「・・・すまん。仕留め損ねた」
「いや、大丈夫だ。排撃班ともなれば強いだろうからな」
「それにしても、あなたの贖罪の眼を耐えるなんてさすがね」
「・・・」
「いや、あいつは自力で耐えたわけではない。
多くの者たちが、あいつを救おうとしたのだ」
「そうか・・・どうやら一筋縄ではいかなそうだな」
「・・・」
「・・・ねえ、これ以上私たちがこの世界に生きる意味ってあるのかしら?
もう物語のレールを外そうとする転生者はいなくなった。
もしかすると、私たちのミスで物語を崩してしまうかもしれないわ」
「最初は俺もそう考えていた。こいつに殺されてもいいのではと。
だが、贖罪の眼で見てわかった。あいつはすでに魔法少女と接触していた。
それも、この世界の外でだ。俺たちもそれを感知できなかった」
「なんだって⁉・・・そうか、この世界の外か。誰が出たんだ?」
「保澄雫だ。魔法少女リリカルなのはの世界で会ったようだ」
「・・・」
「もう物語は崩れ始めてるってことね・・・」
「そうだ。これ以上の崩壊を止めるには、奴らを抹殺するしかない」
「俺たちはもう止まれないってことか・・・三人はどこだ?」
「そろそろ帰るころよ」
「三人には酷なことをさせるかもな。
・・・あの三人だけでも、見逃してもらえるよう頼めないか?」
「無駄だ。奴の憎悪はあまりにも深刻だった。
同類たちが身勝手に世界を滅ぼそうとしていたのだからな。
おそらく、GOC全体が同じだろうな。
奴らは決して、俺たちを赦すことはないだろう。
・・・そして、問題はGOCだけじゃない」
「ああ、俺たちの方でも余所者の動向は確認してある」
Pamwac構成員であり、AWCYの賛同者でもあるコロンバ。
彼の仕事場には常にヴェール崩壊以前の音楽が流れていた。
今回の臨時の仕事場においても同じ感じだ。
そういった音楽は彼に生きる活力を与えてくれるからだ。
AWCYの芸術の方針は"生きろ"に集約されつつあった。
ヴェールが崩壊したとき、彼らはおぞましいほどの死に直面した。
その後のパクスオカルテーナの穏やかな日々で、AWCYは新しいテーマを制定した。
"生きろ"、全ての発想とリソースがそれに注ぎ込まれた。
「o bella, ciao! bella, ciao! bella ciao ciao ciao・・・」
大昔のイタリアの曲の流れる仕事場で彼は書類に目を通した。
それらにはマギアレコードの原作の大筋や各キャラの情報が記されていた。
この情報が、転生者に打ち勝つのに繋がるかもしれない。
「それにしても、本編よりも明るい物語だなあ・・・」
それらの要約をデータ化して、各排撃班工作員の通信機に送る。
PamwacとGOCの仲は良好だ。
だが、AWCYとGOCはそこまで仲がいいというわけではない。
一方は生を謳歌し、一方は死をもたらす存在だ。
そういった板挟みの中で、コロンバは生きてきた。
「・・・さて、日光でも浴びるか」
この街は日本でもっとも発展しているという新興都市だ。
そう、神浜市だ。彼もまた、このストーリーラインに訪れていたのだ。
PamwacとAWCYはOffenderによってもたらされる破滅を予想していた。
だが、止める力はないも同然だ。そこで、破滅の後の復興を担当しなくてはならない。
それぐらいしか、彼らにできることはないのだから。
・・・実はというと、さっきの曲はAWCYではあまり推奨されていない。
自由のために死ぬ、という歌詞は"生きろ"と矛盾するからだ。
だが、元の世界があまりにもクソッタレ過ぎて、AWCYでも人気を博してしまった。
たとえば、今この瞬間、神浜市の街頭放送からは正午を知らせる音楽が流れている。
コロンバのいた世界では違うのだ。こんな心地よい音楽は流れない。
いつもGOCの国際連合信託統治理事会の放送ばかりなのだ。
たとえば数百人の転生者を粛清したとか、ノルマ以上の生産に成功したとか。
これがただの宣伝用の嘘ならどれほどよかったことか。
Last and First ManとOffenderはたくさん転生者を殺しているし、生活の質も良くなっている。
国連が有能であるという厳然たる事実が、ただ突き付けられるだけの世界だ。
GOCはこれまでにないほど優秀な軍隊で、信託統治理事会もこれまでにないほど優秀な統治者。
そんな彼らにとって制御されつつある世界・・・。
それだけならまだいい。GOCは世界中に向かって憎悪を叫んでいるのだ。
街頭放送だけでなく、テレビでも新聞でも・・・。
とくに酷かったのは、日本の子供向け番組で歌のお兄さんがこう叫んだこと。
「
可哀想に。ヴェール崩壊後に生まれた子供たちは自然と転生者を憎むようになるだろう。
そしてGOCに入り、Last and First Manと同じように仕事をこなしていく・・・。
そんな世界だと、"さらば恋人よ"という歌を聞きたくなるのも当然だ。
自由で豊かで、それなのに、道端には憎悪が満ち溢れている世界なのだから。
「やあ、コロンバ!この街はいいね!」
「・・・博士、何をしにきたんですか?」
博士、それが目の前に現れた男の名前だ。
ヴェール崩壊以前は悪意に満ち溢れた玩具を作っては売っていた奴だ。
こいつのせいでどれほどの子供たちが死んだことか?
だが、転生者をフルボッコにしたおかげで英雄になりやがった。
「なんでそんな人を疑うような目で見るんだい?」
「胸に手を当てて考えてみな」
こいつを前にすると、誰もが口汚くなる。
「ひどいじゃないか、コロンバ・・・」
もう付き合いきれないので、その場をそそくさと離れた。
噂は本当かもしれない。超常団体がこの世界に集結しているというのだ。
GOCの評価班が負けた?興味深い!おもちゃにしよう!
博士や日本生類創研は明らかにそう考えているだろう。
そうでなければ、ニッソの車が走っているのは見かけないはずだ。
「・・・はあ、こりゃ厄介ですね」
そう呟いて、栄区の繁華街を歩いていく。
神浜市には以前にも来たことがあったから、だいたいわかるのだ。
・・・正確に言えば、別の物語層の神浜市だが。
(・・・今度こそ、この街を守らないと・・・いや、やっぱ無理かも)
Last and First Manはなぜか少女とお茶を飲むことになってしまった。
雫に連れられたら、こうなってしまったのだ。
目の前の少女、柊ねむは穏やかで文学的な雰囲気を醸し出していた。
「緊張しているのかい?」
「いや・・・本物の紅茶を飲んだのは初めてだからな」
茶の木は絶滅していないのだが、数は大きく減った。
そもそも、リプトンぐらいしかブランドが生き残らなかったのだ。
さすがのGOCでもそういったものは調達が難しかった。
「典型的なディストピア小説の台詞だね。それで味はどうだい?」
「最高だよ。コーヒーの香りとはまた違った上品さもあるし」
「コーヒーはあるんだね・・・」
「需品課が悲鳴を上げてるくらいだ。
今ならブルーマウンテン一万袋が無料だぞ?」
「いらないよ。君たちの世界に生産計画って単語はないのかい?」
そう言いながら、ねむはケーキを口に運んだ。
「一部の嗜好品が絶滅しかけているのを除けば、
ヴェール崩壊以前よりも物質的に豊かになったらしいんだ。
俺がガキのころは節電って叫んでたのに、今では節約の必要もない。
・・・それで、そんな話をしに来たわけじゃないんだろ?」
「そうだね・・・じゃあ、単刀直入に言おう。
これから僕たちの辿る未来・・・つまり、原作について教えてほしい」
それと同時に、通信機の着信音。
「・・・ちょっと待ってくれ」
「ああ、いくらでも待つよ」
コロンバからであった。
それはちょうどねむの求めていたものだった。