少し時を遡り、ホタカがまだ中学三年生でマミとまだ出会う前の頃...
「え、学園祭?」
「そうなのよ!お父さんの務めてる高校で学園祭やるんだって。私もそこに入ろうか考えてるから体験がてらにハヤトも行かない?」
「別にいいけど、いつ?」
「明日」
「めちゃくちゃ急だな!」
ある中学校の三年生の教室でホタカは一人叫ぶ。幸い今は放課後なので生徒は辺りにいることはなかったのでホタカを白い目で見てくる輩は一人もいなかったことが幸いだろう。
「ていうか、アヤノの親父さんって教師だったんだな。初めて知ったぜ」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「初耳だ、子供が好きとは聞いてたけどあの人が教師なんてやってるなんてな。白衣着て人体模型と戯れてる様子しか思い浮かばねェわ」
あはは、と苦笑いする少女、楯山文乃(たてやまあやの)は首に巻きつけた真っ赤な色のマフラーを巻きなおしながら鞄に教科書を詰め込む。
その隣で死んだ目をした天才少年、如月伸太郎ことシンタローがホタカとアヤノの会話に目も向けず静かに読書をしている。
そんなシンタローの様子を見かねたアヤノはトタトタと彼の元まで歩いて行くと本を取り上げる。
「うぉ、何すんだよ!?」
「ねぇシンタロー。シンタローも明日学園祭に行かない?」
「な、何で俺が!?ていうか俺が行かなくてもホタカがいるんじゃないのかよ!」
「三人で行った方が楽しいじゃない!ねぇシンタロー、いーこーうーよー!」
「だーもー!離せェェェェェェェェェェェェェェ!!」
器用にシンタローに絡みつくアヤノを無理に振り払おうと体をジタバタとさせるが軟弱な彼の体では女性の体一つ動かすことはできなかった。
その様子を偶然目撃した他クラスの女子生徒が目に止まらない速度で携帯電話を取り出して写メを撮っていたのをホタカが偶然目撃したのは別の話である。
ホタカは手元にあったペットボトルを手に取りシンタローにゆっくりと近づく。
「諦めろよシンタロー、こうなったアヤノは聞き分けが悪いからな。お前もそんくらいわかってるだろ?」
「だったらせめてこの状況をどうにかしてくれよ!誰かに見られでもしたら恥ずかしくて死んじまうよ!」
「安心しろ、もう既に写メ撮られてるから。俺も撮ったし」
「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
こうしてシンタローの参加が決定したのであった。
※
そして当日...
「おい遅ぇよ。置いてくぞ」
「シ、シンタロー、待ってよ!ごめんね!」
「結局一番はしゃいでんじゃねぇかよ、あいつ」
やれやれ、とホタカは肩をすくめながら二人の後を追う。いつしかアヤノに褒めてもらった赤ジャージを着るシンタローを先頭に何故か制服のアヤノに続き長袖で白いカッターシャツを着たホタカといった感じである。
一番最初に集合場所にやって来ていたのはシンタローで一番最後に到着したのがアヤノだった。彼女自身無自覚だがどこか抜けている所やドジな所が目立つ部分があるので早速何かやらかしたのだろう、とホタカとシンタローは勝手に予想していた。
やはり高校の学園祭というだけあって中学でやる文化祭や学園祭とは規模も内容も違い、生徒一人一人が生き生きと今日この日を待ち望んでいるようにはしゃいでいた。
何やら今からサバイバルゲームでもしに行くような服装を着込み集団でウロウロしている少し浮いた方たちも見かけたが何も起こらないことを祈っておこう。
シンタローとアヤノとホタカの三人は出店で適当に昼食を済ませる。
「お前、飯にもコーラ合わせんのかよ。体に悪くないか?」
「俺の勝手だろ、ハヤトこそ何で焼きそば三人分を一人で平らげようとしてんだよ。俺らの分も一緒に買ってきたんじゃなかったのかよ」
「頼まれてもないし一言も言われてないしな」
「.....お前って本当気遣いとか知らない奴だよな」
お前には言われたくない、とホタカが一人前の焼きそばを完食して二つ目に手を伸ばそうとした時にアヤノが戻ってきた。
「ごめんね、結構たくさんあったから迷っちゃって」
「.....悩んだ結果がお好み焼きって、ベタだな」
「いいじゃん、美味しかったら。シンタローこそコーラばっか飲んでて体に悪いよ。たまには水とかお茶とかも飲まないと」
「俺はこいつじゃないと動けねぇんだよ」
「それにしても中々いい雰囲気の高校だな。俺もここ受けようかな?先生にさっさと志望校決めちまえって急かされてたし」
「.....お前まだ決めてなかったのかよ」
シンタローが呆れた様子でため息をつく。実際現在は十月に入ろうとしているので一般の受験生は志望校入学を目指し過去問やら対策の大詰めをしている時期である、ホタカのようなスローペースな受験生は少し珍しい。
「そういうお前は一体どこの有名高校に進学するつもりだ?お前の学力ならここらで一番偏差値の高い所でも問題ないだろ」
「どこでもいいだろ。別に話すようなことでもねぇからな」
一同は一通り昼食を済ませると今度は校舎の中に足を踏み入れる。
外とは違う出店が出店されておりそれこそ室内でしかできないような種目も存在する。
壁のあちこちには宣伝のポスターが貼ってありどのクラスも売り上げ上位を目指そうと必死な様子が目に見える。
すると、背後から先ほど見かけた迷彩柄の服を纏った二、三人のグループが物凄い勢いで走って行った。
「おい聞いたか、ここに閃光の舞姫エネさんがいるらしいぞ!」
「マジかよ、あの全国大会二位の化け物が!?」
「何でも射的ゲームで現在無敗の記録を叩き出してて今でも挑戦者が絶えないらしい!」
「.....射的、ね」
「どうした、やけに興味深々じゃねぇかよ」
シンタローはニヤリと笑みを浮かべる。
「全国二位、か。ちょっとお手合わせ願いに行こうぜ」
※
目的の射的ゲーム「ヘッドフォンアクター」はすぐに見つかったのだが、迷彩柄の服を纏った男たちの熱狂で埋め尽くされており、順番待ちに時間がかかってしまった。
待つこと二十分、その間シンタローは無言でプレイ中の画面をじっと見つめていた。
「き、君が次の挑戦者だね。よろしくね!ルールはわかる?一回説明したほうがいいかな?」
何やら無理矢理笑顔を作ってます感満載のツインテール少女が相手のようだ。少女の言葉に笑みも浮かべずシンタローは静かに口を開く。
「あんた、全国二位だとかで随分調子に乗ってるみたいだけど、見ていた限り全然大したことないよ」
「.....は?」
「読みも甘いし動きも雑、見ていてイライラするよ。よく二位なんかになれたね」
(.....悪い癖が出ちゃったな)
ホタカはシンタローの様子を見て小さくため息をつく。
何故かはわからないがシンタローは無意識に人をイライラさせたり煽ったりしてしまう。それが初対面や知人といった関係一切なしで。
少女はヒクヒクと笑顔を固まらせながら見ていて露骨にイライラしている様子がわかる。
「あ、ごめん。お姉さんよく聞こえなかったんだけど」
「あんた、弱いって言ってんだよ」
そこから少女は笑みを浮かべることはなくなった。
一触即発の状況になり少女もムキになって言い返すがシンタローはそれを表情を変えることなく冷静かつ的確に論破していく。最終的に「あんたが勝ったら何でも言うこと聞いてやる」とか言い出す始末である。
「私だって負けたら何でも言うこと聞いてやるわよ!何ならあんたの下僕になってご主人って呼んでもいいわ!絶対に負けないから!!」
少女は熱くなる勢いでとんでもないことを言うがシンタローはそれすらも表情を変えずに興味を失ったように画面に目を向け直す。
「あっそ、やっぱあんたつまらないよ。さっさと始めようよ」
この一言をキッカケにゲームは起動音を鳴らし対戦が始まった。
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