といっても、私なりのヒロインですが。
バグベアの群れを倒したアエルスドロ達は、ナガル地方に無事に戻ってきた。
「……はぁ。まさかバグベアに襲われるとは思ってなかったよ」
「だから言ったでしょう? 僕の許可なしに勝手に外に出てはいけないと」
「ごめんなさい……」
エリーはしゅんとしてルドルフに謝った。
「でも、あなた達のおかげで助かりましたわ! 魔法と銃があるからこそ勝てたんですのよ」
「私の剣と呪術は……?」
「あら、ごめんあそばせ。忘れておりましたわ」
くすくすと笑うマリアンヌに、アエルスドロは少し冷たい目を向けた。
「さて、そろそろ昼食の時間かな。ファルナの作る料理は美味しいらしいし……」
「あら、仲のよろしい方達ですのね」
アエルスドロがファルナの昼食の準備に行こうとすると、
黒髪を三つ編みにした、いかにもお嬢様然とした少女がアエルスドロ達の前に現れた。
彼女の肩には子猿が乗っており、少女と子猿を見たマリアンヌが嫌な表情になる。
「また会いましたわね、ガルバ帝国クレーシェル家が令嬢、エマ・クレーシェル!」
「マリアンヌさん? どうしたのですか?」
何が起こったのか分からなかったアエルスドロはマリアンヌに声をかけた。
「こいつですわ! わたくしのレーヴェ皇子を奪った敵は!」
「まぁ! 『奪った』だなんて、そんな……ただの誤解ですわ」
エマは、マリアンヌの罵倒を笑顔で返した。
マリアンヌは思わずエマに拳銃を向けたが、
ルドルフに「今は戦うべきではありません」と言われ、拳銃をしまった。
「……仕方ありませんわね。無駄な戦いはしない主義ですもの。
ですが、必ず決着はつけますわよ、エマ!」
「それでは、ごきげんよう」
そう言って、エマは宝石のように輝く笑顔のまま去っていった。
「キィーーー! なんて生意気な! わたくしに動じず笑顔を崩さないだなんて!」
(マリアンヌさんが言える口ではありませんよ)
エマに出会ったばかりのマリアンヌは、かなり苛々した様子だった。
アエルスドロはそれだけで、彼女がエマを敵視している事が分かった。
「皇子が彼女に惚れるのも無理はありませんよ。短所、今のところ見当たりませんし」
「わたくしも十分美しいはずですわ。それなのに、エマのせいでわたくしは……!
キィーーーーーーーーッ!!」
「マリアンヌ、エマって人が嫌いなのかなぁ?」
エリーが素直な疑問を漏らす。
それに対しルドルフは「彼女なりの事情があるんですよ」と答えた。
「さぁ、そろそろファルナの昼食の時間ですよ。遅れてはいけませんからね」
「はーい」
「今日の昼食はポークパイとポテトサラダ、それに紅茶とホットケーキだよ!」
ファルナは、アエルスドロ達を含めた住民に昼食を振る舞った。
「いただきまーす!」
住民はファルナの食事を美味しそうに食べた。
しかし、マリアンヌだけはどこか暗そうな様子だった。
「どうしたんだい、領主様? 顔が暗いよ?」
「……さっき、エマに会ってきましたわ」
「エマ? 誰だいそれは?」
「ああ、彼女は……」
アエルスドロは、ファルナにエマの事を話した。
「なるほどねぇ。美人で性格も良いんじゃ、皇子様が惚れないわけないよ」
「わたくしだって十分美人ですのよ! それなのに、それなのに……」
「まぁまぁ、まだ諦めちゃダメだよ? あくまで婚約ってだけで、結婚したわけじゃない。
あんたも頑張れば、皇子様と結婚できるさ!」
「……そう、ですわよね?
まぁ、わたくしは諦めが悪いですもの、
こーんなへなちょこな小娘にわたくしが負けるわけがありませんわ!
おーっほっほっほっほ!」
ファルナの豪快な態度に、マリアンヌはいつもの調子を取り戻した。
「さ、料理が冷めないうちに食べな!」
「はい!」
ファルナの料理を食べ終わった後、アエルスドロ達は次に何をするかを考えていた。
「さて、マリアンヌさん、予定はありますか?」
「特に予定はありませんけど……夕食の狩りに出かけましょう?」
「そうですね、食糧の調達は大事です。ルドルフとエリーは待っていてください」
「はーい」
「分かりました」
アエルスドロとマリアンヌは、夕食の調達のため外に出かけていた。
ルドルフとエリーは、彼らが帰ってくるまで待っていた。
「しかし、何故ガルバ帝国はあそこまで人間以外の種族を嫌うのでしょうか」
「知らないよー。あたしもよく知らないし」
「ですよね……」
―きゃーーーーーっ!!
その時、向こうから女性の悲鳴が聞こえてきた。
何事か、とルドルフとエリーが悲鳴のした方に駆けつけると、
エルフの女性が帝国兵から暴行を受けていた。
「おら! 人間以外は出ていけ! ここは人間の国なんだぞ!」
「いや……やめてください! 私は、文官として働きたいだけなのに……」
どうやら、この女性はマリアンヌの下で働くためにナガル地方に来たようだ。
しかし、ここガルバ帝国は人間至上主義の国なので、人間以外の種族は迫害される。
ルドルフは危機感を感じ、杖を構えた。
「あなたはここから出ていってください。さもなくば、実力行使も厭いません」
「何を! 人間以外が生意気な口を聞くな!」
「風の精霊よ、見えざる衝撃を! ウィンドブラスト!」
ルドルフが呪文を唱えて杖を振り下ろすと、強烈な突風が起こり、帝国兵を吹き飛ばした。
帝国兵は物怖じせず剣を構えて振り下ろすが、今度はエリーが光を放って攪乱させる。
その後、ルドルフが風の刃を飛ばした事で帝国兵はバラバラに切り裂かれた。
「ありがとうございます」
「……ありがとう、ございます」
エルフの女性はルドルフにお礼を言った。
しかし、ルドルフは自衛のためとはいえ、人を殺してしまったため、笑顔は見せなかった。
「僕は確かに帝国兵は許せません。しかし、皆殺しにしたところで何も変わらない。
……どうすれば、いいのでしょうか」
「ルドルフ、そんな難しい事は考えないでよ。ほら、もうすぐ領主様が帰ってくるよ!」
「あ……本当だ。お帰りなさい、アエルスドロさん、マリアンヌさん!」
ルドルフは手を振って食糧を調達したアエルスドロとマリアンヌを迎えた。
「ただいま。今回は熊を狩ってきましたわ」
「おお、マリアンヌさんはなかなか腕がいいですな」
「伊達に拳銃を使いこなせてませんわよ」
マリアンヌは二丁拳銃をくるっと回して、ホルダーにしまった。
ガルバ帝国の辺境にあるナガル地方。
平和なこの地方に、少しずつだが影が見え始めてきた――
エマはマリアンヌと違って、戦闘能力はありません。
だからこそ、ヒロインになれた、というのが私の考えです。