夜の闇の中、蒼刃はビルの屋上に座って月を見上げていた。
「もうすぐ、かな。」
「何者だ。」背後から嫉が声をかけた。蒼刃の正体を知らない彼女は警戒していた。
「僕だよ、楽だ。」そう言って蒼刃は楽の姿に変わった。彼女の方を振り返ると、その後ろに怒もいる事に気づいた。
「お前か…奪ってきたのか?」嫉が自身を落ち着かせ聞く。
「うん、面白そうだったし。」
「そんな面白そうで、なんて下らない。俺達は探さなくちゃいけないんだ。そんな遊んでいる暇は!」怒が静かな夜に怒号を響かせたが、それを更に別の人物が遮った。
「興奮するな、怒。まぁいいじゃないか、それに敵のものを奪って来るなんて喜ばしい事じゃないか。」その人物は男だった。全身をまた彼らと同じように黒一色で纏めていたが、背中に掛かっているマントだけは純白だった。
「喜…アンタ今までどこに行っていたんだよ。雰囲気まで変えちまって。」怒が彼を見ながら言った。
「これ、イメチェンというやつだよ。前に人前に現れた時、注目の的となってしまってね。流石に毎回写真を撮られるのも面倒だったし。」
喜は3人に近づいた。
「そういえば、哀はどこへ?」
「また1人で何処かに行ったのでしょう。」嫉が答える。
「まぁ哀な事は置いといて、久々に4人も揃ったんだから楽しい宴でもやろうよ。」楽が言う。
「喜ぶのはまだ早いさ。『始まりの巫女』を見つけ出さない限りね。」
喜のその言葉に他の3人もそうだなと心の中で思った。
「…僕は、どうすれば良いのだろうか。」
哀は夜の墓地に居た。彼の目の前には斉藤と書かれた墓があった。彼は前にも見ていたペンダントの中を開いて見ていた。そこには人間だった頃の自分ともう1人女性が写っていた。
「
そう決断した彼はペンダントを墓前に置き、夜の中へと消えていった。
「勝治、今日は部活ないのか?」
学校帰り、塾屋ゴンは丁度校門から出た片名勝治を見かけ声をかけた。
「ああ…ちょっとな。」彼はどこかよそよそしい雰囲気を出していた。
「なら一緒に帰ろう。」ゴンは彼にそう言った。
「…悪い、今日は急いでいるんだ。またな。」そう言うと勝治は足早に帰っていった。
『どうした、仲違いか?』ワードが聞いた。
「最近、俺に対しての態度がなんか違うんだよな。」
ゴンの考えている通り、勝治は最近彼に対しての接し方に悩んでいた。
夢でみた紫色の戦士、そして怪物が出た時に限って居なくなるゴン。それらは繋がっているのではと考えるようになった。そしてその紫色の戦士こそゴンなんじゃないかって。
そういえば、時々独り言…と言うよりも見えない誰かと話している姿も見た事がある。
もしかしなくても、ゴンは…。そう思うと手が震えた。俺に襲いかかってきたそれがゴンだと思うと、怖かった。
「そんな、やめてください!」
その時、目の前に数人の不良とそれに絡まれている気弱そうなサラリーマンがいるのが見えた。
不良達はカバンから物を放り投げ道路や下水道に次々と捨て、金になりそうな物を自身の懐にしまっていた。
「てめえは黙って金を出せばいいんだよ。」1人の不良がサラリーマンに掴みかかった。このままではまずい、そう思い走り出した。
が、その僅か1秒でサラリーマンを掴んでいた不良は何mも後ろに飛ばされていた。
「なんだこの野郎!」不良が睨みつけていたのは、黒一色のスーツを着た男だ。彼が割って入ったのだ。
「お前達の様な無価値な存在は必要ない。」その男はそう言い放った。そして、倒れているサラリーマンの前に立った。その時見えた顔は悲しそうだった。
「自分の全てを台無しにされ、悲しみのどん底に堕とされた。ならばやる事は一つ、その悲しみを宿し復讐すると。」男は青色のエネルギーをサラリーマンに送り込んだ。
すると、サラリーマンは先程の腰が抜けた状態から突然立ち上がり、雄叫びを上げた。そして、その体をエメラルドグリーンの怪物に変えた。背中には翼が生えそこから起こす風で次々と不良を吹き飛ばした。
黒スーツの男はそれを傍観していた。
「このまま悪を滅ぼせ。」黒スーツの男が指示を出したその時、勝治の目の前に奴が現れた。
『その様な事はさせぬ!』夢の中で見た紫色の戦士、ワードだ。
「ワード、会うのは初めてだな。一度戦って見たかった。」
『お主…初めてと言う事は、『哀』という事じゃな?』ワードは聞いた。
「そうだ。僕達の邪魔はさせない。」そう言うと、哀は拳銃を取り出した。そして、それと同時に自身の身体を青く変化させた。スーツのカラーが青色に変わり、その上から水を思わせる装飾がなされた。顔は如何にも悲しみを表す面と涙の後があった。
怪人態へと変身した哀は銃の引き金を引いた。その攻撃をワードは盾で防いだ。
『なんじゃ、今のは。』「拳銃だ。」そう話すうちにも哀は次々と弾丸を放つ。それをワードは盾で防ごうとするが、足や肩など盾で防げないところを狙われ完全に不利だった。その間にも人陰は不良達の息の根を次々と止めていた。
「どうにかしないと…あの人たちが!」
「別にいいだろ!」その時、声を出したのは勝治だった。突然の乱入者に哀も銃を下ろした。
「あの不良達は今怪物になってる奴の全てを奪おうとしたんだ。やり返そうとしているんだ、それを止めるなんておかしいだろ!大体、お前はなんなんだ。俺の夢にまで現れて、何がしたいんだ!」心の中の物を全て叫んだ勝治を、ゴンはワードの鎧の下から聴いていた。
「そうだ。今この場にお前は必要ない。」哀はそう言い放つと、左腕を大きく振りかぶり水を作り出した。そしてそれをワードに浴びせた。
その勢いでワードは吹き飛ばされ、勝治の目の前に倒れた。その時、彼の脚に何かが当たった。だが、それ以上にさっきまでワードだったものが、塾屋ゴンへと姿が変わった事に驚きと、やはりそうだったのかという確信が入り混じっていた。
「ゴン…お前…」
「勝治、今まで黙っていてごめん。これが今の俺だ。」ゴンは残っている力で立ち上がり、勝治を見つめた。
「確かに、襲われている人たちが何したかは分からない、悪人かもしれない。このまま襲われて、居なくなった方が平和かもしれない。だけど、今人陰にされているあの人は苦しんでいるんだ。あの人だけじゃない、今まで人陰にされた人も…勝治も。」
「俺…も?」勝治が、戸惑いながら聞く。
「そうだ、これが証拠だ。」そう言うとゴンは勝治の元に落ちている烈火の核を手にした。
「これはあの日、俺が初めて倒した勝治の力だ。」
ゴンは再び前を向き、哀とそしてその奥で暴れている人陰を見た。
「俺は、これ以上誰かを苦しませたくない…だから戦っているんだ!必要なくなんかない!」その言葉を聞き遂げた勝治は、思い知らされた。ゴンはずっと苦しんできたんだって、自分や見ず知らずの人の為に戦って来たのだと。
「…ゴン、すまなかった。俺はお前の事をずっと誤解していた。だからこそ言いたい、これからも戦ってくれ。お前の信念のために!」そう勝治が言い切ると同時に、烈火核が赤く光り輝いた。
「変身!」
ゴンは、その烈火核をベルトに装填した。
[核、読み取り][烈火を纏いしワード、烈火!]
ゴンの身体は炎に巻かれ、新たなる鎧を生み出す。真紅の炎の鎧は全身を覆い複眼すらも炎に包まれた。右腕には「火」という文字が刃先にある槍、左腕には真ん中に「烈」と書かれた盾が装備された。
まさに烈火を纏いしワード烈火の形はここに誕生した。
「今まで以上に、力が溢れる!」ワードに変身したゴンは自身から湧き上がる力に驚いていた。
『お主と小僧の想いが一つになったのじゃろう…思う存分に戦うが良い!』
ワードは、槍を構え飛び上がった。それは哀を飛び越え、人陰に向かって突き刺した。
最後に1人残った不良は、惨めな悲鳴を上げながらどこかへ逃げていった。
『これに懲りて二度と悪事なんぞに手を染めぬとよいがな。』
ワードがそう呟く間にも人陰は迫る。
人陰は小刀でワードを倒そうと試みた。しかしその刀は強化された盾によって一瞬にして防がれた。
ワードは、槍を大きく振りかぶり人陰を弾き飛ばした。
「俺は俺の強さで救う…救ってみせる!」
[必殺書き込み!]『バーニングアタック!』
再び迫る人陰をワードは盾で空へと吹き飛ばした。軽々持ち上げられた人陰が下を向くと、ワードが炎を纏った槍を構えていた。そうしている間にも自身の身体が墜落し始めた。翼を広げ逃げようと試みるが、眼下ワードは自身の寸前まで槍を構えながら飛んでいた。そのまま落ちる速さとワードが向かってくる速さを纏った槍が人陰を貫いた。
大爆発の後、「双翼」という核を回収したワードがサラリーマンと共に降りてきた。ワードは気絶しているサラリーマンを近くに寝かせた。
そして、哀の方を向いた。
「誰も苦しませない。例えその相手が人間だったとしても。」ワードは槍を構えて哀に向かって走り出す。
哀は銃の引き金を再び引き弾丸を放つ。しかしワードの炎が消える事はない。ワードは槍を哀の腹部に突き刺そうと槍を前に出した。哀はそれを華麗に避け、逆にワードの腹部に弾丸を放った。ワードは一瞬ふらつくがすぐに盾で殴り返した。
哀は後ろに下がるが、まだ戦う気があった。
「ここにいたんだね、哀。」その時、蒼刃に変身した楽が現れた。
「その声、楽か?」
「今は撤退しよ。楽しみは最後に取っておくんだ。」
「…勝手にしてくれ。」その言葉を聞いた楽は、木の葉を操り自身と哀の姿を消した。
「ゴン、幹部っぽい奴は逃したけどすごいじゃねーか!俺もなりたいな…」勝治は、変身を解いたゴンに駆け寄った。
「さぁ…それは勝治の努力次第…なのかな?そうだ、俺がワードだった事は黙って置いてくれよ。神楽は知ってるけど。」
「そうか…だから時々2人で話しているのか…でも、俺にもバレたってことはいずれは…」
「そうだな、言葉にも…」ゴンは空を見上げた。
「遂に5人揃ったという事だな。一体何年ぶりだろう、実に喜ばしい事だ。」喜がそう言う。
「いよいよ、巫女探しも本格的に始めれるな。」怒が言った。
「そうね、今度こそワードを倒す。」嫉が最後に言った。
皆さんこんにちは津上幻夢です。
仮面ライダーワードもいよいよ折り返し地点にやって参りました。今日の話に出た始まりの巫女とはなんなのか、そして遂に揃う性悪党の五大幹部達、ワードの覚醒、人陰と戦う謎の戦士達。全ては後編に!
後編11話は10月3日に更新します、9月はありませんのでよろしくお願いします!これからも仮面ライダーワード、そして同時投稿中の仮面伝説をよろしくお願いします!