「次はどうするんだ?」
夜の闇に包まれる廃屋に怒の姿はあった。彼は哀と嫉と共に月を見ていた。
「哀…お前なら何か…」
怒が哀の方を向き策を得ようとした。しかし、彼は首にかけたペンダントを悲しそうな目で見つめ上の空だった。
「…まだそれを持っていたのか?」
「…どうにも、捨てられなくてな。」哀は寂しく呟いた。
「人間だった記憶を忘れなさい。貴方は選ばれた者の1人…愚かな人間を作り変える存在なのだから…」
嫉のその言葉を哀は生返事で返した。
「どうやら新たに現れたワードに苦戦している様だね。」その時、3人の背後から新たな人物が顔を出した。魔導士の様なローブは彼らと同じように黒色だった。
「…お前は…?」怒は初目にかかる彼の名を聞こうとした。
「ワード…また僕を楽しませて欲しいよ。」
月は徐々に黒い雲に隠れていった。
「今週、学園祭なのに雨が降るなんてやだねー。」
教室の窓際に寄りかかりながら平方言葉は、今にも雷が降ってきそうな大雨に見舞われる外を見ていた。
「でも、当日の土曜日は晴れるみたいだよ。」
彼女の目の前に座っていた女子がそう答えた。
「それなら、いいか。美月ちゃんは学園祭楽しみ?」
「うん、とっても。早く飾りつけしたいな…」
山寺美月、手芸部に所属する彼女は着飾ることが大好きだ。教室の装飾を任された彼女は、クラスの誰よりも学園祭を楽しみにしていた。
彼女は、そう言うとスマートフォンを取り出し、『氷華』と検索をかけた。
「なんか俺って雨の日になるとどうも調子悪くなるんだよな。」
放課後、飾りつけに使う材料の入った箱を片名勝治と塾屋ゴンはそれぞれ一つずつ持って教室まで運んでいた。
「まあ、分からなくもないね。何というか、気分がブルーになるというか…」
ゴンもそう返した。
『お主、早く仕事を終わらせるのじゃ!早く帰ってワシを休ませろ。』
雑談しながら歩いているゴンの脳内へワードは強く声をかけた。
「そう言われても…」
『ええい、そんな物ワードになって一瞬にして片付けてやるわい!』
「ダメだって、そんなことしちゃ!」
ついやってしまった…そうゴンは思った。あまりにもわがままを言うワードに対してつい声を荒げてしまった。
「どうした?ゴン?」
生憎、廊下には勝治しか居なくてよかった。だが、彼の声を聞いていた勝治は今の怒号が気になってしまった。
「あーいやー、その…」
「ははーん…そう言うことか。」ニヤニヤとした顔を勝治は近づける。
「ど、どう言うことだよ…」
「あれだろ?妄想だろ…自分の中に魔物を飼っているけど、そいつが今にも暴れ出そうとしているから宥めようと…」
「そんなわけないだろ!早く運ぼう!」ゴンはあながち間違いではないことに恐怖を覚えたが、彼の気を逸らして自分の仕事に戻った。ワードも、自分のことがバレるのが嫌なのか、そこで黙ってしまった。
「…本当に、そんな訳ないよな。」
「美月さん、ここに置いておくね。」
2人は教室に着くと、机の上で黙々と作業をする美月の側に置いた。
「ありがとう塾屋君、片名君。」
「いいってことよ。」勝治は、頭を掻きながら言う。
ゴンは机の上に広げられた青くキラキラした粉を見て「これは?」と聞いた。
「これは、氷華って言う現象を再現して学園祭で使おうかなって思って持ってきたのよ。」
ゴン達のクラスの出し物は、『氷の美術展』。クラスメイト達が作った美術作品を飾ったり、美月主催で手芸体験ができる。その氷を再現する事に彼女は特に力をかけていた。
「楽しみにしてるよ。」
「ありがとう。」
2人は、再び荷物を運ぶ為に廊下へと出た。
「よし、とりあえずできたけど…」
A4サイズの青い紙に先程の粉をつけたものを、試作で完成させた。しかし、彼女はその出来具合に満足していなかった。
「もっと…みんなが楽しめるような…そんなものを…」
彼女の目の色が変わった。
黒い瞳に青が薄く被さる…そして、それが徐々に身体を覆っていく。彼女は、最初何が起こっているのか分からず固まっていた。
「君の飾りつけ…もっと見たいな。もっと綺麗で…『楽しい』ものを…」
その言葉を聞いた美月は、変化を受け入れ、徐々に怪物へと姿を変えた。青く透き通った身体は、氷のように冷たく、綺麗なものだった。
「これで…」
怪物は手を教室の壁に翳した。すると、そこから冷気が発生し教室の壁が自分の思い描いていた氷華が壁を覆い尽くした。
「美月ちゃん、進んでる…?」
その時、教室の扉を言葉が開けた。
『お主、人陰が現れた。それもかなり近くに。』
その時、さっきまで沈黙していたワードが声を出した。人陰の出現を知らせる合図だ。
「分かった…」
「どうした?」勝治がゴンの方を向いた。」
「悪い、勝治。トイレ行ってくるから先進めてて。」
「あっ…待てよ…」その言葉はゴンには届かないものだった。
ゴンは、ワードと共に怪物が近くにいることを感じていく。その反応が一番強くなったのは自身の教室に近づいた時。扉が開けっ放しになっていることに気づいたゴンは、中を見た。
そこは、一面氷の祠に入ったような雰囲気だった。氷が壁一面に張り巡らされ、光によって綺麗に反射していた。そして、そこに2つの影があったことに気づいた。立っている方の影は青の人陰、恐らくそいつの仕業だろう。一方、倒れている方は女子生徒である事以外分からなかった。氷漬けにされ、意識が薄れていた。
「大丈夫ですか?」
ゴンは倒れている生徒に近づく。その顔を恐る恐る見ると、平方言葉である事がようやく分かった。
「言葉…」かろうじて意識はあったが、寒さで口が悴んで話せなかった。
「お前…よくも言葉を!」
立ち上がったゴンの腰にはワードライバーが巻かれている。
「ふふ、人を凍らせるの…楽しい。お前も、氷漬けにされてしまえ!」
先程言葉を凍らせた時のように冷気を放った怪物。
しかし、それは神の力を手にしたワードには効かなかった。
盾を前に突き出し、必死に氷攻撃を防ぐワード。
怪物は、攻撃が無駄だと気付いた。そして、すぐさま教室の窓ガラスを突き破り、豪雨の中へと飛び出していった。
「待て!」
ワードもその後を追いかけ外へと飛び出す。
そのワードが飛び出したのと同じタイミングで、勝治が教室にやってきた。そこで倒れている言葉の姿を見て驚愕した。
ワードは、雨の中の戦闘を強いられた。
敵は氷を操る、そして、この雨はその氷のもとになる。つまり、怪物が常に放つ寒さで周りの雨が凍り、身体に纏わりついていく。
「まずいな…ここは一旦離れよう。」
ワードは、ドライバーの核を跳速にすぐ様切り替える。
[核、読み取り][跳躍する速さ…ワード、跳速!]
紫の体色は緑に変化、金色のバイザーと翼を持つ跳速の形へとワードは姿を変える。
翼を使い、空へと飛び出そうとワードは画策する。しかし、再び冷気を放った怪物の前に翼と両足を凍らされてしまった。
「しまった!」
怪物は、そのまま冷気をワードに浴びせる。全身が白い氷の粒に覆われたワード。後もう一歩で完全に凍結される…しかし、そこで氷の攻撃は止まってしまう。
『攻撃が止んだ…』ゴンが呟く。
「何で…氷が出ない。」
『もしかして、今がチャンスなんじゃ…』
「どうやらその様じゃ!」ワードは、弓を召喚すると核をセットした。
[必殺書き込み]「スピードスナイパー!」
一直線に雨を貫いていく翠の矢、怪物の胸部を一瞬にして貫いてみせた。
その貫かれた部分から手、脚、そして顔へとヒビが走る。
ワードは、核を怪物に当てると、力を取り除いた。
精製されたのは『氷河』の核だった。そして、怪物からは意識を失った山寺美月が現れた。雨は上がり、太陽が顔を出し始めた。
教室で勝治に介抱されていた言葉や教室の壁も元通りの姿へと戻る。
「大丈夫か?言葉。」
「うん、それよりゴンは?」
その時、校庭から何かが高速で空へと飛んでいった。2人はその動きに全く気が付かなかった。
『氷河か…使ったら綺麗なんだろうな…』
ゴンは心の中でワードに言う。
「なら、この後試してみるか?」
「標的はもうすぐ…か。」
雨上がりの空を悠々と飛ぶワードに、黒い光の弾丸が迫った。
それは、ワードが氷華コアを持つ左手を撃ち抜いた。
「何!まだ敵が残っていたのか!」
ワードが目を凝らし弾丸が現れた下を見る。そこには、ワードが落とした氷河核を手に取る黒い人形の何かがいた。
『誰?』
「分からぬ、じゃが、逃すわけには行かない!!」
ワードは人影を追う。しかし、ワードが地上に着いた頃には姿を消していた。
「はい、どうぞ。」
「お姉ちゃん、ありがとう。」
それから数日、常盤高校の学園祭は無事開催され、山寺美月もいつも通りの生活をしていた。怪物だった時の記憶はないが。彼女は、手芸体験に来た子どもたちに笑顔を見せていた。
「とりあえず、なんとかできてよかった。」ゴンは呟いた。
壁の飾りは、結局彼女の思い通りにはならず、ただ青いだけの空間だった。ただ、彼女は笑顔で帰っていく子どもたちを見ているだけで満足だった。
休憩時間、ゴンは他のクラスの出し物を見ていた。
その時、すれ違った女性が、財布を落とした。そのことに気づいた彼は、拾い上げると、すぐに彼女を呼び止めた。
茶髪でストレートに伸ばした彼女は振り返ると、ゴンに近づいた。
ゴンは、その姿に見惚れていた…
「ありがとう。」二十歳ぐらいの彼女は、財布を受け取ると、再び歩き出した。
「あの人…あの人だ…」
そう、ゴンはただ見惚れていた訳ではなかった…彼女が…あの…
「あのワード、手応えがありそうだ。今度は俺が行く。」