ねむは通信機に届いた情報を読んでいた。
それは原作という名の未来だ。
「・・・なるほど、僕たちは大事な人の記憶を失っていたのか」
「そういうことみたいだな・・・俺にはよくわからんけど。
しかも、第一部とやらはハッピーエンドみたいだし・・・。
俺が聞いていた魔法少女まどか☆マギカは鬱アニメの筆頭のはずなんだが」
「とにかく、僕たちはこの通りにやっていけば上手くやっていけるということだ。
それで、第二部の情報があまりにも少ないような気がするんだけど?
なんか令が死んじゃうとか一部の情報しかないし」
「俺たちの世界には最初からなかったんだよ、マギアレコードなんて」
基幹世界にない作品の物語層の観測は困難なものとなる。
そのせいで、魔法少女まどか☆マギカもGOCにとって未知の要素が多い。
「そうか・・・じゃあ、この世界は・・・この物語は誰に作られたんだろうね?」
「また別の物語層で作られたんじゃないか?
今、俺たちがこうしているのも物語になってるかもしれないし」
「ははは・・・だいぶひねくれた物語として認定されそうだね」
「そうかもな・・・それで、ねむさん。アンタはどうするんだ?」
出された紅茶を一気に飲み干して、Last and First Manは切り出した。
「少なくとも、君の大事な環・・・ういは復活させるつもりなんだろ?
問題はその後だ。君は原作とやらを維持するつもりかい?」
本家よりかは明るいとされるマギアレコード。
その物語では死者が観測できる限りでは一名出ている。
いわゆるモブも含めれば、もっと多くなるが。
「はあ・・・Last and First Manさん、操り糸に気づいた人形がそのままでいると思うかい?」
「俺だったら遠慮なく、その糸をぶった切ってるな」
「そういうことさ。僕たちはういを取り戻した後はもっといい方向を目指すつもりさ。
そもそも、その原作とやら自体が三文小説みたいなもんだからね。
そんな下手な物語の筋に従うくらいなら、暗い道を行くさ」
「そうこなくっちゃな」
それから、話はとんとん拍子に進んでいった。
幸福の魔女・・・イブに特殊な処置を施した。
蛇の手から送られた手法やGOCの器具をもってすれば何ということはない。
「・・・ねむちゃん」
「・・・うい」
コロンバの情報によれば、環ういは因果から存在を抹消されていたそうだ。
具体的な理由はわからないが、そういうことらしい。
とにもかくにも彼女が復活したことにより、関係者にも記憶が戻るだろう。
記憶・・・それはLast and First Manにとってはある意味では忌まわしい存在だ。
家族のことは覚えてくれてないし、二番目の記憶は死屍累々・・・。
それに、未だに彼女のことを忘れてもくれない。
「・・・おじさん、またあの表情が出てるよ」
雫に指摘されてしまった。
「おっ、すまんな。こんな場面には確かに似合わないよな。
そろそろ帰らせてもらうよ。俺は邪魔者だろうし」
だが、ういによって引き留められる。
「Last and First Manさんは恩人です!
皆でお礼を言いたいので、もう少しいてください!」
可愛い少女から言われると、断りづらい。
彼は自分で自分を嘲笑った。
ああ、恩人と言われてなびくような奴だったのか。
これじゃあ、転生者とまったく変わらないじゃないか。
だからこそ、断らなくてはいけない。
「悪いが、俺にはまだやらなくちゃいけないことがあるんだ。
またいつか、会えたらな。それじゃあ!」
手袋から発せられた青い光が辺りを包む。
Last and First Manの姿は消えていた。
部屋に帰還すると、Offenderが荷物を纏めていた。
「・・・それで、今度は何をやらかすつもりなんだ?」
Last and First Manは自らの見通しの甘さを後悔した。
予測が間違っていた。いや、それは願望に過ぎなかったのだ。
Offenderの粛清手段は通常だと数日くらいかかるのだ。
下手すれば、数か月くらいは。
だが、今回はLast and First Manが外出していた短時間で下準備を成し遂げたのだ。
こうして荷物を纏めているのは、巻き込まれるのを避けるためだ。
「原作登場人物の一人である八雲みかげを殺害した。
それにより、八雲みたまが暴走し、神浜市を滅ぼすはずだ」
「なるほど、転生者が殺すのをためらって、それで死ぬってか」
「それだけじゃない。ワルプルギスの夜も誘き寄せた」
彼は机の上にあるアキヴァ特定放射器を指さした。
これで魔女のような敵対実体の行動を操れるのだ。
「ほうほう、そりゃ完全に死ぬな」
「さらに、行動も指定した。ワルプルギスは前兆もなく回転する」
ワルプルギスが回転することで破滅を齎すのは知られている。
GOC工作員もそいつを粛清したが、かなりの苦労を要する。
ちなみに、転生者は自信満々で挑んで返り討ちになるそうだ。
そんなのが、前兆もなく神浜市で行動を開始するのだ。
「さらに、基幹世界の転送技術でない限り突破できない障壁も展開される。
一般人も犠牲になるが、これで転生者は逃げれないはずだ」
これがOffenderの得意とする粛清手段なのだ。
彼はある経験から、転生者といえども災禍で死ぬということを知っている。
意図的に災禍を起こすことで、確実に転生者を粛清する。
規則に則れば、まったくもって間違っていない。
むしろ、確実に粛清できると一部では評判になりつつあるのだ。
Pamwacからは顰蹙を買い続けているが。
「・・・残り時間は?」
「少なくとも、障壁展開までは三時間だ。
ワルプルギスは障壁をすり抜けて入ってくるだろうがな」
考えろ、三時間で何ができる?
・・・何もしなくていい。転生者は死ぬしかなくなるのだから。