入学初日の雄英高校。入学式が行われるであろうその日に1-A面々は校庭に集まり、戦いが始まる時を待っていた。教師と彼が言い放った除籍宣言に抗する生徒の戦いを。
「うっし……これで大丈夫だな」
ジョジョは戦いの準備を整え、軽く深呼吸し立ち上がろうとすると何かに引っ張られたような感覚を覚える。足元を見るとズボンの裾を掴み裾を涙で濡らしながらこちらを見上げる峰田、そしてその後ろに立ち心配そうにこちらを見つめる響香らの姿があった。
「うぅ、俺なんかの為に……ありがとなジョジョ」
「いいのさ、俺があのセンコーの態度が気に食わなかったってだけだからよォ。だからお前は何も気にする必要はねぇんだぜ峰田」
「……けど大丈夫なの? 先生に喧嘩売っちゃってさ。これでアンタまで除籍になったら……」
「そうだぜ。お前の凄さは一緒に戦った俺らはわかってるけどよォ……何たって相手はプロヒーローだぜ?」
上鳴の言葉に切島も頷く。ここに居る者は相澤がヒーローとして活動する姿を見たことは無い。けれど雄英の教員としてここに居る以上目の前にいる男は紛れもなくプロの、それもかなりの実力者であることは雄英に居る他のヒーローを見てわかることだった。そんな不安を浮かべる彼らに対しジョジョははにかんで見せる。
「心配すんなってお前ら。さっきも言ったが俺には『策』があるんだからな!」
「ジョジョ……」
「おい、もういいかジョースター。時間が勿体ない」
「ハイハイ……っと。確認するが道具は使ってもいいんだよな?」
「ああ、構わない。お前が道具を使うというならそれで良い。俺も使うだけだからな」
「ケッ、容赦ねぇな相澤先生! ……大人気ないなー もっと優しくしてくれても良いのになー」
相澤の方をちらちら見ながらジョジョは一人言のように、されどはっきりと相澤に聞こえる大きさでつぶやく。
けれど相澤はそんな言葉聞こえないかのように何やら自らの懐から目薬を取り出していた。
「無視かよ……行くぜ!」
相澤に向かってジョジョは駆けていく。身長180㎝超を誇る筋肉質の巨漢の猛進はそこいらのゴロツキが腰を抜かして戦意を失ってしまうほどの迫力であるものの相澤は顔色一つ変えず、懐から取り出した薬で目を潤していた。
「余所見しやがって! お前が個性を消す前に波紋を叩き込んでやらァ!」
間合いを詰めたジョジョは思い切り拳を振りかぶり波紋を纏わせた渾身のテレフォンパンチを相澤に放つ。波紋を纏った攻撃は防御不可、相澤は回避せずジョジョの見え透いた攻撃を受け止める姿勢を作り拳は相澤の手のひらでパチンと音を立てた。
「おっし、波紋を……ッ!? 波紋が流れねェ!?」
「悪いがもう”見てる”。俺の個性の発動に多少のラグがあると考えたのか知らんが、生憎とそんなものないんで……なッ!」
相澤はジョジョの突き出す腕を掴むとそのまま宙に放り投げる。細身の相澤が一回り大きいジョジョを投げ飛ばし、そのまま相澤も飛び上がると右足の強烈な蹴りをジョジョの身体に叩き込む。ジョジョは咄嗟に腕を胸の前でクロスさせガードの姿勢を取るも意味を成さず地へと叩きつけられた。訓練の欠片も積んでいない一学生には覆しようのない圧倒的な力の差が見られた瞬間だった。
「クソッ、いってぇな! 大人気ないぜ本当によ!」
「悪いが接待してやるほどお人好しじゃあないんでね。証明する気があるなら早めにするのをお勧めするよ」
地面へ叩きつけられたジョジョは素早く立ち上がり、一旦距離を取ろうとするも相澤はすぐにその間をつめた。
「は、速いッ!?」
「道具はアリ……だったよな?」
「チッ、食らえ波紋ッ!」
ジョジョは先ほどのお返しにと蹴りを繰り出すも波紋は僅かな量も流れず、相澤の捕縛布に絡めとられる。捕縛布には特殊合金が使用されており解くのは容易ではない。身動きの取れなくなったジョジョはハンマー投げのように振り回された後再び吹き飛ばされた。
「うおおおッ!?」
「これで良く勝てるなんて言えたもんだな、ジョースター」
「やべぇって! ジョジョやられっぱなしじゃあねぇか!」
「大丈夫、アイツにはきっと策が……って何アレ?」
「ん?どうしたよ耳郎。何かあったか?」
「いや、ジョジョの近くに落ちてるあの瓶みたいのって……」
耳郎が指さした先にあったのは地面を転げたジョジョから遠ざかるように転がる瓶状の何か――――皆さまご存じ『コーラ』があった。ジョジョが用意した道具は『コーラ』だったのである。
「ん? 何か身体が軽い……ってやば!」
「ジョースター、まさか道具ってそれのことか?」
心底呆れたような目で相澤はジョジョのことを見つめる。そんな目線にジョジョは乾いた笑いをこぼした後咳払いをし口を開く。
「……バレちゃあしょうがない。そうよ、こいつが俺が持ち込んだ道具さ。俺の波紋はコイツを飲むことで強化されんのよ」
「へぇ、そいつは初耳だな。呼吸系の個性は炭酸との相性は最悪だと思ったが」
「そうだろ? そう思うだろォ? これが違うんだなー 俺の個性のルーツを辿るに、だ……」
ジョジョがコーラを手にし得意げに話始めたたことで相澤は一旦距離を詰めることを止める。一見どこにでも売っていそうなコーラだが実技試験を改造スタンガンで乗り切った男だからこそ何かしら仕掛けがあるのではないか……そんな警戒心によるためだった。けれどそんな張り続ける警戒心とは違い、肉体には小休止というものが必要だ。無呼吸では生きられず、
「……この感覚は
波紋が身体を流れる感覚を得たジョジョはコーラ蓋を相澤に向けるとコーラに波紋を流し込む。波紋が伝わったコーラの液体は蓋をピッチングマシンのボールの如く高速で吹き飛ばした。瞼を開けた相澤はジョジョの腕が光っている姿から波紋を使ったと瞬時に判断すると抹消の個性を発動し、ジョジョの波紋を再停止させた。けれど既にコーラ蓋は発射済み、コーラ蓋は相澤の顎に直撃し相澤の身体を大きくのけぞらした!
「や、やったッ!」
「行けッ! ジョジョーッ!!」
「これでてめぇの視界から外れた! 波紋を直接ぶん流してやるよッ!」
顎を撃たれたことでアッパーを食らったボクサーのように空を見上げる相澤にジョジョはトドメのブローをぶつけようと取った間合いを一気に詰め駆け寄る。戦い見守っていた生徒らもこれは勝てるんじゃないかと考えていた。
だが
「――今のは悪くない、が勝負を急ぎ過ぎたなジョースター」
空を見上げたまま動かなかった相澤の顔はグイッと元の向きに変わるとその目はジョジョの姿を捉える。右拳にため込んでいたジョジョの波紋はたちまち無散し、波紋が消えたことによるショックからか動きの勢いをわずかに弱めてしまったところを相澤に背負われ、そのまま地面へと叩きつけられた。
「ガハッ!?」
「これでチェックメイトだ。俺の個性の隙を突いたのは上々だが……俺に勝てるとは言いすぎたな」
相澤がジョジョが身動きを取れないよう身体を抑え、しばらくジタバタするジョジョだったが抵抗の意思を無くしたか身動きを完全に止めその光景を見て皆落胆する。『結局プロ相手に勝ち目なんて無い……』皆がそう考える中、響香だけが何かまだあるのだと諦めずにその光景をじっと見つめているとジョジョがほんの少し、ごくわずかだけ口角を上げているのが目に入った。その時響香は思い出した。『勝利を確信した者は既にその時敗北している』……そんなジョジョが昔語った言葉を。
「……次のお前のセリフは『プロを舐めるなよこのクソガキが』だ!!」
「プロを舐めるなよこのクソガキが……ハッ!?」
「舐めてるのは一体どっちかなァ!」
言葉の先読みをされハッとする相澤のその隙を、ジョジョは見逃さなかった。自由の利く左手のひらを地面に叩きつけ波紋を流す。地面に伝わる波紋は微弱ながらも地面を流れ相澤の脚へと達した波紋は相澤の身体を少しのけぞらせた。
「くッ……!?」
「アンタに個性は使わせねェぜ! 今度は確実にだッ!」
ジョジョは相澤に向け砂を蹴り飛ばし、飛び散った砂に視界を奪われた相澤は一旦後方へと下がる。だがその状況こそがジョジョが最も望んでいたものだった。
「砂の目つぶし……俺の個性を潰しに来たか」
「勿論それもある。アンタの個性は厄介だからな…… だが、本命はこっちの方よ!」
ジョジョが腕を大きく上に振り上げると同時に相澤の周りを包囲するかのように輪となったロープが舞い、相澤の身体を縛り付けた。
「何ッ!?」
「ロープマジック成功! 俺は何もただサンドバックになってたわけじゃあない。アンタと戦いながらも砂と同系色の縄を張り巡らしていたというわけよ!」
「……成程、こっちが本命でさっきのコーラはブラフだったってわけか……」
「ご名答! 手品にはミスディレクションっつう技術があるんだがそれを使わせてもらったというわけだ。俺、非常に好きなのよ……騙しの手品って奴が! アンタに対して講じていた策とはこれのことだったというわけよ!」
「この俺が学生相手に1手2手先を行かれるとはな……だがこの程度の縄ならッ!」
俺でも問題なく抜け出せる―――未だ視界不明遼ながらも自身が置かれた状況を把握した相澤が自身を縛る縄に触れたその時、あることに気付く。そこらのホームセンター程度でお買い求めできそうな何の変哲もないその縄にはヌメッとした感覚があった。つまりその縄には油がたっぷり染み込んでいたのだ!
「その顔は気づいたみてぇだな。その縄には油が染み込んでいる。そして! 油は波紋を良く通す! 今までの分も……食らえッ! 波紋のビートッ!!」
「うああァッ!!」
ロープを通じて伝わる波紋が相澤の身体に伝わっていく。電気ショックに似たその衝撃は相澤に苦痛の声を漏らさせる。常人であればこの時点で倒れ伏し意識を手放すだろう。けれど相澤は意識を手放すどころか膝をつきすらしていなかった。
「やる……な、ジョー…スターッ!」
「何つうタフネス! 脳に直接流れれば意識を奪えるほどの衝撃が身体に流れているとは言え耐えるとは……流石はプロだ。だが、だからと言って負けられねぇぜ!」
ジョジョに向かい一歩一歩間合いを縮めてくる相澤にジョジョは冷や汗を流しながらも呼吸を必死に整え波紋を流し続ける。相澤がロープの手綱を握るジョジョの下まで距離を詰める、或いは相澤が視界を取り戻した時点でこの策はもう使えない。策を練ろうにも周りに道具は無く、この策が破られればジョジョの負けは明白だった。
「いい加減倒れやがれーェッ!!」
ロープの手綱をギュッと握りしめながらジョジョはありったけの波紋を流す。既に波紋の呼吸は乱れ、新たな波紋は練ることが出来ない。正に今の”最後の波紋”というわけだが……相澤はそれでも一歩一歩距離を縮めてくる。意地と意地のぶつかり合い、その戦いを皆が息を呑んで見守る中戦いは遂に決着を迎えた。
「スト―ップ!! 二人ともやめるんだ!!」
予想だにしない、結末で。
「全く相澤君! 不安で少し覗いてみれば生徒と戦うなんて――――」
「あれが奴の力を計るのに合理的と判断した故です。そもそもオールマイトさんにはこの時間割り振られた仕事が――――」
「はァーーッ! 疲れた……」
「大丈夫ジョジョ? ほらスポドリ」
「サンキュー響香。……プハァーッ!」
生徒らから少し離れた場所では相澤と突如現れたイメージカラーの黄色いスーツを身に纏った男――――我らがヒーロー、オールマイトが論争し、生徒らのすぐ近くには尻からぺたりと座り込んだジョジョとその介抱をする響香の姿がある。生徒らのほとんどは今目の前で起きたことについていけず、ただポカンとする他なかった。
「あ、あれって……」
「オールマイトだよな?」
ようやく状況を把握し始めた彼らは誰に咎められるわけでもないのに内緒話のように小さな声で向こうにいるオールマイトを指さし話出す。この国に生まれたならば誰しもが一度は憧れる存在、オールマイトが突然現れ皆のテンションは爆上がり、けれど相澤との論争で心なしか小さくなってしまっているように見える平和の象徴の姿に一同なんとも言えない状態になっていたのだ。そんな中動じることなくジョジョの下へ向かった響香はさすがの付き合いと言えるだろうか。
「校長から許可は取ってますから。オールマイトさんは自分の仕事をしてください」
「はい……」
「ったく……待たせたなお前ら」
「先生! あの、あの人ってオールマイトですよね……?」
「彼については後日連絡する。それまでは口外厳禁だ」
相澤の言葉と既にその場から男は立ち去っていたために生徒のざわめきは収まり、シーンとした空気が生まれる。
「さて、ジョースター。勝負はあんな形で終わって勝敗はつかないままだ。だが……」
「何だよ、もう一戦やるって言うのかよ……もうクタクタだぜ」
「最後まで話を聞け。勝敗はつかないままだったがお前の動きは証明に値するものだった。”テストで特段めぼしい成績を残せなかった奴にも可能性があること”……その証明にな」
相澤はそう告げるとくるりと身を返し、校舎へと歩き出していく。
「この後はガイダンスだ。時間は後少ししかないから1-A全員教室に急ぐように。ジョースターは身体に痛みがある場合は保険室に寄ってから来い」
一人歩く相澤の背中を呆然と見るめる一同だったが相澤の『証明』『1-A全員』という言葉に除籍はなく、皆無事入学できたのだと段々と理解するとともに喜びが溢れてくる。それは雄英の合格が発表された時と同等、或いはそれ以外の喜びか。それは人それぞれであろうがそれでもクラスには喜びが満ち溢れていた。
「ジョジョーッ! 本ッ当にありがとう! お前は心の友だ……」
「さっすがジョジョ! 漢だったぜ!」
「ロープをあんなに巧妙に使うなんて流石だなジョジョ君!」
「てめぇアレくらいで調子に乗ってんじゃねぇぞこのゴリラ野郎が!」
「かっちゃん落ち着いて……」
「あァン!? うるせぇなてめぇは! そもそも何で個性があるんだァ!?」
「ひぃ!?」
「う、うるせぇ……」
皆の緊張の糸が途切れたのかまるでテーマパークにきたかのような騒ぎ様に思わずジョジョは耳を塞ぐ。疲れ切った体にこの雑音は嫌に響く……そんなジョジョの心境を読み取ったのか上鳴が二度大きな拍手し、自らに注目を集めるとともにその場からざわめきを取り払った。
「はーい注目! 今の空気感丁度良いしさ、ここで自己紹介しようぜ!」
「待ちたまえ! 先生が早く教室に移動しろと言っていただろう」
「少しぐらい大丈夫だって! さ、まずはジョジョからだ」
「ジョースター。ジョセフ・ジョースターだ。ジョジョって呼んでくれ。これからよろしくな皆!」
「「「「「おーッ!!」」」」」
「こっちこそだぜ! 俺の名前は切島鋭児郎。改めてよろしくな!」
「俺の名前は上鳴電気! 入試からの中だけど改めてよろしく!」
「俺の名前は――――」
「ジョースター……どこかで聞いたことがあるような……」
「ねぇどうしたの? 名前は?」
「いえなんでもありませんわ! 私の名前は八百万百と――――」
晴れて入学最初の大試練を全員欠けることなく突破した彼らは喜びに浸り、時間を忘れ談笑し合う。
メガネの長身男子、飯田の号令で怒られるギリギリのラインで教室に戻ることが出来た彼らだったが談笑の盛り上がりは校舎内にも響いていたらしく、少々お灸をすえられたのはちょっとしたお話。