「……決めましょう、ユミルさん」
「はい」
ルドルフとユミルはガーディアンを倒すべく、大魔法を詠唱する。
ガーディアンはルドルフとユミルの詠唱を阻止しようとするが、
マリアンヌと驟雨が武器で注意を逸らす。
「ギ、ギギ!」
「させるか!」
「あんたなんか、壊してやるわよ!」
「時間稼ぎなら私にもできる!」
ガーディアンの進行を必死で食い止めるアエルスドロ、ミロ、茜。
アエルスドロは剣と盾、ミロは爪で、ガーディアンを足止めすると同時にダメージを与える。
茜も、空を飛んで鈍器で殴り、二人のサポートをしていた。
「まだ?」
エリーが急かす中でルドルフとユミルは頷いた。
二人の周りには強い魔力が漂っていて、彼らは今も呪文を詠唱し続けていた。
マリアンヌは、炸裂弾を発砲し続けていた。
「うう……もう、無理だ……」
「早く……魔法を……」
「時間がない……」
「これで炸裂弾は終わりですわ……」
次第にアエルスドロ、ミロ、茜に疲労の顔が見え、動きが鈍っていく。
マリアンヌも、炸裂弾を撃ち尽くしたようだ。
ルドルフとユミルは危機感を覚えたが、ギリギリで十分に魔力が溜まったのを確認すると、
二人は杖を同時にガーディアンに向けて、呪文を唱えた。
「「インシネレイト!!」」
膨れ上がった魔力が光の玉となり、ガーディアンに向かって飛んでいく。
光の玉がガーディアンに当たると、塔全体を包むほどの火柱と大爆発が発生し、
ガーディアンだけでなく、アエルスドロ達も飲み込んだ。
そして、火柱と大爆発が治まると……
魔力を使い切ってぺたんと膝をついたルドルフとユミルと、
原型をとどめていないガーディアンの残骸が、アエルスドロ達の前に現れた。
「勝った……んだな……」
「ええ……」
「やっと、ガーディアンに勝ちましたね……」
「あ、エルフ達が!」
ガーディアンを破壊した事により、魔力を注いでいたエルフ達はバタバタと倒れた。
魔法陣を守っていたバリアも消えていく。
「だ、大丈夫か、みんな」
アエルスドロは身体を引きずりながら倒れたエルフ達に駆け寄り、脈を確認する。
「……みんな、生きている」
「よかっ……た……」
幸い、魔力は全て奪われなかったため、全員が一命を取り留めた。
「ライフヒール!」
エリーは全員に残った魔力で回復魔法をかけた後、
持っていた転移石を使って彼らをナガル地方に飛ばした。
「エマ!!」
そして、マリアンヌはエマを助けたい気持ちが最大限に高くなり、急いでエマに駆け寄った。
「エマ! エマ! 目を覚ましなさい!」
マリアンヌはエマに声をかけるが、エマはぴくりとも動かなかった。
「わたくしが今、そこから離しますわ! うん、せっ!」
そこで、マリアンヌは魔法陣に囚われたエマを引き剥がそうとするが、
エマは魔法陣に吸い付いたかのように外れなかった。
「エマ! エマァァァァッ!!」
それでも、マリアンヌはエマを邪神に捧げないためにも、彼女の手を必死で引っ張る。
マリアンヌの気迫もあり、エマが僅かに魔法陣から離れたその時、
エマとマリアンヌの間に電撃が走った。
「きゃ!」
マリアンヌは思わず、エマの手を離してしまった。
そして、魔法陣が淡く光ると、エマを黒い光の柱が包み、
エマの身体が宙に浮かぶと、彼女の体内に黒い煙が入り込んだ。
「う……うぁ……ぁ……」
エマは、体内に黒い煙が入るたびに、痙攣したように震えていく。
それでも彼女は抵抗できないまま、黒い煙の侵入を許し続ける。
やがて、黒い煙がエマに入り切ると、エマの震えが治まり、
黒い光の柱が消えてエマが魔法陣の上に再び横になった。
「……」
数分後、エマが目を開けて起き上がった。
その両目は赤く染まっていて、表情からも感情が抜け落ち、
どこか邪悪な雰囲気を漂わせている。
「魔力は十分ではなく、人の器を借りた形ではあるが……」
エマの口から、彼女のものとは思えないおぞましい声が聞こえてくる。
いや、エマの肉体に宿った邪神アラネアが、エマの口を借りて話しているのだ。
「こうして、妾はこの地に蘇ったのじゃ」
エマの姿をした蜘蛛の女神はそう言って、魔法陣から降りた。
今ここに、邪神アラネアが、アエルスドロ達の目の前に現れた。
「エ……マ……?」
邪神の器と化したエマを見たマリアンヌが固まる。
もう、間に合わなかったのか――と。
アラネアは、そんな事など気にせずにアエルスドロ達に近づいていく。
「始まりの獲物は……そちじゃ」
アラネアは真紅の双眼でアエルスドロを睨みつける。
「そちは妾を崇めるダークエルフの一人。
ダークエルフの悪しき心は、妾の力を、権能を、さらに高める。
だが、そちは善良な心を持っている。これは一族の恥であり、妾の恥辱でもある」
「何……!」
「この落とし前は、死を以て償ってもらう。拒む権利など、そちには無い!」
アラネアはエマの身体を通して八本の太い足を生やし、
アエルスドロのそれとは比べ物にならないほどの瘴気を発した。
アエルスドロを含む八人は、疲労もあったが、
それ以上にアラネアのあまりの偉大さに何もできなかった。
そして、アラネアが八本の足を伸ばし、八人を締め上げようとした時……。
「危ない!!」
突然、魔法以外ではあり得ないはずの猛吹雪が発生し、
この場を白く染め、アエルスドロ達の姿を隠した。
「な、何をする……」
「お願いです、今は何も言わないでください。貴方達は傷ついているでしょうから……」
アエルスドロはその声の主に話しかけるが、声の主は緊急を要するも優しい口調で言った。
そして、吹雪が治まると、アエルスドロ達の姿は消えていた。
「あやつめ……妾の邪魔をするとは……!」
アラネアは、贄を取り逃がした事に腹を立てた。
しかも、吹雪を起こした者を、アラネアは知っているような口調であった。
「……まあよい。
時間をかけて力を得、この器に妾の魂が完全に馴染めば、
器の魂は消え、妾を倒してもこの器だった死骸のみが残る。
それを銃を持ったあの女が見たら、絶望に満ちた顔になるじゃろうな」
アラネアが、器のエマの記憶を持っている事を、マリアンヌはまだ、知らなかった。
~モンスター図鑑~
ガーディアン
神の塔を守る機械兵。
本来は邪悪な者のみを守っていたが、ダークエルフに操られてしまった。