ハルウララ杯が出来るまで   作:MRZ

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メインはウララとライス(のつもり)です。

それと、これは先んじて書いている作品の息抜きというか、煮詰まった時に書いてるので更新は不定期となります。ご了承ください。


参加者は増えるよどこまでも

「いいよ」

「ホント?」

「うん、マックイーンが出るしブルボンも出るんでしょ? 参加しない訳ないよ」

 

 呆気なくテイオーの参加まで取り付け、ウララとライスの表情は嬉しそうな笑顔となる。

 ここにきて最初にマックイーンの参加を取り付けた効果が如実に出ていた。ブルボンも参加を決めてくれたのはマックイーンがいたからであり、テイオーを推薦してくれたのもそれが理由だ。

 

「ライスちゃん、ありがとう。ライスちゃんのおかげで上手くいきそうだよ」

「そ、そんな事ないから。ウララちゃんの頑張りだよ」

「ううん、ライスちゃんがいてくれたからだよ。ありがと」

「っ」

 

 両手を優しく握り笑顔で感謝を述べるウララにライスの顔が熱を持つ。

 こうして面と向かって感謝を告げられる事にライスはまだ慣れていない。だからこそ、そうされると顔が熱くなり、どうしていいかが分からなくなってしまう。

 満面の笑顔を見せるウララと照れから俯き気味になるライス。そんな二人の世界を眺め、不満そうな表情を浮かべる者が一人。

 

「ね~、ボクの事忘れてない?」

「ぴゃっ?!」

「そんな事ないよ。テイオーちゃんもありがと」

「どういたしまして~。それで、他には誰を誘うの?」

「それなんだけど、テイオーちゃん、誰か心当たりない? もしくは参加して欲しい人」

「ボクの希望?」

 

 まさかの言葉にテイオーが目を丸くする。

 自分へ参加して欲しい相手を聞かれるとは思っていなかったのだろう。

 だが、テイオーへそんな事を言えば真っ先に挙がるのは一人しかいなかった。

 

「……いるっ! 案内するからついてきて!」

 

 こうして三人は校舎内へと向かう。先頭を歩くテイオーは上機嫌で歌まで歌い出す程で、そんな様子にウララはニコニコ笑い、ライスは嫌な予感を覚えて複雑な表情をしていた。

 

 やがて三人は一枚の立派な扉の前で止まった。そこがどこかをテイオーでなくても知っている程の場所だ。

 

「ここだよ」

「ここって……」

「生徒会室……だよね?」

「失礼しまーすっ」

 

 不安げなライスの声をかき消すようにテイオーが元気よく扉を開ける。

 そこには誰もが知っている一人のウマ娘がいた。

 

「ん? テイオーか。ノックしなさいといつも言ってるだろう。エアグルーヴがいないからいいが、いたらまた怒られているぞ?」

「あっ、ごめんねカイチョー」

「まったく……。おや、今日は一人じゃないんだな」

 

 やっちゃったというような顔のテイオーに苦笑するシンボリルドルフだったが、その後ろにあまり見ない顔がいる事に気付いたらしく、どこか意外そうな表情を見せた。

 

「うん。ウララ、ライスも入って入って」

「はーい。お邪魔しまーす」

「お、お邪魔します……」

「ああ、ハルウララとライスシャワーだな。思い出したよ。それで一体何の用だろうか?」

 

 珍しい組み合わせだと思いつつ、生徒会長としての顔へ戻したシンボリルドルフへウララが近寄るように一歩前に出た。

 

「あのっ、わたし達と一緒にレースしてくれませんか?」

「レース?」

「マックイーンとブルボンも参加してくれるんだって」

「それは凄いが……」

「あ、あの、ウララちゃん、本当のレースじゃ一緒に走れない人達が多くて、そんな人達と一緒に走ってみたいって」

 

 理由を知りたがってるだろう事を察し、ライスがウララの行動理由と目的を告げる。

 その話をルドルフは生徒会長ではなくウマ娘として聞いていた。故に分かったのだ。ウララが抱いている思いはウマ娘ならば誰もが抱くものである事を。

 

「そうか。話は分かった。だが、私は無理だ」

「「「無理?」」」

「参加してやりたい気持ちは山々だが、私は本調子ではないからな」

 

 万全の状態で走る事が出来ない以上真剣勝負の場へ出るべきではない。それが皇帝としての決断だった。

 

「だいじょ~ぶ。みんなと一緒に走りたいって気持ちさえあれば参加OKだから」

 

 だがそんな決断は必要ないとウララは笑顔で告げる。このレースに必要なのは勝ちたいという気持ちよりも普段走れない相手と一緒に走りたい気持ちなのだ。

 それをウララはハッキリと告げた。その真っ直ぐで純粋な想いにルドルフは思わず言葉を失い、そして次第に笑顔となっていく。

 

「ふふっ、そうか。そうだな。大事なのは走りたいという気持ちか」

「うんっ! 会長さんも一緒に走った事ない人多いでしょ? そんな人達と一緒に走ってみたいって思わない?」

「思うさ。ああ、思うとも」

「じゃあカイチョーも?」

「喜んで参加させてもらおう」

「「やったぁ!」」

 

 喜びのハイタッチをするウララとテイオー。そんな二人とは違い、ライスは目を何度も瞬きさせていた。

 

「ほ、本当にいいんですか?」

「いいとも。生徒会長ではなく一人のウマ娘として面白そうな話に参加させてもらおう。っと、そうだ。ハルウララ」

「何?」

 

 そこでルドルフが差し出したのは一枚の書類だった。そこには“コース使用届”と書かれている。

 

「これを書いて提出してくれ。普段の模擬レースとは規模が違うだろうし、何よりギャラリーも大勢集まるだろう。そうそう、ターフかダートか決めておいてくれ。勿論提出はレースの開催日が決まってからでいい」

「わぁ、ありがとう会長さん」

「カイチョー、両方ってのはダメ?」

「その場合は別日に分ける必要があるな。あるいは時間をずらすかだ。まぁ使用コースに関してはおそらくターフになるとは思うが、だからこそ普段走らないダートというのも面白いかもしれないな」

「うん、面白そう! ライスちゃんはどっちがいい?」

「え? やっぱり慣れてるターフ、かな?」

「ボクはどっちでもいいよ。ターフでもダートでも面白いレースになりそうだもん」

「また考えないといけない事が出来たね~。でも楽しそう! 会長さん、ありがとう!」

「どういたしまして。決まったら教えて欲しい。それと相談事があればいつでも来てくれ。生徒会室は生徒のためにいつでもドアを開けてある」

「じゃあじゃあ……」

 

 優しい笑みを見せ、生徒会長としての言葉を投げかけるルドルフ。

 そんな彼女へ、早速とばかりにウララが参加させたいウマ娘はと問いかけるのは当然と言えた。

 

 そしてルドルフが挙げた候補はある意味で当然とも言える存在だった。

 

「「「スペシャルウィーク?」」」

「ああ。あのジャパンカップで日本総大将という重圧を背負い、見事成し遂げた彼女と走ってみたい」

 

 そこでルドルフはチラリとテイオーへ目を向ける。その眼差しの意味が分からず小首を傾げるテイオーへルドルフは優しげな笑みを浮かべるやこう告げる。

 

「何せ私が本当に挙げたかった相手はもう参加を表明しているからな」

「カイチョー……」

 

 こうしてウララ達は生徒会室を後にしてスペシャルウィークを探しに動き出す。

 食堂へ行ってみると言うテイオーと別れ、ウララはライスと二人で校舎の外へと向かった。

 

「スペちゃん、どこにいるんだろう?」

「テイオーさんが食堂に行ってくれたから、残る心当たりは……」

「やっぱりトレーニングコースだよね」

 

 大抵のウマ娘がいる場所であるトレーニングコース。しかもマックイーンやブルボンと会った時にスペシャルウィークの姿を見なかった事もあり、二人はダートコースへと向かった。

 

「いないね~」

「うん」

 

 だが予想に反してそこにスペシャルウィークはいなかった。ただ代わりに……

 

「おや? そこにいるのはライスシャワーじゃないデスか」

「え? あ、エルコンドルパサーさん」

「こんにちはエルちゃん」

 

 仮面を着けたウマ娘ことエルコンドルパサーと出会ったのだ。

 芝を主戦場とするウマ娘の多くが苦手とするダートでも一定以上の強さを発揮する彼女は、こうしてどこでも走れるようにと練習を重ねていた。

 

「ウララも一緒でしたか。で、二人してここで何をしてますか?」

「実はスペちゃんを探してるの」

「どこにいるか知りませんか?」

「スペちゃん?」

 

 どうしてスペシャルウィークを探しているのかを説明したところで、ウララがエルにもレースへ参加して欲しいと言い出すのは当然と言えた。

 エルもその参加者を教えられ、最初こそ目を見開いたものの、どんどんその表情が興奮を隠せないものへと変わっていった。

 

「どうかな? 参加してくれる?」

「勿論デスっ! 今の参加者だけでもワクワクするレースで、早く走ってみたくてうずうずするデース!」

「良かったねウララちゃん。思わぬところで参加者が見つかって」

「うん! エルちゃん、ありがとう」

「いえいえ、感謝するのはこっちデース。まさか皇帝と一緒に走れるなんて思ってもいなかったデスし」

 

 マックイーン、ブルボン、テイオー、そしてルドルフ。この四人と一緒に走れる機会を提示されて断るウマ娘などいない。そうエルは確信していた。

 そして他に参加して欲しい相手がいるかと問われたエルは迷う事無くある一人のウマ娘の名を挙げた。

 

「「スズカさん?」」

「そうデス。異次元の逃亡者、サイレンススズカ。彼女も一緒に走ってくれたら最高にエキサイティングなレースになりますよ?」

「そうだね! よし、スズカさんにも声をかけよ~」

「う、うん。じゃあエルコンドルパサーさん、失礼します」

「エルでいいデスよライス。参加者が正式に決まったらまた教えてください。アタシはトレーニングに戻りますからっ!」

「分かった~っ! トレーニング頑張って~っ!」

 

 興奮を抑え切れなくなったかのように走り出したエルを見送り、ウララとライスはその場から動き出す。

 サイレンススズカの居場所を出会うウマ娘達に尋ねて回り、辿り着いた先には目当てのスズカともう二人ウマ娘の姿があった。

 

「あれ? ウララとライスじゃん。どうしてここに?」

「テイオーさん?」

「それにスペちゃんだぁ」

「お疲れ様ウララちゃん。ライスさんもお疲れ様です」

 

 そう、別れたテイオーと一緒にスペシャルウィークがいたのだ。

 

「テイオーちゃん、スペちゃんにあの話、してくれた?」

「したした。参加してくれるって」

「はい。テイオーさんもマックイーンさんも、ブルボンさんにルドルフさんまで参加するなら断る理由なんてある方がおかしいです!」

「そうね。だから私にも話を持ってきてくれた、でしょ?」

「はいっ! ウララちゃん、いいよね?」

「もっちろんっ! わたし達もエルちゃんの希望でスズカさんへ声をかけにきたの」

「エルちゃん? うわぁ、エルちゃんまで出るんだ」

「どんどん楽しみなレースになってきたね。じゃ、スズカの答えは?」

「喜んで参加させてもらうわ。こんなレース、絶対本当は実現出来ないもの」

 

 あっという間に参加者が二人増え、遂に出走ウマ娘が十人まであと一人となった。

 そこで今度はどれだけの人数で行うかが問題となった。あまりにも多すぎるのは考え物だが、かと言ってこうなってくると声をかけられていない事を気にするウマ娘も出てくる。

 

 その事をテイオーから指摘されたウララは、三人と別れた後で次の参加者を探す前にライスと共にどうしたものかと頭を抱える事となった。

 

「う~んう~ん……どうしたらいいのかな? ウララはただみんなと一緒に走りたいだけなのに」

「ウララちゃん……」

「ライスちゃん、どうしたらいい? 声かけてもらえない事で悲しくなる人が出るなんて思わなかったよ」

「うん、そうだね。じゃあ、これを一度で終わらせないようにしたら、どう、かな?」

「え?」

 

 ライスの告げた答えにウララの目が丸くなった。

 思ってもいなかったのだ。これだけのレースは一度っきり。だからこそみんな参加してくれるんだと。

 けれどライスはそうじゃなく、このレースをこれから何度もやればいいとウララへ告げた。別に一度じゃなければいけない理由はないのだと。

 

「ウララちゃんと同じように、マックイーンさんやブルボンさん達と本番のレースじゃ一緒に走れないって思ってるウマ娘はいっぱいいる。そういう子達も参加出来るように、ウララちゃんが今みたいな事を何度も企画してあげればいいんじゃないかな?」

「で、でも、それでその人達へ声をかけられるかは……」

 

 現状参加者は有力ウマ娘達ばかりであり、しかもその中から推薦される形で声をかけている。それではいつまでも自分のような立場のウマ娘は声をかけてもらえないと、そうウララは考えたのだ。

 

 そんな彼女へライスは強い眼差しでこう返す。

 

「それを励みに頑張れる子だっているよ。あるいは、自分もウララちゃんみたいに自分で声をかけてみようって思う子だって」

「ライスちゃん……?」

「自分は強いウマ娘の人達と一緒に走れない。だからってそのままじゃ寂しいってウララちゃんは動いた。その動いてみる事がどれだけ凄いかをライスは知ってる。断られたらどうしよう。嫌だって言われたらどうしよう。そうライスなら思っちゃうから」

「ライスちゃん……」

 

 かつてミホノブルボンの三冠を、メジロマックイーンの三連覇を阻止した事のあるライスシャワー。だからこそウララの行動力を心から凄いと思えるのだ。

 

 その結果、ライスシャワーだけではなくメジロマックイーンやミホノブルボン、トウカイテイオーにシンボリルドルフ、エルコンドルパサーとスペシャルウィーク、サイレンススズカまでがハルウララの呼びかけに応じてくれた。

 もうこのメンバーだけでもGⅠレース並の顔ぶれである。ここに更なる参加者が増えれば、間違いなく一年の最後を飾るレースよりも豪華な顔ぶれとなるだろう。

 

「ウララちゃんは優しいから、可能なら学園のみんなで走りたいって思うかもしれない。でも、それはダメなんだ。ウララちゃんみたいに自分で動く勇気や覚悟を持たないと。声をかけてもらえなかったって悲しくなる人には、今度があるって教えてあげるだけでいい。頑張れば今度は声をかけてもらえるかもって」

 

 ライスは春の天皇賞から逃げようとした過去がある。世間はマックイーンの三連覇を期待し、ライスがブルボンの三冠を阻んだ際にそれを喜ばない声が多かったために。

 そんな彼女だからこそ、ウララの行動力を素直に凄いと思えた。不安や恐怖よりも希望や期待を持って前へ進める事を。

 

「ウララちゃん、迷う必要はないよ。ウララちゃんが思ってる事と同じ事を思ってる人へ見せてあげればいいんだ。悲しいって思うなら、寂しいって思うなら、自分で動いてみようって。そうすれば、こんな事だって出来るんだからって」

「……ありがとう、ライスちゃん」

 

 噛み締める様なウララの声にライスは照れながらも小さく頷いて返す。

 この日はここで参加者探しは終わる。ただ翌日ウララの前に一人のウマ娘がやってくるのだが……

 

「おう、アンタがハルウララっちゅーウマ娘か?」

 

 それはまた、別の話……。




何故ハルウララ杯という呼び名が付いたかは今回でライスが言った事が理由です。

それとスペがエルの参加を聞いているので彼女の参加もほぼ確定です。

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