中堅呪術師変身系   作:でんでんむし

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対 工場跡地の呪霊(前編)

 

 

 

 

 

 三人で周囲を警戒しながら、建物内へとゆっくり侵入していく。開いていたドアから侵入した中はとても広く、そこらじゅうに金属クズや瓦礫が散乱している。

 機械の類いは建物に直接取り付けられたものを除いて一切が取り払われており、コンクリートの柱や壁・床が目立つ。

 

 今のところ、呪霊らしき気配は感じられない。

 

「………そういや、冬樹、お前の術式って何だ? 乙骨眠らせた時の感じからすると、棘と似た感じか?」

 

 ふと、先行していたパンダさんがそんな事を聞いてきた。そういえば自分の術式を彼等に話していなかった。共に戦う仲間として、術式の内容を共有しておかなかったのは悪手だったと後悔する。

 

「いえ、僕の術式は呪霊の力を奪い、鎧と言う形で自らの力とするものです。あの時のものは『獏』と言って、眠らせる事しか出来ません」

「術式も奪えんのかよ、スゲーな。因みに俺は術式を持たない完全な格闘タイプ。俺の身体はちょっと特殊だからな。棘は呪言って言う、声に出した言葉の意味をそのまま相手に押し付けて攻撃できる術式だ。覚えとけよ」

「了解です」

 

 パンダさんに頷いて返すと、彼もグッと親指を立てた。隣で聞いていた狗巻くんも静かに頷く。

 

 

 

 建物内では未だに呪霊の反応は見られないが、いきなり無防備に建物の中心に行くことも無いだろうと言うことで、二手に別れて建物内の外周をそれぞれ反対側から回り、向こう側で合流しようと言うことになった。

 まずは右側からパンダさんが単独で。そして左側から僕と狗巻くんのペアで行く。いきなり襲われた際に対応出来るフィジカルがあるかという点でのチーム分けだ。

 パンダさんは突然呪霊に襲われたとしても単独で対抗できるかもしれないが、狗巻くんのような術式を主に使って戦うタイプでは咄嗟の防御が遅れる可能性があると言う。故に、呪霊の力を以て身体能力の底上げも行える術式『呪鎧装術・神衣』を持っている自分が万が一の際に狗巻くんの防御を行うといった流れ。

 

 自分は新人だからあまり戦力としては考えられていないかもしれないと思っていたが、五条先生の話した内容が効いていたらしい。二人からの僕の認識は、『とりあえず準一級ぐらいなら殴り合える呪術師』という感じのようだ。

 

「んじゃ、向こう側でまた会おうぜ」

 

「ええ。パンダさんもお気をつけて」

「ツナマヨ」

 

「おう、お前らもな」

 

 ひとまずパンダさんと別れ、狗巻くんと共に左の道を行く。とは言っても、広い建物内は柱や残っている機材等でよほど死角にならない限り反対側までよく見える状態で、反対側に向かったパンダさんの様子も視線を向ければ確認できる。ふと振り返れば、忍び足で歩いて行くパンダさんの後ろ姿がよく見えた。

 

「高菜?」

「あ、いえ……大丈夫です。行きましょう」

「しゃけ、すじこ、明太子」

 

 視線を前へと戻し、歩みを進める。

 塵の積もった床は一歩踏み出すごとに「ざり、ざり」と音を立て、くっきりと足跡を残していく。

 

 この工場跡地には人が出入りしていたと聞いていたが、本当に人など出入りしていたのだろうかと疑いたくなるような状態だ。

 舞い上がる塵を吸って咳き込まないように、呼吸にも気を遣いながら進んでいく。いつ物陰から呪霊が現れても良いように細心の注意を払いつつの探索。建物内には僕と狗巻くん、そしてパンダさんの三人の足音が静かに響くだけで、嫌に静かすぎるのが不気味だ。

 

「ツナマヨ……?」

「……結局、何もありませんでしたね」

 

 歩き始めてから数分。あれだけ緊張しながら歩いていたというのに、結局何事も無く僕と狗巻くんは反対側へとたどり着いた。

 

「うい、二人とも無事か。こっちは結局何も無かったぜ」

 

 少し遅れてパンダさんも予定の場所に辿り着く。

 彼も何事も無かったようで、拍子抜けした様子だ。

 

「此方も何もありませんでした。何というか、何も無さすぎて不気味ですね」

「しゃけ」

「隠れてるって言うか、そもそも居るかすらわからないのがなぁ」

 

 ふいっとパンダさんが建物の中心部分へと目を向ける。

 何がある訳でもない。剥き出しのコンクリートにチリが積もっているだけの床があるだけの広い空間だ。

 

「あそこ、だけだよな」

「嫌な感じです」

「俺行ってくるからよ、棘の事頼んだぜ」

「パンダさんは大丈夫なんですか?」

「へへっ、俺は腕一本取れたぐらいなんて事無い身体だからな。お前こそいつでも動けるようにしといてくれよ」

「承知しました。変身、融合呪霊鎧『無垢』」

 

 一先ずは様子見だ。万が一の逃走用に水晶を一つ取り出して鎧にして装着する。最初は主戦力である『夜行』にしようかと考えたが、狗巻くんを抱えて逃げる際の彼への負担を考えて装着した水晶は呪霊で言うと三級以下の粗悪品。呪力も低く術式も無い、そんな粗悪品でも『プレーン体』として充分な運動能力は得られる。

 

 狗巻くんと僕を残し、パンダさんは一人で建物の中央へと歩いていく。一歩進むたびに床に積もった塵が剥げ、くっきりとした足跡を残していく。

 

「……ついたぜ」

 

 建物の中心に到着した彼が静かに呟いた。

 その時だった。

 

 

━━━カラン、カランカラン

 

 

 ふと、乾いた金属音が遠くから聞こえた。

 タライだとか、金属バケツだとかをひっくり返した時のような音。

 

 その方向へと目をやると、床に今まで無かった何かがぽつんと置かれている。

 

 何の変哲もない、フライパンだった。

 

 途端に感じるおぞましい気配と、鼻がねじ曲がるような酷い臭い。

 

「フライパン……?」

「っ、やべえっ、棘ッッ!」

 

 パンダさんの表情が一瞬にして曇った。

 咄嗟に狗巻君が前へと飛び出し、ネックウォーマーを引きずり降ろして叫ぶ。

 

「『潰れろ』!」

 

 彼が叫んだ瞬間に床に置かれていたフライパンがひしゃげ、煎餅のように左右から押し潰される。だがそれと同時に彼も口から凄まじい量の血を吐きながらその場に倒れこんでしまった。

 

「ゲホッ、ゲホッ……こ"ん"ふ"」

「喋んな棘! 冬樹、ここは俺が抑えるからすぐ逃げろ。 棘が駄目だった時点で準一級以上は確定だ!」

「もうやってます! 僕はすぐ戻りますからね!」

「急ぎで頼む!」

 

 ちらりと見たフライパンは、ひしゃげた事で出来た隙間から干からびた腕が伸びてきており、ニチニチと嫌な音を立てながら何かが出てこようとしていた。

 

 狗巻君を抱き抱え、全速力で駆けつつ扉を破壊して建物の外へ。建物の外は、あの呪霊が放つ濃厚な呪力にあてられたのか低級の呪霊が湧いてきており、とてもじゃないが安全な場所とは言えない状態になっていた。

 一先ず今回の任務の開始地点まで狗巻君を運び、内側から帳を破壊。外で待機していた補助監督の方に狗巻君を預けると共に、応援の要請と再度帳を下ろすことを頼んでから工場跡地の敷地へととんぼ返り。

 

「換装、融合呪霊鎧『夜行』!」

 

 建物へと戻る途中、鎧を『夜行』へと換装し、周辺の雑魚呪霊を祓いつつ再突入。

 戻ってきた建物の中は先程よりも鼻を刺す酷い臭いが濃く、強くなってきていた。そして、その異常な臭気の中で干からびたゾンビのような呪霊を相手に一人必死に戦うパンダさんの姿が。この短時間で激しい攻防があったのか彼の身体には細かな傷が幾つも出来ており、綿のようなものがはみ出ている。

 

「冬樹っ」

「夜行、閃光踏破!」

 

 パンダさんと呪霊の戦いに横入りする形で閃光踏破を発動。真横から重い一撃を食らわせてやる。

 

「ンギャッ!」

 

 呪霊はボサボサの長い髪を振り乱しながら吹っ飛び、建物の壁に激突した。だが、

 

「……重、い」

「助かったぜ。ってか大丈夫か? キツそうだぜ」

「滅茶苦茶堅いです、あいつ。素のスペックじゃ押し切れそうにありません」

 

 奴を蹴った右足に残った痺れるような痛み。

 今まで閃光踏破で蹴り殺してきたどの呪霊でも、ここまでの反動は感じなかった。

 一時的な光速での移動を可能にする閃光踏破は、その発動時に生身を保護する為に瞬間的な防御効果も持っている。柔らかい相手に使っても多少の反動はあるが、余程相手が堅くない限りは微々たるものだ。だから連続での使用も出来る。

 

「いつもなら今の術式を連続使用出来るんですけど、これ、駄目です」

「マジかよ……じゃあパンダモードの俺じゃダメージあんま通って無かった?」

 

 壁に叩き付けられていた呪霊がボトリと床に落ち、べちゃべちゃと水っぽい音をたてながら立ち上がる。あの干からびた身体から何故そんな音が出るのかとよく観察すると、呪霊が纏っていた服だと思っていたものは全て人の皮だ。あまりにもおぞましい姿に喉の奥から酸っぱいものが込み上げてくる。

 

「アタシノ、オ、リョウリ……邪魔しししナイで」

 

 長い黒髪の隙間から覗く雑巾のような顔が蠢き、少女のような声がした。

 

「うげ……最初から呪霊だったタイプじゃねーなアイツ。死んだ人間から産まれたタイプだ」

「それだけ、何らかの強い意思があったって事ですか。でも何でだってこんな工場の跡地になんか」

「……ここ、地元の不良とかが深夜によくたむろするような場所だったらしいぜ。あとはもう、わかるだろ」

「最悪の気分です……」

 

 もしそうだったとしたら、何と憐れな呪霊だろうか。人間の醜い部分を煮詰めたような泥沼から産まれた呪霊。呪霊そのものが人の醜い部分から産まれてくるようなものだが、この呪霊は輪をかけて酷い。

 

「悪い、戦えるか?」

「気分は悪いですけど、平気ですよ。予想が本当だとすれば尚更。アレがもっと人を殺す前に僕らは祓わなきゃならない」

「……そうだな」

 

 呪霊は地面からフライパンを引きずり出し、更にフライパンの中央に手を突っ込んでそこから包丁を引きずり出す。まるでドラえ○んの四次元ポ○ットだ。

 それと同時にパンダさんも僕も体勢を立て直して迎撃体勢をとる。

 

「なあ冬樹、応援呼んだ?」

「補助監督の方に頼んできました」

「そうか、じゃあ俺達は全力で時間稼ぎだな」

「多分、僕らの力量じゃ倒せそうには無いですし。仕方ないですね」

 

 ステータスのみで安定を取るならば、攻守共に高い水準を安定して出せる『夜行』。だが、術式が使えない状態で戦うのは不安が残る。此方が追い詰められた時、パンダさんがピンチに陥った時、窮地をひっくり返すことの出来る切り札が無い。とは言え『獏』を使うのは狗巻君が一回の呪言で駄目になったのを見る限り、『獏』程度の強制力では効かないのが目に見えている。

 

「なら、こっちだ。換装、融合呪霊鎧『鬼蜘蛛』」

 

 赤い水晶を取り出し、鎧へと変換して身に纏う。

 元は先日五条さんと出会った日に祓った呪霊の水晶。これを軸にして他の水晶を大量に混ぜ合わせて強化した新造の水晶だ。成り立ちは『獏』と似ているが、此方は能力自体に変化は無く単純に呪力が強化されている。

 

「また変わったな。そいつの能力は?」

「デカい手を6本まで自在に生やします。腕がやられても本体へのフィードバックは無し、適当な足場になったり、盾になったりしますよ」

「良いね、時間稼ぎに最高」

 

 パンダさんがニヤリと笑う。

 次の瞬間、呪霊は両手で包丁を握り締めて再び襲い掛かってきた。

 

 

 






【現在オリ主が持ってる水晶と能力】

『獏』
 準二級相当。複数の水晶を混ぜ合わせて作った水晶の為に術式が使えるが、呪力の量が少なすぎる為に評価としては準二級。術式『夢喰い』は狗巻棘の呪言によく似ており、『眠れ』と言うだけである程度までの相手であれば眠らせる事が出来る。しかしそれ以外の言葉は何を喋っても無意味。弱い。


『夜行』
 準一級相当。仮想準一級怨霊『夜行』を祓った事で手に入れた水晶。呪力量も多く、力良し、守り良し、スピードも良しの安定感のある鎧になる。術式『閃光踏破』は光の早さで直線を移動し、直線上に居た全ての相手を蹴りつけるもの。多少の反動はあるが、確実に黒閃を発生させられる。


『鬼蜘蛛』
 準一級相当。様々な場所から腕を生やす術式を持った呪霊を祓って手に入れた水晶に、三級・四級相当の水晶を混ぜ合わせて作った。術式『蜘蛛手格子』は術者を中心にして半径30メートル以内のあらゆる場所から6本まで腕を生やす事が出来る。腕は小さなものから巨大なものまで変化させられ、腕が生やした部分から途切れない限り自在に操る事が出来る。ここぞの突破力は無いが堅実な攻めも守りも出来る。


『無垢』
 四~三級相当。呪力少ない術式もない素の力も無い、そんな弱い呪霊達を祓うと手に入る水晶。水晶ごとに力の差はあるが特にこれといった能力も無く、身体能力の上乗せぐらいにしかならない。二級相当以上に殴られれば即壊れるので、身体能力の上乗せにもイマイチ。沢山持っているので、やられても即復活のゾンビ戦法ぐらいなら出来る。


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