刻むぜ波紋のビートッ!!   作:ベリアロク

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第6話 消えた入学式

日が昇って雲一つない空が明るく照らされるそんな朝。ジョジョと響香はグレーのきちっとした制服を身に纏い目的の場所、今日入学式が行われる雄英高校へ向かい歩いていた。けれど入学式を迎えるに相応しいそんな爽やかな朝に対して彼らの様子はどうやら穏やかではないようだった。

 

 

 

「全く……あんだけ寝坊すんなって言ったのにさぁ」

 

「だ、だからよォ……悪かったって。約束の時刻に間に合わなかったのは謝るけど電話貰ってちゃんと起きたし良いじゃあねぇか」

 

「ちゃんと起きたって……それまでに何回電話かけたと思ってるのさ!」

 

 

そう言って響香は自身のスマートフォンの画面をジョジョの顔に突きつける。

そこには今日の通話履歴が表示されており、『ジョジョ 応答なし』の項目が画面を埋め尽くしていた。

 

 

 

「ワーオ、すっげーな。何回掛けたんだコレ?」

 

「……20回」

 

「20回!? ……いやぁ流石俺! 俺の眠りは誰にも妨げェ―――」

 

 

何か気まずい空気をジョジョは感じながらも相変わらずのテンションで喋ろうとする。

ここで露骨に態度を変えるのは不味い、と。だがその判断は裏目に出てしまい、反省の色を見せないジョジョの態度に顔をしかめた響香がジョジョの頬を蛇が獲物を力強く噛むかのように片手で掴んだ。

 

 

「……」

 

「痛い、痛いって響香サン! 俺の顔をサンドウィッチみたいに掴んで―――「何か言うことは?」―――あ、アハハハ……すいませんでしたァ!」

 

 

これ以上は生命の危機だと本能で感じ取ったジョジョは高速で頭を下げる。

ジャパニーズ平謝りである。

 

 

「はぁ……いいよ」

 

「さっすが響香! 懐が広い……って置いてくなよォ!」

 

 

響香は謝罪は受けたものの若干納得がいかなかったが、住宅街のど真ん中で大男が少女に許しを請う様子は誰かに誤解されかねないと感じため息を吐くと止めていた足を雄英へと向け動かし始める。そしてその後ろをジョジョが追いかける。彼らにとっては日常茶飯事のことだった。

 

 

「ふあああ……おかげさまで朝から疲れたわ」

 

「悪かったって! にしても眠そうだなァ響香。夜更かしでもしたのか?」

 

「まぁちょっとね……。いよいよ入学だと思うと寝れなくてさ」

 

「オイオイ、試験前ならまだしも今更緊張か? 学校の奴らにも散々応援されたし気持ちはわかるがよォ」

 

 

響香が耳のプラグで頬を恥ずかしそうに掻く姿をジョジョはジト目で見つめる。

ジョジョと響香が雄英高校に合格したという情報はあっという間に学校内に広まり、親しかった友人や教師は勿論、少々関わった程度の者に用務員の方々挙句の果てにはすれ違っただけの微塵も関わったことが無い者にも賛辞と激励の言葉を送られるという学校を挙げて応援されているのとほぼ変わりない状況が卒業式を迎えるその日まで続いていた。

 

 

「応援してくれた皆の為にも頑張らなきゃ……って思っちゃってね」

 

「背負い過ぎんなよ? 人様の為に生きるのは立派なヒーロー像なんだろうが、あくまでこれはお前の人生だ。自分がやりてェことをやりゃいい」

 

「……何かそれっぽいこと言っててムカつくんだけど」

 

「へへーん! 俺だって偶には良いこと言うのよ!」

 

「そう……ていうかジョジョだってエリナさんやスピードワゴンさんを安心させる為に入学したんだし人のこと言えなくない!?」

 

 

頬を膨らまし苛立ちを見せていた響香が核心を突けたとジョジョを指さす。

普段ならここで慌てふためく……けれど青空のどこかを一瞥した後そこで見せたジョジョの反応は至って冷静で落ち着いたものだった。まるで海を前にして少年のように海水浴に興じることなく、物思いに耽る青年のような彼女の見たことが無い表情だった。

 

 

「勿論それもある。けどこんな俺にもあるのさ……起源(オリジン)っていうものがな」

 

起源(オリジン)……? それって―――「おおっともうこんな時間だ!? 悠長に話してる時間は無いぜ、行くぞ響香!」―――っと、待ってよ!」

 

 

 

独特のフォームで走るジョジョの背中を響香は追いかける。

家族を安心させるために雄英高校を受験したジョジョにも何か他の想い―――起源(オリジン)がある。それが何か検討もつかないがあのジョジョの表情には普段の彼とは違う何かがあるのだと響香は感じていた。

 

 

 

 

 

「―――あとちょいだ響香! 走れッ!」

 

「こっちはアンタみたいに体力無いってのにッ……」

 

 

ジョジョと響香は『1-A』の標識を目指し無人のだだっ広い廊下を駆けていく。

雄英高校にたどり着くまでの道のりは距離的には大したことは無かったが、雄英高校は小高い山の頂上に位置する。山と言っても標高50mも無い丘のようなものだがそこにある坂が凶悪だった。この坂で有名なヒーローらは足腰が鍛えられ、身体づくりに良い環境であったと皆コメントを残しているが今日初めて着る学生服に鞄を背負い差し迫ったタイムリミットを超えまいとする彼らにとっては何故こんなところに建てたと入学初日から感じてしまうほどの最悪な場所に思えた。

やがて二人は教室の前までたどり着き膝に手を乗せ息を整えると、教室の2mはあろうかと見える扉をガラリと開ける。

そこには綺麗に並べられた机に鞄が置かれているのみで消灯され、誰一人いない光景だった。

 

 

「へ、へへへへへ……何とか間に合ったァ」

 

「おかげで汗ぐっしょりよ……誰もいないけどセーフ、だよね?」

 

「アウトだ」

 

「「うわぁぁッ!?」」

 

 

皆トイレにでも行ってるのだろうかなどと二人が考えていると突然の人の声に飛び上がる。

冷や汗を流し、教室内を見渡すもどの机にも教卓にも人はいない。焦りのあまり幻聴が聞こえたのかと二人で顔を見合わせていると教卓の後ろにある黄色の物体がもぞもぞと動き出した。

 

 

「な、なんだァ?」

 

「あの黄色いのって……寝袋?」

 

「そ、寝袋。お前らが来るまで時間を合理的に使ってたわけだ」

 

 

二人の訝しむ目線を受けて黄色い寝袋がジッパー音を立てて開き、中から男が現れる。

 

 

「俺の名前は相澤消太、君らの担任だ。もうチャイムは鳴ってて他の奴らは着替えに行ってるわけだが……君ら合理性に欠くね」

 

「「担任!?」」

 

 

目の前の男の言葉に二人は耳を疑う。

清潔で汚れ一つない設備が備えられている雄英に似つかわしくないボサボサ髪で目にはクマのあるいかにも不健康な男がどうにも教師には見えなかった。

 

 

「この格好で教師だァ? ホームレスって言われた方がまだ納得できるぜ」

 

「ちょっと初対面でしょ! ……確かにちょっとパッとしないけど」

 

「面と向かってよく言えるなお前ら。……少なくともジョースター、お前は俺の顔を見たことある筈だが」

 

「ンン~? そう言われればどっかで見たことあるような……」

 

 

ジョジョは首をかしげながら記憶を振り返る。

そもそもジョジョは雄英関係者と面識はおろか、顔を知っている者はごくわずがだ。

支援者のスピードワゴンはともかくとして雄英に来たのはこれで2回目、試験における監督は外部の人のようだったし説明していた人だってもっとピシッとしたスーツを……

その時、ジョジョに電流が走る。このやる気のなさそうな声、そして死んだ魚のような目を知っていると。

 

 

「アンタ……実技試験の説明してた奴か!?」

 

「そうだ。ついでにお前の合否通知の担当だったな確か」

 

「オーッノー! 今はっきりと理解し、そして感じたぜ。 今俺の心の中で苦労したクロスワードパズルが解けたかのようなちょっとした爽快感とそんな爽快感吹き飛ばしてしまうほどの怒りがこみあげてるってことをなァ!」

 

 

歯をギリギリと噛みしめ、相澤をジョジョは指さす。

合否通知で心の準備をさせる暇なく合否を伝えたことに対する怒りがジョジョにはあった。

そう、ジョジョは結構根に持つタイプなのである。

 

 

「あん時のお返し、どうやって返してくれようか……ケケケ!」

 

「はぁ……耳郎、お前確かコイツと同中だったよな? いつもこんな感じなのか?」

 

「まぁ、大体こんなもんです」

 

「面倒臭ぇなオイ。まぁいい、ジョースター、耳郎。これに着替えてグラウンドに来い」

 

 

相澤はジョジョたちにビニール包装がされたものを投げる。

無事キャッチした彼らがそれに目を向ける。それは雄英高校の体操着だった。

 

 

「はぁ? 体操着?」

 

「なんで今こんなもの……」

 

「さっきも言ったが他の奴らは先に着替えてる。もう着替え終えてグラウンドに集まってるだろうから急ぎで来い」

 

「オイオイちょっと待てよ」

 

説明を終えたと一人グラウンドへ向かおうとする相澤の肩をジョジョが引き止める。

 

 

「なんだ? 更衣室ならそこの角を曲がった先にあるから好きに使え」

 

「『なんだ』じゃあないぜ! 今日は入学式の筈だ。初日から体操着を使うなんて連絡は一切ない……何のつもりだ?」

 

「……グラウンドについてから説明するつもりだったが、まぁいいだろう」

 

 

ジョジョの言葉に背を向けていた相澤も下手な誤解を招くより合理的だと振り返る。

 

 

「単刀直入に言うと君たちの入学式はない、簡単な話だ。ヒーローになるための3年間にそんなイベント事をやる暇なんて無いのさ」

 

「入学式はやらない……? じゃあ一体何をやるって言うんですか?」

 

「君たちが一体何が出来て出来ないのか……こちらで見させてもらう。さしずめ個性把握テストってところだ。いい成績を残すことを期待してるよ」

 

 

相澤はそう言い残し、その場を去っていった。

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