「どうシンタロー君、落ち着いた?急に吐くからビックリしちゃったよ」
「あぁ...悪いな...」
「俺、ジェットコースターで吐くやつ生まれて初めて見たわ」
げっそりとした表情のシンタローに付き添っているホタカとカノは笑いながらシンタローの背中を摩る。
ちなみにセトは水を買いに行き、キド達女子組は遊園地をエンジョイしている。もちろんマミも楽しそうにしながら付いていった。
「そういやシンタロー、お前そのジャージ脱いだら?絶対暑いし熱中症になってもおかしくないぞ?」
「それについては大丈夫だ、このジャージは見た目と違ってかなりの薄生地で通気性にも優れている。それにこれを脱いじまったら俺の肌が直射日光に当たってそれこそ危ない」
「.....意外にピュアだったんだな、お前」
結構真面目に語られてしまったのでさすがのホタカも一歩後退りをせざるをえなかった。カノは移動の疲れが出ているせいか大きなあくびを一つ吐く。
ホタカは緩くなったスニーカーの靴紐を結び直してベンチに座り直す。
「ほい、シンタローさん」
ベンチに座って各々が適当に時間を潰しているとセトがアクエリアスを一つ買ってきてシンタローの顔にぴとっと近づける。
ビビリの18歳シンタローはそれだけで、ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?と叫び声を上げる。ホタカはあまりの喧しさに両耳を塞ぐ。
「お、おま!ビックリしたなぁ、いきなり何するんだよ!?」
「いやぁ、あまりにも隙だらけだったもんッスからね。つい」
「お前は武士かよ!」
セトはハハハハ、と笑いながらベンチにもたれかかりシンタローは心臓がバクバクしている様子が他から見てもわかる仕草で左胸に右手を当てる。
「いやー、でも皆で遊ぶのってのも良いもんッスね!」
「何気に初めてじゃない?セトも毎日バイトで大変苦労してるんだし」
「そうなんだよな、コイツ先輩が来られない日にもわざわざ自分からシフト組むからほぼ休まず来てるからな。ちょっとは休みも必要なのによ」
「いいんッスよ好きでやってんですから。それに昨日帰ったら人がいっぱいになってて驚いたッスよ!それで今朝はホタカさんとマミさんまで来るんッスから!」
「ホント、賑やかになってありがたいよね〜」
「ま、俺は最初は話してすぐに帰るつもりだったんだけどね。まさか団員として迎え入れられるなんて思わなかったよ」
「まぁキドはああ見えて結構寂しがり屋ッスからね」
シンタローを疎外して三人で会話は盛り上がる。
「でさ、セト的にはキサラギちゃんはどうよ?」
カノはニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべながらセトに尋ねる。隣でシンタローがぴくっとわずかに反応したのは気のせいであろう。
「本当に礼儀正しい良い子ッスよ、まさかアイドルだとは思わなかったッスけど!」
「でしょ?キドが連れてきた時は本当ビックリしたよ、あの焦った顔ときたら...」
カノは笑いを必死に堪えるように腹を抑え始める。シンタローは少し気まずそうに俯いているがカノとセトの会話は止まらない。
「イシバシちゃんはキサラギちゃんとは正反対かな?結構僕に毒吐いてくるんだけどホタカ君、あれどうしたらいいのかな?僕あの子に何か嫌われるようなことした?」
「あいつはいつもあんな感じだから気にすんな。敬語を話してるようで敬ってない高等テクの持ち主だからな」
「え、俺そんなこと全然なかったッスけど?」
「セトは前々から俺の知り合いだったからじゃない?それに第一印象とかもあるかもな」
ホタカはカノに気にするな、と優しく声をかけるが返事はなかった。どうやらセトと比べて自分の第一印象がそこまで良くないことを気に触ってしまったらしい。
「あ、あとはエネちゃんね!あの子結構ぶっ飛んでて僕と気が合いそうなんだよね!」
カノがエネの名前を出した途端、シンタローが再びぴくっと動いたのは気のせいだろう。
「でも実際あれどうなってるんですかね?どういうシステムになってるんッスからね?」
「俺も気になってたんだよな。最近の技術って本当に進んでるよなー」
「不思議だよね〜、そもそもあんな可愛い子とどうやって知り合ったわけ?最近流行の出会い系サイトのアプリか何か?」
「違ぇよ!結構前から突然現れてパソコンに住み着いてんだよ」
「そんな嘘いいから本当のこと言って楽になりなって」
「嘘じゃねぇよ、本当にどっかから突然現れたんだよ。どこから来たかも自分が何者かも言わねぇしわからねぇ、聞いても答えないし」
シンタローの台詞にはどこか寂しさと哀しさにも似た感情がわずかながら読み取ることができた。
カノもそのことに気がついたのかは知らないがうんうん、と頷いている。
「つまりシンタロー君がエネちゃんのプライベートの過去をグチグチ聞いたせいで怒ったと」
「いやお前俺の話ちゃんと聞いてた!?今の話にそんな要素なかったよね!?」
「いや、そんな要素しかなかったろ?」
「お前が入ってくると話が一々こじれるんだよ!」
カノが笑顔を崩さずに根も葉もない話をシンタローに振りホタカが回収する、やはりシンタローはいじりがいがあると改めて感じたホタカとカノだった。
「まーまー、喧嘩はよくないッスよ」
途中から会話にうまく参加できていなかったセトが笑顔で仲裁に入る。
セトの笑顔はカノの笑顔と違い胡散臭さを一切感じさせない爽やかな笑顔でもあった。
「シンタローさん、せっかく今日はここまで来たんスから楽しまなきゃ損ッスよ!」
ビシィ!とセトが人差し指をシンタローに突き立てる、そして「なんなら」と続けてウィンクをしながら、
「俺も一緒に付き合うんで絶叫マシンの特訓、どうッスか?」
「お断りだ!」
即答だった。何とも意気地のない男である。
「少なくとも来世まで乗りたくねぇよ!ていうかお前らこそ俺に付き合わなくていいからどっか行って...」
途中まで言いかけてシンタローはハッとしたように目を見開く。
ホタカは少し気になり能力を使う、ほんの一瞬だけホタカの両目が赤く染まったがあまりにも一瞬の出来事だったので誰も気がつくことはなかった。
(なるほどね、そういうこと)
概ね理解したホタカはゆっくりと頬を緩ませる。
次の瞬間、シンタローが「今しかねぇ!」と突然立ち上がる。突然の出来事にカノもセトも驚きを表情に出す。
「え、なになに?どうしたの急に、もしかして発作?」
「何でだよ!」
「ちょっと落ち着けよ、なんか笑い方キモいぞ」
「言うなよ、気にしてんだから!ちょっと俺一人でブラブラしてくる、じゃ!」
シンタローはそれだけ言うとスタスタと歩き去って行ってしまった。ホタカ達はシンタローの後ろ姿を見送りホタカはニヤリと笑みを浮かべてスマートフォンを取り出す。
「そろそろいいんじゃないか、エネ?」
『.....やはり茶髪さんは侮れませんね、いつ気がつきました?』
「今だよ、どうして俺の携帯に移動して来たんだ?」
『.....少し話がしたいのですがよろしいですか?』
「?いいけど」
ホタカはスマートフォンを仕舞うセトとカノに少し外す、と言葉を残して人気のない場所に移動する。
「それで、何?話って」
『茶髪さんってご主人の昔のご友人だったんですよね?』
「一応な、それがどうしたんだ?」
ホタカが聞き返すとエネは少し黙り、やがて決心したようにホタカの目をしっかりと見る。
『実は、私元々は人間でご主人、シンタローの先輩にあたる人物だったんですよ。多分ホタカさんとも一度会ってると思いますよ、文化祭の時に』
「文化祭?」
エネが態々ホタカのことを茶髪さんではなく名前で言ったことに何か意味があるはずなのだが、ホタカはそこまで細かいところにまで気がつくことはなかった。
『ヘッドフォンアクターっていうシューティングゲームの出し物を覚えてませんか?』
「覚えてるよ、確かあの時はアヤノもいて....あ!」
まさか、とホタカは画面の中にいるエネを見る。確かに面影もあるしそういう名前を使っていた気がする。
しかし、ホタカが高校に居た時など本当に短い間だったので忘れてしまっていた。そう、あまりにも短かった高校生活で知り合ったシューティングゲームが得意だった先輩がいた。
「榎本先輩....なんですか?」
画面の中の『エネ』はゆっくりと頷いた。
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