ダークエルフと悪役令嬢   作:アヤ・ノア

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最終決戦直前の休暇、前編です。
それぞれの道を、彼らなりに描写しました。


第55話 最後の休暇:前

 残り三時間のナガル地方の休暇が、始まった。

 

「……皆様、ちゃんと準備はできまして?」

「うん」

 これから、アエルスドロ達は邪神に挑もうとしている。

 邪神はこれまでの敵とは比べ物にならないほどの強敵だ。

 何の準備もせずに行けば、確実に一行は邪神の餌に成り果ててしまう。

 世界のために、自分自身のために、彼らは決意を固めていた。

「できているさ。相手は神、しかも私達ダークエルフが信仰している神だ。

 でも私には、イーファ様から授かったこれがある」

 アエルスドロは堂々とした様子で大地の水晶を掲げた。

 アラネアはダークエルフの主神であるため、

 ダークエルフのアエルスドロが封印すれば同族が咎め、彼は多大な汚名を背負う。

 だが同時に、邪神を封印した英雄として、多大な名声も得る事が出来るのだが……。

「アエルスドロさんは、英雄になりたいですか?」

「私に名声は必要ない。欲しいのは居場所だけだ」

 ルドルフの頼みにアエルスドロは首を横に振る。

 アエルスドロはあくまで、英雄ではなく一人の善のダークエルフなのだ。

「エマは必ず助けますわよ。死ぬなんて真っ平御免ですわ」

 マリアンヌは悪役令嬢なので、ヒロインを失うのを何よりも恐れていた。

「あたしらは外から来たしね」

「そうそう、事件を解決するのはアエルスドロとマリアンヌですよ」

 ミロとユミルは、あくまで部外者なので、

 この件にはあまり関わりたがらなかった(といっても、今はかなり関わっているが)。

「皆さんは邪神が蘇って困っているでしょう。だから、僕なりに事件を解決します」

「最後まで、一緒だからね!」

 ルドルフとエリーは、相変わらずマイペースだった。

「……」

「……」

 驟雨と茜は、静かに武具の手入れをしていた。

 八人は皆、富よりも、名声よりも、世界よりも、自分のために邪神と戦うのだ。

 

「「「1、2、3、4」」」

 アエルスドロ、ミロ、茜の前衛組は、準備運動をしていた。

「道具はこのくらいでいいですわね」

「あまり多く持っていくと重量がかさばって動きにくくなるしな」

 マリアンヌと驟雨の中衛組は、必要な道具を確認していた。

「みんなが準備している間に、ボク達は休みましょうか」

「最後の休暇だしね」

「精神力が不安定だと、魔法も不安定になります。時間は短いですが、しっかり休みましょう」

 ルドルフ、エリー、ユミルの後衛組は、ゆっくりと身体を休めた。

 魔法を中心に使う彼らは、心身が安定している必要があるのだ。

 

「エマ。あなたは邪神として皆さんに迷惑をかけておりますわよね?

 でも、迷惑をかけるのは悪役令嬢たるこのわたくしですわ。

 あなたが皆さんに迷惑をかける権利なぞ、微塵も存在しませんわ!

 だから必ず、あなたを倒し、至高の悪役令嬢になりましてよ!」

 マリアンヌにとっての悪役は、自分自身のみ。

 エマが悪役として行動する事を、マリアンヌは全く良く思っていない。

 マリアンヌはアラネアを倒し、至高の悪役令嬢になるという最後の野望を抱いていた。

「なるほど、それがマリアンヌの願いか」

「失礼な、野望と言いなさい」

「いい響きね、それ。是非、叶えてほしいわ」

 野望という言葉の響きに惹かれるミロ。

 マリアンヌはくすくすと笑い、ミロの頭を撫でる。

「なんか頭を撫でられるのは屈辱だわ」

「それはわたくしもですわ」

「お互い、気が合いますわね」

あーっははははははは!

おーっほほほほほほほ!

 マリアンヌとミロが同時に高笑いした。

 敏感なアエルスドロは二人を嫉妬の目で見ていた。

「拗ねてる?」

「お前とマリアンヌの仲が良かったからな」

 別に拗ねてなどいない、とアエルスドロは付け加える。

「本当に素直じゃないんだから」

「それは君も同じかもしれないぞ」

 アエルスドロとミロは、お互いに冷たい言葉を浴びせた。

 闇の者同士、仲はあまり良くないようだ。

 というより、ミロは外からやって来たため、彼との繋がりは薄いのだが……。

 

「……休憩は三時間までですわよ。お分かり?」

「あ、もちろんよ」

「本当ですの……?」

 休憩時間を過ぎようとしているミロを、マリアンヌは念のため注意した。

 ミロは軽く返事をしているが、その軽い態度のため、

 マリアンヌは本当に分かっているのか、疑わざるを得なかった。

 

「まったく、こんなお気楽で大丈夫なのか?」

 少しだけ、このパーティーの未来を心配する茜。

 彼女は真面目なため、お気楽な他のメンバーをつい気にかけてしまうのだ。

「安心しろ、茜。俺達は強い。だから必ず勝つ」

 同じ倭国出身の驟雨は、険しい表情の茜に声をかける。

「驟雨……」

「それに、お気楽なのは一部のメンバーだけだ。そこまで心配しなくてもいい」

「そうだな、驟雨。肩の重荷を取ってくれてありがとう」

 驟雨なりの優しさがこもった言葉を聞いた茜の表情が少しだけ綻んだ。

 彼は、素直になれずにそっぽを向いた。

 

 決戦の時まで、残り二時間となった。

 果たして、アエルスドロ達は、邪神アラネアを封印する事ができるのか――




次回も最終決戦直前の休暇は続きます。
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