オジマンディアス(偽)は転生者である 作:仙儒
上里光輝です。
「………」
誰かの声が聞こえたような気がした。
眠いが、いい加減起きねばならないだろう。
目を覚ましてぼんやりする視界で辺りを見回した。
確か、脇腹に大きな風穴を開けられたはずだと思い出して脇腹の穴が開いていた部分に触れてみる。
如何やら大神殿の治療は成功しているらしい。
これで治ってなかったら激痛でのた打ち回っていただろう。
立ち上がり背筋を伸ばす。バキバキと良い音が鳴るのがこの姿勢でずいぶん長く過ごしていた事を証明している。と言うか、腹に大穴開いてるのに玉座に座ったまま気を失うとか傷に触ると思うのだが。
一応寝る小部屋みたいなところも神殿内にあったと思うんだが、転移させられてきた時はそこまで考えてる余裕もなかったなと思い直す。
どの位寝ていたのだろうか?
大神殿に問いかけてもうんともすんとも反応がない。
仕方なしに外に出て確認しようとする。
スマホは充電が切れてて使えない。
大神殿から伸びる正道を歩いて辺りを見回す。
「どうした、出てこないのか? そのために態々出てきてやったのだが?」
「あはは、何時から気づいてたのかな? 結構上手く隠れてたつもりだったんだけど」
そないなこと言われても、大神殿の敷地内は事細かにレーダーみたいに対象が表示される機能があったりする。
網膜投影されてる映像に古代エジプトの技術は化け物か! と心の中で突っ込みを入れると、目の前に健康的に日焼けした結城? が現れた。
何か、同じだけど同じじゃない感じ。ああ、魂はほぼ同じだけど体は違う……みたいな?
もしかして、何百年単位で寝続けてしまったのだろうか?
それならそれで仕方ないのだが。
「率直に言うね。私の仲間になってくれないかな?」
どうやらRPG名物、仲間に誘われてるらしい。
「ほう、断った場合はどうなるのだ?」
一応聞いておきたかった。挑発交じりになってしまったのはご愛敬だろう。
「拳で語り合うことになるかな?」
ちょっと顔を引きつらせながら言ってくる。やだ、この子意外と脳筋ヤクザ。
「……なら、やってみるか。
多少力みながら問いかける。
このくらいのささやかな台詞は返していいと思うの。台詞的には売り言葉に買い言葉で全力で売られた喧嘩かっちゃってるけど。あらやだ、俺もヤクザ。
でも、オジマンディアスならばこう返すと思うんだよね。弱者は護るしそれなりの便宜を図るが、弱者の我儘は一切許容しないキャラだし。第六章での主人公を試す最終試練ではどんなに立派な統治者であっても民たちにとってはいずれ淘汰するべき敵でしかないと言い切っていたし。
「あはは…。冗談だよ、冗談。だからそんなにコウセンテキにならないでくれると嬉しいかな」
相手が大人な対応してくれたおかげで穏便に済みそうだ。
しかしこの娘、駅前でルー語でも習ってたのかな? 何か、そんな感じのイントネーションしてる気がする。未来にルー語という物事態が残ってるのか知らないけどさ。
「……良いだろう。その話に一枚噛んでやる」
流石にあわあわしながら弁明してる彼女に悪いので全面的にではないにしろ頷いておく。全面的に頷かないのは面倒ごとを断る余地を入れるため、後はオジマンディアスの勘がそっちの方が面白くなると告げてるから。
オジマンディアスは根っからの愉悦部部員ですしおすし。
彼女に色々聞きたいこともあるし。
で、神殿内に戻って軽くよろしくねのパーティーを開き情報交換。
話を聞いたところ、神樹の中の世界らしいよ? ここ。その世界で神様納得させるための八百長マッチポンプの敵役、つまり貧乏くじ引かされたのが目の前の人物こと赤嶺さん家の友奈らしい。何か、その…マジでゴメン。でも、全力で愉悦ってる俺ガイル。しかし、家名こそ違うものの容姿や声、魂に名前まで同じなんだな……結城と。スタイルだけは目の前の赤嶺の方がずっといいけど。
で、どうやら勇者部メンバーがこの世界に御呼ばれしているらしい。あらやだ気まずい。
でも、御呼ばれした時間軸の詳細はわからないらしいので、
そうじゃないと、自称許嫁の国防芸人に監禁される未来しか浮かばない。脇腹風穴開いてる時に話した感じ俺の許嫁を自称していた時の記憶戻ってるっぽかったし。
もし、違ってもこっちが知らぬ存ぜぬを突っ張ればその時間軸よりも前の俺が呼ばれたんだと思われるだろう。これをプランBとし、臨機応変に使って行けば良い。やべぇ、俺天才か。
それは置いておいて、作戦的には当面は俺も赤嶺も出番なし。余り大っぴらに動かない限り何してても自由らしい。
出番が来たら赤嶺からの連絡がスマホに来るとのこと。
チャットアプリ「なるこ」については俺気が付かないことが多いんだよな。一応赤嶺にはメッセージじゃなくて電話をかけろと言っておくか。
自称許嫁はPCとか滅茶苦茶強かったけど電話でのやり取りが主だったし、メールやチャットアプリよりも交換日記と言うローテクを好んでいた。内容? ストーカーのそれだったな。警察に証拠品として出せば言い逃れできないくらいには。あの銀ですら「ええ…須美。流石にそれはちょっと……気持ちはわかるけど」ともう一人のボク状態でドン引きしていた。共感している部分は聞かなかった事にする。まぁ、将来の夢がお嫁さんだし思うところがあるんだろうが、銀が須美化しないのを祈るばかりだ。
どうでもいいけど、赤嶺は未来の人ではなく過去の人物だったでござる。魂が同じだったのは結城の前世だったのだろう。それで納得しておく。
「言いたいことがあるなら聞くが良い、答えるかは別だが共犯者のよしみ故な」
何か、チラチラ見てきたので言ってみる。そろそろオジマンロールも疲れてきた。こんだけ態度でかかったけど俺自身小心者なんです(小声)。
「え……、いや、その。会いたく無いのカナって。東郷美森ちゃんって貴方のイイナズケなんでしょ?」
「……それは
いきなりそこに触れちゃうんだ。色々神樹から知らされてるらしいしやっぱり気になるかね。それに女の子が好きそうな話題でもあるし。
「え? 聞いちゃまずかったかな? ヤッパリ無しで」
鳩が豆鉄砲喰らったような顔をした後に、俺の問いかけには答えずに少しためらったように言葉を取り消す赤嶺。
「ああ、良いんだ。
そうなんだよね。結局そこなのだ。
俺は須美と共に戦ったことは無い。だから、一緒に戦いその恐怖を、痛みを、嘆きを共感できる身近な結城に須美は依存した。
俺や園子、銀と過ごした日々を忘れて。
原則として人間は一度見聞きしたことは脳を破壊しない限り忘れることができない。
記憶喪失は実のところ、精神疾患のあまたある病状の一つに当たる物なのだ。
そうだろう、俺も転生特典とか無ければあのように炎の地獄で戦わなかっただろう。そもそも戦うと言う選択肢すら選ばなかった。
須美たちからすれば強制的に戦いを選ばされたのだ。
そんな過酷で残酷な物は忘れたいだろう。そこには、自身が文字通り身を削っていることすら知らずにのうのうと生きていた俺が含まれるのは当然のことだった。
そして、それらを一緒に戦い共感し且つ、自身を気遣う結城に依存するのもまた、当然の帰結だ。
今更俺や俺の思いが入る余地や余白などもう存在しないのだ。終わった役者がいつまでも舞台上に居る訳にはいかないだろう。
捨てられる……とは少し違うが、愛想をつかされ、見限られるには充分な理由になると思う。
俺に用意された役割は、二年前のちび共の面倒見から始まり空を覆っていた鏡? に墓石ぶつけるので御役目は全て終わりを迎えた。……はずだが、主な役割こそ終わった物の如何やらまだ端役は残っているらしい。
何だか少し尺なので思いっ切り邪魔な大物の敵を演じてやろうと思う。クレーム何て受け付けてやらんからな地の神々よ。
「もう終わっていることだ。赤嶺が気に病むことではないさ」
暗い雰囲気を醸し出している赤嶺にフォローを入れる。
確かに湿っぽくなってしまった原因を醸し出しているのは俺だが、赤嶺が問いかけたことに対しては、赤嶺が想像しているほどそこまで思っていない。
俺が今思っていることは、文字通り世界を背負って戦っていた者たちに、あれでキッパリ終わりにできずこんなくだらないことをさせている後ろめたさからくるものだ。
ああ、そうだとも。皆で馬鹿をしながら平穏な日々を繰り返す自由は終わった。
悲しくはある。切なくもある。そして何よりも寂しい思いがある。が―――、それだけだ。
「おーい、速く速く」
「銀。そんなにはしゃがないの、全くもう」
「しょうがないよ~。ミノさん久しぶりのイネスだもんね~」
「園子の言う通りだぜ須美。イネスマイスターであるこの銀様が全然来れなかったんだからな」
「はぁー、先が思いやられるわ」
不思議なこの世界に来てから大分時間が経った。
最初のころは銀が「夢のような世界なのに夢がない」、何て喚いていたっけ?
それよりも、未来の私である東郷さんの様子がおかしいのが気にかかるかしら?
何処か張り詰めた空気を醸し出していて、勇者部の空気を悪くしてる。
まぁ、未来の私がその傾向が顕著なだけで最初の勇者部の面々も何処か無理をしたような笑顔や空元気が目立つのも気がかりではあるのだけれど。
それに隙あらばココアを飲んでいる姿をよく見る。確かにココアは美味しいとは思うけれどあんなに飲んでいては「かろりー」が凄いことになってそうだわ。
未来の私がチョコを常備しているのを見た時は思わず言語道断だと竹槍を探しそうになってしまったけれど、多分光輝さんようなのだろうと思い取り敢えず矛を収めた。
如何やら「光輝さん立派な大和男児計画」の進みは余り芳しくないらしい。光輝さん和食は好きみたいだけれど和菓子よりも洋菓子が好きだったのよね。羊羹やかりんとう、饅頭何かは口にするけど餅菓子はお煎餅以外口にしないから。お正月もお雑煮には一切手を付けてなかったし。
「って、そのっちがいない!」
「え? あっ、ホントだ。どこ行ったんだ? 園子の奴、こんな一瞬で迷子とか逆にすごくないか?」
「感心してる場合じゃないわ、銀。急いで探さないt……え?」
台詞の途中で肩を掴まれてそちらを向くと少し屈んだ大きな背に整った顔。健康的に焼けた褐色の肌。太陽を思わせる色の綺麗で引き込まれそうになる瞳。
私の記憶の中の人物よりも背も顔つきも凛々しくなった私の旦那様がそこに居た。
思わず見惚れて言葉を紡げないでいた私に少し首を傾げる仕草をしたが、それすら一枚の絵を見ているような感覚に陥ってしまう。
「探してるのはこいつか?」
指さされた光輝さんの背中にはおんぶされる形で寝ているそのっちの姿。
如何やら一度キッチリ話し合う必要がありそうだ。友情に亀裂が入るかもしれない。
「はなふぃてふだふぁい」
何を思ったのか光輝さんが私の頬を掴んで伸ばしてくる。「おお、やっぱり須美の頬は柔らかくて良く伸びるな」と小さく呟くのを聞き逃さなかった。取り敢えず、講義の視線を向けると思いが通じたのか手を離してくれた。
やっぱり私達は心で通じ合っているのね!
「いや、悪い。一応知ってはいたんだが、こうして実際に見るのはやっぱり違うもんだな……と思ってつい」
「つい、じゃありません。もう」
「あの、アタシ達がいるの忘れてません?」
「忘れてないさ。……ああ、忘れてないとも。そうだ、此処に来たんならジェラード食べるだろう? まだ食べてないんなら奢るよ。ほら、園子も降りて自分で歩け」
「やっりー。あ、アタシ醬油ジェラード!」
「ぎーんー。全く現金なんだから」
そう言いながら光輝さんの手を取り駆け出す銀に睨みを利かすけど、そもそもジェラードをご馳走になることで頭がいっぱいなのか気が付いていない。
それにしても、
「きのせい……よね?」
光輝さんがとても悲しそうな顔をしていたような気がしたなんて。
「と言うか、いい加減光輝さんから降りなさい! そのっちー!!」