さっそくだが、Last and First Manは危機一髪の状態だ。
命令に抗えない艦娘たちによって、営倉に入れられてしまったのだ。
それも椅子に縛られた状態で。
転生者だったら遠慮なく殺していたが、艦娘を殺す気にはなれなかった。
かつての仲間が見たら、"弱さ"と言ったことだろう。
事実、その通りだ。同情してレーションを渡したのが悪かったかもしれない。
まあ、手袋が武器転送の手段とバレなかっただけマシだ。
アポーテーションで武器を取り寄せようとすると、目の前の空間に穴が開いた。
「あれ、おじさん。捕まったの?」
「・・・雫か、久しぶりだな。この通りの有様だよ」
虚空に開いた穴から、ミッドチルダで会った少女が出てきた。
彼女はスマホでLast and First Manの写真を撮った後、縄を切ってくれた。
「今、撮る必要あったか?」
「友達が顔を見てみたいって言ってたから。
直接会わせてもよかったけど、今よりもっと酷いことになってたら困るし。
それじゃあ、私はこれで帰るね。おじさんだったら何とかなるでしょ」
そう言って、彼女は穴に戻っていく
「・・・この前、二度と会わないほうがいいって言ってたじゃん。
今回また会っちゃったけど、たぶん、また会うと思うよ」
それを最後に、本当に彼女は自分の世界に戻ってしまった。
彼女の言いたいことは明白だ。自分の世界に転生者がいる。
それはイングリッド小林からも聞かされた話だ。
しかも、並の転生者よりもはるかに強いそうだ。
「・・・さて、仕事しますかねっと」
営倉にぶち込まれるまでに、一応調査は済んでいたのだ。
ブラック提督として振る舞う提督の執務室や、日課。
憲兵の巡回ルートや武装、実力・・・。
そして、艦娘たちの戦力についても。
ドアを近接戦闘式
「レ、レーションの兄貴!どうやって出てきたんだ!」
「ちょっとしたマジックでな。
それはそうと、提督は執務室だろ?
ちょっと見逃してくんねえか?人が・・・いや、屑が消えるだけだから」
天龍は少し躊躇したようだ。
「・・・ありがてえ話だけどよ、ごめん。
やっぱ、人間が信用できねえんだ、兄貴」
「そりゃそうだろうな・・・俺だってお前に嘘ついてたようなもんだし」
彼は天龍の額に柔らかい衝撃波を放つ。
その衝撃波による急な眠気に彼女は抗えなかった。
「さて、悪く思わないでくれよな」
彼は憲兵たちの目をくぐり抜けて、執務室に向かった。
執務室のドアは豪華絢爛だが、決して見た目だけではない。
こっそり手に入れた資料から、それが世界最高硬度のドアだと知ることができた。
だが、GOCの近接戦闘式邪径技術の敵ではない。
七発打撃を撃ち込むだけで、ドアはあっさりと灰になった。
「・・・ふむ、やはり財団神拳みたいなものを使えるのか」
筋肉でゴツゴツの提督こと転生者が椅子から立ち上がった。
彼がこのブラック鎮守府を維持できる理由・・・。
それは権力ではなく、筋力だ。
艦娘も憲兵も圧倒できる武力を、個人で有しているのだ。
その圧倒的な武力で、憲兵と艦娘を恐怖で支配しているのだ。
・・・だからこそ、Last and First Manにお鉢が回ってきたともいえるが。
「アンタの過去は聞いている。懸命な鍛錬の末に、その領域に辿り着いたようだな。
その修行で精神もちゃんとしていると思ったんだがな・・・」
「・・・長い話になる。俺にはかつて、
強敵というには、あまりにも一方的に俺がやられていたが。
まあ、いわゆるいじめというやつだ。
俺は苦しみの余り、自殺したのだが、不運にもそいつは事故で死んでいた。
同じ世界に転生したあいつは提督にまで出世したが、
俺はその間に修行していたのだ」
「ああ、復讐のために憲兵や艦娘にまで勝てるように修行したのか」
いつもなら、この時点で殺している。
だが、今回はなかなか隙を見せてくれない。
「・・・俺は深い山の中で修行していた。
だが、水面に映ったその時の俺の顔は今でも忘れられない。
今のお前の顔は、その時の俺の顔によく似ている。
前世で享受できたはずの幸せを奪われた怒りと悲しみ!
そして、湧き上がる血への欲求!
理由は違うかもしれんが、今のお前もそうなのだろう!
幸せを奪われた怒りと悲しみと、湧き上がる血への欲求!」
雫が指摘して、響が共感を覚えたLast and First Manの表情・・・。
筋肉提督は復讐者だったからこそ、彼の表情がよく理解できたのだろう。
「さて、そんな俺はついにこの鎮守府を占領することができた!
奴は提督になるまでに更生したようだが、そんなことは俺には関係なかった。
復讐するは俺にあり、だ!そして、奴の築いたすべてを壊す復讐の始まりだった!」
楽園ともいえたホワイト鎮守府をブラック鎮守府に塗り替える・・・。
それこそが、転生者の最後の復讐だったのだ。
「さあ、異界より来たりしGOC工作員よ!俺を止められるか!
筋肉はすべてに勝る!魔法が駄目なら、物理で殴れ!
それこそが、転生の鉄則であり、俺が強者でいられる理由だ!
チートですら、俺の掴み取った筋肉の前では無力なのだあああああ!」
そんな彼から放たれた光速の気功を、Last and First Manはとっさに防いだ。
「ふむ、なかなかやるな!だが、これはどうだ!」
同時に十発もの光速気功が放たれる。だが、それも防いだ。
「・・・どういうことだ⁉お前の筋力は、俺のそれよりはるかに劣るはずだ!」
相手が焦った一種の隙を突いて、アキヴァ放射能を纏った拳を繰り出した。
「ば、ばかな・・・は、早すぎる・・・!!」
転生者はその一発で、仰向けに倒れる。
「・・・なぜ、そんなに早く攻撃ができるんだ?」
「その昔・・・森崎が一晩で叩き込んでくれたからな」
「森崎・・・とても強かったのだろうな?」
「いや、そういうわけでもなかった。ただ、スピードだけはすごかった。
あいつは転生者に理不尽すぎる目に遭わされていたから、同盟を組んでたんだ。
俺が力を貸す代わりに、あいつはクイックドローを俺に教える」
「ほう・・・まさか、弱者にしてやられるとはな」
彼は今にも息絶えそうだった。
「・・・お前はまさしく強敵だったよ」
そう言って、Last and First Manは彼に煙草を一本渡した。
「ふん、不味いな・・・だが、気分は落ち着く。
強敵よ、ありがとう。これで安らかに地獄に落ちれそうだ」
仕事は終わった。
「・・・給仕係さん、大丈夫?」
雷が心配そうに近づいてきた。
「・・・大丈夫だ。これで君たちも解放された。
たぶん、普通の鎮守府に落ち着くんじゃないか?」
「私たちのことはいいの。問題はあなたよ。
ほら、足がふらついているじゃない!」
給仕係として潜入していた彼に親しくしてくれた艦娘だ。
Pamwacではお母さんランキング一位だそうだ。
「ほら、少し休みなさい!」
近接戦闘式邪径技術は使用者の体力を激しく消耗するのが特徴だ。
危険地帯のど真ん中で戦う排撃班からはあまり好まれなかった。
比較的安全な場所で戦うことになったこの時代では変わりつつあるが。
結局、彼女の膝枕に身を任せることになってしまった。
「・・・」
「何よ、その不満そうな顔」
「・・・次の仕事に早く行きたくてな」
「そんな社畜みたいなこと言っちゃいけないわよ!
つい数分前までそうだった私が言うのもなんだけど」
この暖かさをLast and First Manはよく知っていた。
まだ世界が正常だった時の記憶だ。
Pamwacがお母さん認定するのもうなずけた。
暖かいのだ。ただただ暖かいのだ。
でも、彼にはそれに逃げる資格などとっくの昔になくなっていた。
眠気に抗いながら、彼はこの世界を去ることに決めた。
「・・・そろそろ行かないと」
手袋の紋様にそって流れる光が強くなっていく。
「じゃあ・・・これだけ持って行って」
雷は一個のおにぎりを取り出した。
おそらく、こっそりと盗んだ米であろう。
彼女のことだから、他の駆逐艦にも渡しただろう。
「ありがとう・・・」
手袋から青い閃光が放たれ、Last and First Manは消えた。
雷はただ祈った。彼に幸せが待っていることを。
鎮守府で彼が一人になった時の表情を彼女は知っていた。
そして、手袋の下がどうなっているのかも・・・。
だからこそ、彼女は祈った。
彼がそのまま復讐者としての道を進むのであれば、
近くに横たわった提督のようになるのは明白だからだ。