かつて全管理世界の支配者の地位を冠していたミッドチルダ。
だが、このストーリーラインではすっかり荒廃してしまったようだ。
Last and First Manは魔法少女リリカルなのはについてそこまで知らない。
今まで他のストーリーラインに何回か行ったことはあるから身に付いたが。
GOCが最も把握しやすい物語層の一つが魔法少女リリカルなのはだ。
この作品自体はGOCのある世界でも存在したからだ。
・・・転生者たちの引き起こした事態で資料がだいぶ失われたが。
(さて、そもそも人が生きてるかどうかも・・・。
だが、評価班の連中がいると言い張ってるからな)
評価班は多種多様な物語層から転生者を捜索するのが任務だ。
血のごとく染まった大地を歩くこと数日が経った。
その間、会うことができたのは別の物語層から来たであろう登場人物だけだった。
「・・・それにしても、本当にうまいね」
その少女は焚火の前でレーションを齧る。
どういうわけかついてきたのだ。
「健康を保て、そして良い物を食え。
昔の工作員の資料にすら書いてあったことだ。
需品課は本当に良い仕事をしてくれるんだ。
PTOLEMY部門がいなけりゃ、俺たちはとっくに飢え死にか、
それとも消しゴムのようなレーションを食ってたかのどっちかだ。
それで、保澄雫、いつになったら帰るつもりだ?」
「・・・どうなんだろう。居場所を見つけたくてこうしたから」
Last and First Manはレーションを齧って、言った。
「悪いことは言わんから、元の世界に戻ったほうがいい。
結局、どんな世界に行くことになっても、帰れた時の安堵感に勝るもんはない」
「おじさんは居場所があるの?」
「おじさんって・・・まあ、一応はな。
GOCは俺の家みたいなもんだし・・・もともと、あそこで育ったから。
あるないの問題じゃなくて、そこしか居場所がないんだろうな」
その時、通信機に着信が入った。
PSYCHE部門からである。
保澄雫についての情報を蛇の手が提供してくれました。
彼らによると、彼女は魔法少女まどか☆マギカ外伝マギアレコードの登場人物だそうです。
我々の基底世界では魔法少女まどか☆マギカと同じく存在しないことに留意してください。
少なくとも、彼女の所属するストーリーラインには複数の転生者がいるものと思われます。
現在、評価班による観測が行われています。
魔法少女まどか☆マギカについては話だけは聞いたことがある。
どっかの排撃班工作員がその物語層のとあるストーリーラインに潜入したが、
無事に転生者を狩ってきたはずの彼は今では酒と薬漬けになっているそうだ。
蛇の手やアニメキャラクターと結婚するための研究計画局によると、
魔法少女モノの面を被った鬱アニメの世界だったらしい。
ちなみに、後者は評価班と協力して色々な世界を観測している組織だ。
・・・転生者騒動が起こる以前は超常二次オタク集団だったそうだが。
まあ、ほとんどの超常団体が今では柔和で協力的になっている。
ニッソの連中はまた何か企んでいるようだが。
あいつら、財団の次にボコボコにされたというのに懲りないものだ。
翌朝、二人は再び歩き始める。
「そういや、ソウルなんとかは大丈夫なのか?」
噂ではまどマギの魔法少女はソウルジェムで変身するそうだが、
とんでもなく最悪な要素があり、濁ると怪物になるらしい。
人づてに聞いただけなので、詳しいことはわからないが。
「おじさんが寝てる間に戻って、あやかからグリーフシードもらってるから大丈夫だよ」
「・・・そういや、なんで俺についてきてんの?
いつでも帰れるってのに」
「たまたまここに通じたら、おじさんを偶然見かけたんだ。
それで、不思議な表情をしていたから、気になって・・・」
「不思議な表情って?」
「怒ってるのか悲しんでるのか血に飢えているのかよくわからない表情」
一瞬、どう言えばいいかわからなかった。
普段は別の表情を装っていたのだが、一人だとつい油断するのだ。
油断は禁物だというのに、やってしまった。
「・・・まあ、たまにそうなるんだ」
「・・・」
雫の方もどう言えばいいのかわからないようだった。
そうこうしていると、鳥のさえずりが聞こえてきた。
丘の上から見下ろしてみると、緑の大地が広がっていた。
それは円状に広がっていて、中心には博物館のような白塗りの建物が存在した。
「少なくとも、生存者はいそうだな」
「そういえば、この世界に何があったの?」
「それがわからんから、聞くしかないんだ。
まあ、本当に生存者がいてくれればの話なんだけどな」
先ほどまでの血の大地と違い、そこには生命が溢れていた。
小川はちゃんと透明で、動物たちが駆け回っていた。
そんな光景を見ていると、暖かい何かが蘇ってくる。
それは記憶というにはあやふやで、感情というには確固としたものだった。
もやがかかっているのだ。一つわかるのは、それは正常な世界の思い出だったということ。
それが一番古い思い出だった。
二番目の記憶は、首を折られた大量の死体の山
「おじさん・・・どうしたの?」
「いや、なんでもない」
中心部にたどり着くと、巨大な白塗りの建物から車椅子に乗った人が出てきた。
転生者だ。だが、普段の転生者とは様子が違う。
目の前の男は、アニメの世界とはいえ、懸命に人生を生きてきたのだ。
そういった転生者もLast and First Manは多く見てきた。
ありがたいのは、このタイプは粛清が非常に楽であるということ。
それどころか、こっちが素性を明かせば自殺してくれることもある。
そして、この男は明らかに自殺してくれそうだ。
「・・・俺はGOC、世界オカルト連合の工作員だ。
まあ、お前が前世とやらで知っていたら話は簡単なんだが」
「・・・懐かしいな。SCP財団か」
「財団はとっくに滅びたよ。転生者のせいでな。
それで、今では俺たちが世界の維持をしている。
お前を狩りに来たのも、その一環だ」
「そうか・・・同類が悪いことをしたな。
俺は財団のファンだったんだけどな・・・。
もちろん、GOCのファンでもあったぞ」
彼は最期を受け入れるつもりらしい。
「それで、この無残なミッドチルダもお前のせいか?」
「・・・いや、それは別のバカがしでかしたことだ。
まあ、俺にも罪はあるな。傍観を貫いたから。
反対の声を挙げるのが怖かったし、普通に生きたかったから」
転生者は人生にかなりの後悔がある際に、転生を選ぶ場合があるのは知られている。
どうやら、この男は後悔はあったものの、前世も懸命に生き抜いていたようだ。
だが、間違ったことを間違っていると言う勇気はなかったようだ。
「次も転生するつもりか?」
「いや、地獄に落ちるつもりさ」
「そうだな、地獄に落ちるのがふさわしいな」
二人の背後に、もう一人男が現れた。
・・・ああ、転生者だ。それも殺さなきゃしょうがいないタイプの。
「管理局なんて腐敗した屑どもを粛清するために、
その大本たるミッドチルダを荒廃させたというのに・・・。
お前はミッドチルダを蘇らせようとした。その罪は万死に値する」
Pamwacに所属する知り合いのオタク曰く、かつてはアンチ管理局という言葉があったそうだ。
この突然現れた転生者もそうしたアンチ管理局勢なのだろう。
「そういえば、SCP財団とかいう組織も屑の集まりだったな。
正常の下に、世界を盆栽のように剪定していた。
はっきり言って、吐き気がするほどだったよ。
あんな報告書とやらを好んで見る奴の気が知れなかった。
管理局と同じだ。神を気取った屑どもだ。GOCもな」
Last and First Man自身も気づかないうちに、そいつを撃ち殺していた。
魔法を使う転生者の大半は、銃の威力というものを忘れているのだ。
だからこそ、意外と粛清しやすい。
「・・・それを言ったら、お前らも同じなんだよな」
そして、銃口を車椅子に乗った転生者に向けると同時に、
せめてもの慈悲として煙草を与えることにした。
「すまんな、需品課の数少ない欠点の煙草だ。
極上のハバナは、姿を消しちまったんだ。
Men always remember love because of romance onlyもな」
「マルボロもか・・・同類がすまんな。
そうそう、安心してくれ。
この世界の治療は俺の死後も勝手に進むようになってる。
管理世界の人工知能は、とりわけ管理局の人工知能はすばらしかった。
・・・ここにしか残らなかったのが残念だ、ああ、実に残念だ」
「・・・」
静かな楽園に、一発の銃声が響き渡る。
「・・・さて、これで俺の仕事は終わりだ。
帰って、今までのことは忘れるんだな」
「おじさんはどうするの?」
「俺も帰るさ。そして、休む。
休んだ後は、また次の転生者を狩りに行く」
粛清対象が変わっただけで、GOC工作員の仕事は変わってないのだ。
「・・・またいつか会える?」
「会わないほうが幸せだと思うな、俺は」
雫は空間結合とかいう能力で元の世界に帰っていった。
Last and First Manも煙草を吸った後、静かに消えた。
この後、ミッドチルダが復興しようがGOCは気にしないだろう。
もしかすると、マナの慈善財団(今ではこっちが財団だ)が介入するかもしれない。
どうでもいいことだ。GOCの仕事は転生者を粛清することだけだから。
あるべき原作とか修正など、人間性には関係ないのだから。