オジマンディアス(偽)は転生者である 作:仙儒
衝撃の事実が判明してから一夜が明けた。アタシからしてみればやっぱりかとしか言えなかったケド。
落ち込んでこそいるけど、思った以上に取り乱していない須美を盗み見しつつ―――須美なら後追い自殺位しそうで目が離せなかったんだけど(まぁ、自殺できないんだけど。精霊バリアのお陰で)―――須美の近くで須美の様子を窺っているような行動をみせている、序に須美のものと思われる和菓子を割と容赦なく食べていた―――スフィンクスを睨みつける。
定期的に耳に響く穏やかな音はおそらくこいつが鳴らしてる。光輝さんの精霊だから流石に悪い奴だとは思えないんだけど、とある事情でどうしても信じ切ることができなくなってしまう。
「はぁー」とため息を吐きつつ勇者部に全員集まるように「なるこ」に書き込んでスマホをポケットにしまう。
鳴り響くこの音色に思い当たる物が一つだけある。光輝さんがあたしに話してくれた魔術知識の中にあったものだ。
治療の竪琴。
遥か昔。戦場において必須とされていた物。その中でも琴の音はテンションを一定に保つと信じられていたらしい。
戦闘で興奮している者はテンションを落とし落ち着きを、負傷や戦友の死で落ち込んで居る者のテンションを少し上げ、それらを引きずりにくくすると言った内容だったはず。
2年と言う長い年月をほぼ全て光輝先輩意外と話すことができず、光輝先輩が体を貸してくれなきゃ物に干渉することも殆どできなかったアタシは苦手としていた「頭で考える」こと以外する事ができなかった(光輝先輩に精神世界に放り込まれて魔術知識と魔術を実際に使ってみる事はしょっちゅうしていたけど。因みに魔力自体は結構有るらしいけど才能は無く、宝の持ち腐れと言われて凹んだ)。
朝早くに隣に住んでいる友奈が合流。
須美のことを心配しているけど、アタシとしては友奈も心配だ。明らかに無理してる笑顔。しかも、隠しきれてないバレバレな奴。
まぁ、友奈に限らず神世紀の勇者部のメンバーはアタシを含めて光輝先輩が精神的主柱だったんだ。無理をしてるにせよ空元気を出せてる友奈が凄いのかと思い直し、須美ほどは行かなくとも相当心に来ている連中が後四人居て。更に追い打ちをかけることを言わなくてはいけないことに頭が痛く、心なしか体が重くなった気がした。
「はぁー、話さなきゃいけないんだよな。これから……」
「……銀ちゃん?」
「いや、何でもない。独り言だよ」
部室の扉を開けると、朝早くなのに全員と赤嶺が居た。
四国以外の勇者と巫女。後防人達以外は暗い雰囲気を醸し出す面々にどう接したらいいかわからずと言った感じに所在なさげだ。
やはりと言うか何というか。小さい須美は……どこか壊れたような笑みを浮かべてて何か怖い。風さん達も思った以上に重傷だし。あぁ、頭が痛い。序に胃も痛い。
どうでもいいけど、一部の光のない目が一斉にアタシ(達)の方に向くのは中々に迫力があって怖い。
「ねぇ? 銀。流石にあれは噓よねぇ。だって、そんな」
最初に重苦しい空気の中口を開いたのは風さん。いつものはつらつとして「女子力!」と言っていたのは見る影もない。
妹の樹を抱きしめながら気丈に振る舞っている(だろう)のは姉としての意地か。それも、吹けば消えてしまいそうな弱々しさに微かに震えている体が全てを物語っている。
ええい、いい加減腹をくくれアタシ!
「残念ながら事実です、風さん。そのことでアタシが知っていることを全部話すために皆に集まってもらいました」
そう言って小さいアタシを見る。
鏡を見ている感覚に苦笑いがもれそうになるけど、少し気がまぎれたような気がした。しただけだけど。
「実はアタシ、割と最近まで死んでて光輝先輩に厄介になってたんでs「ええ! アタシ死んでたの!!」言うと思ったけど黙ってような。小さいアタシ。話が進まないから」
やはりと言うか、小さいアタシが声をあげた。
普段ならここで銀様直々にお説教だが、今回の重い空気が幾分か緩くなった気がしたので説教は大目に見よう。
まぁ、それはそれとしてアタシがこの世界に来たのは割と最後の方で、小さいアタシは自分が死んでいるかもしれないと言うことは察している節があるところにアタシが来たことで安心していたらしいからな(園子談)。……別の意味で落ち込んでいたけど。夏凛から煮干しを貰い、牛乳で流し込んでいる所を割かし見た記憶がある。
いや、銀様はこれからだから。銀様生き返ったばかりで体が二年前のままなだけだから。
どうでもいいけど、普段なら光輝先輩に厄介になってたと聞いたら「どういうこと? 詳しく話しなさい銀!」位言ってきそうな須美二人は何も言ってこない。それを気にする余裕がないらしい。
それから長い光輝先輩との共同生活を通して実は須美たちを見守っていたこと。慰霊碑に園子がお供えしていた焼きそばを実は光輝先輩が回収して、光輝先輩の体を使って食べていたこと。
光輝先輩にだけ見せていた皆の一面をアタシもしっかり見てたこと。
―――そして、光輝先輩の覚悟と死に様。
「最後、酷かったな。光輝先輩お腹が真ん中から半分無くなっててさ。そんな状況で自分の傷治さずにアタシなんかを生き返らせることに最後の力を使っちゃって。本当、最後まで格好つけちゃってさ。須美なんて自分が不甲斐ないから光輝先輩が死んだんだって腹を切ろうとしたり首を切ろうとしたりして。風さん達も塞ぎ込んじゃってさ」
「ミノさん、もういい。もういいんよ…」
言葉を重ねている内にでかいほうの園子が優しく、でも決して離さないように強く抱きしめる。
「どうしたんだよ、園子……ほら、離せって。離してくれよ……」
園子の抱きしめる力が少しずつ強くなっていく。目の前はぼやけて歪む。
園子の優しい包容。そこから微かに聞こえる鼻を啜るような音を拾って、ああ、園子もそうなのかと必死に我慢して強がっていた物が遂に目から零れ落ちる。
どうしてこうなってしまったんだと言う理不尽に対する怒りと、何かできたんじゃないかと言う後悔と何もできなかった後ろめたさと申し訳なさ。
そして何よりも―――、
(好きだった。大好きだった)
それはきっと讃州中学勇者部の皆が大なり小なり抱いている感情。
彼は結構ずけずけ物を言うが、言うからには面倒をちゃんと見る。成績も大変良いし、性格も悪くない。同じ年頃の男子と比べれば落ち着いているし顔も良い。おまけに上里の御曹司。
そんな彼がひなたに影に少女たちが一番辛い時に支え続けたら結果は火を見るよりも明らかだ。
これは常に共にあり続けた銀にも当てはまる。
銀が居るのに巨乳物のエロ本を堂々と読むし、夏凛がほぼ一緒に暮らしているも同然である彼の家にそのエロ本を隠しもせずに普通に置いていて夏凛に「読むなとは言わないからせめて隠しなさいよ!」とぶちぎれられているのは流石に直して欲しいとは思うが、それに目を瞑っても有り余る魅力に溢れている。まぁ、それは銀の生き返らせる為の魔術の構築研究だったり、皆の散華を治すための術式構築を誤魔化すためのカモフラージュなのも知っているためでもあるのだが(それはそれとしてしっかりエロ本を読んでいるのも事実だが)。
因みに直して欲しいと思いつつ、彼の
一気にのしかかってくる失恋の痛みと、そもそもの大切な人物の死による大きな喪失感。それはあっと言う間に伝播し、樹が。風が。美森が。友奈が。最後まで強がっていた夏凛が。それに釣られるように小さい園子と須美が。
それぞれに抱き着きながら、縋りながら涙を流す。
西暦の勇者達と防人達はかける言葉が見つからず、口を閉ざすしかなかった。それだけ件の男の存在の大きさを思い知った。
ひとしきり泣いた面々が落ち着いたのを見計らって、若葉さんが声をかけてくる。
彼女は一度西暦の四国の面々に視線を向け、皆が頷くのを確認して口を開く。
「実は私達も話しておくことがあるんだ」
そう言って一度言葉を区切り、
「彼―――上里光輝さんだったか? その人物…いや、オジマンディアス王について」
風達はぎょっと目を見開く。
「若葉、あんた…」
「すまない、風さん達。こちらも確信が持てなかったから言わなかったが、彼とは面識があるんだ」
バツが悪そうに顔を伏せながら話す若葉さん。
「西暦において、彼は神樹様の呼びかけに応えてきたとされていたんだ。千景には色々と話していたらしいんだが私たちには余り多くを語ってくれはしなかったからな。その中で数少ない私達にも明かした情報の一つがこの名前だった」
そう言いながら若葉さんは千景さんを羨ましそうに見て、千景さんは心なしか胸を張って見返しているように見える。
「オジマンディアス、オジマンディアス……。はて? どこかで聞いたことあるような、無いような?」
若葉さんの言葉に首を傾げる雪花さん。
「あるはずだ。というか神世紀ならいざ知らず、西暦を生きてるなら世界史の時間で習っている筈なんだが」
詳しくは知らないけど、若葉さんたちは私達の時代との異差は少ないけど確かにあると言っていた。その中でも教育において少し愚痴っていたことがあったような、無かったような?
そう言って若葉さんは西暦の面々を呆れた目で見る。
歌野さんと球子が目を反らした。水都さんと杏がそれぞれ「うたのん…」と「たま先輩…」と呆れを含んだ小言が漏れた。
ゴホンと咳ばらいを入れて話が続けられる。
「またの名を
「何で私が引き合いn…ああ、うん。わかったわ。太陽神殿作った王様がそんな名前だったね、そう言えば」
「ちょっと待ちタマえ雪花。何で一瞬タマと歌野を見た。言いタmむぐっ!」
「たま先輩ちょっとお静かに」「むぐぐーっ!」
色々と空気を読んだ雪花さんが話を進めて、それにつっかかろうとした球子を杏が後ろから口を塞ぐ。
それを横目で見つつ口を開く雪花さん。
「で? 何で彼とそのらー……王様がイコールに?」
「ここからは私が引き継ぐわ、乃木さん。彼は英霊と呼ばれる存在よ」
疑問を口にした秋原雪花に答えたのは郡千景。
彼女から詳しく語られる情報。
英霊。抑止力と呼ばれるカウンター・ガード・ガーディアン…その詳細。
「どこで手に入れた情報だかは知らないけれど。大社はこれを最初、悪魔呼びの儀式だと呼んでいたわ。でもそうだとしても現状打開の策として藁にも縋る思いで実行した。悪魔と言うんだから特別な生贄が必要だと考えた大社が生贄に選んだのが私だった。そうとは知らずに重要な御役目があると呼ばれた私はまんまと生贄にされたわけね」
「待て、千景。お前」
信じられないと言う顔をして問いかける乃木若葉に千景は罰の悪そうな顔をする。
「言う必要性が無いから言わなかったけど事実よ」
「…そうか。その、すまない」
「何で乃木さんが謝るのよ、悪いのは大社であって貴女ではないわ。それにちゃんとこうして生きてるんだからそんな顔しないで」
乃木若葉が申し訳なさそうな顔で謝り、それを窘める郡千景。
「儀式が成功して彼がやったことが粛清よ。彼は公言しなかったけど大なり小なり関わった人達は皆そうなったらしいわ。神樹様相手に交渉して大社に勇者と巫女を徹底して護ることを周知させ、約束させたのも彼。それで一応体制を改めたことを知らしめる為に大社から大赦に変わったのよ」
郡千景に同情の視線が集まって、彼女は困ったような顔をして肩をすくめる。
「とまぁ、私達と彼との繋がりは概ねこんなものよ」
正確には千景は皆に全てを話した訳ではない。乃木若葉が最初に言ったように千景だけにしか言っていない情報は幾つもある。それは彼が純粋な英霊ではなく英霊と人間を混ぜ合わせた者(彼曰くデミ・サーヴァントとのこと)であること。その彼は千景から見て約300年後の人物であること。婚約者がいてその婚約者の前世が私であること(これは彼の精霊であるスフィンクスが大神殿内にある世界中の情報が集まるある端末、疑似霊子演算装置トライヘルメスから彼女に届けられたもの)等々。
因みに300年後の自身の生まれ変わりを目にしてその大きさに慄き、自らの胸を触って絶望した。
彼女の名誉のために言うが、東郷美森が逸脱してでかいだけだ。その胸で中学生は無理だろう。
「で、話があちこち行って申し訳ないけど、先に言うわね。私は最後の試練を受ける気は更々無いわ。寧ろ受けようとする人達とは敵対してでも受けさせないわ」
手を強く握りしめて、周りを威圧しながら千景さんは言う。その瞳には狂気が見え隠れしている。
「ぐんちゃん…」
「高嶋さんのお願いでも今回だけは聞けないの……ごめんなさい」
高嶋の方の友奈の言葉は千景さんにとっては大抵鶴の一声になるけど、その言葉でも頷かない千景さんの決意の固さを伺わせる。
「何で、そこまで決着を避けるんだ?」
そんな中、終始沈黙を貫いていた棗さんが静かに問いかける。
「光輝先輩が決別の儀をしようとしてるからだ」
棗さんの問いかけに千景さんではなくアタシが答える。
「決別の儀……って何だ? 銀。教えタマえよ」
球子が問い返してくるのを聞きながら千景さんを見る。彼女は頷く仕草をして賛定の意を表す。
「簡単に言うと、生きてる人間が未練を抱えて戻って来てしまった死者を倒すことでその死者と生者両方の未練を強制的に断つことだ」
「ん? それは確かに辛いことだけれど、双方にとっていいことじゃないの?」
楠さんが首を傾げつつ疑問を口にする。
「ええ、そうね。でも、手段が問題なのよ」
「その手段ってなんなの?」
千景さんが口を開き、加賀城さんが疑問を呈する。
「やり方は色々あるけど、結末は変わらない。確実な決定打を与えること、……つまりアタシ達が光輝先輩を殺すことだ」
別に加賀城さんが悪いわけではないけど、八つ当たり気味にアタシは強く吐き捨てる。それにビビッて涙目になりながら楠さんの後ろに隠れる加賀城さんをよそに皆を見る。
繋がりが深い千景さん以外(千景は苦虫を嚙み潰したような顔をして唇を嚙み切っている)の西暦の四国のメンバーがこの世の終わりのような顔をして、風さん達も……似たようなものかとこの後に起こるであろうことを思い、キリキリと痛む胃を擦りながら他人事のように見た。
色々と端折っているのに進まないぞ……。
駆け足してる所はいずれ書け……ればいいな。
日常回とかでヒャッハーハジケたいのもある。