「―――ここがトレセン学園かあ。いやぁ、進められるがままにやってきたけどホントに俺なんかがトレーナーなんてやってもいいのかしら」
桜咲き誇る春。新人トレーナー候補である俺――佐藤太郎――は、今日この日をもって晴れて”トレーナー”に昇格する。
だが、正直未だに信じられない。そもそもおかしいのだ。トレーナー試験の内容は様々な資格、試験を持っていないとまず解くのは不可能なんて言われているもののはずなのに、ほんの気まぐれで受けてみたら受かるなんて都合のいいことにはまず起こり得ない。
けど、なぜか俺は受かってしまった。
「……なんでなんだよほんと」
理事長さんに何度も確認したが…
『あの理事長さん、ホントに俺試験に合格したんですか?手応え全然なかったんですけど』
『肯定ッ!君は間違いなく、あの試験に合格しトレーナー資格を勝ち取ったッ!』
なんて、とんでもなく大きな声で肯定されてしまった。
ほんとに大丈夫なんだろうか、俺なんてただのウマ娘が大好きな一般人なのに。そう思いながら校門を通り、本日行われる選抜レースを見るべくコースの方へと向かう―――――
「――――――おぉぉおぉおぉいそこのお前ぇえぇえぇえぇえッッ!!!」
「ひゃっ」
はずだった。
同日、理事長室にて。
「あの、理事長?本当にあの方をトレーナーにしてしまって良いのですか?その…見たところ、試験結果は芳しくはないようですけど」
「肯定ッ!…確かに、彼の総合評価を見ればトレーナーにするのは良くない!だがッ!!」
「…だが?」
「提示ッ!これを見たまえたづなッ!」
そう言って私―――駿川たづな―――の前に試験用紙のある項目を大きく拡大した写真を見せてくる。わざわざ一部の項目を見せるだけなのにここまで大きくする意味あるのかしら…なんて思いつつも目をやると、驚くべきものが写った。
「――これは」
「驚愕ッ!ここまで拡大しなければ見えないほど細かな文字で綴られた、ウマ娘への想いという項目の解答ッ!他の者たちの解答と見比べても異質ッ!だが、そこにはウマ娘たちへの紛れもない愛が込められていると私は見たッ!故に―――特例として、彼をトレーナーとして合格にしたッ!!」
「……っ」
確かに、この量での解答は他と比べても異質。そもそもおかしいのだ。他の解答者たちは『~~なウマ娘を育て上げたい』『~~で~~なウマ娘に惹かれた』なんて当たり障りのない事しか書いていないのに、彼は『現在~~~となっている~~を~~にすればもっとウマ娘が輝けるのでは』『ウイニングライブって良いよね…』『人参ってそんなに美味しいんですか?俺ちょっと人参博士なってきます』と、終盤に差し掛かるにつれどんどんと個人的な話になっている。けど、確かにその中には溢れんばかりのウマ娘への愛が詰め込められている。
「…一応、最初の数十行では”トレーナー”としてのウマ娘へ向けてのアドバイスなど、広い意味でウマ娘への想い…が綴られていますね。確かに、ここまでの想いがあればトレーナーとしてやっていける…のかも?」
多分そうだ。最近は理事長色に染められてきているような気もするが、まぁ気のせいだろう。
「感激ッ!正直、たづなにはまた叱られると覚悟していたが、まさか理解してくれるとは思わなかったッ!嬉しいぞたづなッ!」
「今日のおやつは抜きです♪」
「ニャーーーーーーッッ!?」
訂正。やっぱりダメかもしれない。
「――――いてて。一体俺の身に何が…「ようっ!生きてっか?」…えっと」
頭に来た強い衝撃に目を回していると、ぼんやりと髪の長いウマ娘が前に正面に立っているのが見えた」
「…誰だおまえ」
未だにクラクラと頭が回るが、一先ず最も疑問な物を問う。
「アタシのことなんてどーだって良いんだよっ!それよりもさ、アンタトレーナーだろ?」
「そうだけどお前誰だよ」
「しつこい男は嫌われるって知らねえのか?」
「やかましい。で、一体何の用だよ」
なんだろう。とんでもないものと関わってしまったような気がする。
「おう、そうこなくっちゃな。いやさ、実はアタシまだトレーナーが―居ない野良ウマ娘ってやつなんだよ」
「野良ウマ娘ってお前…んな野良猫じゃあるまいし」
「まぁ名称は置いとけって。んで、アタシもウマ娘だから宇宙へ向けて全力疾走したいお年頃なわけよ。だから、アンタトレーナーになってくんね!?」
「えぇ…まぁいいけど」
「えっ良いの?」
なぜこいつが驚くんだ。
「なんでお前のほうがビックリしてるんだよ」
「いやさー、この勧誘方法だと大概のやつが喚き嘆きそして朽ちていくからよー」
「今すぐ土下座してこい」
なんてやつだ。一体こいつのせいでどれだけの犠牲者が出たことか…。
未だ見たことのない先輩トレーナー、並びに同期の面々に向けて手を合わせつつ、この頭のおかしい娘のトレーナーになったことを若干後悔する。
「んじゃまあ、とりあえずアンタがアタシのトレーナーってことで良いんだな?ホントに良いんだな?どうなっても知らね―からな?」
「やめろよちょっと怖くなってくるだろ」
「まあ今更嘘だって言っても逃さねえけどな…!」
「やめろって無駄に低音で言うんじゃないよ」
しかもちょっといい声なのが腹立つ!
…そんな無駄に声の良いウマ娘は、無駄に整っている顔に笑みを浮かべながら手を差し出してきて―――
「あぁ、あと名前だったな。アタシはゴールドシップ。よろしくな、トレーナァアァアァアァッッッッ!!」
「おう。まぁ成り行きではあるけどこれから頼むぜああああああああああああああああああ!!」
――――寝技へ持ち込んできた。
「おい今いい感じに終わるところだっただろ邪魔するんじゃねえ!」
「おいおい、そんな甘ったれたこと抜かしてるようじゃあこのゴルシ様のトレーナーは務まらないぜッ!」
「ざけんなっ!だったら今すぐトレーナーなんて取り消し…「おいおい、良いのか?」…何がだ」
そう言って立ち上がり、懐からボイスレコーダーを取り出して…
『アンタ、トレーナーなってくんね!?』
『まぁいいけど』
「…録音、してたのか」
冷や汗が出る。
ここで考えてみよう。この状況でボイスレコーダーを取り出して音声を聞かせてくるということは…
「当たり前だろ。さぁ、ここで断ったらこの音声と共にか弱き乙女のゴルシちゃんは新人トレーナーに嘘をつかれて悲しいっ…って生徒会長に訴えてきてやるぜ☆」
予想通り、この頭のおかしい娘はトレーナーに対して脅迫を仕掛けてきた。
…我ながら、中々に良く予想できたものだ。普通ならこんな状況思いつくはずもない。やっぱり俺ってすごいんだなー。
「…じゃねえよッ!!何現実逃避してるんだよ俺ぇぇええぇええぇえぇえッ!!」
お母さん、早速ですが実家に帰りたいです。