短いですが、重要な回となっております。
決戦の時まで、残り一時間。
「今日は邪神と戦うみんなのために、こんな昼食を作ったよ!」
「あら、ファルナ。これは?」
「倭国から伝わった料理、かつ丼さ!
邪神に『勝つ』というゲン担ぎのために、張り切って作ったよ!」
ファルナは邪神に挑む八人のためかつ丼を作った。
しかも、その量はかなりたっぷりあり、一人で食べるのは時間がかかりそうだった。
「そ、そんなに作りまして?」
「当たり前じゃないか。相手は神様なんだよ? あんた達は、この世界の希望なんだから」
「おほほ、希望だなんて悪役令嬢に言う言葉ではございませんわよ」
「それでも、あんたが堂々としている姿は、あたし達にとっては希望だよ」
小さくも強く光り輝いているマリアンヌに、ファルナは「惚れて」しまったようだ。
「さあさ、たんとお食べ!」
「いただきます!」
ファルナの思いがこもったかつ丼に、八人は箸をつけた。
「美味しいわ、このかつ丼」
「ええ……僕も食べやすい肉です」
ミロは嬉しそうにかつ丼を食べる。
肉が苦手なルドルフも箸が進んだほど、ファルナのかつ丼は美味しいようだ。
「美味しい~♪」
エリーは妖精サイズのかつ丼をほおばる。
「……なかなかの味だな」
「肉も、私の口に合う硬さだ」
驟雨と茜の倭国組は、懐かしそうな表情でかつ丼を食べていた。
「あの、肉食べてもいいんですか? 茜は確か、神官でしたよね?」
「残すのはファルナに悪いからな、この際、戒律は不要だ」
茜は基本的に戒律を守っているが、他人のために戒律を破る事はある。
堅苦しく見えるが、本当は他人思いなのだ。
「ちゃんと食べて元気になろう。あの人はそのために、これを作ったと思うからな」
「……そうだな」
このかつ丼を食べて、英気を養おう。
八人はそう思いながらかつ丼を食べるのであった。
決戦の時まで、残り二十分。
「住民の皆様……」
「マリアンヌ様」
「「「ひゃっはーーーー!!」」」
決戦前に、マリアンヌは副官のディスト、住民のラメン三兄弟などを呼んだ。
「わたくしは、これより最後の戦いに向かいますわ。
あなた達の命を授かるわたくしが、ここを開けるのはもう何回やったのでしょう。
……まずあり得ませんけど、この戦いに負けた時が、あなた達の破滅と思いなさい」
依頼のためとはいえ、マリアンヌは何度もナガル地方を開けてきた。
しかも、最後に挑むのは蜘蛛の邪神で、これまでとは比較できないほど強大な相手だ。
勝ちたいのではなく、必ず「勝つ」必要があるほど、野放しにした時の悪影響が極めて大きいのだ。
「マリアンヌ様、本当に勝てるのですか……?」
「ディスト! わたくしはあなたを信じていますわ!
なのにどうして、わたくしを信じませんの!?」
不安になるディストを、マリアンヌは叱責した。
自分は必ず邪神に勝つ事ができる、それを信じないのをマリアンヌは嫌っているのだ。
「しかし! 相手は神ですよ!?」
「神? それがどうかしましたの? わたくしの邪魔をする者はみんな同じですわよ」
「……マリアンヌさん……」
マリアンヌは神であっても邪魔者は邪魔者と切り捨てた。
ある意味で裏表のない彼女の言動を見て、ディストは安堵した。
「ひゃっはーーーー!!」
「忘れるなよーーー!!」
「ここは守ってやるからなー!!」
ラメン三兄弟も、ひゃっはーと言いながら、ナガル地方の留守を守る事を誓った。
三人の、嘘偽りのない純粋な行動に、マリアンヌもまた、安堵した。
そして、決戦の時まで、残り十分。
アエルスドロ、マリアンヌ、ルドルフ、エリー、ミロ、ユミル、
驟雨、茜はナガル地方の出口へ向かう。
「みんな、ここを出たらもう、邪神アラネアとの戦いが終わらなければ戻る事はできないぞ」
「エマが苦しんでおりますもの、助けますわよね? もちろん、わたくしは覚悟できてますわよ」
アエルスドロとマリアンヌは仲間に確認を取る。
六人は迷いのない表情で二人にこう言った。
「当たり前ですよ。僕はあなたの部下ですから」
「あたしも、生きて帰りたいんだ」
「ま、棄権するわけにはいかないからね」
「右に同じです」
「……俺はもう、迷わない」
「ようやく居場所が手に入ったんだ。ここで死ぬわけにはいかない」
六人の表情を見たアエルスドロとマリアンヌは頷き、空を真っ直ぐに見上げ、こう言った。
「私達は必ず、生きて帰ってくる」
「だから、わたくし達を信じなさい!」
次回はいよいよラストダンジョンです。
アエルスドロ達の活躍を、最後まで見守ってください。