中堅呪術師変身系 作:でんでんむし
僕は物心付いた頃からずっと、他人に見えない『何か』が見えていた。
たぶん、『幽霊』とか『妖怪』とかそういう類。
そんな『何か』は日常の世界のそこらじゅうに居て、僕にとっては野良猫なんかを見るような感覚。
大抵は一部分だけ人間の目や口や手やら足やらがついた、あとは下手くそな粘土細工みたいな形をした異形ばかり。これは正直居ても居なくてもさほど変わらない、さほど危険も感じないようなものだった。
だが、明確な形を持っているやつはヤバい。
人間の形に非常に近かったり、獣のようであったり、なんとなく『完成された』姿をしているやつは危険なのが多かった。これは自分自身で体験したと言うよりは、そういったやつの近くにいた人々が死ぬのをよく見かけたからだ。
ここでの死ぬ人と言うのは、いわゆる『見えていない』人。そこに居る者に気が付かず、訳もわからないままにいつの間にか死んでいる。それがどれだけ恐ろしいことなのか。僕はそれを理解しているからこそ、そんな『完成された』姿のやつには近付かない。
両親もそうだった。僕が物心ついたばかりの頃。旅行先の旅館にいた時、海からやってきた法衣を来た大きな男に両親は連れ去られ、見つかった時には二人とも溺死体になっていた。両親共に見える人では無かったから、何が何だかわからない内に殺されてしまった事だろう。
気付けていれば隠れられた、逃げられた。両親は何も見えていなかったから、簡単に殺された。
窓の外から何かが近付いてきているから窓を閉めてほしいと伝えたのに、両親はまともに取り合ってくれなかった。子供の冗談だと流された。
両親が死んだことが悲しかった。そして同じぐらい、両親と同じにはなりたくないとも思った。だから『完成された』姿のやつは、見かけても近付かない。
触らぬ神に祟りなしと言う通りだ。
そんな他人に見えないものが見えている僕だが、現在は父方の祖父母に引き取られて生活している。学費は両親の貯金と生命保険で賄われており、さすがに祖父母の年金を食い潰すような事にはなっていない。だが、育ち盛りの少年一人ぶんの食いぶちが増えることはそう軽くない出費だっただろう。それでも、祖父母は僕を快く迎え入れてくれて、実の子供のように可愛がってくれた。
祖父母も両親と同じで優しい人だったが、また両親と同じように見えない人だった。祖父母と共に買い物に出掛けたある日、『完成された』姿のやつと遭遇した事がある。その時は適当に誤魔化して行き先を変更し、どうにか難を逃れたのだが、あのまま目的の場所に行っていたら祖父母も両親と同じように死んでいたかもしれない。祖父母への返しきれない恩に報いる為にも、あの『何か』に対して無力である祖父母をどうにか守れないか、思案するようになった。
そして、どうにもあの『何か』達を排除するビジョンが見えず、困り果てていたある日の事だった。
小さく、出来損ないの姿をした『何か』が野良猫に襲いかかっているのを、バイトからの帰り道に発見した。
その日はいつまでたっても答えが見つからないもどかしさと、学校で面倒な先輩にいちゃもんを付けられたのとで気が立っていたのだと思う。普段なら無視する程度のそれを見て、腹が立って思い切り蹴飛ばしてしまった。
蹴ってすぐに「やってしまった」と思い焦ったのだが、運の良い事に今回の『何か』はかなり弱いものだったようで、蹴飛ばされてゴロゴロと吹っ飛んだ後、ピクリとも動かなくなった。
そして次の瞬間、死んだ『何か』の姿がボロボロと崩れたかと思うと小さな塊になって僕の方へと飛んできて、手の中にすっぽりと収まってしまった。
今まで見たことの無いものに驚きつつも手を開くと、小さな水晶が目に入った。長さは3センチぐらいの、六角柱にカットされた綺麗な水晶だ。
指でつまみあげ、太陽光で透かして見てみると、水晶の中に小さなフィギュアのようなものが入っている。よく見てみると、それは先程自分が蹴っ飛ばした『何か』の姿そのものだった。
この日、僕は自分の中にあった力をやっと知覚したのだ。
それからは実験の日々だった。
まずは、手に入れた水晶がいったい何なのか、何に使えるのか。そして何故水晶になったのか。
弱そうな出来損ないの姿の『何か』を見つけては、棒で叩いたり蹴飛ばしたりして殺し、水晶に変えていった。気付けばそうして作り出した水晶の数は千を超え、用意していた保管用の箱に収まりきらないほどになった。
せっかく水晶を作っても、全て持ち歩けないのでは沢山作るだけ無駄かと残念に思っていた時、更に作り出した水晶が自身の手のひらから真っ暗な謎の空間に飲み込まれていく現象を発見。最初こそせっかく作った水晶が失われたと残念に思ったが、謎の空間に飲み込まれた水晶は好きなものを選んで自在に出し入れ出来る事も発見。ここから研究は飛躍的に進歩していった。
そして、『何か』から祖父母を守る為に思案を始めてから一年と2ヶ月ほどたった頃、ついに『完成された』姿をした『何か』を殺す事に成功する。
僕の力は、やっと意味のある物として形を成したのだ。
「融合異形鎧『獏』、変身解除」
身に纏っていた鎧がパリンと弾けて幾つもの光の粒子に変わり、急速に収束していって元の水晶へと戻る。水晶の中には動物のバクに似た姿をした、獣のような何かが詰まっている。
目の前には頭部から二本の角を生やし、下半身は馬の姿をした人に近い姿をした異形が倒れていた。
「はは、やった」
初めて倒すことが出来た、人の形をした『完成された』姿の何か。
ここ最近、近所の住宅街を彷徨くようになったコイツは、通る車を蹴飛ばして交通事故を起こさせて何人もの死傷者を出していた。
昔の自分なら敵うはずが無かったソイツに僕は戦いを挑み、辛うじて勝利する事が出来たのだ。
「フィジカルで駄目なら、精神攻撃から……って事か」
戦いの中で、鎧に変えた水晶をいくつも破壊された。
そもそも出来損ないの弱いやつを使った水晶で、完成された姿のこいつとは格が違った事もあるだろうが、まさか一撃で破壊されるとは思ってもいなかった。
突破方法を探る内に20個ほど水晶が破壊され、やっと思い付いた『獏』の力で眠らせて、脳味噌を破壊しつくして何とか勝利をもぎ取った。
獏はもともと最近悪夢を見るようになったと言っていた同級生から取った弱い『何か』だったが、幾つかの水晶と混ぜ合わせて完成した物。元こそ弱かったが、取っておいて本当に良かった。情けは人のためならずとは言ったものだ。
「ともかく、僕の勝ちだ」
死んだソイツの身体がボロボロと崩れ落ちていき、いつものように収束して僕の手に収まる。
普段と違って若干赤みがかった色の水晶になったそれには、先程の化け物が身体を丸めた姿でまるで胎児のように収まっていた。
「名前は……そうだな、似てる姿の妖怪からとって、『夜行さん』で。さんはいらないかな? 『夜行』、うん、良いかも」
これでやっと祖父母を守れるようになった。もう両親の時のような事は起こさせない。
「へえ、あの子が例の新しい子かあ。何か、見てて懐かしくなっちゃうなー」
そんな事を呑気に考えていた僕は、この後クソみたいな呪術師の世界に引きずり込まれる事なんて知るよしも無かった。
術式【呪鎧装術・神衣(カムイ)】
よわよわオリ主くんが生まれつき持っていた術式。ちなみにオリ主くんは非術師の家系。突然変異みたいなもの。
倒した呪霊を『水晶』という形で回収する事ができ、特殊な空間に貯蔵する事が出来る。貯蔵した水晶は自在に出し入れが可能。
呪霊を倒して得た水晶は水晶同士で混ぜ合わせる事ができ、新しい呪霊の水晶にする事が出来る。しかし、弱い呪霊同士では普通に弱い呪霊の水晶にしかならない為、注意が必要。強い呪霊になればなるほど色がついていく。
そして得られた水晶は『鎧』に変換して自身の能力を大幅に上昇させる事が出来る。鎧にする事で得られる恩恵は『身体能力』と『呪霊の持っていた術式』の二つが主。呪力による身体能力に上乗せして使用できる為に、フィジカル面はかなり強くなる、はず。
ただし、『鎧』が破壊されると元になっていた『水晶』も破壊され、二度とその水晶を使用できなくなるので注意が必要。たくさん呪霊を祓って水晶を集めまくるのが吉。