「そうか・・・神浜市の転生者については、やっぱり詳しくは覚えてないか」
「うん・・・ごめんなさい」
「いや、いいんだ。辛いことを思い出させてしまったようですまんな。
そして、もう一つ謝ることがある。また君に秘密を背負わせてしまうことだ」
「大丈夫ですよ、秘密の一つや二つくらい、増えても・・・」
Last and First Manは二木市の転生者と親しかった少年に話を聞いた。
彼の話から浮かび上がる二木市の転生者は真っ当な人間だった。
普通に一生懸命に生きて、普通に女の子に惚れて、その女の子の不幸を許せない人間だ。
ただ、原作とやらの記憶を持ってるだけだ。
運命の歯車が別の方向に回っていたら、彼らを粛清していただろう。
だが、彼らは殺されて、そして彼らを殺した転生者を粛清しに来たのだ。
少年は神浜市の転生者を詳しく覚えることはできていなかった。
彼らの殺戮は一瞬で、忘れるようにと厳命されたからだ。
「・・・お兄さんたち、みんないい人だったのんです」
「・・・」
「僕には原作とかよくわかりません。
でも、悪い未来を変えようとするのは当然だと思います。
それなのに・・・あの人たちは美しい物語を守るって・・・」
「・・・」
Last and First Manは少年にかける言葉が見つからなかった。
当然だ。言葉をかける資格自体がないのだから。
「・・・でも、復讐しようとは思っていません。
それをしたら、ただ繰り返されるだけのような気がするんです」
「繰り返される?」
「ある本に昔の人の言葉が載ってたんです。
目に目を、を続ければ世界は盲目になるって」
少年はGOCとはまた違う選択をしたのだ。
Last and First Manはそう思い、そして敬意を覚えた。
こんな少年でも、赦すということを知っている。
そして、GOCは赦さなかった。
「・・・そうか。その心持ちを忘れちゃいかんぞ」
Last and First Manの姿は消えていた。
まるで木枯らしが吹くかのように、ふっと消えたのだ。
こうして少年はもう一つの秘密を背負うことになった。
神浜市に戻ったLast and First Manはデバイスでアポーテーション可能な武器をチェックした。
どれも事前に整備したおかげで、万全の状態だ。
はっきりいって、何の情報も集められなかった。
わかっているのは、相手が強い意志のもとに生きているということだけ。
評価班の戦闘記録も評価班自体の機密性からあまり公開されてない。
とりあえず、敵は七人いるというのもわかってはいる。
「・・・やるしかねえか」
だが、Offenderがいる時点で選択肢はないのだ。
神浜がOffenderによってカミハマにされる前に、ケリを付けなくては。
いや、別にOffenderのやり方が間違っているわけではない。
任務規定上は、転生者を殺すのにどれだけ被害が大きくても許されるのだ。
だが、どうしてもそれを見逃すことがLast and First Manにはできなかった。
・・・彼の覚えている彼女はそんなことを許さないだろうから。
彼は廃墟の多い区画を一人訪れた。天気はどんよりとした曇り空。
もうすぐ土砂降りの雨になってしまいそうだ。
そして、期待通りやってきてくれた・・・一人だけ。
「・・・その表情、GOCの工作員だな」
おそらく、変身したのだろうか。
その転生者の姿は異様であった。
一言でいうならば、炎に包まれた骸骨だ。
それがバイクに乗って現れたのだ。
「表情でわかんのかよ」
「前にやってきたお前たちの仲間も同じような表情だったからな。
さて・・・やはり文書を受け入れるつもりはなかったようだな」
「当たり前だろ。誰がお前ら転生者の生存権を認めるとでも?」
Last and First Manはそう言い放つと、サイレンサー付きアサルトライフルをぶっ放した。
骸骨転生者はそれをギリギリのところで避けていく。
「むうっ・・・!銀の弾丸か!当たれば危ないところだった!」
「こっちとしては当たってほしいんだけどなっ!」
左手でビームジャベリンを投げつける。
それすらも避けられて、転生者の背後にあった廃墟ビルが溶け落ちた。
「俺たちを殺すためなら手段を選ばず、か。
さすがはGOCだな。破壊者らしい」
相手はチェーンを伸ばして反撃してきた。
Last and First Manは高振動ブレードでそれを叩き切った。
・・・が、チェーンが予想以上に伸びて、左肩を砕かれてしまった。
「・・・ぐうっ!」
「なるほど、多少の痛みには耐えられえるか。
だが、こちらも遊んでいる暇はないのでな。
これでケリを付けさせてもらうぞ!」
チェーンがLast and First Manに巻き付いて、転生者の前にまで引きずっていった。
「さあ、俺の眼を見ろ。破壊者」
転生者の眼を覗き込まされたLast and First Manは自分の罪を突き付けられた。
彼が見たのは自分に殺された転生者たちの姿であった。。
彼ら彼女らは、理不尽に殺された苦しみと悲しみと憎しみを叫んでいた。
その叫びと業火にLast and First Manの魂は灼かれていく。
(・・・ああ、そうだな。これが俺にふさわしい最期かもな)
ようやく家族に会えると思い、彼は自然と笑顔になった。
今までの苦しみに比べれば、この炎はなんてことはなかった。
だが、彼はあることを忘れていた。この前、あの世から突き落とされたことを。
そして、あの世には育ての親が何人かいるということを。
「まだ来るんじゃねえ、ボウズ!」
最初に彼を押し戻そうとしたのはエージェント"マドリンガル"。
誇り高き排撃班1121 "Noble Phantom"の隊長であった男だ。
「確かに今まで君はよく頑張ったけど、まだ頑張ってもらおう」
次はD. C. al Fine(初代)だ。
最初に彼を育てたのは彼女とのこと。
日本に視察していたところ、ある男から渡されたそうだ。
「戻って」
「まだここに来ちゃいけない」
「頑張って!」
「押し戻すことしかできなくて、ごめんね」
今までの物語層で会った人々が押し戻そうとする。
そして、業火に苦しむ彼を癒すかのように雨が降り始めた。
「むっ・・・?」
骸骨の転生者は様子がおかしいことに気が付き、改めてLast and First Manの魂を見た。
すると、彼が多くの者たちによって救われようとしていることに気が付いた。
「ならば・・・もっと俺の眼を見ろ!」
それに合わせて、雨の勢いも強くなる。
そして、最後にLast and First Manを押し戻したのは・・・
「ほら、私と一緒に戻ろう!」
右手が桜色の光を放ち始めた。
「・・・さっきから熱いんだよ!
このクソ骸骨が!いいから離せ!」
その右手で、Last and First Manは思いっきり転生者を殴りつけた。
それは一切のアキヴァ放射を纏っていない拳だった。
近接戦闘式邪径技術とはまた別物であった。
転生者はビルの壁に叩きつけられ、Last and First Manは解放された。
「・・・まさか
そして、その右手・・・実は先程貴様の全てを見させてもらった」
「そうか。じゃあ、大人しく殺されてくれるか?
俺がお前を殺す正当な理由はたっぷり揃っているってわかったろ?」
「残念だが、そういうわけにはいかん。
だが・・・実に面白い。勇者と復讐者か」
「・・・人の記憶に踏み込んだ代償は払ってもらうからな」
その時、急に雨が止み、日光が二人を包んだ。
「・・・ふん、俺の時間は終わってしまったようだ」
転生者はそう言うと、バイクに飛び乗って逃げてしまった。
「おい、待てっ・・・」
そのまま走って追いかけようとしたら、何者かに取り押さえられた。
「まったく、相変わらず異常者だな、貴様は。
いや、むしろ馬鹿というべきか・・・。
その砕けた肩でどうしようというのだ?」
「無惨・・・⁉」
「お前があの時力を貸してくれたおかげで、私は排撃班とやらに配属されたんだ。
そして、この世界に派遣された。あの時の借りは返させてもらうぞ」
血鬼術により、左肩は見る見るうちに回復していった。
「あと数時間くらいは安静にしておけ」
「ありがとう・・・ところで、日光が差し込んでるけど大丈夫なのか?」
「予想通り、耐えられるようになったんだ。信じられんがな。
さて、私は急いで離れさせてもらうぞ。お前も急いで逃げろ」
無惨はそう言うと、その場から去ってしまった。
Last and First Manも去ろうとすると、空間に穴が開いた。
「・・・やっぱり、おじさんだったか」