中堅呪術師変身系   作:でんでんむし

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成長限界来るのが早いタイプ


白髪不審者ストーカー系

 

 

 

 

 最近、どこからか視線を感じる。

 

 

 

「変身、融合異形鎧『夜行』!」

 

 夜行さんを倒して得られた赤い水晶を握り締めて叫ぶ。その途端に水晶は指の隙間から目映い光が漏れるほどに輝きを放ち、粉々に砕け散った。

 砕け散った水晶は光の粒子へと更に変化し、身体に纏わりつくように動きながら鎧へと変化していく。頭の先から爪先まで、余すところなく覆い尽くす鎧に。

 

「あノこがァ……ほす、ェお"、ォ"かしタぃ」

 

「下品な奴だな」

 

 近くのカーブミラーに自身の姿が映り込む。

 頭部に2本の角と大きな一つ目のような意匠が施された全身鎧。パッと見は金属製で、見た目が金属らしい事を除けばあとは『何か』の姿にそっくりだ。

 

 そして、そんな姿をしている僕が相対しているのが、いつもより少しだけ強そうな『何か』。

 

 もう少し成長すれば『完成された』姿になるだろう、大量の腕を胴体から生やし、三つの口から涎まみれの舌をだらしなく垂らしている異形だ。

 

「ヲんなぁ、ヨコせ……」

 

「嫌だよ」

 

 トンと軽く地を蹴って飛び出す。

 一瞬で相手と肉薄し、その顔面目掛けて回し蹴りを打ち込んだ。

 

「ぶげェあ"っ!?」

 

 ボキボキと骨の砕け散る音と共に異形の頭部がぐにゃりと歪む。脚を振り抜くと共に異形は三つの口から血を吐きながら吹っ飛んでいき、ブロック塀に激突して埋まった。

 

 数日前に倒し、手に入れたばかりの『夜行』の水晶。

 初めての色つきの水晶だったこれは、今まで使ってきた水晶とは一線を画す性能を持っていた。

 今までの倍以上の身体能力の向上に、『夜行』が持っていた特殊な能力。特に身体能力の方では『脚』の力が飛躍的に延び、以前計測してみた限りでは最速で100メートルを0.4秒で駆け抜けられるほど。

 

「ヌァんデッっ、ぼぐ、ずぎナ、だァけ」

 

 異形がフラフラと揺れながら瓦礫を退かして起き上がる。一回蹴りを入れたぐらいではやはり駄目らしい。

 

「ジャま、すルな!」

 

 異形が叫ぶ。次の瞬間、背筋にぞわりとしたものを感じ、即座に立っていた場所から飛び退いた。

 

━━━ボグッ!

 

 先程まで自分がいた場所の地面のコンクリートが砕け、大人の身長ほどある巨大な手が二つ飛び出し、蚊でも潰すように勢いよく両手を合わせた。

 パァンと言う破裂音と共に衝撃波が此方まで伝わってくる。

 

 強い。『夜行』の時ほどでは無いにしろ、見た目と言動の割にはかなりの強敵だ。

 

「ォ"れヲミクダシやが、っテ。シね!」

 

 異形の三対の腕が組まれる。漫画とかで忍者がやっているような、印を組むような形。

 それと同時に先程現れた巨大な手が6つも地面から飛び出し、こちらを叩き潰そうと襲い掛かってくる。手首から下はぐにゃぐにゃとした骨のようで気色が悪い。その上スピードもかなりあるようで、融合異形鎧『夜行』の脚に追いすがるほど。

 

「強、っ!?」

 

 普段の『何か』より少し強い程度だと思っていたが、その評価を撤回しなくてはならなさそうだ。おそらくは『夜行』と同等。

 

 建物や電柱を足場にして跳び回りながら回避するが中々に相手もしぶとい。回避しながら腕同士を絡ませてやろうかと思ったが、絡まりそうになる度に地面に潜り込んでまた別の場所から現れる。

 大規模な攻撃を続ける異形。今は近くに人は来ていないが、郊外かつ人口も少ないとは言えど住宅街。このままでは無関係な誰かが巻き込まれてしまうかもしれない。

 

「少し、負担はあるけどっ」

 

 急がなければ。誰かが近くに来てしまうよりも前に方をつけなければ。

 

「夜行、閃光踏破!」

 

 融合異形鎧『夜行』が持つ特殊な力。能力の内容は至極単純。指定した開始点から終着点へノータイムで移動し、その途中にあるものを光を超える速さで蹴りつけると言うもの。

 ぎゅっと視界が収縮し、相手の異形まで一直線のルートに固定される。

 

「ぽ、ギャッ!?」

 

 そして相手との視線が合った瞬間、異形はコンクリートの地面にめり込み、自身は脚の裏から煙を上げながら道路に焦げ跡を残して立っていた。脚に強い負担がかかり、熱を帯びた脚ががくがくと震えている。

 異形が呼び出した腕は、結んでいた印が解除されたせいか霧のように虚空に消えた。だが、異形はまだ生きていた。

 

「閃光、踏破!」

 

 ギリギリ、もう一撃は使える。

 

 倒れ付した異形に再び狙いを定め、右足を振り上げると同時にコンクリートの地面を踏み抜いた。

 

━━━パァン!

 

 15メートルほど先まで瞬間移動した後、少し遅れて何か弾けとんだような音が背後から聞こえた。

 断末魔は、聞こえなかった。

 

「……っ、はぁっ、はぁっ」

 

 二回連続での使用はかなり身体に堪える。肺が収縮したような息苦しさと、凄まじい脚への負担に思わず膝をついてその場に倒れた。

 楽な姿勢で息を整えているとサラサラと砂が流れるような音がして、手元に赤みがかった色の水晶が飛んでくる。本当に倒せていたか心配だったが、無事に倒せていたようだ。

 

「は、は……良かった。危なかった」

 

 決着を急いで正解だった。手持ちの水晶で今回の『何か』に対応出来そうだったのは『夜行』と『獏』の二つだけ。持久戦に持ち込まれて、もしも『夜行』が破壊されていたらまずかった。

 鎧を解除し、異形の骸が変化した水晶を回収してゆっくりと立ち上がる。今日も何とか祖父母達との生活の平和を守ることが出来、ほっと一息つこうとした、その時だった。

 

 帰り道へと脚を向けた僕の背後から声がかかる。

 

「やっほ、冬樹 蓮司(ふゆき れんじ)君、だね?」

 

 自分の名を呼ぶ知らない男の声。

 バッと背後を振り返ると、知らない男性が立っている。

 

 白髪で、両目をアイマスクで隠しており、上下共に真っ黒な服とかいう見るからに不審者の格好をした長身の男だ。

 

 

「いやぁ、結構やるね。準1級ぐらいの強さはあったんじゃない? あの呪霊。雑だけど術式使ってたし」

「……誰ですか」

「へへへ、誰だと思う?」

「…………」

 

 不審者だ。しかも初対面であるはずの僕の名前を知っている。

 つまり、白髪のストーカー系不審者だ。

 

 

 

 咄嗟に先程使ったのとは別の水晶を取り出して身構えた。先程の戦闘で疲弊している為、激しい肉弾戦をしないでも充分に効果を発揮できる『獏』を選択。

 

「……変身、融合異形鎧『獏』」

「んー、やるの? 意味ないと思うけど」

 

 よくわからないが、アイマスクをしているのに彼からは僕の姿が見えている。それに僕の変身を見れていると言う事は、おそらく僕と同類の人間か、限りなく人間に近い姿をした『何か』。

 

「【眠れ】」

 

 獏への変身が完了すると共に、真正面にいる彼に向けて叫んだ。眠らせたい相手のいる方向に向けて「眠れ」と言うだけで相手を眠らせられる。元々の獏には無かったが、様々な水晶と混ぜ合わせ続ける事で突然発現した能力。

 

 だが、

 

「声を聞かせて眠らせる感じ? 呪言によく似てるね。でも当たってないよ? ホラホラもっと頑張って」

「っ、後ろ!」

 

 目の前に居たはずの彼の姿が一瞬で消え失せ、背後から彼の声が聞こえた。ハッとして左手で背後に向けて裏拳を放ったが、これがまた当たらない。

 

「さっきのアレは使わないの? 瞬間移動、あればっかりは僕も目を使わないと見られなかったよ。もしかしたら僕にも当たるかも」

 

 また後ろに回られた。

 先程からこちらの攻撃が全く当たらない。その上、移動する際のモーションが全く把握できない。

 

 彼は先程の戦闘を見ていたのか、融合異形鎧『夜行』の能力『閃光踏破』を使わないのかと訪ねてくるが、そもそも今は使えない。二回も連続で使うと身体がもう限界なのだ。そもそも、自分の能力でなかったものを無理矢理使うのだから、相応に負担があって然るべきだ。

 まあ、今『閃光踏破』を使えたところで、この白髪ストーカー不審者に当たるとも思えないのが恐ろしい所なのだが。

 

「【眠れ】!」

 

 今度は振り返ると同時に叫ぶ。

 が、やはり彼は居ない。

 

「ワンパターンじゃ面白くないなー。やるんならもっと本気で来てくれても良いんだよ?」

 

 人を小馬鹿にしたような態度。ワンパターンだと言われても、そもそも作った水晶の数に対して出来ることが少ないのだ。

 元が弱い『何か』だった獏が、強制的に眠らせる能力を持っていると言うだけで充分に力がある方だ。正直、今僕に何が出来るかと聞かれれば、『獏』の強制睡眠能力、『夜行』の閃光踏破の二つぐらい。先程手に入れたばかりのやつは実際に使ってみない限りわからないし、確実に格上の存在であるこの不審者相手に切れる札でもない。

 

「シィッ!」

「おっと」

 

 今度は射程を広げるために、気配を感じた方向に向けて全力の回し蹴り。不審者は瞬間移動こそしなかったものの、ぬるりと身体を反らして蹴りを避けた。

 何と言うか、嫌な感じだ。人間や『何か』を相手にしていると言うよりも、ずっと虚空を攻撃し続けているような虚無感。

 

「身のこなしも割りとイイね。そういうのどこで覚えたの? You●ube?」

「っは、シャアッ!」

「まあまあそんな焦んないでよ。僕、別に君の敵じゃないぜ?」

「換装、融合異形鎧『夜行』!」

「お、さっきのじゃん」

 

 どういった意図があるのか知らないが、先程まで多用していた瞬間移動を急に使わなくなった。罠だと言う可能性はかなり高いが、もう体力も僅かな僕に選択の余地は無い。

 瞬時に『獏』から『夜行』へと鎧を変更し、音速を超える速さでその胴体めがけて蹴りを打ち込んだ。

 

 だが、

 

「惜しいな~。でも、どう頑張ったって僕に君の攻撃は当たらないよ。ところで君、どれぐらい呪霊を祓ってきたの? 僕がここまで来る間、さっきのヤツ除いたら一匹も見掛けなかったんだけど。頑張りすぎじゃない?」

「……なんだ、これ」

 

 見た目では当たっている、ように見える。

 だがよく見ると振り抜いたはずの脚は当たる直前で停止しており、彼の身体に掠りすらしていない。

 

 今も全力で振り抜き続けているのに、だ。

 

「っ!?」

「びっくりした? 当たるはずの攻撃だったのに、当たんなかったの」

「………『無限』」

「ありゃ、結構気付くの早いなぁ。事前情報とか一切無いはずなのに。君、呪術師ほんとに向いてるよ」

「何の話ですか……!」

 

 背筋にゾッとしたものを感じ、攻撃を中止してその不審者の近くから飛び退いた。

 攻撃している時に感じた、あの感覚。どこまでも続く『無』を攻撃し続けているような虚無感。

 どんな仕掛けなのか不明だが、この不審者は何かしらの方法でそれを実現している。先程の瞬間移動と言い、今の防御方法と言い、『空間』そのものに働きかけているのか、それとも『時間』に干渉するようなものなのか。

 

 どっちにしたって規格外にも程がある。

 

「……あなた、人間ですか」

「ええ!? 失礼だなあ。僕は人間だよ? 『最強の』って頭に付くけど」

「………」

「もしかして、引いてる?」

 

 ドン引きしている。

 いい大人がカッコつけながら『最強』を自称している姿なんて初めて見た。百歩譲って本当に『最強』だとしても、こんな子供みたいな振る舞いをする大人がいるか。

 

「ま、こっちから君を害そうなんてつもりは無いから安心してよ。逆に僕は君を助けに来たんだ」

「ストーカーがですか」

「え、ストーカー? うん? うん……あー。えへっ☆」

 

 今さら自分の失敗に気付いたとでも言うように、自分の頭をコツンと叩いて舌を出す不審者。ふざけて誤魔化そうったって、結局やっている事が不審者のまま変わらないのが非常に残念だ。

 

「何なんですか。いきなり人の名前を呼んで、僕と同じような妙な力を持ってて。僕はこれでも真面目にやってるんですよ」

「知ってるよ。自分を助けてくれたお爺ちゃんとお婆ちゃんを守るため、でしょ?」

「何でそこまで……やっぱりストーカーなんじゃないですか」

「いやいや違うって。こうやって君を見に来たのもこれが二度目だし。君の情報は他の呪術師が集めてきてくれるからさ」

 

 呪術師?というのはよくわからないが、ストーカーは集団ストーカーだったらしい。

 いつの間に、いつからそんな大勢のストーカーにつけられていたのか知らないが、そんな事態に気付かずにのうのうと暮らしていた事に背筋がゾッとした。

 

「うわ、ドン引きじゃん。まあそう思うのも仕方無いけどさ、呪術師ってクソだし」

「……それで、ストーカーさんは何しに来たんですか。今まで隠れてたのに、わざわざ会いに出てきたって事は何か理由があったからでしょう」

「ストーカーじゃないんだけどなぁ、まあ良いや。とりあえずその術式、あー『鎧』解いてよ。僕もこれ以上やる気は無いからさ。そしたら話すよ」

 

 男はヒラヒラと手を振りながらそう言った。『鎧』を解けば話してくれると言うが、騙されていそうで正直怖い。

 だが彼に勝てるようなビジョンも浮かばない。戦い続けても、たぶん瞬殺されるか、それとも持久戦で体力切れを起こして自滅するか。

 

「融合異形鎧『夜行』、変身解除」

 

 どっちにしても死ぬなら、少しでも生き残れる可能性がある方を取るしかない。彼の言葉に従って、『鎧』を解除した。

 生身に戻り目の前の彼を見すえると、彼は「物分かりが良くていいね。素直な子は嫌いじゃないよ」なんて良いながらスタスタと歩み寄ってくる。

 そして、数歩前まで近付いたところで立ち止まり、こちらを見下ろしながら馴れ馴れしく肩を掴んで言い放った。

 

「はい、と言うわけで冬樹蓮司君は東京都立呪術高等専門学校に転入する事が決定しましたー! オメデトー!」

 

「………はい?」

 

 

 







【融合呪霊鎧『獏』】
 『獏』の無色水晶から作られる融合呪霊鎧。今は『呪霊』という言葉を知らないので『融合異形鎧』と呼んでいる。主人公のクラスメイトに取り憑いていた悪夢を見せる能力を持った三級呪霊を軸に、他の呪霊から作った水晶を大量に混ぜ合わせて作られた。
 身体能力の強化はあまり無く、素の状態の二倍程度にしかならない。しかし、大量の水晶を混ぜた事で発現した術式を持ち、『眠れ』と言う言葉を聞かせるだけで相手を眠らせる事が出来る(格上には効きにくい上に眠らせる事しか出来ない)。
 夜行を倒した時は、術式で眠らせた後に物理で頭部を破壊して倒した。


【一級仮想怨霊『海難法師』】
 主人公の両親を殺害した呪霊。ある地方の言い伝えに現れる怪異『海難法師』に対する人々の畏れから産まれた呪霊。一定時期になると海から現れ、その日に海を見てしまった人を海に引きずり込んで殺す。万が一海を見てしまっても、門口に籠を被せて柊などの魔除けを飾った建物の中に籠っていれば助かるが、主人公の両親は窓を開けたままにしてしまった為に襲われ、殺されてしまった。


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