皆さんは『超能力』というものを知っているだろうか? スプーン曲げだったりエスパーとかいうアレだ。そういったものは科学的な根拠のない、いわばオカルトいわば『架空』のものとして扱われているのが現実。けれどある世界のとある日……光る赤子が生まれた。その赤子の誕生を皮切りに人々の身体に特異体質が発現し始めた。赤子のようにその身を発光させる者もいれば口から火を吹いたり空を飛んだりとその体質は人それぞれ。当初は危険視されていたその力もいつしか人という生き物を形成する一部という認識に変わっていき力を持つことは異端の証なのではなく自身を形成するアイデンティティなのだとして”個性”と呼ばれる超常社会となっていた。今や総人口のおよそ8割が特異体質を持って生まれある者はその力を犯罪に、ある者は悪事を止めるべくその力を行使する『敵』と『ヒーロー』と呼ばれる存在が生まれ人々は平穏な日常を送っていた。
『
――あれは小学4年生の頃の夏休みだったか。
時間としてお昼を過ぎた頃、日が頭上からギラギラと照らす公園で私は男の子に混じって遊んでいた。
こんな暑い日だ、他の女の子の友達はエアコンが良く効いた家で遊んでるらしいけど私は外で身体を動かしたい…何となくそんな気分だった。
「よし! ヒーローごっこしようぜ!」
「いいね!」
「やろやろー!」
男子の一人の出した提案にその場にいた男子二人は即答し、私もやや遅れて頷く。
彼らとは特段仲が良かったわけではないがこの日だけは楽器を弾くのでもなく、ままごとをするのでもなくこの公園で遊ぶべきなのだと何故か感じていた。
「んじゃヒーロー役だけど……」
「はいはーい! 俺がやる!」
「ずりぃぞ!俺もだ!」
「俺もヒーローやりたいし…そんじゃ耳郎。お前敵役な!」
「え、いや私も――「ヒーロー参上! 凶悪な敵を今から退治する!」」
私――耳郎響香――は配役に異議を唱えようとするもその暇も与えられず、ヒーロー役となった男子一人が耳郎に飛びかかる。
飛びかかってきた男子をなんとか避け、耳郎はすぐさまその場から脱しようと彼らに背を向け走り出すも男子の一人の腕が奇怪にも空を這う蛇のようにうねりながら伸び、耳郎の耳をがっちりと掴んだ。
「きゃっ!?」
「ヒーローを前にして逃げるとは! この臆病者の敵め!」
「気を付けろヒーロー! そのイヤホンみたいに尖った耳たぶは危険だ!」
「なら両耳とも結んで攻撃できないようにしてやる!」
「痛っ……やめてよ!」
両耳の耳たぶを男子は結び付けようとイヤホンのコードのように伸びる耳たぶを引っ張り、耳郎は悲痛の声を上げる。
痛みに歯を食いしばりながらも必死に止めるように言うけれど男たちはただ笑い続ける。
誰かに助けを求めようとしても公園にはこの暑さだ。大人から子どもまで皆家に引きこもっているのか人っ子一人いない。
耳たぶを掴む男から逃げ出そうともがくも、余計に引っ張られる痛みに力は入らずただ地面の砂を足で掻くことしか出来ない。
(このまま終わるのを待つしかないの……?)
耳郎は痛みと絶望から流れようとする涙をこらえながらその目を瞑ろうとする。
こんなことになるなら家に籠って大人しくおままごとでもやってれば良かった……そう思いながらこのまま悲痛の時間が過ぎるのを黙って待とうとする。
一分でも…一秒でも…早く終わることを祈りながら。
そんな時だった。
「あのー……今すぐその手を離したほうが良いと思うんだけど。」
自分たち以外誰もいない筈の公園に聞こえる見知らぬ声に耳郎も男たちも驚き周囲を見回す。
入り口に人影はない。ましてや隣にもいない。ならば背後だと男たちは振り向き耳郎も痛みをこらえながら背後に視線を向ける。
彼らから数メートル離れたその場所には一人の男がこちらを向き立っていた。
「な、なんだてめェー!?」
「おいおい……人の顔を見ていきなり何だとは失礼じゃあないか?」
「ま、まさかヒーローか……?」
振り向いた男らは目の前に立つ男を見て驚愕の表情を浮かべながらズリズリと後退る。
何故後退ったのか? それは決して男の顔がブサイクとかヘンテコだったとかいうわけではない。
その男はただ――デカかったのだ。太陽がもう少し傾けば自分たちはその影に飲み込まれてしまうと感じるほどの巨体、服の上からもわかる筋肉から発せられる圧は圧倒的身長差のある幼き彼らにとってはヒーローと感じてしまうほどだった。
「ヒーロー? 違う違う。そんなちゃちなモンじゃあない」
「…なら敵か!」
短絡的な発言に男はふーっと息を吐くと耳郎らの方へと1歩、また一歩と歩み始める。
「男がよってたかって女の子をいじめるっていうのは良くないと思うんだ。わかる? 暴力、良く、ない。だから……」
「うるせぇ! こちとらヒーローごっこやってるんだから放っておけよ!!」
「……ヒーロー? アンタらが?」
「そうだ! そしてコイツは凶悪な敵、だから捕まえてるんだ。お前…まさかコイツの仲間だな?」
小学生の一人が発した言葉に男らはお互いの顔を見合わせ頷くと立ち止まった長身の男に対しジリジリと向かい始める。その動きに長身の男は大げさにやれやれといったように手を挙げ首を横に振った。
「仲間? おいおい、俺はごっこ遊びに付き合うために来たんじゃなくてだな……」
「問答無用! 敵はヒーローがぶっ飛ばす!!」
「ッ逃げて!!」
一人が背から翼を広げ、公園を照らす電灯程度の高さまで飛び上がると獲物を狙う鷹の如く長身の男へと滑空する。
その男の滑空に倒れた被害者の数、実に67人!
大人であろうがお構いなしの一撃をお見舞いしようとする男の姿に耳郎は痛みを忘れ叫ぶ。
けれど長身の男は逃げることはおろかその場から一歩も動こうとしない。
次に起こる事柄に耳郎は思わず目をぐっと閉じた。
私のせいで関係の無い人を巻き込んでしまったという罪悪感を感じながら。
「人の話は最後まで良く聞け! このアホ!!」
聞こえてきたのは悲鳴……ではなく男の怒鳴る声。
男子の高笑いが聞こえると想像していた耳郎は恐怖から閉じていた目をゆっくりと開ける。
そこあったのは怪我に苦しむ男の姿などはなく、長身の男がもがく翼を生やす男子の胸倉を掴み怒鳴りかける光景だった。
「てめェのせいでせっかくおばあちゃんに買ってもらった服に泥ついただろうが!」
「う、ううっ……」
「もしも~し? 聞こえてますかァ? ノックしてもしも~し?」
長身の男は胸倉をつかみながら挑発するように宙でもがく男子に耳を近づける。
そこには先ほどまで会話で物事を解決しようとする姿はなく我慢の限界を迎えたかのような……まぁ、そう……ガキがいた。
「お、おい! こいつがどうなってもいいのかよ!」
「うぐッ……!」
「チッ」
その光景を見て苛立ちを覚えたのか顔を真っ赤にして私の耳を掴む男がより力を強める。
耳郎の出す悲痛の声に長身の男は軽く舌打ちすると掴んでいた胸倉を離し、耳郎らの方へと向き直した。
「てめぇ……よくも俺の仲間を! おい!」
「ああ!」
耳郎を拘束する男の他にいるもう一人の男は拳を前に突き出す。
拳は関節や骨といった人体の構造を無視し変形し、黒く日に照らされ黒く輝く銃となりその銃口は長身の男に向けられる。
「こいつは玩具なんかじゃないぜ。痛いし血も出る! 謝るなら今の内だぜ?」
「そうかい……ならそっくりその言葉、お返しするぜ。」
「何ィ?」
人間の生存本能として人類史でも猛威を振るった恐怖の象徴である銃。
普通の人間ならば動揺し、助けを乞うであろうそれを向けられながらも長身の男は平然とながら言葉を返す。
ましてや喉が渇いたといわんばかりに懐からラムネ瓶を二つ取り出した。
銃口を向けられても媚びることないその余裕さに男は更に逆上し引き金に指をあてる。
「下手な動きすんじゃねぇ! もう撃つからな!」
「いいぜ撃ってみろよ。だが『覚悟』がいるぜ。撃鉄を起こした瞬間、お前ら二人の頭を吹っ飛ばす! ダルマ落としの頭みてぇにな!」
「離れた丸腰のてめェに何が出来るってんだ! 後悔しやがれ!」
そう言って男が撃鉄を引き、火花が散るとともに鋼鉄の弾丸が発射される。
まっすぐ突き進んでいく弾丸に今度こそ終わりだと目をそらそうとしたその時耳郎には長身の男が少し光っているように見えた。
そして次の瞬間、どんなマジックを使ったのかわからないが……男の手に持つラムネから蓋ごとぶっ飛んだビー玉が飛ぶ弾丸をコルクのように潰し二人の男の脳天に直撃した。
「ガハッ…」
「ッつう……」
弾丸を簡単に潰したビー玉は頭を吹っ飛ばす……ことはなかったが意識を刈り取り、男たちは白目をむきその場に倒れ伏した。
あまりのことに耳郎は拘束から解放されしばらくしてから我を取り戻し公園を見回す。
起きた事柄を次第に把握していくごとに青ざめながらも目の前の男に声を掛けた。
「……ねぇ、ちょっと。」
「アン? 何だ? 今ラムネ飲むので忙しいんだけど。」
「その…お礼を言いたいんだけどさ、この状況まずくない?」
長身の男は頭に?マークを浮かべたような顔をしながら公園を見回す。
いるのは耳郎、倒れ伏す3人、そして蓋が外れたラムネをこぼさないよう慌ただしく飲む自分。
幸か不幸かこの場には他に誰もいないが……見られた大問題間違いなしだろう。
男の顔が青ざめていく。どうやら男も事の次第をわかってくれたらしい。
外人っぽい見た目をしていたため価値観の違いとか少し不安だったが大丈夫そうだと耳郎は胸をなでおろし続ける。
「わかってくれた? この状況がどれだけヤバイかを。」
「オ―ノー! わ、わかったぜ!この状況のヤバさが!」
「警察「エリナばあちゃんに叱られる……!」……え?」
長身の男の言葉に耳郎は開いた口が塞がらなくなる。
3人気絶させてしまったこの状況で警察やら大人の介入を恐れるのが普通であろうにこの男はエリナとかいうおばあちゃんに叱られることだけを恐れているのだ。
「おい! えっと……耳郎って言ったっけか。早いとこずらかろうぜ!」
これがグローバルギャップかと考えてしまう耳郎に長身の男はそう告げ、一人でに走り出す。
男3人倒れる公園に残されては噂とか問題とか色々と面倒なことになると耳郎も慌てて長身の男に続き走り出す。
悪いことの一端に加担しているような気がしたがその一方でどこか心が晴れた……そんな気を耳郎は感じていた。
あれからどれほど走っただろうか。周辺の住宅の影の大きさが日が段々と日没の方へ向かっていることを示している。他の公園へとたどり着いた二人は息を整えながらベンチに座った。
長身の男は息をあまり切らしていないように見える。男だからだろうか。そんなことを考えながらも耳郎は呼吸を整えると隣に座る男の方を向き口を開いた。
「ねぇアンタ。さっきはありがとう。」
「別に良いってことよ。気にすんな。」
「私の名前は耳郎響香。アンタの名前……聞かしてよ。」
今日初めて、それも強烈な出会いであったがそれ故かどこか奇妙な縁を感じた耳郎は男に名を問う。
きっとこれからも彼は……
「ジョースター。ジョセフ・ジョースター。ジョジョって呼んでくれ。」
ここから彼を中心とした奇妙な奇妙な物語が幕を開ける。
地の文におけるジョセフの名前
-
ジョセフ
-
ジョジョ
-
jojo