ハルウララ杯が出来るまで 作:MRZ
あれからも高評価や感想を頂き感謝に絶えません。そこで蛇足かと思いましたがこういうのを書いてみました。楽しんでいただければ幸いです。
ちなみにウララ達ゲーム登場のウマ娘は出てきませんし、後半はオリウマ娘が主体です。それでもよければどうぞ。
「嘘だろ……」
それは誰の呟きだったか。いや、おそらく声に出していないだけでその場にいる全てのトレーナーの言葉だろうと誰もが思った。
場所は学園内のトレーニングコース近くにある観客席。と言っても即席なので、厳密には観覧席と呼ぶべきかもしれないそこに学園中のトレーナー達が集まっている。理由は一つ。今日開催されるハルウララ杯と名付けられた大模擬レースを観戦するためだ。
既にそこにいた大勢のウマ娘達は全員、そう誰一人としてその場には残っていない。彼女達は誰もが楽しそうにターフを走っていた。ゴールドシップの呼びかけに応じる形で生徒全員がレースへと参加したためだ。
ただし先程の呟きはその混沌とした様子に対してのものではない。
「お、おい、彼女、これでどれだけ連続で走ってる?」
「最初のターフレースから数えて五回、だな。それもさっきの待ち時間以外大した休みなしだ。まぁターフコースとダートコースを繋げる時の間はあったが……」
「でもあれだってそこまで長くはなかったわ。大体その前の三回は十分と休んでなかったのに……」
「レース回数だけは凄い多いって噂で聞いてたがここまでとはな」
「ああ、タフネスなんてもんじゃないぞ。あのイクノディクタスだって小休憩はとってるのに、どうして常に全力のあの子は今も笑顔で走っていられるんだよ……」
数いるトレーナー達の視線を一心に集めているのは一人のウマ娘。それは、このハルウララ杯の発起人であるハルウララ本人だった。口を開いているのはまだ駆け出しを抜けたぐらいの者達だ。新米トレーナー達はあまりの事に言葉を失い、ベテラントレーナー達は黙り込んで目の前の光景の持つ意味を考えている。ハルウララという、お世辞にも強いウマ娘ではない存在の持つ凄さを感じ取ったために。
始まりのターフコース2000m。それから十分と立たずにダートコース2000m。更にそのまま続けて再度ダートコース2000m。そこで多少の間を置いてのターフとダートをぞれぞれ1600mずつ走り、最後にはそのままターフコースで再び2000mだ。これだけのレースを常に全力で走って笑顔を絶やさない事が持つ意味をその場の誰もが噛み締めていた。
―――でも、みんな楽しそうに走ってるなぁ……。
そんな中でボソッと呟かれた新米トレーナーの言葉に残りのトレーナー達が一斉に頷いた。それは彼らも見た事のなかった担当ウマ娘達の心からの笑顔を見たから。ただ走る事が、誰かと競り合う事が楽しいと、そう叫ぶかのような満面の笑顔達がトレーナー達の表情までも笑顔へ変えていく。
さて、同じ頃トレーナー達とは違う場所で嬉しそうにレースを見つめる者達がいた。
「大成功、ですね」
「うむっ!」
手にした扇子を開き、理事長は満足そうに頷いた。隣に立つ秘書のたづなも満面の笑みを浮かべている。
ハルウララ杯。それは本来であれば学園側が率先して行うべき内容だった。けれど学園はあくまでも育成機関。目的は一人でも多くウマ娘を成長させて世に出す事だ。そう考えた時、有力ウマ娘達をレクリエーションのために集めてレースさせるなどは難しいと言わざるを得なかった。
それを学生側の自主的行動としてウララがやった。故に理事長は我が意を得たりとばかりに協力し、今回の大規模開催へとこぎつけたのだ。
「ふふっ、普段は勝つ事や速くなる事しか考えてないような子達も笑顔で走ってます。いいですね、こういうレースも」
「同意っ! みな童心へ帰っているようだ! 目的は勝負ではなく競走と、そういう光景だなっ!」
「勝ち負けをつけるんじゃなくて競い合って走る、かぁ。レースの元々の意味をウララちゃんはみんなへ思い出させてくれたんですね」
「肯定。……我々にも、な」
チラリと視線をトレーナー達がいる方へ向け理事長はそう告げると、視線を前へ戻すや何かを見つけて眩しいものを見つめるような表情でレースを見守る。その中で一際輝く笑顔を見せるウマ娘。その笑顔を目に焼き付けるかのように……。
こうしてウマ娘達だけでなく学園スタッフ達にまで大きな影響を残してハルウララ杯は終わった。
ちなみに参加者誰もがへとへとになって疲れた顔をする中、ただ一人ウララだけが満足そうに笑顔を浮かべ続けていたのはいうまでもない。
そして月日は流れ、ハルウララ杯というものが恒例行事となって久しくなったある日の事、一人のウマ娘が頭を抱えていた。
「う~ん……どうしよ?」
彼女の腕には使い古された腕章があり、そこには“ハルウララ杯実行委員”と掠れてはいるが見事な筆文字で書かれていた。見る者が見ればそれが誰の字か分かっただろうそれも、今となっては分かる者の方が少なくなってしまっている。それだけの時が流れた証拠が文字の掠れであった。
「大体参加者を集めろって言うけどさ、誰に声をかけろって言うのさ」
誰にともなく呟く。それは文句のような、愚痴のような声。何せ彼女は今年度高等部へ入学してきたばかりの新入生。勿論学園の有力ウマ娘へ気軽に声をかけられるような存在ではなく繋がりさえもない。そんな中で学園一のイベントである“ハルウララ杯”を成功させなければならないという重責を背負わされてしまったのだ。これで不貞腐れるなというのが無理な話である。
少なくても本人には。
「オルフェ先輩やディープ先輩なんてとてもじゃないけど声かけられないし、かと言ってアイちゃんもデアちゃんやコンちゃんと一緒で重賞戦線に売り出し中の大忙し。フォーリア辺りならぎりぎり……いや無理か」
パッと思いつく有力ウマ娘の名を挙げてみるものの、見事に彼女の中では成功するビジョンが浮かばないのかその顔色は暗くなるばかり。それに伴って彼女の頭も沈むように項垂れていく。
「どうしたどうした。そんなところで寝ると風邪引くよ?」
と、そこへ現れる一人のウマ娘。その声に聞き覚えがあったのかゆっくりと項垂れていた頭が少しだけ上を向いた。
「……なんだ、グリアか」
そこにいた相手を見て露骨にがっかりする辺り、単なる知り合いではないのだろう事が窺える。ともあれ一人で考えるよりも誰かの意見が聞ける方がいいかと、そう思って彼女は口を開くのだった……。
「成程なぁ。ハルウララ杯のメンバー決めね」
「そ」
こちらの悩みを理解してグリアがやや苦笑する。まぁそうだよね。誰もが参加したくなるようなメンバーを集めるって、言う程簡単じゃない。何せそう思わせるウマ娘は全員厳しい戦いに身を置く状況だ。少しでもトレーニングをこなしてレースに向けて仕上げている中でお遊びのレースへ参加する暇なんてない。
「大体さ、ハルウララ先輩ってどうやってあの初回のメンバーを集めたの? 実績なんて皆無って言っていいウマ娘じゃない」
前から思っていた事を告げるとグリアが何故か一瞬遠い目をした。何か思い出す事でもあるのかな?
そのまま少しだけ黙ってるとやがてグリアが小さく息を吐いて……
「あのさ、よく聞いてほしいんだけど、ウララ先輩は凄いウマ娘なんだ」
「は?」
何言ってんの? それがこちらの正直な感想だった。だってハルウララ先輩に関して残ってる功績はハルウララ杯の開催だけだ。まぁその理念は立派だと思うけど速くもなければ重賞を取った事もない。そのどこが凄いのか理解出来ない。でもどうやらそれはこちらだけで、グリアには明確な理由があるようだ。
「まず、ハルウララ杯の開催。これはいい?」
「うん」
「次、主戦場としてた高知レース場へ沢山のお客さんを呼んで当時傾いていた経営を立て直した」
「は?」
「それから、これはあくまで噂なんだけど、実行委員就任後は大勢のウマ娘のメンタルケアをしてたんだって」
「はぁ?!」
何というか、思ってもいなかった事で凄さを告げられた。これって速いとか強いとかの凄さというよりは個人での実績の凄さじゃないかな。
「最後のはともかく二つ目は事実だよ。嘘だと思うなら調べてごらん。ウララ先輩が走るようになってから少しずつレース場の来客数が右肩上がりになってるから」
自信満々に言い切るグリアを見て確信する。これ、本当に本当なんだって。それにしてもまさかレース場の経営を立て直すとか……どうやったんだろ? 特別速い訳でも強い訳でもないウマ娘一人で出来る事じゃないんだけどな。
と、そう思ってるこちらへグリアは申し訳なさそうな顔を向ける。
「どうしたのさ?」
「うん、実は少し前の自分もウララ先輩に対してそっちと同じような認識でね」
そこからグリアは教えてくれた。ハルウララ杯の事を知った当日の食堂でハルウララ先輩の事を話題にした。それも、こちらと同じでどうしてあんな実績もないウマ娘が~みたいな言い方で。そしたらそれを聞いてた
「ランベリさん言ってたよ。ウマ娘は速い事や勝つ事がどうしても重要視される。けど、ウララ先輩はそういう事抜きに、誰かと走る楽しさと嬉しさって喜びを忘れずにいられた純粋さを持ち続けた人だって。だからこそハルウララ杯は誰もが楽しめるし参加したくなるんだよってね」
「誰かと走る楽しさと嬉しさ……」
言われて思い出す。それは入学して半年経つか経たないかで新入生全員が見せられた映像、第二回ハルウララ杯の映像を。枠番の発表だけで誰もが興奮し、レース展開に息をのみ、レース後の様子で言葉を失ったあの時を。
ハルウララ先輩を除き、誰もが重賞を取った実績持ち。そんな凄いウマ娘達がレース結果を気にする事なく誰もが笑顔で映っていた。一着だったとかそうじゃなかったとか関係なく、ただ口々に楽しかったとかまだ走り足りないとか言い合って笑いあってた光景を。
それはターフレースだけじゃなくダートでも続き、最後なんて生徒全員でレースしてた。いや、あれはレースじゃない。かけっこだ。子供の頃にやるような、勝ち負けなんて考えずに誰かと走る。そんな事をやってた。
なら、もうやるべき事は決まった。どうしようって悩んでないで動く。誰もが参加したくなる相手を考えるんじゃない。自分が一緒に走ってみたい相手へ声をかけよう。
「ありがとグリア。おかげでもう迷わないで済む」
「そ。ならよかった」
悩む必要なんてなかった。迷う必要なんてなかった。答えはもう教えてもらってたんだ。
「うん、今年のハルウララ杯も楽しいものにしてみせるから」
そう、楽しいものにする。それを忘れちゃいけないんだ。誰もが参加したくなるウマ娘を呼ぶ事よりも大事なのはそこだ。まずは自分が楽しむ事。それを忘れちゃいけない。
「で、まずは誰に声をかける?」
「そうだなぁ……」
言われて考える。色々浮かぶけどまずこのウマ娘って言われると決めきれない。だって誰とも走ってみたいから。
「もし候補が決めきれないならファンタとかどう? それなら私が声かけ手伝えるし」
「ファンタか。いいね。じゃ手伝いよろしく」
阪神での借りを返す事も出来るし、何よりグリアを入れた三人なら話題性には十分だ。
わたしとグリアとファンタ。新入生としては割と話題に上る方だしね。よし、そうと決まれば早速動こう。
「で、ファンタはどこにいるかな?」
「う~ん、とりあえずトレーニングコース行ってみる?」
こうしてわたしとグリアは走り出す。ターフとダートとあるけど勿論目指すはターフ。するとあっさりと目当ての相手が見つかった。で、向こうもこちらに気付いたようで足を止めて首を傾げる。
「あれぇ? グリアにクロだぁ。どうしたのぉ? 二人もトレーニングぅ?」
相変わらずのおっとり口調だけど、これがレースまでそうじゃない事はよく知ってる。粘り強い末脚を持つこの子にわたしは一度競り負けてるから。
「違うって。ファンタにお願いがあってさ」
「お願いぃ?」
そこでチラリとグリアがこちらを見る。分かってるよ。頼むのはこちらの仕事だしね。
「うん、えっと、ハルウララ杯に参加してほしいんだ」
「ハルウララ杯ぃ? あぁ、そっかぁ。クロが実行委員なんだぁ」
「そうなんだよ。それで、どうかな? わたしと一緒に走ってくれる?」
両手を胸の前で合わせて納得するファンタに若干気持ちが癒される。名前の通り不思議な雰囲気を持ってる子だな、やっぱり。
「わたしはいいけどぉ……」
そこでファンタが視線をこちらの後方へ動かす。振り返ればそこにはファンタの担当だろうトレーナーさんの姿。うん、理解した。
「ちょっと待ってて。説得してくるから」
「ありがとぉ」
グリアを残してわたしは動き出す。わたしとグリアが参加するってなればきっとファンタのトレーナーさんは無視出来ないはず。何せファンタはグリアとライバル関係って周囲から言われてるからね。
……わたしだって負けてないんだけどな。悔しいけどまだ実績では二人に並べない。って、ダメダメ。こんな気持ちじゃいけない。まずは楽しむ事。まだわたし達三人で走ったレースはないんだ。ならそれを楽しまなきゃ、ね。
――ですよね、ウララ先輩?
今はもう学園にいない人へそう問いかける。と、ふわりと風が通り抜けた。秋だって言うのにどこか春の陽気を運ぶような優しい風が。きっと上手くいくよって、そう聞こえたような気がして、わたしは思わず笑みが零れた。
そうだ。今回のハルウララ杯にはOGの人達にも声をかけよう。それで見てもらうんだ。今の学園と、そこで走るわたし達の姿を。貴方達が作り上げたものをわたし達が受け継いでいますって、そう伝えるために。
時は止まらず、繋がり続ける。新しい物語を創り続けて……なんて、ね。
後半登場のオリウマ娘の名前の元ネタ紹介。
グリア=グランアレグリア、ファンタ=ダノンファンタジー、クロ=クロノジェネシス、ランベリ=ミヤビランベリでした。
ちなみにこの時のハルウララ杯は過去最高の盛り上がりを見せる事となります。理由は勿論卒業生達が最後の最後に参加したためです。勿論ゴルシとウララ主導で(笑